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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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救出

11.救出


(俺たちのいる荷台を照らすライトだが……これが検問所の兵士か役人であればいいが……人買いどもであったら最悪だ。下手に騒ぐと、矢でも射かけられてしまうかもしれない。)


「おーい……誰かいるか?」

 すると聞きなれた声色が呼びかけてきた。


(うん?確かこれは、ジャックの声だ。ううむ……返事をしてもいいものかどうか……ジャックが人買い側だったら、俺たちは殺されてしまうぞ。)

(どど……どうする?)


「助けてください!荷台の前方に2人います。僕たちは人買いに売られるところでした!お願いします、助けてください!」

 美都夫たちが悩んでいるときに、何も知らない正雄が大声で呼びかけてしまった。


「お……俺は知らない……キセル野郎にこの馬車に乗れと言われただけで……。」

「おおお俺だって……ただの雇われ御者でさあ……」


「ちいっ……ずらかれ!」

「待てっ、逮捕する!」

 途端に外では大騒ぎの捕り物となっている様子だ。


「ほら見てくれよ……やっぱりいただろう?この家畜の荷馬車隊列は、人買いたちの偽装だったんだ。大半はただの家畜輸送の荷台だが、何台かには子供たちが隠されている。こんな偽装で……確かに家畜の糞まみれの荷台なんて、国境の検問所でも詳しくは調べないよな。


 今までどうやっても子供たちの輸送手段が分からなかったから潜入捜査に切り替えたんだが、一発目からうまくいったよ。同行するよう言われはしたが、こんな多くの馬車のどれに子供を積んでいるのか、俺には教えてくれなかったからな。子供を積んだ馬車の数すら教えてもらえなかった。


 一斉に調べようとしたら時間がかかるし、その隙に逃げ出されるのが落ちだ。証拠をつかまなければ強制捜査が出来ないからね。1台綿密に調べようとするだけでも、すごい手間のかかる申請書類が必要になるからな。


 それもこれも……美都夫とかいう少年のおかげだよ。奴はすごいぞ……もうすでに治癒魔法も取得しているし……これは多分水系魔法だ。あんなガタイがでかいのに……魔法系ってのがすごい。」


 ジャックの自慢げな声が荷台の向こう側から聞こえてくると同時に、通路部分の檻が外され見通しが良くなってきた。数人の男が荷台に上がって、こちらに歩いてくるのが見える。勿論先頭はジャックだ。


「よう……潜入捜査ご苦労様。これで閂が外れるのかな?」


(ジャックに待てといえ!通電していると感電しちまう。)

「ジャック!……この入り口には電気が流されているから、触らないほうがいい。」

 焦って内檻扉の閂に手を伸ばすジャックを制する。


「ああ……お前が水系魔法を放ったために、大騒ぎ始めた鶏どもがやがて静かになった。奴らが慌てて電気を切ったようだから安心しろ。この馬車だけ突然大量の水が台車からあふれ出して、異常に気がついたんだ。」

 ジャックはそう言って、ただでさえ細い目を、更に細くさせた。


(あれは……笑っているのだろうね……)

(そうだろうな……しかも俺たちに向かって潜入捜査ご苦労ときたもんだ……役人たちの手前、打ち合わせ済みの作戦行動だったとしておきたいわけだな……図太い野郎だ……)


「悪かったな……古井戸の罠に落としちまって……お前さんも気がついていたようだったが、それじゃあ潜入捜査がうまくいかないから、後ろから突き落とさせてもらったよ。」


 荷台から地上へ降りて、ジャックが美都夫の両手足を拘束していた手錠を外しながら詫びる。正雄も一緒に出てきて、長く座敷牢で捕らえられていたのか、弱っている正雄は担架に寝かせて運ばれていった。


「初めからおいらをおとりにして、人買いたちの輸送時を捕まえるつもりだったの?でもそれならどうして、最初からそう言っておいてくれなかったの?おいらは、あんたのことを恨んでいたよ!」


「だから……お前さんには芝居は無理だろ?掴まっても平気な顔していられたんじゃあ怪しまれちまう。血相変えて恨み言でも言ってくれなきゃなあ……何せ突然裏切られて売られていくんだからな。


 その必死な態度のおかげで俺が子供たちの輸送に立ち会えたんだから、本当にお前さんには感謝だよ。助かった。何せこれまでに何度も人買いの輸送隊列の情報を掴んで抜き打ちで検閲したんだが、どれもこれも外れで捕まったことはなかった。まさか荷台を2重にして家畜輸送に偽装しているとはな……。


 しかも……停車時には中の檻の格子に電流迄流してやがるとは……これじゃあ、嫌がる子供たちだって検閲時もおとなしくして壁に引っ付いているしかなかっただろうからな。見つからないはずだ。


 手の内を暴くことさえできなかったんだが、本当に助かった。ありがとう。」

 ジャックは美都夫に向かって、深く頭を下げた。


(仕方がない……ジャックを許してやれ。これも正義のためと思えば……腹も立たないだろ?)

