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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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真偽つけ難き

13.真偽つけ難き


「ただいまゼロ殿が王子様ではないかと、申請に登城したときの台帳を持ってまいりました。少々お待ちください……えー1年と20日前に申請者と同行者の2名で登城されておりますね。同行者名は……サンと記載され、サインも入っておりますよ!サン殿で間違いがない……門番の記憶は正しかったようです。」


 息せき切って部屋の中へ入ってきた使いの者から台帳を受け取り、警備主任が記録を確認して読み上げた。


『おお……やはり……』

(うん?同行者はサンで間違いがない……どういうことだ?ゼロは何をしたかったのだ……?)


「本当に正しいか?入場者履歴を、もう一度確認願えぬか?」

 ところがゼロは慌てるそぶりも見せずに、平然と台帳を再確認するよう願った。


(どうしたいんだ?サインが実はサンのものではなく、別人のものだとでも言いたいのか?)


「はあ……えーと……申請者と……ああっ……!」

 仕方なく台帳へと再び目を落とした警備主任が、愕然として固まってしまった。


「どうした?正しい入場者履歴を読み上げてもらえぬか?」

 ゼロは自信満々に、警備主任を促す。


「しし……申請者名が……ぜ……ゼロ殿ではなく……ニイと記載されております……。お二人はそのまま王宮内で保護され、ゼロ殿が登城したのは……持参した入れ墨の写真と守り刀が、正式なものである可能性が高いと事前審査で判明した、それから20日後となっております。丁度1年前と言うことになりますね。


 いよいよご本人に直接確認するということになり、弟のヨン殿とともに登城されました。

 その為ゼロ殿と……サン殿がご一緒に登城されたことは……ただの一度もございません。申し訳ありませんでした。」


 プルプルと台帳を持つ両手を震わせ、膝も緩みがちで警備主任が顔を真っ赤に染めながら深く頭を下げた。


(ふう……参ったね。ゼロが王子ではないかと申し出た時と言ったが、ゼロ自ら登城したとは言っていないからな。とんだ引っ掛けだ。


 サンと同行していたことを覚えていたくらいに優秀な門番だからな……誰と誰が登城したか?……と聞かれたならあるいは、ニイとサンであったと思い出したかもしれないが、ゼロが登城したような言い回しから同行者のみに頭がいっていたからな……。)


「そうでしょう?私が王子ではないかと申請に登城したとき、申請者は弟のニイで妹のサンが同行したのです。

 私は今更だからと申し立てするのをためらっておりましたが、弟のニイの奴がどうしてもと強く求めたため、ニイに申請者として出向かせたのです。


 そうして私とニイは……顔は似ておりません……イチともそうですが、本当の兄弟ではありませんからね!勿論本当の兄弟以上に深い愛情で結びついていますよ……イチに対してもね。


 それから……ニイよ、立ち上がってみてくれ。」


「はあ……」

 ゼロに促されニイは何のことかわからずに、立ったままのゼロの横で立ち上がる。


「ご覧になってお判りでしょうが、ニイは大男と称されるほどではありません。冒険者としては一般的な体型と思いますが如何でしょうか?それなのに先ほど門番は、大男と証言した。それは……最初から私が申請者として登城したと思い込んでいたから……いわゆる誘導尋問のようなものですよね?


 彫師の証言も、そのような信憑性のないものではないですかね?」

 ゼロは勝ち誇るかのように口元を緩ませながら、門番や警備主任らの顔を見回す。


(しまった……顔を覚えていなくてもせめて体型くらいは……と言ったことすら否定されてしまった。


 ニイはイチよりは少し背が高いが、2mを超すゼロに比べたら……並んだならとても大男とは言えない。

 だが……身長145センチのサンと一緒に並んだなら……イチですら大男と感じることだってあり得る。


 そもそも……用心深いゼロが自ら登城して申し立てをするなど、ありえないことだった。悪意があると判明……守り刀はイチから奪ったものだし、入れ墨も闇で入れたものだし、あの時点で王子の証だと認められる確証はなかったからな……王子の証で間違いがないと分かって更に自分が安全と確信して初めて登城したわけだ。


 おかげで彫師の証言を完全に覆すことが出来た。しかもイチと同様、自ら進んで名乗り出たわけではないということまでも付け加えやがった。完全にしてやられた。)


「ですがその……城には毎日200人を超す外来者が……」


「彫師のところにだって、1日数人は客が来ていたのではないか?そうでなければ食っていけないだろうからな。そうして門番は人の出入りを監視する役割だから、常に人の顔や手荷物などに気を配るのが仕事だ。


 対する彫師は……当然ながら客の顔よりも入れ墨の出来栄えに神経を注ぐ。どちらが人の顔を覚えていて当然だと考える?」

 警備主任がすぐに弁明に走るが、ゼロの言葉で全否定されてしまった。


「そうなると……彫師とやらの証言は……当てにはならんということか?

