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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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ようやく治療

5.ようやく治療


(ふうむ……どうして集魔香が、お前が腰にぶら下がっていたんだ?だがまあそんなこと……彼らが知るはずもないか。まずは怪我していることを言って、薬を分けてもらえないか頼んでみろ。ほれ……早くしろ!)

 イチは頭の中の声に促され左足の足首を浮かせ、おずおずと騎士の前に左足首を晒して見せた。


「こんなところで魔物どもに囲まれていたのはおかしいと思っていたのだが……怪我をしているのか?おいっ……治療してやれ。」


「はいっ。」

 騎士の言葉に応じて冒険者たちの一番奥から声がして、一人の少女が前に出てきた。治癒魔法を使う巫女だろう。見た目はかなり、若く見える。女性……というよりは少女……といったほうが合うだろう。


「左足首は……鋭利な刃物のようなもので切られておりますね。生きとし生けるもの全てを御霊う…………。」


 イチは傍らの大きな岩に腰かけ、さらしをほどいてタオルを巻き取り、ハンカチを取り除いて傷口を晒して見せた。少女は治癒系の呪文を唱えながら、足首の上に右手をかざし目をつぶった。


(ほれ見ろ……頼んでよかっただろ?なんだか左足首が、ほんわりと温かくなって来て気持ちがいい……痛みが徐々に消えていくようだ。これがヒーリングって言うやつか?すごいな……)


「足首の腱を完全に断ち切られているので、当面歩くのは困難となるでしょう。私の力では、血を止めて傷口をふさいで差し上げるのと、洞窟地面でいたんだ足の治療を施すのが精いっぱいです。他は大丈夫ですか?」


(そうか……ただ傷口塞いで血止めをしただけか……まあ仕方がないな……こんな洞窟の中じゃあ……それよりももっと傷みが激しいところがあるだろ?そっちも頼め!)


「あああ……ああ……こここ……こっこっちもだ。」

 左足首は傷口がふさがり血が止まったようなので止血用の紐を取り外し立ち上がると、イチはおもむろにズボンをパンツごと下ろした。


「きゃっ!」

 すると目の前の巫女が、瞬間的に後方へ跳ね退いた。しかも……両手で両目を覆っている……。


「どどど……どうした?」

 巫女の態度に、イチは戸惑っていた……自分が変なことをしたのだろうか……?


(どうしたも何も……引っ込み思案で人と触れ合えない性格かと思っていたんだが、ずいぶんと大胆だな!お前はあれか?美少女に自分の股間を見せつけて喜ぶタイプか?そうなのか?……はあー……違うのか?違うんだったら、前ぐらい隠せ!向こうが恥ずかしがっているだろ!


 それと……変態だと思われたら治療を拒否されるかもしれんから、その辺のフォローを……)


「おおお……俺は……へっ変態……ででででは……なっない……。」


(だから……そんなの直に言っても信じてもらえないだろ?俺は変態ですって触れ回る変態がいるか?


 そうじゃなくてその……そうだ、お前妹がいるんだろ?うちのパーティにも女の子がいるんだけど、兄妹同然に育ってきて、目の前で平気で着替えたり一緒に風呂入る仲なんですよー、おかしいですか?って言え!)


「ままま……まずかった……か?ううう……うちのぱぱぱ……パーティにも……おっ女の子が……ちちち血は……つつつながってない……きょきょ兄妹……どどど同然……へへ平気で……すす素っ裸……ななななって……きき着替えたり……いい一緒にふろ……はは入ったりする……から……。」


 イチは聞こえるか聞こえないかくらいの小声でそういいながら頭を下げると、前を両手で隠し脱いだ服の上にうつぶせに寝転がった。


「露出狂の変態というわけではなさそうだ。悪気はないみたいだから……続けて治療してやってくれ。」


「はは……はい……お尻は……焼き鏝を当てられたような火傷ですね。魔物の炎系魔法と思っておられるかもしれませんが、恐らく違うでしょう。サルマタに焼け焦げは全く見られませんから、人為的なものでしょうね。生きとし生けるもの全てを御霊う………………。」


 騎士に促され巫女が呪文を唱えると、先ほどまでヒリヒリと痛んでいた右尻がスーッと軽くなっていく。それよりも……左足首と言い右尻と言い……人為的なもの……???なんだって……?


(おいっ?どういうことだ?)


「ちょっと!すいませんが動かないでいてください!」

 イチの尻の火傷が人為的なものと巫女に言われ、反射的に思わず上半身が起き上ってしまい、注意されてしまった。


「ふうん……やっぱりそうか……。」

 背中の上の方から男の呟く声が聞こえる……声色から言って、恐らくは騎士……。


(なんか心当たりがありそうだな……ちょっと聞いてみろ?)


