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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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初めてのダンジョンへ

22.初めてのダンジョンへ


(じゃあ今度は前衛の剣士を入れ替えて行おう。偏らないように訓練が必要だからな。それと萩雄の仕事も作っておけ。実際にけが人が出た時に、慌てなくて済むようにね。)


「よっようし……ひっ一通り……おお終わり……うっ梅吉……まま松五郎……こっ交代……ぜぜ前衛……はっ萩雄……ひひ暇だから……だだだだれか……けっけが人……やや役……。」

 イチは萩雄をちらりと眺めた後、皆を見回した。形だけでも誰かけが人役をする必要性がありそうだ。


「大丈夫ですよ、いつでも障壁を張れるよう、口の中で呪文をつぶやいておきますから。」

 一人だけ役割を演じられなかった萩雄は、それでも笑顔で答えた。


(そうだ……今の模擬訓練の評価をしておかないとな……悪い……肝心なこと忘れていた。悪い点を抽出して、次の訓練で修正するんだ。)


「じじゃあ……ひょ評価……あっ菖蒲……ぼぼボール……ささ3個……なな投げた……な?ちちょっと……待っていろ……」

 イチは先ほど張りぼてを置いた辺りに駆けて行った。


「ううーん……ち着弾……わっ悪い……もも少し……せせ正確に……ねね狙え……。」


「はーい分かりました。でもキャッチボールみたいに直接投げるならいいけど、手を伸ばしたまま肘を曲げないようにして後ろから弧を描くようにって……この投げ方は、すごく狙いにくいのよね。距離感が……」


(確かにやりにくそうにしていたよな……もっと普通に投げさせられないのか?)


「ししし仕方ない……そっその……なな投げかた……いいい一番……まっ魔法……ここ効果……ねっ狙い……ちち近い……おお教わった……。」


(ありゃりゃそうか……魔法効果の狙いの付け方を模擬しているというわけね……だったら仕方がない。)


「はあ……分かりました……頑張って狙ってみます。」

 菖蒲は、ため息交じりで答えた。


「さっ桜子……にっ2本……いい射かけ……2本……とととも……めめ命中……ゆっ優秀……。でっでも……こっこれくらい……きょ距離……あああれば……さっ3本……うう撃ちたい……。」


「ええっそんな……イチ先生みたいに連射できないもの……わっ分かりました。頑張ります。」

 桜子は矢が当たったのでいいだろうと言わんばかりに頬を膨らませたが、イチにじっと見つめられ、顔を真っ赤に染めて頷いた。


(距離20mしかないんだぞ。その間勢いつけてやってくる台車に狙いをつけて射かけるんだから……2本射かけるだけでもすごいんじゃあないのか?)


(だめだ……狙いはともかく3本撃てるスピードが必要だ……)

(はいはい……分かりました……)


「きっ菊之助……たた盾……うう受け止めて……いいいるが……ちゅ中心から……ひっ左……ずっずれて……いる……。まっ真ん中で……うう受け取める……そっそうしないと……ふふ吹き飛ばされる……いいいいか?」


「わかりました……真ん中で……ですね。」

 菊之助がこっくりと頷いた。


(こっちの方は……まあ納得だな。実戦ではしっかり受け止められないと、大変なことになるからな)


「まっ松五郎……ももも少し……くっ首筋……きゅ急所……ねね狙った……ほほ方……いっいい。」

 続いて松五郎の突きの批評だ。


「えっ……こんな張りぼての急所って……あっ……はい……分かりました……。」

 イチが張りぼてに乗せた毛皮の首筋を指し示したので、松五郎がしぶしぶ頷いた。


(ぷっ……そうだな……じゃあ次は、装置を変えて行ってみよう……同じのばかりだと飽きるからな。


 それと……模擬訓練が終わってもまだまだ訓練は続くと言っておけ。模擬訓練は形だけで熱がこもっていないとあとで困るから、真剣にやるようにもな。バージョンアップ版のお披露目だから、どうせ子供たちは出来ないだのと文句を言うだろうが……イチが軽々とこなして見せれば、やるしかないと覚悟するだろう。)


「よっようし……つっ次……うっ牛系……まま魔物……もっ模擬……くく訓練……じじ実戦……おお思って……やっやるように。おお終わったら……ごっゴムボール……よよ避けながら……うう打ち込み……くく訓練……ぼぼボール……ふふ増やした……。


 まま魔法系……ゆっ弓は……やや山なりぼぼボール……よよ避けながら……かか構える……くっ訓練……こここっちも……ぼぼボール……ふっ増やした。」


 続いてイチが牛系魔物に見立てたリアカーを勢いよく押して突進……模擬訓練を数回繰り返した後は、さらに魔法攻撃を想定したゴムボールによる訓練が続いた。ボールを射出する筒が倍くらいに増えており、その上バネが強くされていてボールのスピードが増していた。


