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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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新たな証言者

12.新たな証言者


「では……腹も満たされたところで、畿東国へ出立することといたしましょう。本日は午前中まで催し物の予定がありましたが、すべてキャンセルということでお願いいたします。」


「まあ、仕方がない。行方不明となっておった王子のお披露目のための催しであったのだからな。その王子の真偽が怪しくなったが故、中止もやむを得ん。道中、気をつけて帰ってくれ。」

 宣の言葉に畿西卿は、ため息交じりに答えた。


「はい、お気遣いありがとうございます。


 ゼロ達4兄妹は、貴賓馬車に軟禁することにいたします。逃亡を企てれば、自ら悪だくみを明らかにすることになる為、そのようなことはしないでしょうが、念のため厳重に警戒して連れ帰る所存です。


 イチ殿はサーティン殿と一緒に予備の貴賓馬車にて……こちらも申し訳ありませんが、兵をつけて監視させていただきます。ゼロが疑わしいのはもちろんですが、ゼロ達だけを監視するのは確かに手落ちと思われますのでね。」


「仕方がないでしょうな……よし……イチよ……畿東国まで出向くぞ。イチが王子であるかどうかよりも、ゼロの悪行を暴く必要性を、ふつふつと感じてきたのでな。なるほど弁が立つ……。」


「はっはあ……まあ……どうでも……。」

 宣はイチもまた、ゼロと同様に監視付きで畿東国まで連れ帰ると宣言し、サーティンもゼロの悪行を暴くために同行すると言い出した。イチは仕方なく、家族を助けるために畿東国へ出向くことにした。



 3日ほどかけて馬車の隊列は、畿東国王都近郊までやってきていた。途中、宿を取って宿泊したのだが、ゼロは開き直ったのか堂々と王子として振舞い、ニイたちはそれに従っていた。イチはというと、ゼロ達とは別の棟に部屋を取ってもらいサーティンとともに宿泊したのだが、その間一言も口をきかなかった。


 元々無口ではあったが、仲間に裏切られたことが明らかとなり、心を閉ざしてしまったのだろうとサーティンは気づいていた。


「イチよ……いよいよ間もなく王都へ到着する。そこで、ゼロとともに王家の方々とお会いして、どちらが王子であるか審判が下される。だが……イチの場合は、自ら名乗り出たわけでもないし、どちらかというと王子であることを否定している。俺たちが聞いた話から、勝手にイチこそが王子ではないかと信じているだけだ。


 だから、こんなことを言うのもおかしな話だが……俺はイチが王子ではないと判定されることを、心の奥底では望んでいる。大きな勘違いだったと分かり、笑いながら王都から戻ることになればいいと思っている。


 イチは家族として育てられたゼロ達に裏切られて、一人ぼっちになってしまったと思っているのだろ?だがそれは違うぞ。俺たちがいる……イチがどう思ってくれているか分からないが、イチはもう俺たちの仲間であり、家族同然だ。


 特に菖蒲や桜子や梅吉に松五郎に萩雄……一緒にチームを組んだ子供たちが、イチと別れたくはないと願っている。だからイチよ……仮に王子でないとなったら、なんとしてもサーティンヒルズへ戻ってきてほしい。これは決してイチが王子である可能性が高いから、引き立てられたいがために言っていることではない。」


 サーティンは2人だけの馬車の中で、イチに別れの挨拶をしておいた。万が一、イチが王子でないとなってしまうと、イチにはもう、戻るところがなくなってしまうからだ。サーティンは何としてでもイチと一緒に帰りたかったし、それはイチが凄腕の冒険者という理由からではなかった。


(有難いねえ……サーティンは本当にいいやつだな。イチが王子になりたがっていないと分かってはいるが、まあ多分……王子だろう。だが、この有難いお言葉には応えておくべきだと思うぞ。)


「あああ……ありが……とう……。もし、戻ることに……なったなら……サーティンヒルズ……必ず……。」


 イチにもサーティンのやさしさが、痛いほどよくわかった。元々人づきあいが悪く、また冒険者という職業に嫌気がさしていたイチに対し、子供たちを使って心を開かせ、さらに子供たちの育成という役割を与えてイチの隠された指導者としての能力を引き出し、さらに凄腕の冒険者として誰もが認める存在と知らしめたのだ。


