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リモート  作者: 飛鳥 友
第2章 折角できた仲間と離れて、イチはどうなって行くのだろうか……
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対決

9.対決


(ニイはお前よりも一回り位は体が大きいが、お前の目を通してみると隙だらけなのが丸わかりだ。剣を抜いたとしても、お前でも組み伏せられそうだな?サーティンを守るぞ)

(わ……わかった……仕方がない……)


「お待ちくだされゼロ王子……いや……ゼロ……でよろしいかね?もしかすると、わしの甥ではないかと喜んでいたのだが……残念至極……偽物とはね……。」


「なっ……畿西卿……いえ、叔父上……かようなこと……この無礼者が申す戯言を、叔父上は信じるというのでしょうか?」


(そうだ……畿西卿もサーティンに説明されて、ゼロ達を疑ってここまでやって来たんだったな。強い味方がいたことを忘れていた。ここまでのゼロの態度を見て、ゼロが怪しいと感じていただけだったのが、完全に黒と認識したようだ。さすがに王の親族相手に捕り物も出来まい……これなら護衛兵恐れるに足らずだ。)


「私を偽物と申すのであれば、その証拠を示せ!かような罵詈雑言!最早おふざけなどと申しても、通じぬぞ!叔父上まで巻き込んで……最早酌量の余地はないと思え!即刻証拠を見せて見よ?有ろう筈がない……我が王子なのだ!」


(仕方なく、矛先をサーティンへ向けたな?畿西卿に対しては、逆に自分が正当であることを示さなければならなくなってしまうからな……サーティンが示す王子ではないと疑われる根拠を全て否定するつもりなんだろう。それくらい自分が示した王子であるとする証拠に、自信を持っているといいうことだ。)


(じゃあ、どうなる?)


(まあ、とりあえずはお前が持っていたはずの守り刀の確認を、するんじゃあないか?お前もそうだが、サンやヨンだって現物を見ればわかるはずだろ?)


(それは……家にいる時は皆の前で、ほぼ毎日見ていたからな……)


(だったら、まず守り刀の確認だな……お前の右尻の痣に関しては、出来れば畿東国の関係者が多い場所で改めたほうがいいと思う。守り刀と違って、この場で披露するわけにはいかない事柄だからな。

 どのような紋章なのかは極秘中の極秘だろうから、お披露目するのは避けたほうがいい。)


(で……でもゼロが王子様ではないということに、どうして俺の持っていた守り刀が関係する?それに……俺の右尻の痣?……何のことを言っている?今はゼロのことを、疑っているのではないのか?俺はゼロが王子であると、名乗り出たことも知らなかったんだぞ!)


(お前……この期に及んで……というか……天地がひっくり返るくらいとんでもないことだから、お前の頭じゃあすぐに理解できないのも無理はないか……取り敢えず事の成り行きを見ていろ。


 サーティンがお前に振り向いて尻を見せろと言ったなら、俺の守り刀はどこへ行った?見てみたい……とか大声で騒ぎ立てろ、いいな?)


(わ……分かった……)


「王子として認められた証拠……守り刀……でしょうか?それは元々イチが、捨てられていた時に持たされていたものではないのでしょうかね?イチは……小汚いナイフと言っていましたが……それを奪い取って、さらにイチをなきものにしようとした……そのため、ダンジョン内に置き去りにしたのですよね?」


 サーティンは上座の上で立ち上がっているゼロの目を、しっかりと見つめながら、はっきりと答えた。


(おお……予想通りだ……さすがサーティン……)


「ばっ……守り刀が……イチのものだという証拠はどこにある?銘でも彫ってあったのか?」


(そんなものないことは……ゼロだって知っているはずなのにな……イチのものだと一言で言えないことが分かっていて、追及してきやがる。だが……現物を見れば、家族だったら一目瞭然だ。


 ここに来てからの態度から見て……ニイはゼロの共犯のようだが、サンとヨンは生贄のこともイチを傷つけてダンジョンに置き去りにしたことも知らなかっただろう。)


「まさか……ゼロやイチ……という名前も……孤児院を運営している教会の神父様がお付けになったと聞きました。イチなどという名が彫ってあるはずはありませんね。いや……王子様が捨てられた状況から……畿東国王子であるという証拠になるものは、一切身に着けることが出来なかったでしょう。


