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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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模擬戦闘訓練

21.疑似戦闘訓練


「ふうん……襲い掛かってくる魔物の突進をかわしながら攻撃する訓練のようね。火を吐く魔物や魔法を使う魔物をいずれは想定してアップグレードしていくのかあ……。


 色々考えてくれているんだろうけど……もっと臨場感を出すとかできない?……そうだ狼の毛皮を乗せましょうよ。そのほうが迫力が出ますよ。うちの物置に売り物にならない、矢傷がたくさんついたのが放置してあったから取ってきます。」


 すぐに菖蒲が宿舎の方へ駆けだしていった。


「そそそうなのか?……もももうひとつ……こここっち……うう牛系……そそ想定……した……。」

 イチはそう言いながら再び掘っ立て小屋の中へと入り、今度はリアカーを持ち出してきた。古いリアカーの上に、これまたふるい机が乗せてあり、ロープでリアカーに固定してある。


(上の勉強机のお古はどうなってもいいけど、リアカーは仕事に使うから乱暴に扱ってはいけないと、ちゃんと言っておけよ!)


「べべべ勉強机……ふっ古いの……たったくさん……ささサーティンさん……じっ自由に……つつ使って……いいいい……いっ言っていた……でででも……りっリアカー……ごごごみ集め……つつ使う……だだだから……ららら乱暴に……ああ扱えない……。」


(こっちもダサイだの言われるんだろうな……イチにもう少し美的センス……というものがあればな……とはいえ……俺だってフィギュア造りとか得意というわけではなかったけどな……それにしてもこれはひどい……まさに動けばいいといった感じでつくりが雑だ……)


(だ……だから……俺は言われた通りに作っただけだ……そもそも時間がなさすぎだ。もう少し時間があれば……牛の顔や尻尾など……作れたはず……)


(まあそうだよな、昨日の今日だからな……形だけでも存在するだけましか……じゃあ、使い方を説明してやれ。)


「こっこうして……いい勢いよく……おお押して……うっ牛系……まま魔物……とと突進……みっ見立てる……。りりリアカー……しゃ車輪……おお大きいから……いっ勢いつく……。」

 イチがリアカーの持ち手を持ち、勢いよく皆の方にダッシュしてきた。


「確かに勢いが違うわね……こっちも何とかしたいけど、うーん……牛の皮はあるけど……みんな加工用に切ってなめしてあるから丸ごとのはないわ……乗せても意味がなさそう……。

 仕方がないから……角だけでも持ってくればいいか……。」

 今度は桜子が駆けだして行った。


「はい……持ってきたわよ。」

 菖蒲が戻ってきて、狼の頭と手足がついた丸ごとの毛皮を張りぼてにかぶせた。


「これで……結構様になって来たわね。桜子は、どこへ行ったの?ふうん……牛の角ね……。」


「持ってきたわよ……牛の角はコロニーの門のところに飾ってあったから、すぐに持ってこられたわ。」

 桜子は笑顔で持ってきたアーチ状の立派な牛の角を、リアカーに乗せた机の両脇にテープで張り付けた。


(まあ……なんとなくではあるが、魔物を想定しているんだ……ということは伝わってくるようにはなったな。菖蒲たちに感謝だ。訓練開始と行こうじゃないか……手順を説明してやれ。)


「よっよし……じっじゃあ……いいいいか……まままず……おっ狼系……くく訓練……。

 たっ戦い方……いいいつもの……うう打ち込み……れれ練習……おお同じ……。やっ矢は……きき木の棒……せせ先端……わっ綿……ぬぬ布で……つつ包んだ……もっ模擬矢……つつ使う……。


 まっ魔法は……ごごゴムボール……まま魔法効果……きき軌跡……ほほほ放物線状……もっ物なな投げる……いっイメージ……おお同じ……だだだから……もっ模擬矢……せせ先端……ごっゴムボール……りょ両方……はっ白墨……ここ粉……つっつける。


 あっ当たった……わわ分かる……。たっ盾……くく訓練用……たた竹……たっ盾……けけ剣……しっ竹刀……。こここれら……はっ白墨……つつつける……。いい色……しし白……ああ赤……ああ青……きき黄……みみ緑……わわ分ける……。

 じじゃあ……じゅ準備……しっしてくれ……。」


『はいっ!』

 イチに促され、みな自分の武器に色とりどりの白墨の粉をつけ始めた。


(白墨の粉を付けるのは名案だ……当たったかどうか目で見ているのにも限界があるからな、矢じり付きで刺さると矢がもったいないし装置も痛むしな……さらに人数も多いし……当たった当たってないで、子供たち同士でもめてもかなわんしな……色分けすれば、判定も楽だ。)


(いつも一人だけで……訓練していたから……模擬矢が当たったかどうか……判断するために白墨を使っていた……修業始めた時は金がないから……まともな矢を沢山買えなかったから、先端丸めて何度も使っていた……だから……)


(そうか……金がないから工夫したわけだな?よし、模擬訓練用の皆の配置決めをしておけ!)


