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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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再びダンジョンへ

8.再びダンジョンへ


 いや……あんなこと何度もあるはずもない。何度もイチは自分の心の奥にそう呼び掛けた。そうして今自分が出来ることは、ダンジョン内で助けを待っているはずの仲間たちを救い出すことなのだと言い聞かせた。


(そういえばイチの髪の毛の色は赤色なんだな?イチの兄妹の記憶で緑や黄色の髪の毛の色があったから覚悟はしていたが、赤って……染めるにしても大変だっただろ?黒髪だとなかなかここまで鮮やかに、赤くは染まらないだろ?それともイチの髪の毛の色は元は黒髪じゃあないのか?肌の色も少し赤みがかっているな。)


 妹のサンのものであろう姿見があったので、それに映るイチの姿を確認すると、なんと真っ赤の髪の毛にこれまた赤い瞳の色。肌は赤みがかった褐色。


(自分がどこのだれか……思い出せなかったんじゃあ……)


(もちろんそうさ。今も俺の名前どころか、自分の歳すら思い出せないよ。だが……元の世界の景色の記憶はある。もっとこう……ごみごみとしていて木や草の緑なんかはほとんどなくて……人が多かったな……。


 まあ……生きていた記憶もないんだから、夢かも知れないけどね。でも俺の記憶の中の世界とここでは、人の姿からして、かなり異なるな。服装はともかく、髪の毛の色は……さすがにここまで過激じゃなかった。)


(そうか髪を染めるなんてことはしていない、白髪頭の年寄じゃあるまいし。髪の色も肌の色も……生まれつきだ。確かに赤い髪の毛の色は……少ない。黄色や緑が多いが……黒い髪の毛は……見たことがない。)


(そうなのか?俺のいた世界では……黒髪はポピュラーだったぞ。そりゃあ金髪に銀髪に茶髪なんかがいたけど……後はいろいろな色に染めたりして、ファッションとして楽しんでいたけど、ここまで鮮やかではなかったと思う。


 それよりも……気にはなっていたんだが、お前の服装……作務衣みたいな麻かなんかの厚手のシャツとズボンだけだが……革の胸当てやひじ当てに、帽子というか兜のような防具はないのか?)


(ああ……普段は革の胸当てに膝・肘当てと鉄板を埋め込んだ鉢金をしている。だけど……ダンジョンで目が覚めたら、みんななくなっていたようだな……言われて今気が付いた。)


(はあー……そうだったのか……サーティンに言われた言葉が……重くのしかかってきそうだな……。

 だがなんだか色々なことが起きる度に、記憶の断片がよみがえってくるようだな。このままお前と行動していけば、そのうちに記憶が戻るんじゃないかな……戻ったところで、どうということもないがね)


(そうか………………………………)


(サーティンの言葉に関しては、何も考えたくはないようだな?まあいいさ……ここでじっとしていても何も始まらない。出よう。)


 左足を治すような治療代などの蓄えがあるはずもなく……イチはクエスト清算後の分け前は、ゼロに預けると言って、自分は矢の消耗費と弓の手入れ代程度しか受け取っていなかった。


 随分前のことではあったが、それでもニイがずっと使い続けている弓を新品に買い替えるようにと、無理やり渡された金がそのまま残っていたので、家賃を払うことが出来たのは幸いだった。



(おいおい、どこへ行くんだ?)


(冒険者組合にはゼロ達が戻ったら連絡くれるよう、サーティンさんの住所を教えておいたし、アパートの大家さんにも連絡先を教えておいた。これ以上この町でやることはないから、馬車に乗ってダンジョンへ向かう。)


(待て待て……お前、あのダンジョンでかなり矢を消費したよな?もう少しで手持ちが尽きるから、死も覚悟したよな?結果的にサーティンたちがやってきて、残りの魔物どもを駆除してくれたから助かったが、このままでダンジョンへ向かうのは危険だろ?矢を補充して行かんのか?)


(金がほとんど残っていない……)


(だから……家賃を半年分も払うんじゃないといったんだ……戻ってこない確率の方が高いんだぞ!矢の補充も必要だが、食料だって必須だぞ!すきっ腹抱えて、なんだかわからん草食って歩き回るのはごめんだからな。そうだな……まずは食料調達からだな。どこかその辺にマーケットとかないのか?)


