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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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突入

23.突入


 工場の裏側へ回り込み通用口のドアノブを回してみると、カギはかかっていないようで簡単に回った。ジャックは金属が擦れあうような甲高い音をなるべく抑え気味に、屈んだまま慎重にゆっくりとドアを開けていく。


「誰だ?お前は?」


 廊下の右手のドアの前に、銃を構えている男たちがジャックの姿を認めて、銃口を向けてきた……が、一瞬早くジャックの狙いすましたクナイが2人の男の首筋を捉え、悲鳴を上げることもなくその場に倒れ伏した。

 素早く美都夫とともに中へ入り、通路を引きずって男たちを工場の外へ運び出す。


「生きとし生けるもの全てを御霊う癒しの……」

 すると美都夫が男たちの首筋に刺さったクナイを抜いて、治癒魔法を唱え始めた。


「こんなやつらでも助けてやるというのか?まあ……殺しちまったら目覚めが悪いか。よし……両手両足を縛り上げて、血止めが済んだら中へもう一度入ろう。」


「生きとし生けるもの全てを御霊う癒しの……」

 初級の治癒魔法だが何度も美都夫が唱えたので血は止まり、男たちの顔に生気がよみがえってきた。


(よし、いいだろう。手足を縛って、さるぐつわにタオルをかませておけ)

(分った。)

 意識が戻った男が叫ばないよう猿轡をかませ、ジャックとともにもう一度工場の中へ入って行く。


「おいっ、どうした?廊下で何をやっているんだ?ドアが何度も開いただろ?誰が入って来たんだ?」

 するとすぐ右手のドアの向こう側から、男の叫び声が聞こえて来た。どうやら廊下の様子が気にかかっているようだが、声をかけるだけで廊下迄出てきてはいない様子だ。


 廊下の右手側は煌々と明りが、すりガラスを通して漏れている。人がいるのは明白だが、中が全く見えないので様子はうかがえない。ジャックと美都夫は身をかがめて、こちら側の様子も探られないよう気を付けた。


「いいか……イチにのサンで突入するぞ。」

 ドアノブをゆっくりとまわしながらジャックが小声で告げるのを、美都夫が小さくうなずく。


「イチにいの……さんっ!」

 ドアを勢いよく開いてジャックが立ち上がって突入するのに続いて、美都夫も部屋の中へ駆け込んだ。


(が……ガトリング銃……いかんっ、ジャックに飛びついて身を低くかがめろ!)

 美都夫が飛びついて床に伏せるのとほぼ同時に、耳を劈くような轟音が部屋中に響き渡り、美都夫の体のすぐ上を高速の物体がいくつも飛び去って行くのが風切り音でわかる。


(ガトリング銃って何?)

(旧式の機関銃だ。)


(機関銃って?)

(連射が効く……知識欲を満たすのは後で落ち着いてからでいいから、炎系の魔法が使えただろ?部屋に入った時にちらりと見えた円筒の黒光りするやつの場所を覚えているか?)


(うん……すぐ後ろにおじさんが立っていたね。)


(おお……おじさんの位置まで覚えているならちょうどいい。そのおじさんとその少し手前の黒光りする円筒の根元辺り両方に、炎弾を放て。4.5発は叩きこめよ。


 この部屋は応接らしくソファとか色々あるからちょっとの間は持ちそうだ、だけど風前の灯火だからすぐにやれ。)


 部屋に入ってすぐ応接用の大きなソファとテーブルのセットがあり、その奥は事務机が並ぶ事務所のようになっているのだろうが、事務机は左右にどかされていてガトリング銃が配置されていた。美都夫たちの体はソファの影になっているが、ガトリング銃の連射ですぐに砕け散ってしまうと予想された。


(風前の……まあいいや後で聞こおっと……)


「燃え盛る炎を制するマグマの神よ、……」


「馬鹿め……飛んで火にいる夏の虫とは、お前たちのことよ……どうして、お前たちが忍び込んだのが分かったのかって?それは簡単だ。合言葉が違うんだ。捕まってどうしても内部情報を漏らさないわけにいかなくなった時、異常を告げるための合言葉を決めてあるのさ。


 それを知らずにお前たちは馬鹿正直に、潜入に来ましたとわざわざ教えてくれたというわけだ。工場内部の様子が分からないから、最初は少人数で潜入して内部事情を探ってから、改めて大人数で突入してくるつもりだろう?