「…………ややや……やっぱり……?」

「ああ、あんた……スケープゴートにされたんだろ?いわゆる生贄だ……。」


(生贄だって?一体何を言ってるんだ?この男は……)


「きゃあ……とっ取り敢えず……キズと火傷の治療は終わりまして、体力回復魔法も施しました……。」

 イチがサーティンを見上げながら跳ね起き立ち上がると、すぐ横にいた巫女は両手で顔を覆いながら隊列の方へと逃げて行ってしまった。


「何だ何だ?巫女の前で平気でパンツを下ろしたって?そりゃ……さぞかしご立派なものを持って……。」

「どうだった?そんなすごいのか?」

「知りません!」

 巫女が逃げて行った先では、冒険者たちが盛り上がっているようだ。


(あーあ……あの子は今晩うなされるんじゃないかな……気の毒に……)


「確証がないし、あくまでも噂だからな。それよりも……どうする?治療は終わったから、このまま一人で入ってきた入り口まで戻るかい?


 それとも俺たちと一緒に来るかい?あんたほどの腕なら俺たちのパーティで拾ってやらんこともない。

 と言っても新人なんだから……作法に則って下働きから、やってもらうことにはなるがね。」

 騎士の男は、なぜか目じりを下げながらイチのことを見つめ、一緒に来るよう誘って来た。


(一緒に行くと言え!どうせ仲間たちは全滅しているだろ?新しいパーティに加えてもらえるチャンスだ。)


「いいい……いや……ななな……仲間たち……ししし心配……あっ歩ける……から……だだだダンジョン……さっ探して……ななな仲間たち……確認……。いいい遺品……かか回収……。そそそ……それよりも……ちちち治療のれれれ礼……。」


(なんだよ……俺が教えた通りでなくても会話できるじゃないか……ああそうか……まずは仲間の安否確認が先決だな……まあそれでもいいさ。救助隊でないんだったら治療の礼も必要ということか?手持ちはあるのか?…………はあ?ほとんどない?……じゃあ、どうする気だ?


 金もないのに……馬鹿正直に言わないでいたほうが良かったんじゃあないのか?)


「そうか……せめて仲間たちの遺品ぐらいは……と言った気持ちのようだな?徒労に終わらなければいいのだが……治療の礼か?それは同じ冒険者同士のことだからな、別にどうということはないさ。お互い様だ。


 と言っても……まったくタダと言ってしまってはお前さんも、気が済まないだろうからな。どうだろうか、ここにあるお前さんが仕留めた獲物……これを代金代わりに……。」


 騎士は洞窟通路にうずたかく積み上がっている、魔物たちの死骸を指しながらイチの方へと振り返った。主に狼系の魔物だが、中には猪系魔物にハトや雉などの鳥系魔物も混じってはいるはずだ。


「こっ……これだけで……いっ……いいの……かかか……かい?」

 イチは命を救ってもらったお礼が、その辺に転がっている魔物たちの死骸だけで済むとは到底思えず、かといって蓄えがあるわけでもないイチは、どうやって支払おうか心配していたところだ。


「これだけって……かなりの値打ちもんだぜ?狼系魔物は毛皮を剥げば、結構な値段になる。しかもすべて首筋のところを一撃で倒しているからな……背中や腹に矢傷も刀傷もない毛皮は高値で取引される。


 猪系魔物なんかは毛皮も考慮してなのか、矢は鼻から脳天を突いているから驚きだ……こっちは肉も魅力だが毛皮も相当な高値がつくだろう。

 鳥系魔物だって全て心の臓を射抜いているからな……血抜きも楽だし最高だ。こいつを頂いてもいいかい?」


(おいおい……いいんだろ?イチが倒した獲物だ……それを治療代がわりにしてくれるって言っているんだから、即答じゃないのか?)


「ももも……もち……ろん……どどど……どうせ……もっ持てない……数が多くて……いいい一撃で……倒す……きゅきゅ……急所……狙った……どっ……どどどどうぞ……。」


「そうだな……持ち帰るために一撃で倒したというよりも、生き延びるためだものな……分かるよ。じゃあ……有難く我々で処理させていただくことにしよう。だがまあ……お前さんは俺たちと一緒に来た方が無難てぇもんだぞ……。


 あくまでも俺の考えだが……多分このダンジョンの中には……お前さんの仲間だったやつらの遺体なんてえもんはないはずだし、ダンジョンを出て組合のところへ行ったとしても……お前さんのパーティは戻ってはいないだろう……パーティ名は……なんて言ったかなあ……ハイ……だったかハナだったか……。」


(おい……やっぱりこいつはなにか事情を知っていると見て、間違いないだろうな。イチのチーム名は何というんだ?)