 ぶつぶつ文句を言う子供たちの前でイチは余裕で全てのボールを避け、格の違いを見せつけると同時に、やればできるのだということを認識させた。


(ダミーを使った模擬戦闘訓練も、初戦なのに上出来だ……形はできていたじゃないか。


 後は毎日継続していくことで、体に動きを馴染ませていけばいいと思うぞ。所詮はダミーを使ったシミュレーションだが……何もしていないよりははるかにましだ。避難訓練の要領だな……何もしていなければ実際に災害に遭った時に、どうすればいいのかまず個人個人で考えなければいけなくなってしまうからな。


 始めてダンジョンに入った時は、体が縮こまって動かない筈だが……シミュレーションを思い出させることにより慣れる……というか、体を動かせるようになるまでの時間が短縮できるはずだ。


 なんでも初めては緊張するからな……特にダンジョンでは直接命のやり取りをするわけだ……いくら低レベルのダンジョン挑戦であったとしても、危険性がゼロではないはずだからな……。)


(そうか……よかった……)


(これまでは人慣れしていないから……イチの頭の中が真っ白になって話せないから、俺が話すことを最初は一から十まで教えていた。そのうちにある程度話せるようになってきてからは、話す主旨というか要点だけを説明していたんだが……それでそこそこ話せるようになってきた……。


 この前も言ったが……もっと落ち着いて呼吸を整えてから話し出すようにすれば、話しながら噛むことも少なくなっていくと思っているぞ。まあまだ……恐らく子供たち相手だけだろうがね……大人相手だと緊張するというか……サーティン相手ならまだいいんだろうが……相手に慣れていないと無理なんだろうな。


 ゼロ達兄妹相手だったら……まだ普通に話せていたんだろ?)


(あっああ……今よりは……ずいぶんまし……)

(このままいけば……イチが普通に話せるようになることも、夢ではないかもしれんな……。)

(そ……そうか?……だったらうれしい……)


(ついでだから一言……ゴムボール発射用の筒の数を増やした装置だが……当初は筒をまばらに配置して、同時に数個発射されたとしても、体の幅分……4、50センチほどは間隔があくよう配置しておいた。


 だが今回は数を倍にしたから最小間隔は3割以上減となったわけだ。子供たちが避けられる訳ないとブーブー文句を言うのも分かる……だがお前は……軽々とやって見せた。


 ゴムボールが発射されるわずかな時間のずれを認識して、コンマ何秒かの隙間に体を左右に振って全て避けて見せた。空間認識能力に長けているというか……初めてやってできるのは……まあ神業だよな……。


 剣士や騎士たち用の接近戦闘向け装置も、弓使いや魔術師向けの遠隔攻撃向け装置も、両方とも軽々とクリアして見せた。おかげで子供たちは難しそうに見えるけど、頑張ればできるようになるんだと目標が出来た。


 新しいことに関して説明して、やらせて見せて難しさを感じさせ、その上でやって見せるというのは、仕事の教え方として最も効果的な方法と言われている。)


(そうか……ただ出来ることを自慢しているわけではないのだな?)


(子供が難しい問題をできないでいる時に、どうしてこんな問題が解けないの?学校で習ったでしょ?っていう親がよくいるようだが、あれは間違った声のかけ方だと俺は思っている。


 子供を励ましてやる気を出させようと思っているのかもしれないが、だったら子供の目の前でその問題を解いて見せてやることが必要だ。その上で、同じ解き方の別例題を出してやって解かせてみる。そうすることで子供は真に理解することが出来る訳だ。そうやって覚えたことは、なかなか忘れない。


 ただやれやれ言うことは間違いだ。子供に聞かれて学校で習ったばかりなんだからできるはずだ……と言って自分は決してやって見せないと……親は当然ながら自分と同じことを学校で習ったはずなのに解けないのだろうと勘ぐる。忘れてしまった……ということはいい訳にならない。


 子供だって忘れてしまうわけだから……するとどうなる?こんな問題解けなくても何も困らない。大人だって解けないんだから……というふうに思ってしまいかねない……子供は賢いからね。


 子供には無限の可能性がある……だから頑張りなさい、頑張ればできる……とやいのやいのいうだけなのは、その可能性を摘み取ることにもなりかねないわけだ。

 だから……今後も今のやり方を続けたほうがいいと思うぞ。)


(そうか……分かった……なるべく手本を示せるように頑張る……。)

(ああ……そうしてくれ。)