 だが……潜入班を一網打尽にして突入を躊躇っているうちに、俺たちはとっくに逃げ延びているという算段だ。おあいにく様だったな……。


 今出てくれば命だけは助けてやらんこともないぞ。こっちだって人殺しなんかやりたくはない。お前たちを拘束しておけば、脱出する時間は十分に稼げる。あきらめて出て……」

 一旦銃撃が止み降伏を促されたが、もちろん降伏するつもりなどない。


「………………敵を業火に包め……炎弾!……炎弾!……炎弾!……炎弾!……炎弾!」

 男の勧告が終わる前に、ビーチボール大のいくつもの真っ赤な炎の弾が放たれ、男とガトリング銃へ向かっていく。


「ひいっ!」

 男の悲鳴が上がるのとほぼ同時に、甲高い破裂音が響き渡った。


(よっしゃあっ!ガトリング銃が暴発したぞ!今だっ、突進しろ!)


「ジャック……突進だって……行くよ!」

「おっ……おお!」

 すぐに跳ね起きて、ソファを飛び越え突進していく。


「うわあっ!」「ひいっ!」「ぎゃあーっ!」


 ガトリング銃を操っていた初老の男は着物の袖から炎を立ち上げ、どうしていいかわからずに両肘を曲げて手のひらを上にした状態で、部屋の中を右往左往していて、他の2人はというと、その慌てふためく姿を見ながら怯えまくり、部屋の一番奥にある重厚そうな机の後ろ側で、悲鳴を上げて立ち尽くしていた。


(あまりにも強力な武器を手に待ち構えていたので、まさか反撃を食らうとは思っても見なかったようだな?

 予想外の展開に、こいつら頭がついて行っていない。どうしてこうなったのかわからず、パニック状態に陥っているようだ。おいっ、水系魔法で火を消してやれ、このままじゃあ火だるまになっちまうぞ。)


(分った)


「母なる海を司る水の神よ、我にその力を貸し与え敵を水の底に沈めよ……弱水流!」

 美都夫が呪文を唱えると、男の両腕に弱い水流がほとばしり、やがて鎮火した。


(火傷は大したことなさそうだ。すぐに後ろ手にロープで拘束しちまえ。治療はそれからだ。)

(分った)


 美都夫は懐からロープを取り出し、焼け焦げてほとんど残っていない着物の袖を剥ぎ取り、男の腕を背後に回してからロープで縛った。不思議と抵抗はなかった。


「生きとし生けるもの全てを御霊う癒しの神よ、……」

 すぐに火傷の治療を施してやる。


「お……お前ら……何者だ?人に向けて攻撃魔法を発するとは……」

 まさか魔法攻撃を受けるとは思っていなかったのだろう、ガトリング銃を操作していた初老の男が、美都夫とジャックを交互に見回す。ジャックはすでに2人の男を拘束し終えていた。


「確かに人に向けて攻撃魔法を発するのは、重大な冒険者組合規定違反だ。だがまあ、人に銃を向けて発射するのは国の法律違反だから、そちらの方がはるかに罪は重いわな。しかもそっちが先に撃って来たんだし、完全な正当防衛ってことで構わんだろ。


 ともかくよくやった、お前と一緒で助かったよ。危うく死にかけた。よくあんな一瞬で、向こうが待ち伏せしていて、しかも新型銃を向けていると判断できたな。俺なんか黒光りする筒までは見えたが、それが何か一瞬では見当もつかなかった。


 さらに的確に敵の弱点を突いて反撃するとはな……お前本当に15か?若作りじゃないかって疑いたくなるぞ。本当にいいやつを相棒にしたと、俺は自分の目利きを自慢したいね。」

 ジャックが顔をしわくちゃにして、嬉しそうに駆け寄って来た。


(死の危機から逃れて大逆転はうれしいのだろうが、喜ぶより先に、することがあるはずだろ?恐らくガトリング銃を操っていたやつが親分だろ?黒幕が誰かを尋問しなくてもいいのか?)


「ジャック……喜ぶより先に、こいつらの黒幕を聞き出したほうがいいんじゃないの?」


「あっ……ああ……そ……そうだったな……あまりにうれしすぎたので……いやあビビったぁ……ダンジョンで水牛系魔物の群れに突進された時よりも、はるかに怖かった……はぁーすぅー……。


 おいっ、お前が売人の総元締めで、しかもこの工場で麻薬の精製を行っているんだろ?しらを切っても無駄だぞ!夜が明けたらすぐに、工場内を隅々まで捜索するからな。


 こんな官庁街にほど近い場所で、ただの工場に偽装するなんて、考えついたとしても普通の悪だけじゃあ無理だ。大きな援護を受けているんだろ?お前たちの黒幕は誰だ?」


 ジャックは大きく深呼吸をした後、ようやく尋問を始めた。


「ふん……誰が吐くものか……。」


 初老の男がそっぽを向く。白髪交じりではあるが禿げ上がってはおらず、中肉中背の体はそれなりに貫録を醸し出している。高級そうな絞りの紋付が、そう見せているのだろうか。男はジャックがすごんだ顔で迫ってくるのをものともせずに、平静を装っているように見えた。