(そうだね……)


「分った……ジャック……もういいよ。」


「許してもらえるか……ありがとう。双葉のことは心配するな。移送日の予想はついていたから俺が追加で3日分の宿代を払っておいたし、美都夫と冒険の旅に出てくると言っておいたから、一人で宿で留守番しているはずだ。ちゃんと飯も出ているから安心しろ。双葉のことが心配で、国境前に暴れださないか心配だったよ。


 人買い野郎のお屋敷に行く前から、双葉のことは心配せずにお前さんの身の安全だけを考えろと言っておいたつもりだったが、裏切り者の言葉など、信用するはずもないからな。


 お前さんがつとめて冷静に、着実に脱出できる瞬間を伺っていてくれてよかったよ。俺の見立てに狂いはなかった。お前さんを見てピンと来たんだ……こいつならやれると……ね。


 さて……これから人買いの元締めを逮捕しに行こうと思っているんだが……申し訳ないがもう少し協力してくれないか?正直に言って……これからが本番と言ってもいい……危険を伴う。」

 しわくちゃに緩んだ顔が急に真顔になり、ジャックはじっと美都夫の目を見てきた。


(宣言通り、双葉のことは手配済みだったということか……良かったな。それよりも……あのキセル野郎の屋敷に乗り込んで、奴を逮捕するだけなんだろ?手下の着流し風の奴らは確かに十数人はいたけど、軍の兵士を動かせば一網打尽と思えるけどな……まさかジャック一人だけ……なのか?聞いてみろ!)


「じゃ……ジャック……まさかジャックとおいらだけで、キセル男の屋敷へ乗り込むつもりなのかい?悪いけど、おいらは……加勢はできないよ。喧嘩なんてしたことないし、魔法だって……水系の初級がさっきようやくできた程度だから……。」


「まっまさか……子供のお前さんの加勢をあてにはしていないよ。勿論警察の部隊を連れてキセル男の屋敷へ乗り込むんだが……だがそれじゃあ黒幕を暴けない。奴が人買いの頭領じゃないんだ、まだまだもっと上がいる。


 そいつが誰か……キセル男から聞き出すためにも、一芝居必要なんだ。国境の検問で引っかかって、何とか逃げてきたことにして、奴が上へ報告するところを押さえようと計画している。


 そのためには子供を一緒に連れ帰らないとな……美都夫……協力してくれないか?」

 ジャックはそういうと、両手を合わせた。


(どうする?)

(どうするって……お前はどうしたいんだ?俺は協力してもいいと思っているが、お前次第だ。


 かなり危険な計画だぞ……何せジャックと2人きりで荷馬車に乗って帰るわけだからな、警察部隊は黒幕がはっきりするまで突入はしないだろうから、中で立回りにでもなったら、ジャック一人だけだとあっさりとやられてしまうかもしれない。それが嫌なら遠慮したほうがいい。


 別にお前が拒否したところで……ジャックたちが何とか考えるだろう。子供のお前が頑張ることはない。)


(でも……これまで何度も失敗して、ようやく今回成功したわけだろ?これを逃すと……次を期待することは難しいかもしれないよ。おいらが一緒に行けば成功するのかもしれないんだったら……おいらは行くよ。)


(ああ……お前がそれでいいなら……俺はお前と一心同体……というか元々お前の体だからな。俺はお前が少しでも生き延びられるよう、出来る限りのアドバイスをするだけだ。)


(ありがとう……心強いよ。)


「分ったジャック……一緒に行くよ。」

 美都夫は笑顔で答えた。


「おおそうか……有難い……手首と足首の手錠は……外したままでいい。手錠は預けておく。うまく黒幕を引き出すことさえできればいいが……明日連絡する……なんて言い出してお前さんを座敷牢へ移す……なんてことになったなら、悪いが自分で両手両足に手錠をかけてくれ。


 怪しまれると、お前さんの身が危険だからな。


 もう分ったと思うが、俺が例え人買いよりの態度をとったところで全てお芝居だからな、変に気をまわして一人だけで戦おうとなんて絶対するなよ、お前さんは自分のことだけ考えて立ち回ればいい……分かるね?」