 戦況は家持王側が圧倒的に劣勢であったわけですからね!ですから無銘の守り刀だけ持たされて、ぼろに身を包んで捨てられていたわけです。」


「ほう……そうであれば、その守り刀がイチのものであるという証拠はないわけだ。いかがする?」

 ゼロはサーティンの言葉に、不敵な笑みを見せた。


「まっ……守り刀って……あれは……イチ兄の……?」

「ばっ……黙っておれ、ヨン!話がややこしくなるから、口をはさむな!」

 心当たりがあるのか、ゼロを振り返ろうとしたヨンを、ゼロはすぐさま叱咤した。


(おまえの荷物からなくなっていた守り刀は、恐らくゼロが持ち去ったものだ。それが王子の証だと知ってな……。やはりサンやヨンは、ゼロに加担してはいないのだろう。今は押さえられていても、現物を見たら黙ってはいられないと俺は思っているし、恐らくサーティンもそうだ。)


(王子の証?俺が持っていた守り刀が?)


(ああそうだ……そうでなければ、イチを犠牲にして突然ゼロが王子と名乗り出た理由が説明できない。後は……サンとヨンの良心に期待することになってしまうだろうが、今の態度を見ても恐らく大丈夫だろう。)


「守り刀に関しては……今ここにお持ちでしょうかね?一緒に生活してらしたお仲間の皆さんでご覧になれば……どなたの持ち物であったのか、はっきりとするのではないでしょうか?」

 サーティンが勝ち誇ったように、含み笑いを浮かべる。


「守り刀は……柄も鞘もボロボロでな……今本国で修繕中だ。王子かどうかの審議中は、一切手を加えることが許されなかったものでね……遅くなってしまったが王子が持つ守り刀として見栄えがするように、改めて銘を入れ装飾も施すつもりでね……もうできているころだから、状態が変わってしまっている。


 ここでお披露目できなかったことは、実に残念だ……。


 イチが守り刀を持ったまま捨てられていたのは……俺たち家族全員が知っていた……イチはしょっちゅう守り刀を荷物から出して、拝んでいたからな。


 だが俺だって、守り刀と一緒に捨てられていたんだ……皆には特別話はしなかったがね。俺にとっては捨てられた憎い親の持ち物でしかなく、2度と見たくはないと思い、バッグの底に入れておいただけだからな。


 だが畿東国に入り事情を聞くうちに、王子を手放さなければいけなかった状況も知り、バッグの底から守り刀を取り出して、申し出てみたというわけだ。間違いなくあの刀は俺が持たされていたものだ。」

 ところがゼロは、自分も守り刀を持っていたといい始めた。


(ありゃりゃ、すでに証拠隠滅済みか……だが待てよ、刀身にイチの指紋がついていれば……いや、鞘や柄を作り替える時に刀工たちが触りまくっているか……そもそも指紋認証なんて、この世界には技術そのものがないか……。俺だってテレビの刑事もののドラマで見たぐらいで、やり方なんて知らないし……。


 自分も守り刀を持っていたけど隠していたなんて……今考えたとしたなら、大した役者だ……参ったね。仕方がない、右尻の痣を証拠とするしかないな……)


「ふうむ……参りましたね……頼みの刀も……柄や鞘を変えてしまったら、今更確認しても分かりませんね。刀身には銘など一切ないはずですしね……。」


「そうだ……俺が偽物だと、どう証明する?意外と面白い催し物ではあった……懐かしい家族にも出会えた。今ここで、ことを収めるのであれば、無礼打ちなどの極刑は許してやらんこともないぞ?」

 今度はゼロが不敵な笑みを浮かべ、それでも目だけは笑っていなかった。


(ふん……ここで取りやめても、一旦はイチやサーティンはただ捕らえられるだけだろうが、いずれ畿東国へ移送されて、首をはねられることが見え見えだ……。)


「あの……お取込み中、失礼とは存じますが……。」

 すると障子戸の向こうから、蚊の鳴くような小さな声が聞こえてきた。


「うん?どうなさった?」


「はいその……お食事はいかがいたしましょうか?先ほどから、廊下で待たされたままでして……汁物が冷めてしまいます。お連れ様たちの分も、すでにご用意できておりますが……?」

 畿西卿の声に反応して、女中であろうものが声だけで朝食をどうするか確認してきた。


「おおそうであった……朝食の支度をさせておったのだよな?ところが今……取り込み中でな……申し訳ないが……持ち帰って握り飯にして改めて持ってきていただけぬか?」


「かしこまりました。」

 障子戸の向こうから、膳を持った長い列が引き返していく影が確認できた。


(朝飯なんかどうだっていい……こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだ、サーティン……頼むぞ!)