「おやおや……お決まりのセリフだね。だがお前は間違いを犯した。誰が吐くものか……と言ったな?白状する相手がいるということだ……つまり黒幕の存在を認め、しかもお前はそいつのことを知っていることまで認めてくれた。もうどれだけしらを切っても無駄だぞ。自白するまで取り調べてやる。


 だが……それまでお前の命が持つかな?強大な力を持っている相手のようだからな……警察の中だって安心はできないぞ。今まで情報漏れで、散々煮え湯を飲まされてきたくらいだからな。


 どうだ?正直に白状してしまえば、その黒幕を逮捕することが出来る。そうなればお前の身は安全だ。もちろん安全が確実になるまで、お前は俺が責任を持って匿ってやる。お前が長生きする方法は、正直に知っていることを何でもかんでも白状してしまう以外、なさそうに思えるのだがな……」


 男の揚げ足を取ることが出来たジャックが、嬉しそうににやける。


「ばっ……くく……黒幕など……いない……だから……知る由も……ない……。」

 初老の男がすぐさま言い換えたが、時すでに遅し……だ。


「まあいいさ……こいつらも馬車へ連れて行こう。夜が明けて工場の従業員が出勤してきたら厄介だ。悪党の仲間と区別がつかなくて、怪我でもさせてしまったら大変なことになる。」

 いつまでも工場内に留まってはいられないので、拘束した3人を連れて部屋を出る。


「見張りの男たちは……この部屋の隅にでも括り付けておこう。この大きな銃の台座にでもロープの端を縛っておけば、逃げられないだろう。」


 廊下で倒れていた男たちは、ガトリング銃の銃座にロープの端を縛り付けて置いていくことにした。


(門番をどうするのか聞いておけ。仲間じゃない可能性があるからと言って、拘束を解くわけにもいかないだろ?)


「ジャック……門番の人たちはどうするの?」


「ああ……石鹸工場は、普通に町のスーパーなどに出荷しているまともな会社のはずだ、表向きにはね。だから、工場の従業員として雇われている普通の人が大勢勤めているはずなんだ。


 だから、門番もただの夜勤者の可能性はあり得る。だからと言って拘束を解くわけにはいかないから、そのままにしておくさ。従業員が出てくる前に警察へは連絡しておいて、工場を閉鎖してもらうつもりだ。


 できればその時迄に黒幕の名前を聞き出して、逮捕に向かえるといいのだがね。だがまあ……連邦大臣とかのお偉いさんだとすると王都に住んでいるはずだから、そっちの警察に任せることになるのだろうな。」

 ジャックは拘束したロープの端を手に、前を歩かせている男たちには聞こえないよう小声で美都夫に囁いた。



「さて、どうする?黒幕のことを正直に話すか、これから警察へ連行して正式に取り調べを行うか、どちらがいい?お前に選ばせてやる。」


 馬車ターミナルまで3人を連行し、貸し切りの乗合馬車客車に詰め込んで、尋問を開始した。既に10人乗りの客車も、悪党が5人と麻薬の常習者の客が一人に加え、ジャックと美都夫で8人と、きつくなってきた。


 客の男にはなるべく取り調べ内容は聞かせたくないので4人掛けの最後尾の座席に一人で座らせ、ジャックと美都夫が中間の座席に、売人の総元締めをはさんで座る。最前列は3人掛けだが、売人と売人の元締め3人が4人で掛けさせられた。美都夫の体が大きいので、1列目も2列目もぎゅうぎゅう詰め状態だ。


「お前……腐りきった警察組織をネタに、俺を脅そうってのか?弁護士を呼んでくれ、弁護士を!」


「弁護士を呼ぶのは、警察署で正式に取り調べを行う場合だ。だが弁護士が来るまで、お前の命が持つかな?

 警察を腐らせたのは、お前らの策謀だろ?お前ら自身が賄賂を贈ったり女をあてがったり、麻薬付けに無理やりしたりして、言うことを聞かせているんだろ?いわば自業自得だ。


 公の場では正義感が強いふりをしながら悪に手を染めている奴らは、自分たちのことが明るみになると困るから、お前なんか瞬殺だぞ。俺が一緒についていてやる間は大丈夫かもしれないが、トイレへ立つときとか……一人だけになった時が一番危険だよな?


 取り調べだって身柄を警察へ引き渡せば、警察官が行うからな。俺は引渡書にサインをもらったら、そのままクエスト完了で帰って行くだけだ。残されたお前はどうなる?」

 ジャックがゆっくりと、諭すように話しかける。


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