「チっ……チーム名?……おおお……俺たちの?……ははは……ハッチ……。」

「おお……やっぱりそうか……そんな感じのチーム名だった……。」


(なんだかな……遺体も見つからないし、組合にも戻ってないなんて……どうしてこいつが分かるんだ?)


「さっ……サーティンさん……どどど……どうして……組合……戻って……ない?

 おおおおお宝……なかった……いいいいった……たたた多分……ななな……仲間……。ままま……まずは……せせ清算……くく組合……いいいく……。


 おおお俺たちパーティ……ととと途中……はははぐれた時……そっそれぞれ……だだだ脱出……くく組合……まま待ち合わせる。だだダンジョン内……おおお互い……ささ探して……はは徘徊……きっ危険……。」


 そう……ダンジョン内で仲間とはぐれたなら、仲間を探して回ることは危険だ。それだけ魔物との遭遇確率が上がってしまうから……だからまずは一直線で入って来た入り口へ向かい、そこから出て組合事務所で仲間たちが出てくるのを待つ……これが組合の初級者講習で習う、ダンジョンで生き抜くための基本だ。


「冒険者としての心得が分かっているのなら、余計な気づかいは必要ないかね。お前さん一人で畿東国側の出入り口まで向かい、出た後は組合で仲間の安否を確認して万一戻ってなければ組合に捜索願を出せばいい。


 保険に入っているんだろ?保険を使って組合が捜索隊を手配してくれるさ……間違ってもお前さんが一人だけで、この危険なダンジョン内を捜索して回るなんてぇ無茶はしちゃあいけねえ。いいかい?」


 騎士の男はイチのことをまっすぐに見ながら、諭すかのように話しかけてきた。見た感じ……イチと親子ほど年が離れているといった印象には見えない。どう見ても30代中盤なのだが、話しっぷりが年寄り臭いのか……なんだか孤児院があった教会の神父を思い出された。


(おいおい……そのまま別れるのか?治療してもらったお礼をちゃんと言ってからにするんだ。ありがたーい忠告までしてくれているっていうのに、何も言わずに立ち去るなんて人としてどうかと思うぞ!)

 イチがすぐさま踵を返すようにして、歩き出そうとするのを引き留める。


「あああ……ああ……そそそ……そうか……確かに……わわわ……わかり……ました。ごっご忠告……あああ……ありがとう。そっそれから……きっ……傷の手当……ありがとう……。」

 イチは立ち止まると急いで振り返り、深々と頭を下げた。


「もし……もしもだよ?組合へ行っても仲間の消息がつかめず困ったなら……俺たちを頼って来てくれるとありがたいね……なんせ凄腕の狙撃手だからね。


 メンバーたちの手前もあるから、さっきも言った通りに入った時は下働きだが……お前さんなら一度ダンジョンに入ってしまえば、他のメンバーたちも納得するような活躍を見せるだろう。

 そうなればすぐに主要メンバーさ……うちのパーティは完全実力主義を掲げているからね。


 ぜひとも来てくれ……俺のチーム名は畿西国首都の冒険者組合所属のエクストリームだ。組合を尋ねてくれたらすぐに連絡が取れる。


 お前さんのようなのが……どうしてあんなパーティに参加していたのか……本当に……。」

 そういいながらサーティンがあごに手をやり首をひねった……何か言いたげなことがあるようだが……?

 どうにも彼の口ぶりが気にかかる……。


(おい……やっぱり聞いておけ。奴は何か知っているぞ……多分イチの仲間のことだ。)


「ななななんだか……なな仲間……こと……ししし知っている……くくく口ぶり……?どどど……どんなこと……ししし知って……いる……?」


「い……いや……まあ……ただの噂だ……気にせんでくれ。」

 するとサーティンは焦った様子で否定した。


(ううむ……もったいつけやがって……すごく気になるからしつこく聞け!)

「ききき気にせんで……いいいい言われても……すっすごく……ききき気に……なっなる……。」


「ああそうか……そりゃあ悪かったな。まあそうだな……俺の勘違いかも知れないから……お前さんはこれから戻って組合で仲間たちのことを確認するだろ?もし戻っていなければ、仲間たちの捜索を願い出る。

 それでも仲間たちの行方がつかめなければ……お前さんは一人ぼっちとなる……そうだろ?」


(そうだな……イチが孤児院育ちだということを、いい機会だから教えておけ。同情引いておけば、今後なんかの時に力になってくれるかもしれないからな)


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