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リモート  作者: 飛鳥 友
第3章 またまた超人見知りの少年は、窮地を脱出できるのだろうか……
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洞窟の中の兄妹

第3章は、今度も超人見知りの少年の物語です。彼の運命やいかに・・・

1.洞窟の中の兄妹


「畿東国王都では王室が大騒ぎしているんだって……地方の兵隊さんや冒険者たちが集められているから、治安が悪くなっている地域もあるらしいよ……なにをやっているんだろうね?」


「ああ……まだこの辺りは田舎で近所中顔見知りだから大丈夫だろうって知り合いのおばさんが言っていたけど、連邦は地方の治安をほったらかしにして何やっているんだろうって怒っていた。でも、その辺の政治のことなんか、難しすぎておいらには分からねえや。


 それよりも双葉……どうして世間の様子を知っているんだ?このところ町へ降りていないはずだけど……まさか一人で町へ行ったのか?一人で勝手に出歩いてはいけないと、いつも言っているだろう?それに……手に持っているのは何だ?」


「えっ?えへへ……い……お芋……」


 座っているのに立っている自分が見上げなければならないほどの大男に指摘され、ボロボロの着物を着た少女は頭を掻きながら握っていた手を上向きに開いて、手のひらよりも大きなジャガイモを見せた。


 光がささない洞窟内で焚火の明かりに照らされた少女の手は、骨がむき出しと言っていいくらいに細く、干からびかかっていた。


「腐りかけの芋のきれいな部分だけ切り取って植えたのは先週だから、まだ芽も見えていない程度で芋なんか形もできていないはずだよ……どうしてそんなもの持っているんだい?」


「それはその……市場へ行って……前におにいが働いてた店から……」


「頂いて来たのか?確かに定期的に食料を頂いて食いつないできたけど……このところ景気が悪く売り上げが落ちて厳しいと、先月も断られたのに……それにしても芋一個だけとは……いや、そんな中途半端なことするはずないだろう?店先から盗んできたんじゃないのか?」


「ええっ?あっ……あの……その……だって……やめさせられた時も、お給料は払えないけどこれから1年間は賄い食べ放題だから、いつでも来てくれって言っていたのに……そんなのそれから3日間だけで、4日目からは夕方に行っても忙しくて手が離せないからって、中へ入れてもくれなかったじゃない。


 仕方ないから自分で作るって言って材料下さいって言ったら、売れ残った半分腐りかけの野菜を篭一つで1週間分だって渡されて……全然足りないのに……皆大変なんだから我慢しろっておにいは言ったけど……半年間もまともに食べられなくって……それなのに先月からはその篭一つもくれなくなったんだよ!


 元はダンジョンだった洞窟だから野菜だって育つはずだって……きれいな野菜をもらったら食べないで植えて増やそうねって言ったって……いつになったらお腹いっぱい食べられるの?


 おにいなんてあたしより体大きいのに……あたしより食べてないでしょ?病気になったらどうするの?」

 少女は、大きな目に涙を貯めながら訴えた。


「おにいは体が大きいから……いっぱい肉を貯めこんでいるから何日も食べなくたって……どうってことないのさ。お前は体が小さいから……毎日少しずつでも食べないと、倒れてしまうだろうけどね。


 それよりも盗んで追いかけられて逃げて来たんだろう?よく見ると……怪我をしているじゃないか……裸足で石ころが多い道を駆け回ったせいで、あちこち擦り傷や切り傷が……」


 大男手製のわらじはとっくに脱げて、足の裏や側面が傷だらけで血がにじんでいる。大男は少女を抱きかかえると、そのまま薄暗い洞窟奥へと連れて行った。


「ダンジョン奥にあるはずの水源が枯れて……そうして魔物がすめなくなってダンジョンではなくなってしまった洞窟だけど、先日ようやく小さな水源を見つけたんだ。この水を……この間から耕している畑へ引き込めば……すぐにたくさんの野菜が実るさ。ダンジョン内は魔物の餌になる野菜の成長が早いというからね。


 そうなれば……毎日腹いっぱい食べられる。だから……もう少しだから……おいらの分まで食べて構わないから……危ないことはやめてくれ……。」


 大男はしゃがんでぷくぷくと湧き出る水源から清水を大きな右手で掬い取ると、傷ついた少女の小さな足をきれいに洗ってあげた。そうして大男も涙を流しながら、少女をいとおしそうにぎゅっと抱きしめた。


「おにい……ごめんね……ごめんね……」

 少女もすでに泣き出していて、その小さな手を大男の太い首にようやく回してほほを寄せた。


「ヒカリゴケだ……水源の周りに自生していたから、明かりがなくても見つけられた。少し掘ってみたら、勢いよく湧き出してきて……もうこの辺りは明るいだろ?泥で埋まりかけた水源が、復活してきたんだ。


