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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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説得

11.説得


「いかがでしょう……サーティン殿?あなたが……行方知れずとなっていた、畿東国王子ではないかと疑いがある人物の発見者……となってはいただけませんか?現にご本人は気がついていなかったご様子で、さらにあなたの主張は……そのものズバリ……でしたしね。


 真に王子と認定されれば発見者には報奨金も出ますし、悪意に満ちた虚偽の企てがなければ、仮に王子ではないと認定されることになったとしても罰則はありません。恐らくこのままゼロ達を王都へ連行しても、虚偽の申請であったということは立証可能でしょう。


 ですが……そこに至った経緯を畿東国王にお知らせした場合、彼をここに置いたまま帰国したことをお怒りになられる筈です。いかがでしょうか?」

 しばし考え込んだ宣は、サーティンへと視線を変えた。


「はい……それはもう……イチは類稀なる才能を持った、素晴らしい冒険者であるとともに名指導者です。

 彼を手放すのは非常に惜しいのですが、彼が御嫡男不在の畿東国のひいては連邦全体の、やがては長となるお方であるならば、こんなうれしいことはございません。


 自信を持って彼が、王子であろうと申請させていただきます。」

 サーティンは、宣の申し出を快く引き受けた。


「い……いや……」


(黙っていろ!話がややこしくなる。お前が自分の身の上を認めたくはない気持ちはわかる。ゼロやニイやサンやヨンたちの、家族でありたいからな……。だが最早、後戻りはできそうもない。ゼロを否定するからには、お前が王子であるとするしかないわけだ……どちらかが王子でなければいけないのだからな。


 皆がお前に対して好意的なのは、ゼロと違ってお前が王子と主張するどころか、どちらかというと王子ではないといいたげな風であるからだ。だがこれ以上……その態度を押し通すのは、嫌みでしかない。)


(で……でも……)


(いいから!黙っていろ!何か一言でもしゃべろうとしたら俺がわーわー喚いて、何も考えられなくしてやるぞ!黙って話を聞いておけ!お前なりの考えがあるのは分かるが、とりあえずゼロの悪行を暴くのが先だ!

 俺がおいおい分かりやすく説明してやるから、とりあえず今は黙っていろ!)


(わ……分かった……)


「おおそうだのう……申請書には……わしも推奨者として名を連ねてやってよいぞ……そうしておけば、仮に間違いであっても、不当な扱いを受ける心配はないであろうからな……。」

 畿西卿も、イチを王子として推奨すると言い出した。


(ほら見ろ……皆お前に好意的だ……。)


「お気遣い、ありがとうございます。」


「何を申すサーティン……お主のおかげで、不逞な輩の悪事が暴けたのだ。お主がおらなかったなら……畿東国が……いや……連邦が……どうなっておったか……鬼畜のような所業を平然と行う、血も涙もない輩のようだからな……さぞかし荒んだ世が待ち受けておったであろう。


 たとえ仮に真の王子であったとしても、わしは現王の弟という地位を使ってでも跡目を継ぐのを阻止しておったところだ。そこまでしなくて済んで……ほっとしておる。


 さらに……真の王子まで見つけてもらい……本当に感謝の言葉が見つからない……。」

 畿西卿は深く腰を折って、頭を下げた。


「そんな……もったいない……お顔をお上げくだされ。」


 サーティンはその姿にすっかり恐縮してしまった様子だ。すぐに畿西卿のもとに駆け寄り、自分もしゃがみ込んで畿西卿の顔を見上げた。


「おにぎりをお持ちいたしました。それと……畿東国からのご連絡が……。」


 ちょうどその時、障子戸の向こう側から声がかかった。中での会話が一段落して静かになる頃合いを、伺っていたのであろう。


「おお……すっかり忘れていた……朝食前であったな?皆腹も減っているであろう。まあまずは……一服だ。」

 そういいながら、畿西卿は自ら障子戸を開けた。そこには跪いた女中が、おにぎりが山盛りに積み上げられた大皿を乗せたお盆を掲げて待機していた。


「おお……これは……ちょうどよろしいですな……では……。済まぬが茶を入れてやってくれ。」

 すぐにサーティンが気づき、そのお盆を受け取り、皆の周りを順に回って行った。


「これを……」


 畿西卿は小皿におにぎりを2つと、女中が持参したA4の用紙を受け取り、イチはおにぎりを右手に一つ、サンは一つでヨンも一つ。宣は2つもらい、ゼロとニイは断った。食べ物が喉を通る状態ではなかったであろう。残った大皿からサーティンは欲張って3つのおにぎりをとり、女中にお盆ごと戻した。