(知らない……)

(はあ……RPGとかだと道具屋へ行けば弁当が買えるんだけどなあ……それにより体力が回復したり、魔力が回復することもある……)


(道具屋は冒険者組合の隣の建物……反対側に武器屋と防具屋が並んで建っている……これはどこの街へ行っても同じ……)


(なんだ……だったら道具屋だな……組合までの道順は覚えているな?)

(大丈夫だ……)



(おおこれが道具屋か……なんだかリサイクルショップみたいだな……一寸古びた鎧兜や剣などが、ショーウインドウに飾られている……)


(使わなくなった装備や武器などは、道具屋に持っていけば状態に応じて引き取ってもらえる。道具屋は中古品をきれいにして再販売している。武器屋や防具屋は新品の販売と、刃研ぎや修復などのメンテのみ。)

(よし……店の中に入れ。)


(い……いやだ……)

(嫌!じゃねえよ……とっとと入れ。入らないとお前の頭の中でずっと腹減ったーって叫び続けてやるぞ!)


(わわわ……分かった……仕方がない……入るよ……)


(お前が俺に逆らったところで、論戦で俺に勝てるわけがないんだから、逆らわずに素直に応じたほうが賢明だぞ!はっきり言って時間の無駄だ。不毛な争いはしないほうがいい……ただし……俺の言い分が間違っていると感じた場合は、遠慮なく指摘してくれ。俺だって神じゃあないからな。間違うことだってあるはずだ。)


(だだだったら……金もないのに……店入っても無駄……)


(ないわけじゃないだろ?少しは持っているじゃあないか……確か500Gはあったはずだぞ。)


(あれは……ここからダンジョンまでと、畿西国へ着いてから首都へ行くまでの馬車代。これでも多分……ギリギリ足りるかどうか厳しい……だから金がない……)


(お前なあ……空腹抱えて馬車に乗ってどうするんだよ!戻った時みたいに御者が同情して弁当分けてくれると思っているんじゃあないだろうな?あれはお前があまりにみすぼらしくて、何日も食ってないことが丸わかりだったから……だから仕方なく分けてくれたんだ。


 あんなのはただの好意だから、期待して待つような事じゃあない。腹の虫がグーグー鳴っていたとしても、御者が気にもしないで一人で弁当食べきったとしても、それは当然の行いだから御者は悪くないぞ。


 アパートに戻って、お前がとっておいた干し芋を食ったから、今は何とかなっているが、この先何日かかると思っているんだ?ダンジョンまでが馬車を使ったとしても3日。ダンジョンが踏破に片道4日かかるんだろ?最深部まではいかないとしても、5,6日は覚悟しなければならない。


 畿西国の首都迄どれくらい距離があるか分からないが、10日から2週間はかかるはずなのに、食料と言えば残った干し芋が……せいぜい1日分だろ?どうするつもりだ?)


(ダンジョン内……所々食べ物……ある)


(草食系の魔物に出くわせば良いと思うが……恐らくほとんど退治しちまったから、無理だろ。あとは……お前の今の考えを読むと、餌となる草か豆類だな?草は絶対に嫌だぞ!豆類ならいいが……洞窟内でどうやって食べる?調理道具持っているのか?生じゃあ食えんぞ!煮るか炒めるか……だな。


 修業時代に賄を作らされたりしたから、調理の腕には自信があっても、お前のチーム内ではお前は戦闘以外は全て任せっきりだったからな。調理道具なんて持ってないだろ?倒した魔物を捌くためのナイフ以外は、包丁だって持ってないじゃあないか……自給自足とはいかないぞ!)


(金がない……)

(馬車代はいいから、まずは食料と……矢……かな?中古の矢なんてあるのかな?矢は残り何本ある?)

(残り20本ほど……)


(それだけあれば……いいことにするか?お前……百発百中だからな。もう魔物なんてほとんどいないはずだからな。よし……食いもんメインにするぞ。中に入れ。)


 しぶしぶイチがガラス戸を開けて中に入ると、様々な中古グッズが棚やワゴンに所狭しと並べられていた。


(中古の防具なんかも揃えたいところだが……まあいいさ、取り敢えずカウンターへ行け!弁当を購入するんだ。10日分となるとかなり嵩張るが……冒険者の袋とやらに入るんだろ?)


