昔の彼氏はやっぱりクズでした
麻さんが引っ越して一ヶ月した頃だった。麻さんが、会社から帰ると、家の前に男が居た。
近づいて見たら、なんと麻さんの元カレだった。元カレは顔とスタイルだけの男だった。
その元カレが唐突に言う。
「久しぶり。今日、泊めてよ」
ビックリして麻さんが聞く。
「なんでここが分かったの?」
「香菜さんに、一緒に麻さんと住んでいると聞いた」
渋い顔の麻さんに元カレが、可愛いふりしながら言う。
「なぁ、良いだろう?」
「いきなり、泊めてって言われても、私達別れたんだよ。それに、碧さんは、彼女いるでしょう?無理、無理」
元カレが畳かけて言う。
「ねぇ。ねぇ。泊めてくれよぅ。彼女と喧嘩して、行くところ無いんだからさぁ」
麻さんが提案する。
「ネカフェとかぁ?そういうのあるよ」
元カレが、ポケットか1000円出して言う。
「今ポケットに1000円しか無いからさぁ。アパートに全部置いてきたしぃ。鍵も、携帯も、財布もない」
呆れたように麻さんが言う。
「飛び出てきたの?」
元カレは、自分を分かっている。この笑顔は女に刺さると。それで元カレは渾身の笑顔をくり出した。顔だけは今も極上だった。普通の女なら、これで落とせるに違いない。笑顔と共に、甘えた声で元カレが言う。
「そうなんだぁ。出てきたんだ、麻さんの為に来たんだよ」
「いや、それは嘘でしょう?なんで飛び出るの?」
元カレの力説大会が始まった。
「麻さんがさぁ。家で出たって聞いて。俺なんかもう、分かんなくなちゃって……。俺が麻さんと別れたのは、麻さんの母さんの反対にあったからだろぅ。麻さんちで一緒に暮らせないなら、結婚させないって。麻さんのお母さんに言われたからだ。でも麻さん、家出たんだろう?もう自由なんだろう?だったら」
元カレはめちゃめちゃ甘えた顔で言う。麻さんはそんな元カレを見ながら、昔はこの顔に騙されたもんだと、懐かしく感じていた。
「そうだけど。もう私達の事は、終わったのよ。帰って。彼女が待っているでしょう?」
「俺、彼女と別れるよ。俺はお前が好きなんだ。今も好きなんだ。麻さんって面倒見良いし。ご飯作ってくれるし。煩くないし。パワポも作ってくれるし。今の彼女は可愛いけど、文句ばっか言って、飯がクソまずいんだ。味噌汁のワカメなんか、こんなに長いんだ」
元カレは手で長さを表した。
麻さんはそう言う事しか、この男は言えないのかと、悲しくなる。
「私と碧さんは終わったのよ。それに香菜さんが、家にいるから。碧さんを泊めるなんて無理よ」
元カレの我儘は止まらない。
「香菜さんは、夜は仕事で居ないだろう?良いだろう?泊まっても」
麻さんも、いい加減元カレには帰って欲しいので、強く言う。
「あの、無理だから。今カノと別れてないんでしょう?まだ付き合っているんでしょう?そう言うの無理だから」
元カレが真剣な顔になって言う。
「じゃぁ、別れてからまたくるわ」
麻さんは元カレを突き放して言う。
「好きにして。でも別れても私には関係ないから」
「いや、待っていて。俺、今カノと別れてくるから。じゃぁ」
去って行く元カレに、麻さんはため息をつく。
「浮気グセがまだ直ってなかったかぁ。あんであんなのと付き合ってたかなぁ。ママのせいで別れたけど、別れて良かった。別れた時には、私の事を、地味でカビ臭い女だって言ってたのに」
麻さんは玄関の鍵を開けた。