私は自由
翌日の昼過ぎには、全てを終えたバートランドがガーフィールド家に現れた。
「アデライン様は、無事ガーフィールド家の籍に入られました」
バートランドのやることに抜かりはないだろうから、大丈夫だと思ってはいたけれど、その報告を聞いて改めてほっとした。
「これで本当に自由になったのね」
「それは良かったのだけれど、お義父様の子としてではなく、私たちの子として入ってほしかったわ」
昨日の話を聞いて今日は、キャロライン伯母さまもいらしている。お母さまのお兄さまの奥さまだけど、実の伯母さまかお姉さまのように昔から私によくしてくれる素敵な伯母さまだ。
「そこはこの年寄りに譲っておくれ」
お祖父さまがこんなときだけ年寄りぶってみせると、キャロライン伯母さまは、
「ではお譲りしておきますわ。私の妹にはなってくれたわけですし」
とほほ笑んだ。
父親や妹には恵まれなかったけど、母方の親族には本当に恵まれたなぁ。しみじみしていると、
「そういえばアルフレッド様はいついらっしゃるんですの?」
キャロライン伯母さまに尋ねられた。
「?今は共同研究をしているものはないので、特に予定はありませんけど」
子供のころに母を助けようと、前世にテレビでみた地中レーダーを思い出して、ソーンダーズ伯爵家の領地で産出される魔石を地中から探す魔道具を作った。アルフレッド様は、お母様が、それを引退前はタワーに所属していたお祖父さま経由で、タワーに持ち込んだときに知り合った研究者だ。そして、研究者というだけでなく、タワーのマスターを務めているステイプルドン侯爵家の跡取りでもある。
地中レーダー的な魔道具を汎用化してもらった後も、私はアルフレッド様と畑に水を撒く魔道具や前世のショベルカーにあたる魔道具を開発したときに一緒に研究させてもらった。でも、今は特に共同研究しているものはない。だから、しばらくお会いする予定はない。
「まあ、先は長そうですこと」
キャロライン伯母さまはなぜかそうおっしゃってコロコロと笑い、お祖父さまは苦笑している。
「それでソーンダーズ伯爵家はどうなりますの?」
「唯一直系の後継者たり得るアデラインを家から出したのだ。速やかに養子を迎えて後継者を決めて許可を得なければならん」
「それをしなければ?」
「お取りつぶしだな」
キャロライン伯母さまの問いにお祖父さまがきっぱりと答えた。
元々の始まりは、先代のソーンダーズ伯爵が貴重な魔石が取れる恵まれた領地を持っているにもかかわらず、なぜか身代を傾けかけたことにある。そのせいで、国にとって重要な魔石の安定的供給にも支障が出そうになったので、その当時危うく領地を取り上げられるところまでいったらしい。
ただ、これまでの功績に鑑みて結局は様子を見ることになったものの、かといってそのままにしてもおけないので、王家のお声がけで、商才や魔道具の開発に長けた者を多く輩出するガーフィールド侯爵家の、当時才女の誉れの高かったお母さまがソーンダーズ伯爵家の後継者と婚姻することとなったのだ。お母様は王家の期待に応え、実家の金銭援助を受けつつ魔石の安定供給を確保した。
なのに、お母さまが亡き後、ソーンダーズ伯爵家の当主は婚姻中からの愛人を後妻とし前妻との子である私をないがしろにし始めた。そこで、そんな状況をお祖父さまから伝えられた王家は、父親が私をソーンダーズ伯爵家の跡継ぎから外すようなことをした場合には、ソーンダーズ伯爵家から領地を取り上げることを決めたのだと聞いている。
それに、そもそもこの国では誕生時点で両親が婚姻していない場合には、後に婚姻したとしても遡って両者の間の嫡出子となることはできないと法律で定められている。以前に前妻の子があまりにないがしろにされる事例が相次ぎ、前妻の実家も絡んでもめることが頻発したらしく、そのせいで法律が変更されたらしい。だから、父親と後妻との婚姻前に生まれていたジョハンナはソーンダーズ伯爵家の後継者に法律上なれないのだ。なので、ソーンダーズ伯爵家は、後継者とはなれない者を後継者として届け出たことになり、そのことからもソーンダーズ伯爵家は終わりだ。こんな後継者に関わる基本的なことも把握せずに、意気揚々とジョハンナを後継者として指定するとは、父親の愚かさもここに極まれり、だ。
このままソーンダーズ伯爵家の領地は王家の直轄地となるか、どこかしっかりとした家に領地として与えられることになるようだ。まあ、王家が指定する後継者が引き継ぐまでぐらいは、魔石の安定供給は揺らがないだろう。うんうんと納得していると、
「魔石の安定供給にはあなたの功績もあるでしょう」
キャロライン伯母さまが言ってくれた。魔石を地中から探す魔道具のことかな。でもあれは。
「あれはお母さまを助けたかったから」
先代が無計画に掘ったせいで安定した供給が難しくなりかかっていた魔石の対応に苦慮していたお母さまを助けたかったのだ。
「そう。お母さまはきっとあなたを誇ってらっしゃるわ」
そうかな?そうだといいな。
「ありがとうございます、キャロライン伯母さま」
お母さまを思い出して少し泣きたくなった私を、キャロライン伯母さまはそっと抱きしめてくれた。
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