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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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捜索

9.捜索


 持ち金で乗せて貰えるかどうか不安だった馬車代も使わずに済み、更に乗客の要望で山道までも馬車である程度入ってくれたおかげで、足を引きずりながらでも2日半で仲間たちとはぐれた95番ゲートへ到着できた。


 冒険者一人だけでダンジョンに入るのは、組合規約違反だが仕方がない……中で仲間たちが捜索隊を心待ちにしているのかもしれないのだ。イチは迷わずダンジョンへ足を踏み入れた。



 ダンジョンの基本ルートから脇道へ入り、行き止まりになるまで回っては戻るを繰り返す。このような捜索まがいのことは、イチとしては久しぶりの経験だ……攻略済みダンジョンにはもうお宝は期待できないのだが、それでも攻略後年数が経過していれば、中で魔物たちが成長していることが期待される。


 すでにボス魔物は攻略済みのため、いってしまえば雑魚魔物たちのダンジョンは、冒険者を始めたばかりの初級パーティには格好の訓練場だった。


 雑魚魔物だけとは言っても狂暴で力が強い魔物たち、更に稀に魔法を唱える魔物も存在し、油断ならないことはならないのだが、狼系魔物は毛皮が高値で取引されるし、食肉として人気がある魔物たちも多くいる。ダンジョンのお宝目当てではなく、魔物自体を目当てにダンジョンに入るのだ。


 イチを救ってくれたサーティンたちのパーティが、イチが撃ち取った獲物を有難くいただいて持ち帰ったのはそのためだ。


(ふあーあ……大変だなあ……松明の明かりだけを頼りに、行ったり来たりをずっと繰り返しているじゃないか。分岐があるたびにそっちへ向かって、行き止まりまで行って戻ってくるんじゃあ効率が悪いだろ。

 分岐の手前から大声で呼びかければ、もし奥に潜んでいても答えてくれるんじゃないか?)


(……………………………………)

(なんだよう……重傷で動けないとかを心配しているのか?声ぐらい出せるだろう……声も出せないくらいの瀕死だったら……あれから数日経っているんだから、とっくに死んでいるぞ。)


(…………………………)

(仮に……仮にだぞ……もしお前の仲間が魔物にやられて重傷で動けない状態で、分岐の奥にじっと潜んでいたとするよ?そうしてお前が見つけた……それでどうする?どうやって救出する?


 4人の仲間を抱えて、ここから出られるのか?とりあえず血止めはされて痛みは引いたが、左足はほとんど力が入らないし、右の尻だって腫れは完全に引いていないから、うまく動かせないだろ?一番体が小さい、お前の妹一人抱えて出ることだって難しいんじゃないか?更に、出てからどうする?馬車はとっくに帰ったぞ!


 救助隊呼んでくるからと告げて、また戻って組合まで行って、今度は仲間が残っているから金は払うからと言って、救助隊に出動してもらうのか?それまでに何日かかる?戻るだけだって……そうそう空馬車に拾ってもらえるとは限らないし……この足だと下手したら1週間以上かかってしまうぞ。


 それから3,4日はかかるよなあ……救助隊編成してダンジョンまで来て……ダンジョンの最奥までだと4日だろ?2週間以上待っていなきゃいけないんだぞ!その間……仲間はどうしてる?傷の血止めはするとしても化膿止めの薬とか、お前は持っているのか?食べ物はどうする?


 仲間は何日分の食料を持ってダンジョンに入った?あとどれくらい残っている予定だ?)


(食料の手配はニイの仕事だったから俺は知らない。でも……多分そんなに多くない。いつもダンジョン出た帰りは、食料ほとんどなくなっていたから……。)


(そうだろ?助けようがない場合も想定しなければならないんだぞ!末の弟の治癒力を期待しているのか?僧侶だものなあ……その弟が元気で力を出せる状況であったなら、仲間のけがだって治療して、とっくに脱出しているはずだよなあ……違うか?)


(……………………)

(お前なあ……押し黙っていれば、周りの人がお前の気持ちを察して何かしてくれるとでも思っているのか?)


(仲間……助ける……)


(だから……もし、このダンジョン内に怪我して潜んでいたとして、どうやって助けるんだよ!


 救出に向かうと決めた時に道具屋に寄って干し肉と煎り米を調達した。水はアパートで水道水を水筒に詰めてきて……後はダンジョン内の水が湧き出ているところで調達するとして……残り100Gになってしまったが親切な御者のおかげで馬車に乗れたし、その間は弁当を分けてもらえた。


 だけど干し肉だって米だってせいぜい一人で10日分しかないだろ?4人仲間がいたらどうするんだ?)


(じゃ……じゃあ……どうする?どうすれば……いい?)