 もうこれで大丈夫だ……ヒカリゴケのおかげでもっと明るくなるだろうし、食べ物にだって困らない。」


(無理だな……俺は農家じゃないから芋の生育期間なんか詳しくはないけど……早いとしても2ヶ月位?いや……確か新じゃが……なんて言って出回るのは年に1回だったから、半年近くかかるかもしれんぞ?葉物野菜だって、種を植えてから数週間はかかると思うし……。いくらダンジョンは野菜の成長が早いと言っても、1日2日と言うことはあるまい。


 今のお前の腹の空き具合から言って……危機的状況と判断すると、野菜が実るずっとずっと前にお前は飢えて死んじまうことだろう。この少女はお前の妹か?ひもじさのあまりに芋を盗んでしまったのだろうが無理もない……このままだと2人とも死んじまうぞ!)


「うん?誰だ?」

 大男は突然聞こえ出した声の主が分からず、きょろきょろと周囲を見回し始めた。


「おにい……どうした?」

 突然のことに少女も驚いたように、大男と一緒に洞窟内を見回し始める。


(ああ……俺は怪しいもんじゃあない……いや……者……という表現はおかしいかな?人ではない……いや違うか、俺は人だ……だけど……そうそう……実体がないんだ。)


「じ……じった……い?」

(ああそうだ……俺はお前の中にいる。)


「はあ?お……俺の……中?」


(ああそうだ……詳しい事情が分からないが、俺はお前の中にいる。お前の目を通して周りが見えるし、お前の耳を通して音や声も聞こえる。だけど……お前の喉を使って声を出すことはできないし、お前の手足を俺の意思で動かすこともできない。あくまでも一方的に情報を頂いているだけだ。


 俺のことは心の声とでも呼んでくれ。


 ここは洞窟の中だな?ダンジョン……かと思っていたが、先ほどの会話から廃棄されたダンジョンということか?お前たちの隠れ家と言ったところなのかな?女の子もそうだが、お前も裾や袖が所々破れて胴部分もつぎはぎだらけの着物を着ているな……さらにお前の場合はサイズが……小さすぎだろ?


 どうしてこんなことになっているのか、事情を聞かせてくれないか?)


「事情……?」

 ボロボロの着物に、これまたつぎはぎだらけの股引姿の大男は、周囲を見回しながらつぶやいた。


「おにい!一体どうした?お腹すきすぎて、頭おかしくなったか?」


「ああ……そうだな……もしかすると、お迎えが来たのかも……」

 大男は抱きしめていた少女を放し、少し呆けたようにゆっくりと正座した。


「おにい……お迎えって?死んじゃうの?おにい……死んじゃダメ!あたしを一人にしないで!食べられなくたって我慢するから!もう絶対勝手に外へ出て行かないって誓うから……だから……おにい!死んじゃダメだよー……」


 今度は少女の方から、大男の胸に飛び込んで抱き着いて来た。


(おお……おお……愛されているねえ……うらやましいよ。


 俺は死神じゃあない。だからお前を天に召すために迎えに来たわけじゃない。だが……お前はたちもう危機的状況だ……こんなのが後1日か2日続けば、間違いなく死んじまうだろう。


 なのにお前は……この薄暗い洞窟から出ようともしない。外へ行って野草を食えとは言わないが、人里へ出れば働き口だってありそうなもんだ。どうして働いて稼ごうとしない?妹に盗みをさせるなんて……最低のアニキだぞ!


 ダンジョンの洞窟なんだろ?確か3m位は高さがあるはずで、さっき立ち上がった時の景色からお前は身長が2m近い大男だろ?いくらでも働き口があるはずだ。なくても冒険者にでもなれば、小型魔物くらいだったら、素手でだって相手出来るぐらいなんじゃないのか?その辺の木の棒でも拾って入れば……。


 なのにどうして働こうとしない?)


「働いていたさ……親が死んで、それまで周りにいた親戚や近所の人たちが一斉に寄り付かなくなって……学校も通えずに市場で働いた。


 3年間も……なのに給料も何ももらえずに……おいらが人一倍食べるからって……だからいくら売ってももうけが出ないってご主人からいっつも文句を言われていて……半年前に首になった。


 それでもご主人は優しい人で、次の仕事が見つかるまで大変だろうからって、1年間は賄のご飯なら食べさせてあげるって言ってくれて……でもそれも……やっぱり商売が厳しいみたいで段々と……」


「おにい……おにい……おかしくならないで……お願い……」

 少女は縋り付くようにして、大男の首に巻き付けた両腕に力を込めた。


(おい……妹を心配させないように……おかしくなってはいないといってやれ。そうして俺との会話は、声に出さずに心で話す……というか考えるだけでいい……お前のこれまでの記憶を探ることはできないんだが、今考えていることは伝わってくるからな。ほれ……妹を安心させてやれ!)