 イチという人間の能力を惜しんで、導いてくれた恩を決して忘れないとイチは誓った。



「2人の王子候補か……面倒なことになったものよの……。」


 王宮前の大きなお屋敷に一泊して、よく朝一番から王宮へ登城した。外堀も内堀も……本丸でさえも、畿西国の宮殿とうり二つの造りをしているのには驚いた。畿東王が、畿西卿に家督を譲ってもらったことに感謝して、畿西国と同等の立場であると示しているのだとサーティンがイチに説明してくれた。


 本丸大広間の謁見場にて開口一番……畿東王はため息をついた。ゼロとサーティンが……サーティンはイチになり替わって、互いが王子であるということを主張し合ったのである。口ひげを蓄え、金糸がふんだんに織り込まれた豪華な着物に身を包んだ恰幅のいい初老の王は、見るからに優しい風貌をしている。


 玉座の前には大きなテーブルが置かれ、その手前側にゼロ達4兄妹とイチとサーティンが、それぞれ玉座に対面して座らされていた。2組の左右と後方を囲むようにして、武装した兵が立ったまま警戒している。


 さらに前日の検分にてゼロとイチの右臀部を写真に撮り、拡大して上座奥のスクリーンに映し出されると、2つの入れ墨は全く同じ模様で同じ色どりであった。


「その……入れ墨を入れた彫師の証言は……信憑性に欠けるのか?」


「1昨日もう一度出頭させ、今度はイチ殿の写真を見せてみましたが、明らかに別人と証言しております。これにより、入れ墨を入れたのはゼロ殿であると……」


 上座とテーブルの間に座るものの中で、煌びやかな装飾が入った甲冑に身を包んだ兵が、頭を下げたまま答える。恐らく入れ墨屋を捜索させた軍の司令なのだろう。


「お待ちくだされ王さま!かような闇の仕事を請け負うようなもののところに、素顔を晒して出向きますかね?私なら、頭巾か何かで顔を隠して参りますがねえ……顔も見ていないのに、写真で区別がつきますか?」

 すぐにゼロが反論する。


(おお、さすが……実際に行っただけあって、詳しいな……)


「どうなのだ?」


「はっ、その辺に関しましても調査済みです。確かに頭巾をかぶって入店された模様でした。客の大半は頭巾やマスクで顔を隠しているので、違和感はなかったそうです。


 それでも臀部への入れ墨ということでベッドへうつぶせで長時間かかる為、息が苦しくなるので施術中は頭巾を外して行ったということでした。その為、相手の顔ははっきりと覚えていると証言しておりました。


 さらにゼロ殿とイチ殿は……体格的にも大きな違いがあり、施術をしたのは大男だったと申しておりました。これにより、ゼロ殿で間違いはないものかと……」


(ほらほら……ちゃんと仕事をしているじゃないか……命を助けるといえば、誰だって写真の奴で間違いないと証言するってゼロに指摘されたことに、腹を立てていたんだろうな。


 だがこんなこと、当人は承知しているはずだがな……)


「おおそうか……なんとする?ゼロよ……」

「お恐れながら王様……王宮の立番をしている門番を……誰でもいいので一人、ここへ呼んでいただけませんでしょうか?」


「うん?どうするのだ?」

「呼んでいただければわかります。」


「ふむ……何をするのやら……まあいい……呼んでやれ!」


「はっ!おいっ、大至急門番のうち一人を連れてまいれ!」

 入れ墨屋の証言を伝えた上級兵が、謁見室扉で立番をしている兵に命じ、すぐさま兵が部屋を出て行った。


(ふうむ……一体何が始まるというのか……)



「わわわ……私が……王宮の……外堀第1門の立番をしっしている満灯です。ごっご用件は……?」


 大柄な体に似合わず低姿勢の甲冑姿の門番が、落ち着かない様子で額からの汗をぬぐいながら周囲を伺う。無理もない、一般兵の門番が国王の謁見室へ呼び出されることなど、恐らく初めての経験であろう。


 自分がどのような不始末をしでかしたのか、頭の中では昨日の勤務状況を必死で確認しているところなのかもしれない。


「おお、勤務中なのに悪いな……ちょっと聞きたいことがあるだけだから、あまり緊張せずに楽にしてくれ。」

 呼び出した上級兵が、体がこわばって動きが怪しい門番をなだめようと声をかけてやる。


「さてゼロよ……門番を呼び出したぞ……いかがする?」

 畿東王は少し首を傾けながら、ゼロへ目線を移した。確かに……この場にいる誰もが、彫師の証言と王宮の門番との関連性を想像できないでいた。


「2,3質問をさせてください……。」

「いいぞ……」


「満灯と申したな?王宮の門番を申し使って何年になる?」


「はっ……ゼロ王子様……わっ私は……王宮へ召し抱えられましてから10年間、ずっと門番をさせていただいております。な……なにか……失礼なこと……しっしでかしたでしょうか?

