闘い終わって
15.闘い終わって
「くそっ!イチめ!覚えてろ!」
「ゼロよ……不正に王子である証を捏造し、王子であると偽りの申告をしたものは、過去にも数あった。その都度、わしは最愛の息子が戻ってくることを期待し、ところがそれがすぐに泡沫のように消えていく悲しさを味わった。だが、お前はそのやり口もそうだが、これまでの生き方も含めて最低最悪の人間だ。
不義の申告に際しては極刑と決めて、広く知らしめておる。通常ならば終身刑だ。だが……お前のような輩は生かしておくに値しないとわしは思う。判決はわしが直接下すのではなく、あくまでも陪審員たちではあるが、わしは自らの意見書を提出するつもりでおる。
今後このようなものが2度と出てこないためにもな。恐らくイチを除くお前の家族も同罪となるであろう。口裏合わせまでしていたというのであるからな……執行までにはわずかだが時間はあるだろう。その間にこれまでのことを深く反省して、少しでもまともな人間に近づいてから逝ってくれることを祈る。
そうしてイチよ……わが息子……本当に……本当にすまなかった。愚かな争いのため、お前を一人にするしかなくなってしまった。よくぞ今まで生きていてくれた。ありがとう。」
畿東王は、最後は目に涙を貯めながら、じっとイチを見つめた。ほぼ決定の死刑宣告に、それまで息巻いていたゼロはすっかりおとなしくなり、ニイたち3兄弟は顔が真っ青になり固まってしまった。
「おお我が息子……本当に本当に……再開の日を待ち望みながら、今ではもう叶わぬ夢とあきらめておりました。ところが昨年王子を名乗るものが十年ぶりに現れ、真の王子たる証が次々と示され、儚い希望が現実となりかけました。そのものは不埒な輩と分かりましたが、それでも真の王子を連れてきてくれました。
近くによってそのお顔を見せておくれ、さあ老い先短い母に、夢にまで見た息子の顔を早く見せておくれ。」
「お兄さん……わが兄となるお方が、本当に誠実で人を思いやる人間であるとよくわかりました。あなたが私の家族でよかった。ずいぶんと時間が経ってしまいましたが、これまでに果たせなかった家族としての時を一緒に過ごせるのが楽しみです。」
王妃も王女もイチを王子と認め、家族として迎え入れる様子だ。
「お……俺…………おっ王子……で……ない……おっ王子……に……なれない……。」
だがイチは、ぽつりとつぶやいた。
(おいっ……いまさら何を言っているんだ?)
「イチよ……いや……イチ王子……様……。生まれたばかりで教会前に捨てられ、天涯孤独として育ったあなたに、本当の家族が見つかったのですよ!しかも一国の王子……こんな素晴らしいことはない。
誰もが憧れる……一国の王になれるお世継ぎなのですよ。
なのに……どうしてそんな……訳の分からないことを……王子としての判定が……守り刀での審判が予定通りではなかったからですか?あれは王女様が……実的証拠がない中で、嘘偽りをしているものをあぶりだそうとして行った計略なだけで、実際に言われた通りの動きをするわけではなかったのですよ。
守り刀と言い、臀部の入れ墨と言い……あなたは間違いなく王子様なのです!」
イチの否定的な言葉に対し、サーティンは焦ってイチをなだめ、王子であることを強く強調した。
「おおおおおれ……の……かかか家族……ぜゼロ……にニイ……さサン……よヨン……そそれと……きょ教会……しし神父様……たたちだけ……。おっ幼い時から……ずずずっと……いい一緒……そそ育ってきた……かか家族……だ……。
おっ王子で……なない……おお王子で……なないんだ……お王子で……ななければ……ぜゼロだって……おっ俺を……だダンジョン……おお置き去り……すっすること……ななかった……。
おお王子……ななければ……ぜゼロ……ここんな……ふっ不正……し申告……で出来なかった……。おっ王子……ななければ……ぜゼロ達……か家族……しっ死刑……なななること……ななかった……。だだから……おお俺……おお王子で……なない……けけ決して……おお王子で……なない……。
ぜっゼロ達……しっ死刑……ななるなら……おっ俺も……いい一緒……しっ死刑……だ……お王子で……ななないの……だだから……。」
ところがイチは畿東王たちを涙を流しながら見つめ、ゼロ達とともに死刑になるといいだした。
「ば……馬鹿な……ことを……。」
これには畿東王も唖然として言葉を失った。
(お前!自分が何を言っているのか、分かっているのか?)