 では如何様にしてこの二人のどちらが王子であると、判定する?」

 畿東王が、大きく息を吐きながら周囲を見回す。


「お恐れながら国王さま……わたしにもう少し発言させていただいてもよろしいでしょうか?」

「うん?ゼロか……構わんぞ……申し開きがしたいのであれば、存分に行うがよい。」


「はっ、有難きお言葉……では、王家の紋章の入れ墨を入れた彫師を、ここへ呼んでいただけませんか?」


「構わんが……今すぐにというわけにはいかんだろうな……城外に住んでいるのだろうから。警備主任……彫師を呼んでくるのに、どれほど時間がかかる?」


「はっ……王都郊外に居を構えているものでして……馬車を飛ばしても片道2時間……往復で4時間以上かかってしまうと予想されます。」

 彫師から証言を取った警備主任が、即座に答えた。


「おおそうか……では真偽は中断して、明日再審議ということになるかな?」

 ゼロとサーティンの論争が続き、更に宣と警備主任迄加わり延々4時間以上もの議論となってお疲れ気味の国王は、一時中断を喜んでいるようにも見えた。


「ですが彫師からも……台帳を押収してきておりますから……ある程度のことであれば、今この場で確認可能ですよ。例えば、入れ墨を入れた日付……とかであれば……」

 ところが警備主任は、簡単な確認であれば問題ないと告げる。


「そうか……では……王子の証である入れ墨は成長するにつれ……体が大きくなるにつれということだろうが……皮が伸びて当初は黒い痣にしか見えなかったのが、王家の紋章へと変わって行くと聞いた。

 当然紋章はそれなりの大きさがあるはずだが、彫師のところへ行って数分で仕上がるものなのかな?」


「いえ……数分ではなく……合計5時間程かかったようですよ……しかも1日でではなく……1年と3ヶ月前から週に1回1時間ずつ……1ヶ月程かかって仕上げられたと記録にあります。


 私も入れ墨を左腕に入れておりますが……勿論正規の入れ墨業者で入れたものですよ!

 多色の入れ墨の場合は、色が混じるので一度には入れられないとか……一度に大きな面積に入れてしまうと感染症など……客の健康面の問題もあるようですね。


 勿論、客の名前は無記名となっていますが、紋章入れ墨1から5と備考欄に書き込まれ、連番を付けて管理されております。」

 警備主任が台帳のページを繰りながら、解説付きで答えた。


「おおそうか……私たちのチームは以前から申し上げているように、同じ孤児院で育った家族同然の仲間で構成されております。その為クエスト時以外でも行動を共にしていて……たまの休みでさえも家族と一緒に過ごしていました。ですから……一人だけの時間などないも同然でして……それが5回ともなると……。


 イチならあり得ますよ……こいつは休みの日に外出しようと誘っても訓練するからと断り、一人だけで部屋に残っていましたからね。尤もこいつの場合は俺と同じ刺青を入れたかっただけで、王子と名乗り出るつもりなどなかったのでしょうがね。」


『おお……そうか……』

 謁見室内の全員の視線が、イチに集中する。


(しまった……家族同然でも、少なくともサンやヨンは生贄のことも知らされていなかった可能性が高く、ゼロの共犯者ではないと想定されているからな。サーティンもその辺は分かっているから、反論は難しいだろう。家族に知られずに王都郊外の入れ墨屋へ5回も通うというのは、確かに難しいだろう。


 しかも王子と名のるつもりがないイチが、入れ墨を入れたくなる理由まで盛り込まれてしまった……。


 おいっ、ゼロは本当に常にサンやヨンたちと行動を共にしていたのか?サンやヨンたちは遊園地で遊ばせて、ゼロはカジノへ行くといって別行動だったこととか、ないのか?)