 ついで別の女中が、急須から茶を注いだ湯飲みを盆にもって回った。


「ふうー……」


(ようやく一心地ついたな……だが、これからが大変だな……。)

(お……俺は……王子などでは……ない……い……一緒にも……行かない……)

(お前なあ……)


(俺は……王子などではない……王子にはなれない……)

(はあ……あきれたね。)


(分かるだろ?本当は、みんなイチが王子かどうかすらどうでもいいはずで……ゼロを止めたいんだ。


 鬼畜のような行為を延々と行っていて、周囲に感づかれて立ち行かなくなったら、今度は王子でしたと自ら名乗り出る。普通だったら人として最低の悪事に手を染めていたのなら、それが本当にやむを得ず行っていたんだとしても、公の場に出ることを嫌うはずだろ?


 俺だったら仮に本当の王子であったと分かったとしても、名乗り出るのは躊躇うね。国を治めるような資格はないと考えて、町の片隅でひっそりと暮らすさ。


 そんな人でなしでも王子として認められたのなら王子として敬われるし、次期王だ。嫡男が王位を継ぐと連邦の憲法で決まっているからな。これは誰にも覆せない……現王ですら簡単にはできないはずだ。


 だから……万全を期して、お前を王子として推薦して、ゼロの主張を覆していこうと考えているわけだ。

 お前が王子として認められたいと思っていないかどうかは……悪いが別の話だ。)


(だ……だけど……)


「やはりな……皆食べながら聞いてくれ。王宮から連絡が入り、王都の外れにある非合法の入れ墨職人のところで、1年以上前に見たことのない紋章の絵を見せられ、その通りに右臀部に入れてくれと願った客がいたようだ。顔写真を見せて、その者がゼロであると職人も確認した。


 法律で禁じられている、借金のかたに取った奴隷に施す屈辱的な入れ墨をする専門の職人でな、近年その存在が明らかになり、監視をしておったところのようだな。本来なら断罪に処するところを、命だけは助けてやると言ったら、重い口を開いたようだ。」


 畿西卿は、勝ち誇ったように手にした用紙の内容を、声高に告げた。


(ほら見ろ……)

『やはり……』 

 その場にいた半数以上が、納得して頷いた。


「ふん……大方命乞いをする職人に無理やり写真を見せて、この者であったのかと尋ねたのであろう?

 それが俺の写真ではなく、イチの写真であっても同じ結果だったのではないのか?大体……そんな何ヶ月も前の客を……はっきりと覚えているものか?毎日何人もの客が来るのであろう?全員の……。


 そもそもイチが……王子であると主張しないということが信頼に値すると申しておったが、そんなことしなくても、長年探し求めていた王子の可能性があると知ったなら、周りのものが放っておかないであろう?


 現に王子ではないとの烙印を押された俺とともに、王子と主張してはいないイチを一緒に連れていくことになったではないか。こいつは昔からずるがしこいから……うまく話せないふりをして、対外的なやり取りの面倒一切を俺に押し付けてきた。


 孤児院で幼い弟や妹たちの勉強の面倒を見るのも俺だったし、神父様の手伝いも……信者がいぶかしがるからとイチは免除され、俺一人で信者たちの御用聞きをさせられていた。


 辛い修業の最中だって、俺が兄弟子たちの言いつけにうまく対応できないこいつを、いつもかばってやっていたんだ。買い出しから戻ったら、ビチャビチャになった床にイチと一緒に座らされ、炭と化した飯粒を口の中に無理やり押し込まれた。どちらもイチがやったことだと言われてな……。


 叱りつけてもうつむいて震えているだけで、分かっているんだかどうかも分からないイチに言い聞かせるのは無理だとあきらめて、俺を呼んで兄なんだから、至らない弟の面倒をしっかり見ろと怒鳴られた。


 仕方なく俺が手取り足取り事細かく掃除のやり方から飯の炊き方を教えてやり……こいつはやりだせばそのことに集中するから、掃除だって床も壁もピカピカにしたし、飯炊きの火加減も最高だった。


 そうして褒められるときは……こいつだけの手柄となった……何もできなかったこいつに、理解できるまで繰り返し教えたのは俺なのにな……。昔からこいつは……人を操るのがうまいというか……人に何かしてもらうのがうまい。今だってそうだろ?こいつが……本当に信頼に値するのか?」