(……………………)
「とっ……取り敢えず2人の王子候補の確認の儀は、お開きとしていただけますか?私はイチ王子を説得いたしますから。」
すぐにサーティンが正気を取り戻し、この場を納めてからイチを個別に説得すると申し出た。
「あっ……ああ……済まぬが……よろしく頼む。」
畿東王がほっとしたようにこわばった表情を少しだけ緩め、頭を下げた。
「ゼロ達4兄妹は、地下の牢獄に収容しておけ!」
宣が警備兵に指示を出し、ゼロ達を連行させた。
「さっ……イチ王子……こちらへ……。」
サーティンはイチを無理やり引っ張って大広間から出ると、宣に案内された客間へ嫌がるイチを無理やり押し込んだ。
「イチ王子よ……いや、イチ……自分の今置かれた状況を分かっているか?イチは間違いなく、22年前に教会前に捨てられた王子だ。守り刀と入れ墨が証明している。家族が見つかったんだぞ、待ち望んでいた家族が……うれしくはないのか?」
「おっ俺の……かかか家族は……ゼロ達……だ……。」
障子戸を閉め2人きりで説得にかかるサーティンに対し、イチの態度はかたくなだ。
(おいおい……勘弁してくれよ……)
「ゼロ達が家族か?セロ達はイチが王子であると分かると、自分が王子として名乗り出るためにイチを、ダンジョンに置き去りにしようとしたんだぞ!そんな奴らが……家族と言えるのか?」
「かっ家族だ……おっ俺の家族は……ゼロ達だけだ。おっ俺が……汚いナイフなど……いつまでも大事にとってなければ……こっこんなことにならなかった……おっ俺が……悪い……。」
イチはそう言って俯いて涙した。
「そんなことはない。あいつらがイチを必要としていたから……イチはチームのエースだったからな。しかもたった一人のエースだ。十分利用価値があったから、一緒に行動していただけだ。イチがいないと、ダンジョン挑戦などとてもできないチーム事情だったはずだからな。
仮にイチが大怪我をしてもう戦えないとなったなら、恐らくイチは次のダンジョン挑戦で生贄となっていたはずだ。いい加減、ゼロ達の非道さに気づいてくれ。」
かたくななイチに分からせようと、サーティンも言い方を変えて説得し始めた。
「ちっ違う……こっ子供のころから……俺は人と……まっまともに話……出来なかった。が学校でも……どど同級生たちに……いじめられてた……そんなときいつも……ゼロが……ニイが……助けに来てくれた。ぜっゼロもニイも……本当は心根がやさしい……素晴らしい……人間だ……。」
ゼロ達を悪く言うサーティンを、イチが睨みつける。
「そんな心根の優しい人が……ダンジョンで研修生を生贄にするなんて言う行為を、すると思うか?確かに子供のころは、やさしい心を持っていたのかもしれない。だけど……変わってしまったんだ、ゼロもニイも、もしかするとその他の兄弟たちだってね。いつからかは分からないが……変わってしまった。
人を犠牲にすることにより、自分たちは楽に目的を達成できることに気が付いた……というのもおかしな表現だが、そういった生き方しかできなくなってしまったんだ。いい加減目を覚ませ!」
あくまでもゼロ達をかばうイチを、サーティンは強い言葉で分からせようとする。
「そっそうなのかもしれない……でも……だったら俺も……同罪だ。い一緒に……研修生を犠牲にして、ダンジョンをクリアしていた。しかも……ずいぶん長い期間……そうやって……生きてきた……。」
イチはもう大粒の涙を流し始めていた。
「俺は……イチに……王子になってほしい。決して報奨金欲しさとかいうわけではないぞ。報奨金なんか、断ってしまうつもりだからな。俺はゼロの悪行を暴くためにイチを連れてきたつもりだが、同時に天涯孤独となってしまったイチに、本当の家族を見つけてもらいたいと思ってここへ来た。
恐らく俺が一緒でなければイチはここへ来なかっただろうし、そうなると下手をするとゼロが王子ではないということを暴くことは、難しかったかもしれない。イチがいてようやく何とか、ゼロの仮面を外すことが出来たわけだからな。
先ほどの畿東王様に王妃様、王女様たちの歓迎ぶりを見ただろ?みなイチが家族と分かって、心から喜んでいるんだ。
それは決してイチが凄腕のスナイパーと分かったから、ではない……まあそれは承知しているだろうがね。
長年行方知れずとなっていた家族が、突然現れたんだ……しかも誠実な素晴らしい人間と分かって、尚更うれしさがこみ上げてきたわけだ。
そんな王様たちに王子ではないなんて、言わないでやってほしい。イチの……本当の父であり母であり、妹であるのだぞ!家族を悲しませて……うれしいか?そんなことするのは、いやだろう?」
かたくななイチの心に訴えようと、サーティンは今度は王様たち家族に焦点を当ててきた。