 イチはようやく立ち止まった。


(どうすれば……て、丸投げかよ!仲間助けるんだってここまで来て……救助方法も何も考えていなかったのかよ!早めに聞いておいてよかった……瀕死の仲間たちを見つけたとして……じゃあどうしましょうか……なんて泥縄みたいなことやっていられないんだぞ!それこそ一刻を争うかもしれないんだ。


 目の前で瀕死の家族に出会っても……何もできずにただ死んでいくのを見守るのか?凄まじく辛いぞ!

 もし仮に……この中で生き残っているんだとしたなら……一人が重傷で……治癒できないんだから末の弟が重症なんだろうと思う。そうして他の兄弟たちは何とか動けるが、それなりに怪我をしている。


 そういったケースが考えられるわけだ。全員が元気なら冒険者なんだしダンジョンから脱出できるはずだし、一人でも元気な奴がいるなら、一人だけでも脱出させて救助隊を呼びに走らせるだろうからな。


 だから……呼びかければ応答があるはずだ……声が出なくても小石位投げるとか棒か何かで壁を叩くとか、何らかの応答があってしかるべしだ。


 分岐の前から中に向かって大声で呼びかけて、応答がなければ次へ進んだほうがいい。そのほうが手早く回れるから、より重症者が生きているうちに救出できる可能性が高くなる。わかるか?)


(なな……なんと……なく……)


(ようし……じゃあ声を出せ!ここまでの状況から判断すると、本道から分岐へ入ると大体もう一つ分岐があってその先は行き止まりのようだからな……ここで大声で呼びかければ奥にいれば何らかの反応があるはずだ。大きな声だぞ……)


(仲間……全員重症……だったら……声なんか出せるはずない。応答だってできない……。)


(はあ……いいか……お前はなるべく考えないようにしているようだから、あえて俺も触れないできたが、お前の腰についていた集魔香はどう解釈している?)


(あ……あれは……サーティンさんの仲間が俺の腰についていたと言って、実は自分の持っていた集魔香を取り出しただけだと俺は思っている。)


(まあ、そんなことだって考えられなくはないわな……言われるまで何の匂いもしなかったしな。だけど……ダンジョン中の魔物がお前に集まってきていただろ?お前たちのパーティがダンジョンに入って過ごしていた3日間で、あんなに魔物たちが寄ってたかって襲い掛かって来たことがあったか?)


(いや……なかった……1時間歩いて……数匹の魔物の群れ見つけたらいい方だった。)


(そうだろ?それが……倒しても倒しても次々と……洞窟本道に山積みになるくらい襲って来たんだぞ!それが集魔香の効果以外に、どんな理由が考えられる?それに……サーティンたちがお前の腰の後ろ側に集魔香がついていたって、お前をだまそうとして何の得がある?


 初対面で……お前のけがの治療までしてくれて……金のないお前を気遣って、お前が倒した魔物たちの肉や毛皮で礼は十分だって言ってくれたんだぞ!実際……お宝なしであれだけの人数のパーティの経費が、お前が倒した魔物の毛皮代だけで賄えると思っているのか?


 サーティンたちが集魔香がお前の腰についていたと騙そうとしていたと考えるに足る、理由が見つからない。

 そうなると残る可能性は一つだ。お前の仲間がお前の腰に集魔香を取り付けた。)


(ななな……何のために?)


(そんなこと知るかよ……だがまあ……お前ひとりに魔物たちを押し付けて、自分たちは楽々お宝ゲットして逃げるためと考えられないでもないよな……だから……お前の仲間はとっくにダンジョンから出て、どこかへ行っちまっているはずだ。サーティンだって、そんなふうなことを言っていただろ?)


(ば……馬鹿な……)


(だから……いくら一生懸命にダンジョン捜索したって……こんなペースじゃ10日や2週間はかかっちまうぞ……食いもんもないしな……魔物がいればまだ魔物肉をゲットできるかもしれないが、それもままならないと来た。まあ万が一ということもあるから……ざっとは探し回ったほうがいいだろうとは思うがね。


 分岐のたびに大声で確認して回るくらいで十分だと俺は思うよ……そもそも……もう半日くらい回っても魔物は一匹も出てこないじゃないか……いくら重症でも少しくらい動ければ、脱出しようと考えていてもいいはずだ。魔物がいないのに分岐の奥にじっと潜んでいるほど、馬鹿じゃないはずだろ?


 分岐奥まで届くようになるべく大きな声で呼びかけ、反応がなければそこにはいないと考えたほうがいい。)


(わ……わかった……)

「み……だ……」


(はいはい……私が悪うございました。生まれてから一度も声を張り上げたことがない奴に、無謀なことを言ってすいません……はあ……参ったなあ……)

 イチは無言で、分岐の奥へと再び歩き出した。


(待て待て……じゃあこうしよう。イチよ……火矢って知っているか?)