 翌週からは、もう1台張りぼてをイチが作ってきて、後方からの急襲訓練も併せて行われた。

 模擬訓練を行いながら各自足りない部分を書き出して修正していき、1ヶ月が経ちいよいよダンジョン挑戦の日がやってきた。


「ここですね……塀の内側に562番の看板が立っています。」


 イチたちが目指すダンジョンは、城ともいえるイチたちが住むサーティンヒルズの裏門から数百メートル歩いた先の小高い丘だった。市街地にあるダンジョンのせいか、丘の周囲は人が間違って入らないよう頑丈な鋼鉄製の柵に囲まれていた。イチたちは組合から聞いたとおりに番号錠を解錠して門を開け、中に入った。


 丘の中腹付近にある洞窟が、ダンジョンへの入り口だ。


(よし……入るときの配置も説明してから入って行けよ。どうせイチが先頭だろうから、お前ひとりだけ先に入って行ったら、子供たちはどうしていいかわからなくなるからな。面倒でも最初は何でもかんでも説明しろ。)


「じじゃあ……はっ入るぞ……みみ皆……きっ気を付けるんだぞ。せっ先頭……おお俺……つっ続いて……きっ菊之助……そそれから……まっ松五郎……うう梅吉……あっ菖蒲……ささ桜子……はっ萩雄……ささ最後。」


『はいっ』

 皆緊張した面持ちで、それでも大きな声で返事した。無理もない……初めてのダンジョンだ。緊張しないわけがない。火をつけた松明を持ったイチを先頭に、皆こわばった表情で順に一人ずつ入っていく。


(分岐に出たな……昨日相談した手順では、今回は分岐奥までは入って行かずにメインルートだけ探索する予定だったはずだな?だったらその説明と、ここからは背後も気を付けなければならないから、入る時とは別の配置が必要だから、配置換えの説明が必要だな?)


「よっようし……ぶっ分岐……でっ出た……めっメイン……るるルート……どっ洞窟……じょ上方……めめ目印……ろっロープ……はは張ってある……まっ迷わず……すす済む……こっこれもここ攻略済み……だだダンジョン……とと特権……。


 ほっ本当は……えっ獲物……ささ探して……ぶっ分岐奥……いい行く……ちっチーム……ぶぶ分散……ししたり……しして……。だっだけど……み皆初めて……だだから……きょ今日……めっメインルート……だっだけ進む……こっここから……じゅ順番……いい入れ替える……。


 せっ先頭……おお俺……つっ次……ささ桜子……ああ菖蒲……はっ萩雄……まま真ん中……つっ続いて……まっ松五郎……うう梅吉……さっ最後……きき菊之助……。おお大きな盾……も持ってる……きっ菊之助……うっ後ろ……つっ常に警戒……。いいいいね?


 だっダンジョン内……たっ探索……つつ常に……こここの順……すす進む。」


「はい、わかりました。梅吉も松五郎も、頼むよ!」

『ああ……任せてくれ』


 真剣なまなざしで答える菊之助に、松五郎と梅吉が続いた。騎士志望の菊之助だが、槍は高価なため中級レベルに近い盾と胴回りの鎧を購入しただけで、槍を持っていない。その為当面は防御のみの役割である。松五郎と梅吉は、逆に中級に近い剣と鎖帷子だけで、盾を購入できていないために攻撃担当となっている。


「だけどそれじゃあ後方ばかり手厚くて……肝心の前方はどうですか?魔物が突進して来たら、怖いんですけど?あたしの弓は……そんなに命中精度よくありませんよ。魔物たちに突撃されたら……」


「あたしの魔法だって……遠くからなら落ち着いて狙えるかもしれないけど……突進して来たら、とても無理……です……。」

 洞窟内の探索フォーメーションに、桜子と菖蒲が不満の様子だ。


(ありゃりゃ……桜子たちが、そんなに心配症とは思わなかったな。確かにこの子たちの装備は、革製の胸当てと肘、膝当てだけの軽装だからな……いつもの戦闘フォーメーションと異なるから無理もないが、新人ばかりだし、この配置が最適だと俺も思っている。


 前から襲ってくる分は、お前が十分対処できると胸を張って言っておけ。装置使った特訓を、いつもお前が軽々とこなして見せるのを知っているから、安心するだろう。)


「あっああ……たた探索中……とと突進……くっくる……まっ魔物……ははぐれ……多い……。


 むっ群れで……せっ生活する……まま魔物……まっまず……よよ様子……うううかがって……りりリーダー……こっ攻撃……ささ作戦……たた立てる……だだだから……こここっちも……きき気づいて……たっ体勢……とっ整えられる……はははず。


 たっ単騎……まま魔物……とっ突進……きききても……おっ俺……かか必ず……しし仕留める……ああ安心……しっしろ……。ぶっ分岐から……でっ出てきたまま魔物……ううう後……つっ突かれたら……ぜっ全滅……ああありえる……きっ菊之助……たち……やや役割……じゅ重要……。」


 イチはそう言って、弓をポンっと叩いて見せた。


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