(おお凄いなこいつは……イチの本質を見抜いている……お前は単に教えられたことをきちんと守って、その結果を見ながら最良と思われる手順を必死に模索していく……面倒とか手間がかかるとかそういったことは考えずに、ただひたすら一つのことを完遂しようとする。


 人に褒められたいといった欲求でもなく、あくまでも教えられたからそうしているだけなんだが、その態度があざといとか小賢しいともとれるということか……確かにな……)


「確かに……おっ俺……ぜぜゼロ達きょ兄弟……ずずずいぶん……たた助けられてきた……。きょ兄弟たち……いいなければ……いい生きてこれなかった……。そそそんな俺……おお王子なんか……ぜぜ絶対……なななれない。


 だから……おおお……俺……いいいかない……。」

 そうして今度はイチが、畿東国にはいかないと皆に対して主張し始めた。


(はあー……だ・か・ら……)


「そうはいかないのですよ……サーティン殿が先ほどおっしゃられたように、もう後戻りできないのです。

 ゼロが王子ではないと否定するからには、新たな王子候補が必要となります。恐らくどちらでもない、ということにはならないでしょう。ゼロが王子でないのであれば、イチ殿が王子でなければ辻褄が合わなくなる。


 だから……一緒に参りましょう。そうしなければ……サーティン殿の立場が危うくなるのです。さらに、畿西卿まで巻き込むことになってしまいます。サーティン殿を救うためにも、同行をお願い致します。」

 宣は、あくまでもイチを王子候補として連れて行くと主張した。


「い……いや……だ……」


(わかった……じゃあ、こう考えよう。


 お前は王子などではないと主張して、畿東国へは行かない。だが……じゃあお前はどうする?ここを出ていくといって桜子たちとも別れを告げ、そりゃあまだお別れ会はやっていないが……今日だよな?


 どこへ行く?お前が旅立つ目的だった、お前の家族にはもうすでに再会も果たしているよな?所在も明らかだよな?今更どこへ行く?


 じゃあちょっと恥ずかしいが目的は果たせたからと言って、ここへ残ることにするか?

 桜子たちは大喜びだろう……それには俺も賛成だ。)


(俺……子供たちと一緒……冒険者……続けられない。罪深いことした……ゼロと同じチームだったから、その罪……一緒に償う。)


(そうだろ?そのつもりだとしたなら……ゼロ達だけ畿東国へ帰すのはまずいぞ。お前が一緒に行かなくても、恐らく畿東国はもうゼロを王子とは認めたくないだろう。しかし1年もかけて入念に調査して、その上でゼロは王子と認められたんだ、覆すのは容易ではない。


 王子の可能性があるもう一人のイチが王子ではないと主張していれば、残るのはゼロということになってしまいかねない訳だ……。)


(お……俺より……ぜ……ゼロのほう……王子として……適任……お俺……人とうまく……話せない……)


(そうだな……ゼロは弁が立つし、頭の回転もすさまじくいいさ。その才能をいいことに使っていてくれたのなら……と悔やまれるほどだ。おかげで、ゼロが王子ではないと証明することが難しくなっている。


 それでもゼロを次期王にするわけにはいかないと考えたとしたなら……無理やり自白させることも考えられるわけだ。)


(無理やり?)


(そうだ……拷問というおぞましき方法でな……こっちの世界でだって、過去には行われていたんだろ?針の筵に座らせられたりして……そうしてゼロが観念して全てを認めてしまったらどうなる?恐らくそこで認めたら、もう悪意があったと認識されるから極刑は免れない……恐らく死刑だろう、兄妹全員な。)


(ば……馬鹿な……)


(そんなの当り前だろう?……正統な後継者をなきものにしようと画策して……そうして身分を偽って王子と名乗り出たんだぞ!その代償は……極刑も極刑……死刑に決まっている。一緒にいる家族も同罪だ。)


(お……俺は……王子ではない……)


(お前がどう取り繕おうと、状況証拠からお前は王子である可能性が極めて高い。そうなるとお前の家族は全員死刑だ。いいのかそれで?)

(ダメに決まっている!)


(だったら一緒に行って……お前が王子であると認めさせろ!まあその辺は恐らくサーティンがやってくれるだろうがね。その上で……お世継ぎの権限とやらで、ゼロ達の減刑をするしかないな。)


(そ……そんな……)

(お前が家族のために出来ることは、一つしかないぞ……)

(………………………………)

 最早、イチに拒否権はないようだ。


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