(知ってる……)

(今……出来るか?)

(ああ……なんでだ?)


(火矢を飛ばせば分岐奥まで明かりが届くだろ?そうすれば……動く何かがあればすぐわかるだろ?向こうだって魔物以外の誰か来たと分かって、何らかの反応を示すはずだ。)


(練習用の木製の矢は沢山……ある…………………………わ……分かった。やってみる)

(矢じりは外しておけよ!人に当たったら困るからな!)

(分っている……練習用は矢じりついていない。だから魔物に使えない。)

 イチは木製の矢の先端を、松明の炎にさらして火をつけ弓につがえ発射した。


(おお……ほうら……洞窟奥の壁まで届いたようだぞ……炎の様子から見て、周りに動くものはないな。

 次の分岐へ行くぞ。)

(分った。)


 こうやって第2分岐の手前から火矢を使って確認することにより、より効率的に洞窟内の捜索を進めて行った。やはり集魔香を焚いて魔物たちをイチの周りに集め、ほぼ全て駆逐してから日が浅いために、ダンジョン内を回っても魔物に遭遇することも……仲間に出会うこともなかった。


 鍾乳洞然としたダンジョン内は足場が悪く、平坦な箇所があるわけもないので当然ながら、地面を確認しながらゆっくりとしか前へ進めないが、足を引きずりながらでも効率よく捜索が進んだ。



(ここから右へ行くと畿西国へ向かう分岐で、まっすぐ進めば最奥へ通じているのだな?サーティンたちは最奥に寄ってから来たと言っていたから、最奥には誰も残っていないはずだ。やはりダンジョン内には仲間は残っていないということになるな。)


(おいおい……何を考えている?奥には誰もいなかったと言っていただろ?)

(でも……)

 イチの足は当然のように洞窟最奥へと向かおうとするので、すぐに引き留める。


(ダンジョン最奥のお宝は根こそぎ持っていかれていたとサーティンが言っていただろ?そうして戻ってくる途中に分岐の奥から魔物たちの咆哮が聞こえたと……それでお前が助かったわけだが、つまり奴らはお宝を持っていったチームが、魔物たちに襲われて全滅していることを期待していたんだ。


 それこそ目を皿のようにして、最奥から戻る途中で何処かに誰かが潜んでいないか探し回っていたはずだ。だから……この先には仲間がいるはずもない。探しに行くだけ時間の無駄だ。


 それよりもサーティンが気になることを言っていたから、奴のところへ行こうぜ。イチのチームのことで何か知っていることがあれば、聞いておいた方がいい。どこかで恨みを買っていたなんてことがあるかもしれないからな。生贄とか言っていたのが、すごい気にかかる。)


(念のために最奥まで調べてから、サーティンさんのところへ向かう。どうせついでだ。)


(ついでってことがあるか……ここから最奥まで本道を進んでも2日かかるんだろ?今のイチの足の様子だと早くて2日半……往復で5日だ。無駄に時を重ねても自己満足にしかならないぞ。


 さっきも言った通り、この先にイチの仲間がいる可能性は極端に低い。瀕死状態だったとしても救助隊が来たのが分かれば、身を潜めていたって助けてもらうようアピールしたはずだ。サーティンたちだって探して回っていたはずだし、お前がこれから行う捜索活動よりよっぽど緻密に探して見つからなかったということだ。


 それなのに、どうして行こうとする?ダンジョン中探しましたっていう、自己満足のアピールか?)


(……………………………………分かった)

 しばしの沈黙の後、イチはようやく畿西国への分岐へ足を向けた。


(いいか……俺はお前の為……というか、お前の中に入っている俺の為でもあるのだが……宿主のお前が倒れてしまったら困るから助言をして、安全に進めるよう促しているわけだ。


 持ってきた食料は10日分で、馬車を降りてから既に5日経っちまってる。サーティンが言っていたことから考えて、畿西国側からでも畿東国側からでもダンジョンの最奥までの日数は同じ4日だ。つまりここから畿西国へ抜けるには、まだあと最低2日必要だが……出た先を考えると今でも食料が足りないよな?


 洞窟内に生えているキノコとか草とかも食って節約してきたが、あと6日分しかないよな?


 お前の仲間がもしかして畿西国側へ逃げ込んでいた可能性も無きにしも非ずだが……もしそうならとっくにサーティンたちが救出しているはずだ。奴らはお前の仲間がゲットしたお宝目当てで、はぐれたというお前の話も聞いていて、お前の仲間たちを救出してお礼を頂こうと考えていたはずだからな。


 だから……ここからは分岐の先を探らずに、そのまま出るぞ!いいな?)

(…………………………………………)


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