「さてさて……邪魔が入りましたな……ここで引き下がれば、多少の目こぼしは……とおっしゃったところからでしたな?そうおっしゃられましても……すでに引き返せないところまで、足を踏み入れているということは、重々承知しております。もはや突き進む以外に道はござらんでしょう?」


「ほお……では如何する?」


 ゼロは自信満々の様子で胡坐をかいて、座布団の上に悠々と座った。それはそうであろう、王子の持ち物であるはずの守り刀がイチのものであったとする証拠など、すでに消滅しているのだ。


(くうー……むかつく……サーティン……頑張れ!)


「王子様として認められたもう一つの証……が、ございましたよね?確か右の臀部に、幼い時には痣としか見えなかったのが、成長するにつれてとある形に変化していくという……王子の証として彫られた入れ墨とか……どうやら……その入れ墨を消すために、イチの右尻に焼き鏝を当てたのでしょうね?」


「なっ……何を申すか!何を証拠に?」

 突然の言葉に、ゼロは目をむいて前のめりに体を起こした。


「証拠……ですか……家族同然として育てられたあなたたちは、イチの右尻にある痣のことは……ご承知でしたよね?風呂に一緒に入って……弟であるニイさんもヨンさんも知っておられましたよね?」


「はっ……」

「サンもヨンも……このような戯言に付き合うな!何も答えるな!」

 答えようとしたヨンをゼロが押しとどめ、自分は胡坐をかいたまま腕組みしてそっぽを向いた。


(うーん……ヨンはゼロと共謀はしていないが、やはり長兄に簡単には逆らえないようだな……)


「困りましたね……大事な証人ですからね……では……ゼロさんの右尻に……同じように痣はありましたか?痣と言っても本当は入れ墨ですからね、大きくなって突然現れるものではないですよ。」

 すると今度は質問を変えた。


(おいっ、なかっただろ?ヨンたちは当てにならない、お前が答えろ!)


「ぜゼロの……しし尻に……ああ痣はない……いいいつも俺の……ああ痣を取ろうと……なな何度も何度も……むむ無理やり手拭いで……こここすられた……。」

 イチがぽつりとつぶやく。


「ほら……そうでしょ?元はなかったはずなのに……王子として名乗り出た時には右尻には痣……というか刺青が入っていた。どういうことでしょうかね?」


「ふん……知らぬわ……俺が王子ではないという証拠を見せろ!」

 ゼロは胡坐をかいてそっぽを向いたまま、素知らぬ顔で主張した。


(証拠は隠滅済みだからか……だが、この強気な態度がいつまで続くかな?)


「そうでしょうね……守り刀同様……証拠は隠滅済みですものね?赤熱どころか……ふいごを使って白く発光した炎にくべた鉄ごてを使ってイチの右尻を焼いた……熱は皮膚どころか筋肉までをも焼け焦がしていたようですよ。あの状態で動けたのは……生きる執念というか、イチ特有の我慢強さ故……ですかね?


 おかげで右尻の刺青は焼けてなくなってしまった……そう思ってはいませんか?」

 サーティンは不敵にほほ笑むと、イチに振り返った。


(ようやく分かったか?畿西卿にお前の右尻の痣……ではなく、再生した入れ墨を見せていたんだ。そうして畿西卿が認めたということは、それが王子の証となる入れ墨である可能性が高い。)


「ふん……何のことか……全く見当もつかんわ。」

 ゼロは依然として、平然を装った。下手に応対をするとボロが出そうと思っているのか、ろくに会話をしようとしなくなった。


「治したのですよ……イチの火傷をね。すごく時間はかかりましたよ……神官と巫女が交代交替で夜通しで、しかも他流派秘伝の呪文まで使ってですね……1日半ほどもかかりました……。」

 そうして最後通告ともいえる言葉を、サーティンが発した。


「なっ……ばっ……馬鹿な……。」

 ゼロが驚いて、跳ねるようにして立ち上がろうとする。


「まあまあ王子……落ち着いて、お座りなさい。」

 ところが左横の護衛兵に、すぐさま両肩を押さえつけられ座らされてしまった。


(おうおう……動揺しているぞ、無理もない……しかもゼロに従わない護衛兵がいるからな……サーティンを自ら無礼打ちにすることも難しくなった。形勢は完全に逆転だ。)


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