 け決して……本意ではございません……なにとぞご容赦を……」


 門番は自分が罰せられると勘違いしたのか、質問への答えもそこそこに、すぐさまその場で畳に両手両ひざをついて土下座し始めた。


「待て待て……別にお主が何かしでかして、それを罰するがためにここへ呼び出したわけではない。そうですな……ゼロ殿?少し質問をしたいだけとおっしゃっているではないか、立ち上がって包み隠さず答えよ!」

 すぐに上級兵が駆け寄り門番の体を起こし、ゼロへちらりと向いた後、門番をゼロへ正対させた。


「10年間も勤務していたとなると、門番としてはベテランですな?


 では王さま……この者は私が指名したわけではなく、何人かいる門番の中で無作為に呼び出されてこの場へ来た……ということで間違いありませんね?」


「おお……そうだったのう……お主はただ単に門番を呼び出せと要求し、ここにおる警備主任が使いを出して、この者がやってきたわけだからな。だが、それが如何した?」

 依然として不可思議なゼロの態度に、またしても首をひねる。


「では……質問を続けさせていただきます。


 王宮の門番は昼勤務と夜勤務の2交代制ではあるが、勤務時間の交替はなく、昼勤務者はずっと昼間の門番をしていると聞いたが、間違いはないか?」


「はっ……はい……そうですけど……私は10年間、平日の朝8時から夜8時まで勤務しております。」


「おおそうか。では1年ほど前に遡るが、私が王宮へ王子ではないかと名乗り出た時のことを覚えておるか?」


「はい……そりゃあもう……私も日勤でしたから……以前は王子様ではないかと名乗り出る者がしばしばいたと聞いておりましたが、私が勤務してからの10年間……王子様と名乗り出た者はほとんどおらず……10年前に深夜に登城した者が確か1名……私がそういった場に立ち会わせていただいたのは初めてであり、よく覚えております。」


 きっちりと直立不動の姿勢をとっていた門番は、少し気持ちに余裕が出来たのか、笑みを浮かべた。


「ではその時、私の兄妹とともに登城したのだが……誰と一緒だったか覚えておるか?別に名前が分からなくても構わない。私の兄妹たちは今この場で私の両隣に座っているから、その者を指し示してくれ。」

 ゼロは自分の両隣に座っている、ニイたちを順に指しながら門番を見た。


「ああそれなら……受付記録を見れば一目瞭然ですよ。1年前だとすでに資料室に保管してあるはずですけど、入城者名が身分証明書No.とともにはっきりと記録されていますからね。」


「いや……記録を見ないで答えられないか?1年前とは言え、滅多に起こらない王子様と名乗り出るものが現れた時のことだから、覚えているといっていたではないか?」


「はあ……その……確か……大柄な男性と……そうだ……小さな女の子……でしたよ。お妹様……ですよね?孤児院で兄妹同然に育てられたと伺っております。」

 ゼロが王子であることが疑われているということを露ほども知らない門番は、笑顔でサンを指さし答えた。


「ふうむ……その記憶に自信はあるのか?」

 するとそれまで厳しい顔をしていたゼロの頬が、突然緩んだ。


「ああっ……そ……その……たた……多分……女性ではなかったかと……」


「うん?妹のサン殿と一緒に申し立てに参ったのではなかったとでも言いたいのでしょうか?おい……当時の入城者記録をすぐに探して来てくれぬか!」


「はっ……直ちに……」

 すぐに警備主任が障子戸の脇に立番している兵士に命じ、兵はすぐに駆けて行った。


(どうやら彫師の証言を覆すつもりで、1年前の時の様子を証言させようとしているのだろうな。ニイやヨンが同行したのであれば、性別すら覚えていないとするつもりだったか?いや……女性ではあったが実は兄妹ではなく別の、知人女性とともに登城したのか?


 仮にそうであれば、顔まではそうそう覚えていられないと証明できる。わざわざ兄妹なんて嘘をついてまで……多少インチキ臭いが……それでも言い逃れようとするかもしれないな。)


(ゼロ……畿東王都に異性の知り合い……いなかった……。蝦夷国から……来て……半年……知り合い……いない……はず……休みの日も……家族と……一緒……。)


(ああそうか……でも王子と名乗り出て違ったら恥ずかしいから、家族には知らせずに……弁護士か誰か弁の立つ人を雇って出向いた可能性だってあるからな。)


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