(道具屋の弁当も冒険者の袋に入るが、10食分まで。魔物肉も冒険者の袋に入るが、こちらも量に制限があって、すぐに組合へもっていって清算に出す。凍結魔法使える魔術者がいれば袋に入れて長く保管できるが、普通はせいぜい2,3日が限度。)


(そうか……冒険者の袋は入れられる量に制限があるのだな?RPGでもそんな制約あったな……凍結の魔法か……仕方がない、保存食を購入しよう。干し芋とかか?)


(干し芋に干し肉、クルミに焼き栗に煎り豆や煎り米か餅にパンなどだな……)

(おお……クルミや焼き栗や餅などがいいな……ほれ、聞いてみろ!)

(ど……どうやって?)


(どうやってって……クルミはありますか?いくらですか?って聞くんだよ!買い物の仕方も知らんのか?お前がこれまで、如何に家族に甘えて生きて来たかが丸わかりだな。引きこもっていない引きこもりだ。)


「くく……クルミ……ああありまますか?いいいくら……ででですか?」

 イチはようやくカウンターで小さな声を絞り出した。


(お前なあ……幽霊から物を買おうって訳じゃあないんだから、そんな怯えんでも……)


「うん?クルミ?うちは道具屋だよ!クルミが欲しいんなら市場の八百屋か乾物屋へ行ってくれ。道具を買うついでに乾物欲しいっていう客もいるから……市場は遠いからね……うちでも干し肉と干し芋と煎り米は扱っているけど、これだけだね……。」


(ほれ……値段を聞け!)


「いっ……いいいくら……ででですか?」

「ああ……干し肉が100グラム……」


(米は毎日食うとして……10日でどれくらい必要だ?)

(わ……分からないが……多分……2キロ……くらい……煎り米は……軽いから……)

(じゃあ煎り米2キロと……残りで干し肉と干し芋を買おう。100Gだけは残しておけよ)

(分った……)



(おいおい……どこへ行く?馬車のターミナルへ行くんじゃあないのか?まさか腱の切れた足を引きずって、ダンジョンまで戻ろうなんて思ってないよな?馬車を雇って行けよ!)


(金が……ない……)

(100G残したじゃないか……。)


(100Gじゃあ、ダンジョン行く半分くらいの運賃しかない……)

(来るときだって100G払っただけだっただろ?)

(あれは……ほかの客をダンジョンまで連れて行った帰りの空馬車だったから……)


(仕方がないだろ?金がないんだから、さっきの御者と交渉だ!街道へ出てから馬車で1日半もかかったんだぞ。この足で歩くなんてとんでもない。ほれ……行け!)

 イチは左足を引きずりながら、しぶしぶ来た道を引き返した。



 馬車のターミナルは、冒険者組合がある大通りに面したすぐ先の交差点にあった。広い駐車場に何十台もの馬車が停車しているので、簡単に見つけられた。嫌がるイチを無理やり事務棟の中へ入らせ、さっきもらった御者のカードを差し出させると……すぐに呼び出ししてくれたので事務棟脇の職員入り口前で待つ。


「おお……あんたか……どうした?」


(ほれ……仲間が家に戻ってなかったから、もう一度ダンジョンに戻って自分一人で捜索するって言うんだ。)

「ななな……仲間……もっ戻ってない……ここここれから……ひっ一人で……さささ探し行く。」


「何だって?一人でダンジョンへ向かってお仲間の捜索?そりゃあ大変だな……金はあるのか?」

 イチは残りの100Gを御者の目の前に差し出した。


「はあ……またまた100Gが全財産ということか?ちょっとここで……待ってな……。」

 御者の男はそういうと、事務棟の中へ入って行った。



「お待たせ……今日は非番の予定だったんだが……同じ方向へ行くパーティの客を、ダチから譲ってもらって来た。新人御者の実習中だと言ってあるから、ただで乗せて行ってやる。ほれ……乗りな……。」

 そういって御者は、またもやイチを御者席へと導いた。なんと、ただで乗せてくれるというのだ。


(ありがたやー……きちんと礼を言って、頭を下げてから乗り込むんだぞ)

「ああああ……ありが……とう……」


「礼はいいさ……お仲間を探しにたった一人でダンジョンへ出向くんだ……えらいよ……。

 それに寝てないから、途中で手綱を代わってもらうからな……じゃあ行くぞ……はいやー……」

 御者の鞭が入り、馬車はゆっくりと走り出した。


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