「そっそれは……俺の家族であろうがなかろうが……かっ悲しませたくはない……悲しんでほしくない……。
でっでも、どうすればいい?おっ俺が王子だと……ゼロ達は……死刑になって……しまう……。」
イチはなおも涙を流しながら、サーティンを直視した。
「ふうむ……だが……ゼロ達がこれまでに行ってきたことから考えて……死刑を免れるのは難しいと思うぞ。鬼畜のような生贄を差し出してクエストを行う行為もそうだが、何より王子と偽って名乗り出たこと、しかも実の王子をなきものにしようとしてから……だからより強い悪意を感じる。」
「で……でも……どうしても……」
「畿西卿もそうだが、畿東王も善王との評判だが、情状酌量をお願いするのは難しいと思うぞ。先の大戦以降、連邦国内で殺人や強盗……及び誘拐などと言った凶悪犯罪は皆無だったからな。
そのような世の中でゼロのような凶悪犯は……兄妹たちだけの減刑でもお願いするしかないだろうが、難しいかもしれないな……サンやヨンたちだって途中から気がついていたはずなんだ、ゼロが嘘をついていることに……なのにゼロをかばった。共犯とみなされても仕方がない……。」
サーティンはあきらめ気味にイチの両目を見据え、難しい状況を説明した。
カツーンカツーン コンクリートの床を、靴の踵で蹴る音が薄暗い地下牢に響き渡る。
「うん?ちいっ……イチか……自分を見捨てた元兄弟たちの、哀れな末路を見てやろうとやって来たか?
それとも自分が晴れて王子として認められ、勝ち誇った姿をひけらかしに来たのか?」
狭い牢獄部屋の壁に備え付けの2段ベッドの下にふて寝していたゼロが、起き上がって靴音がする方向を振り返りイチを認めると、親の仇でもあるかのように凄みのある目つきで睨みつけてきた。
「ぜ……ゼロ……どっどうして……どうして……。」
「ふん……どうしてお前をダンジョンに置ざりにしたのか聞きたいのか?どうして王子と偽って名乗り出たのか知りたいのか?どうして研修生を犠牲にするという鬼畜な行為を繰り返していたのか知りたいのか?全てあの、嫌みな野郎が説明してくれたではないか。順序だてて分かりやすく解説してくれたからな。
あれなら誰にでもわかりやすい……お前のような頭のねじが2つも3つも欠けたような奴にでもな……。
お前だってわかっていたんじゃあないのか?俺たちがまともに戦えないことを……修業時代、俺たちがダンジョンでどれだけ怖い思いをして戦っても、師匠は小遣い程度の賃金しか与えてくれなかった。
だから独立するといって、イチと俺とニイだけのチームとして師匠のパーティに参加することで、賃金は格段に上がった。だがそれだって……中級クエストの一人分の賃金でしかなかった。
初級クエストでも中級の一人分の分け前よりも収入が多いのは分かっていたから、サンやヨンが中学を卒業して冒険者を目指した時点で、完全独立して師匠のパーティからも離れると宣言したとき……すると師匠はお前たちでは初級ダンジョンでも立ち行かないといって引き留められたよ。
イチ以外でまともに戦えないのに、更に足手まといとなる新人冒険者を連れてダンジョンへ行くなど自殺行為だとね。それまでの給金だって、実際に役に立っているイチ一人の働きに対する分け前だったらしい。
冒険者の真似事をしたいのならば、イチは優秀だからチームとして面倒見てやるから、このままいろと言われた。どうしてもパーティから離れたいなら、イチだけ置いていけ……ともな。
そんな屈辱……分かるか?足手まといのはずのお前だけが認められて……俺たちは冒険者の端くれにもなれない……努力はしたさ……朝晩訓練だって一応していたさ。
しかし修業と称される雑用が多くて、まともな時間が取れないんだから……仕方がないだろ?休みの日は体休めたり、買い物や遊びに出かけたりしないと、何のために働いているのか分からないだろ?訓練するために働いているのではない、楽しく生きるために働いているのだからな……。
俺たちが出かける前から……帰ってきた後も……ひたすら訓練しているお前の姿を見るたびに、遅れを取り戻さなければならないという焦りの気持ちが湧いてきて、だけど体も休めないと次のクエストに影響してしまう……そんな気持ちの葛藤が分かるか?しまいにお前を無視することにした。いないと思うことにした。
お前のように何の楽しみも求めずに、ただ淡々と訓練ばかりしているような生活は、普通の人間じゃあ出来ないんだよ!俺だって……訓練が生き甲斐だ……なんて感じられるような都合のいい性格していたなら、ちゃんと修業していたさ……お前だけ……特別なんだよ!」
ゼロは立ち上がって格子の前まで来ると、鉄格子を両手でつかみながら顔を半分ほど隙間から出して、大声で怒鳴り始めた。




