ママがやって来て、最悪でした
土曜日の朝だった。
朝から晴天で、麻さんは2階の小さなベランダに、布団を干した。同居している香菜さんはまだ寝ていた。麻さんは1階の庭で洗濯物を干していた。
すると玄関から呼び鈴の音がして、麻さんは濡れ縁から居間に戻って、居間を抜けて玄関に行く。玄関には2階に行く階段がある。何気に麻さんは、階段の上に目をやる。そして玄関を開けた。
玄関の扉を開けると、ママが居た。
ママは何も言わず、靴を脱ぎ、玄関を上がって居間に入った。そしてあたりを見回してから言った。
「無駄使いしてないよね?ちゃんとしなきゃダメよ」
ママは居間にあった、ちゃぶ台の傍に座った。麻さんは、居間とは、引き戸で仕切られた台所に行きながら答えた。
「分かってる」
ママが心配そうに言う。
「香菜ちゃんが、転がり込んできたって、お兄ちゃんから聞いて、……。大丈夫なの?」
台所から麻さんが答えた。
「心配要らないよ」
「でも、ほら香菜さんって、なんて言うか……」
麻さんは、缶ジュースを2本持って戻ってきた。ママは缶ジュースを受け取って、缶ジュースをジロジロと見ながら言った。
「水商売しているし。麻さんとは違う子じゃない」
麻さんは苛立った。
「何が違うの?」
ママは冷たい目つきで言う。
「お金にもルーズだし、男にもだらしないと思うの。不潔でふしだらだって思うわ。ちゃんとした女なら、絶対に水商売なんかしないわ」
そこまで言うと、ママは缶ジュースの蓋を開けて、1口飲んだ。それからまた言う。
「このジュースは、随分甘いわね。あのね麻さん。つまりそう言う仕事している子は、やっぱりそう言う子なのよ」
麻さんはママにこれ以上口を開いて欲しくない。
「ママ。私の友達を悪く言うのは、やめて」
ママも必死だ。
「ママ、心配なのよ。お友達は選ばないとね」
麻さんは必死でママにお願いした。
「ママ、香菜さんが2階で寝ている。明け方まで働いていたから、今まだ寝ているの。ママ、香菜さんに、聞こえちゃうからやめて」
でもママはやめない。
「ママは心配なだけなのよ。まさかただで、住まわせているんじゃないわよね?」
麻さんは困って言う。
「ちゃんと払ってくれているから。だから、やめてよ……。もう帰って!」
麻さんはママの腕を掴んで、立たせようとした。するとママは嫌がって、体重を下に落とす。
「私を追い出すの?ママね、後悔しているの。麻さんが家から出て行って。南央美さんが時々来るんだけど、あの女はきつい性格だし。ママも辛くてね。だから麻さんにこうして会いに来たの。なのにこの家にはあんな子が、居着いていて……。香菜ちゃんは、まさか、この家に男を連れ込んだりしていないでしょうね?」
麻さんが青ざめて言う。
「香菜さんはそんな事する人じゃないよ」
麻さんは更にママの腕を引っ張った。
「もう、やめて。香菜さんは私の大事な友だちなんだから」
麻さんがママを玄関に追い立てた。
「帰って。今日はもう帰って」
「また来るね」
「分かったから帰って」
ママが玄関から出ていく。
麻さんはため息をつく。そして階段の上方に目をやった。すると、階段の中央に香菜さんが座っていた。麻さんが香菜さんに聞く。
「聞いてた?」
「うん」
「ごめん」
「麻さんが言ったんじゃない。だから麻さんが謝らなくて良い」
「ごめん」
香菜さんがうつむいて言う。
「私、出ていくよ」
階段を麻さんは登って行きながら言う。
「行かなくていいよ。いなよ、ここに」
うつむいていた香菜さんが麻さんを見て言う。
「麻さん……、わたし……」
香菜さんの直ぐ側まで登って来ていた麻さんが、香菜さんをハグして言う。
「香菜さん、ごめん。ママが酷いこと言って」
「麻さんだって、麻さんのママには傷ついているんだから。仕方ないよ」
そして香菜さんは泣き出した。声を出して泣き出した。つられて麻さんも泣いた。
二人は、大きな声を出して泣いた。
お互いを慰めるように、抱き合って泣いた。たくさんの涙がこぼれ落ちた。