「大丈夫だ……おいらはおかしくなってなんかいないよ。双葉……疲れているだろ?少し眠りなさい。腹減っているだろうが……今はこの清水を飲んで……」

 大男はそういうと湧水をもう一度大きな手で掬い、少女の口元へもっていった。


「ごくん……おいしい……泥水じゃないきれいなお水……何ヶ月ぶりだろ……」

 少女はその水をおいしそうに喉を鳴らしながら飲み、男の腕の中で目をつぶった。


(さっき話していたみたいに3日間だけ食べさせてくれて、あとはわずかな野菜を与えてくれただけか……しかも売れ残りの廃棄するような野菜をな……お前……だまされているぞ!


 お前がさっきちらっと思い出したから伝わってきたが、お前が食っていた飯の量なんて……体が大きいから確かに人の倍は食っていたかもしれないが、それくらいで店の売り上げがなくなっちまうんなら、そんな商売なんて最初から成り立ってない。


 お前の働きぷりも伝わってきたが、朝から晩まで1日12時間も働かされて……その報酬が朝晩の飯だけじゃあおかしいだろ?その優しいご主人も、食べるだけで服も買えずにつぎはぎだらけで暮らしていたか?


 子供たちはどうしてた?いつもきれいな服着て……おしゃれして学校へ通っていただろ?奥さんなんか、週一にはマッサージや美容風呂へ通っていただろ?どうしてお前に給料が払えなかったんだ?


 お前は……両親が生きていた時に買ってもらった服……成長期なんだか知らないが、もともと大きかったのがさらに大きくなってパツンパツンじゃないか。しかもつぎはぎだらけで……大方服を買うだけの給料も払わずに働かせているって噂がたっちまって、仕方なく首にしたんだろ?


 妹だってボロボロの……下着だって見えそうな……服と言えるのか?こんな格好で、かわいそうじゃないか……。だから人目を忍んで隠れるように廃棄ダンジョンの洞窟で暮らそうとしているんだろうが、お前のやり方は間違っている。働いて給料をもらうのは当然のことだ。食べさせるだけでいいはずはない。


 これから給料を取りに行くぞ!そうして……きちんと食わないと本当に死んじまうぞ!)


(取りに行くって……どうやって?)

(お前が働いた記録はあるんだろ?)


(た……タイムカードって言う紙に……毎日働き初めと終わりの時間を書いて、ハンコをもらっていたから……その紙は、事務所の棚に保管してあるのを知っている。)


(そうだろうな……お前の賃金をちょろまかしていたんだから、就業履歴はきちんと存在しているはずなんだ……だったら大丈夫だ、給料の受け取り履歴なんてないはずだから、その支払いを主張することは可能だ。


 盗むんじゃあない……正当に受け取るんだ!)


(だから……どうやって?)


(ああ……働いていたところへこれから行って……後は俺が指示するから、お前はその指示通りに動けばいい。交渉は俺が……というか俺自体は何もできないから、俺の指示に従ってお前が交渉することになる。


 なあに……そんなに難しいことは言わないから安心しろ。)


(わ……分った……出来るかどうかわからないが……やってみる)


 大男は数歩歩いて先ほどの場所まで戻ると、抱きかかえていた少女をやさしく藁の上へと降ろした。寝床用に藁を敷き詰めていたのだろう。冷たい洞窟の地面に直接からだがふれなくてもよいように。


(お前も……水を飲めるだけ飲んでおけ……腹がグーグー鳴っているぞ。少しでも気がまぎれるように、水で腹を膨らませておけ)


(分った。)

 大男はそう呟くと、湧水のところまで戻って両手で清水をすくい、喉を鳴らしながら何杯も水を飲んだ。



 ダンジョンでいえば最下層に住んでいたのだろう、魔物の襲撃もなくただ歩いて最短距離を進むだけなのに出口まで2時間近くも歩きとおし、ようやく光が見えてきた。あのまま数日いたなら、洞窟から這い出る体力も失えていたのではないかと思えたほどだ。


 何せ外の日の光を浴びたとたんに、立ち眩みをしてよろけたほどだ。体力の限界どころの騒ぎではない。入院必須の栄養失調状態と言っても過言ではなさそうだ。


(町迄どれくらいだ?)

(4時間ほどだ)


(はあ……そんなにあるのかよ……たどり着けるんだろうな?)

(地理には詳しい……)


(道に迷うとかじゃなくて……体力的な面……)

(大丈夫だ……)

 大男はそういうと、よろよろと歩き始めた。


(うん?飛びのけ!)


 大男が反射的に後ろへ飛びのくと、地面の落葉が跳ね上がりながら樹上へと絡まって登って行く……いや……これは罠だ……小動物などの獲物に、仕掛けた網をロープで吊り上げる……


この作品に対する評価やブックマークの設定は連載継続の励みとなりますので、よろしかったらお手数ですがお願いいたします。また感想を送っていただくと今後の展開のヒントにもなり得ますので、よろしくお願いいたします。

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