 ジャックは美都夫の両肩に自分両手を置いて、諭すように話した。


(また今回も、お前は自分の身の安全だけを考えろということだ。今回はジャックの気持ちが分かっているだけ、気が楽だな……)


「分ったよ……絶対に危ないことはしない。」

 美都夫は大きくうなずいた。


「じゃあ折角自由の身となったのに悪いが……もう一度檻の中に入ってくれるか?気絶した鶏たちも、追々意識を取り戻すだろうからな。」


 ジャックに促され、荷馬車の荷台に上がって奥の2重となった檻の扉を閉め、閂をかける。先ほどまでは、もう一人正雄がいたのが、少し寂しい感じがする。

 数分後には馬車がゆっくりと動き出した。


(国境まで来た時の時間を考慮すると……キセル男の屋敷に到着するのは恐らく明日の朝だろう。必死に馬車を飛ばした……としたいのなら明け方くらいにはつくだろうが……馬だってばてるだろうからな。短い休憩時間だけ餌と水を与えられて……今で30分ほどは休憩できただろうが……どうするだろうか。


 夜通しはきついから下手するとどこかで野営かも知れん。)

 しかし馬車は止まらず途中10分休憩を2度しただけで走り続け、やがて夜が開けてきた。



「おーい……開けてくれ、ジャックだ!国境の検問でへました奴がいて、積み荷がバレちまった。警備隊と捕り物になって、命からがら逃げて来たんだ。頼むから開けてくれ!」


 ドンドンと大きな音を立てて、屋敷の門をジャックが右こぶしで叩く。まだ夜が明けかかったばかりの通りは人通りはなく、門を叩く音だけが辺りに響き渡っていた。


 荷台の御者席側は分厚い板を張り付けてあるが、今は食事を供給するための穴の蓋は外されているので、美都夫はそこから覗いて外の様子を知ることが出来た。


 通用門が少しだけ開いた後数分して、大きな門がゆっくりと開き始めた。

 そうして開いた門の真ん中には、キセルをくゆらせながら着物姿の恰幅のいい男が立っていた。


「ジャック……だったな?どうした?誰がへまをしたんだ?俺の積み荷はどうなった?」

 キセル男はそれでも冷静にジャックに問いかけた。


「いや……俺も顔を見たわけじゃないし、例え顔を見たところでお前さんの手下全員の顔も名前も知らないから、誰とは答えられない。


 俺は国境の検閲官の相手をして、自分が乗っていた荷馬車の荷台の家畜を見せていたんだが、そのうちに大声がして子供が乗っているって、誰かが叫んだんだ。そうして人買いだってばれてしまって……そうなるともう……国境警備部隊の兵士が出張ってきて……荷馬車隊の護衛の兵たちはすぐに逃げちまった。


 御者やお前さんの手下達は……ほとんど捕まったんじゃあないかな?俺だけは……隙を見て近くにあった馬車を操って何とか逃げ出したというわけさ。暫くして追手をまいてから休憩したら、どうやら美都夫を乗せた馬車だということが分かった。俺が操っていた馬車のすぐ後ろに乗せられていたとは知らなかったよ。」


 ジャックはそう言いながら後頭部を掻いた。


「そうか……今回のキャラバンの関係者は……何度も子供の輸送を担当しているベテランばかりだったんだがな……うまく偽装出来ていたはずなんだが……何が悪かったんだ?

 ほかに逃げ出せた奴はいなかったのか?」


「知らんよ……俺が馬車を走らせていて、一緒に走っていた馬車は1台も見なかった。恐らく護衛を担当していた兵士の何人かは逃げたんだろうが……」


「奴らは雇われのゴロツキどもだからな……下手に戻ったらせっかくもらった前金まで返させられる恐れがあるから、ここへは2度と近づかないだろう。そうなると……50人近くの手下どもが挙げられたことになる。人買いなんて罪が重いから……手下でも下手すると何十年もくらいこむ羽目になるかもしれん。


 まずいな……分かった……ちょっと俺は連絡をしなければならん。

 ジャックは馬車を中に入れて……連れ帰った子供は地下の座敷牢へ移しておいてくれ。悪いが礼金は……子供が売れていないから、あとで相談だ……いいな?」


「ああ……分かったよ。」


 キセル男はキセルの灰をポンと捨てると、そのまま屋敷の方へ急ぎ足で入って行った。ジャックは急いで馬車に戻って馬車を門の中へ入れると、駆け足でキセル男の後を追った。


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