(俺は……休みの日は1日訓練をしていたから……ゼロ達が外で何をやっていたのか知らない。だが……休みの日にはゼロとニイは飲んで帰って来たから、夕食だけのサンやヨンとは帰ってくる時間が違っていた。)


(おおそうか……だったらそう証言しろ!)

(ど……どうして?)


(このままだと、お前が王子の証をでっち上げたことにされちまうぞ!お前は入れ墨なんか入れていないんだろ?)

(勿論だ……)


(だったら、そう証言しろ!サンやヨンはゼロ達の帰りが遅かったことを覚えていても、自ら進んで証言しようとしないだろう。家族ともいえる仲間を陥れることになってしまうからな。)


(俺だって……ゼロを陥れたくはない……)


(いいか、ゼロはお前の命を奪おうとしたんだぞ!直接刺殺しようとしたわけではないが、薬を使って眠らせて大怪我させた上に集魔香までつけられて、ダンジョン内に置き去りにされたんだからな。お前にボス魔物たちを集中させて、お宝をやすやすと頂こうと生贄にするつもりでな!


 生餌という利用価値がなければ、直接殺されていただろう。しかもその目的は、お前になり替わって畿東国の王子と認められるためだ。サーティンだって畿西卿だって近衛隊隊長の宣だって、そのことに……ゼロの企みに気づいたから、お前を推し立ててゼロに対抗しようとしているんだ。


 その気持ちを汲んでやれよ……お前が王子になるかどうか……ゼロを極刑にするかどうかは……後で考えればいい。ともかく……ゼロを王子と認めさせることだけは、阻まなければならない。


 お前だって……お前が守り刀を持っていたと嘘を言っているとか、ゼロを真似てわざわざ同じ入れ墨を入れたとか、みんなにそう思われたくはないだろ?そんなことしていないのに、そう思われるのは嫌だろ?)


(だから……俺は嘘は言っていない!)


(だったら、証言しろ!お前が言うのであれば、ゼロを陥れる事にはならない。正しいことをきちんと皆に認識してもらうだけだ!)


(…………………………わかった……でも……ど……どうやって?)


(入れ墨なんか入れていないんだろ?そうして休みの日は1日中、訓練してたんだろ?そう言えよ!


 そうして……ゼロとニイは休みの日は飲んで帰っていたから、サンたちよりも帰りがずいぶん遅かったといえばいいんだ。手を上げて、立ち上がってから発言するんだぞ。)


「は……はい……お俺は……いい入れ墨など……いい入れて……ななない……ぜぜゼロ……い入れ墨……あああったこと……しっ知らない……やや休みの日……いいいつも……くく訓練……。ぜゼロ……にっニイ……だけ……やや休みの日……の飲んで……か帰った……おお遅かった……。」


 イチは仕方なく右手を上げて立ち上がってから、ゆっくりと反論した。


「そうそう……そうですよ……イチが入れ墨を入れる必要性はありません。なにせ焼き鏝を当てられて、入れ墨は消えていたのですからね。ゼロが言うように、イチが自らを傷つけようとダンジョンで焼き鏝を尻に当てたのだとすると……わざわざ入れ墨を入れたばかりの右尻に当てたのはおかしいですよね?


 ゼロと同じ刺青を入れたいと願って入れた入れ墨の上から、焼き鏝を当てるというのは考えにくいです。

 念のための確認ですがサンさん……ゼロ達は休みの日に遊びに出た時は飲んで帰っていましたか?」


 当初立ち上がって熱弁をふるっていたサーティンだったが、その後論者が変わったために座っておとなしくしていたのだが、ここぞとばかりに立ち上がった。


「……休みの日に外出して食事した後……ゼロ兄たちはいつも飲んでから帰るといって……未成年のあたしとヨンとは先に帰りました。でも…………………………そんな遅くには……。」

 サンは蚊の鳴くような声で、立たずに座ったまま俯いて答える。


(おい……ちゃんと間違いを訂正しろ!)


「いいや……ぜぜゼロ達……の飲みに行くと……ああ明け方まで……かか帰って……ここ来なかった……。」

 イチがぽつりとつぶやくように、反論した。


「どうですか?じゃあ……今度は……ヨンさん……休日外出して、ゼロ達が帰るのは明け方ちかくになっていましたか?」


「たたたまには……お遅い日も……あったような……。」

 ヨンはイチにもゼロにもどちらにも味方出来ず、あいまいな回答をした。


「こうなると、またまたどちらとも言えませんね……」

 サーティンがしたり顔でゼロを睨みつけた。


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