「でっでは……はは配置……きっ決める。まっまずぜぜ前衛……おっ大きなたた盾……もも持っている……きっ菊之助。まっ魔物……とと突進……うう受け止める……いっいいか?」


「はいっ。」

 菊之助が一歩前へ出た。


「つっ次……けっ剣士……まま松五郎……うっ梅吉……。きっ菊之助……とと止めた……まま魔物……けけ剣で……しし仕留める。」


『はいっ』

 松五郎と梅吉が元気よく菊之助の後方に陣取った。


「つっ次……ああ菖蒲……さっ桜子……。ここ攻撃……ああ菖蒲……ささ桜子……かかから……。

 あっ菖蒲……ほほ炎系……まっ魔法……てっ敵……いい位置……わわ分かる……さっ桜子……とっ突進……しししてくる……ああ足……とっ止める……。


 のっ残った……まま魔物……とと突進……きき菊之助……うう受ける……わっ分かる……か?」


『はいっ……頑張ります。』

 菖蒲と桜子が松五郎たちの後ろへ並んだ。


「さっ最後……はっ萩雄……。はは萩雄……だっ誰か……けけ怪我……ちち治療……。けっ怪我……しししたら……てっ手……ああ上げて……はは萩雄……とと処……いいいく……いいいか?


 くっ訓練……だだだから……じじ実際……けっ怪我……なななくても……いい行って……ちち治療……ふっふり……する。」


『はいっ』

 全員が、元気に返事をした。


(みんなやる気満々だ……後は想定通りに動けるようになるまで、繰り返し訓練だな……フォーメーションも、入れ替えたりして色々なバージョンを試してみるのがいいだろう。)


(人の配置……一番難しい……ゼロが……やっていた……)


(イチのいた兄弟チームでは、やはり長兄のゼロがリーダーだったんだな?だったら……生贄なんていう非道な行いは……ゼロの発案の可能性が高いな……少なくともリーダーが加担していなければ、実施できなかっただろうから、ゼロを見つけ出して問いただすのが一番いいだろうな……。


 だがまあ……もう少し先の話だ……今は子供たちの訓練が最重要課題だ……分かっているな?)


(ああ……もちろんだ……いい加減なことはしない……)



「じじゃあ……まっまず……おお狼系……まま魔物……いい行くぞ!」

 イチは20mほど向こう側に狼の毛皮を乗せた張りぼてを置き、勢いよくロープをひきつけようと手に力を込めた。


「おおっ……やっているな?へえ……やっぱりイチ先生はすごいなあ……色々と道具を工夫して……。」

 すると突然背後から声がかかり、一瞬ドキッとして手が止まった。


「…………あっ……サーティンおじさん……脅かさないでよ……今イチ先生と、魔物との模擬戦闘を始める所だったのよ……本当にもう……心臓に悪いわ……前にばかり集中していたから……。」


「そうよ……まだ心臓が……どきどき……。」

 少し間をおいて、菖蒲と桜子たちが胸を抑えながらサーティンを睨みつける。


「ああ……びっくりさせてしまったか……悪かった。別に邪魔するつもりは……。

 だがなあ……ダンジョン内はどこだって安全な場所はないんだぞ……魔物に突然後ろから襲われたらどうする?十分考えて……訓練するんだぞ。イチ先生、頼んだよ。」


 そういいながらサーティンは、踵を返すようにすぐに去って行った。

 だが……サーティンの言葉は……イチの胸に深く突き刺さった。


(サーティンに背後から来られて驚くなんて情けないな……ダンジョンも深く入って行くと分岐の奥の方から魔物たちが這いだしてきて背後を突かれるなんて……起こりうることだよなあ……そうなると最後尾が僧侶の萩雄ではまずいということになる……守備も攻撃も兼ねるような奴を配置する必要性があるな……)


「ちょちょ……っと待って……くれ……えええ……えーと……きっ菊之助……」


(さてどうするか……今朝がた魔物のダミーを作りながら考えていたフォーメーションを、もう一度練り直しだ……紙がないから地面に書いて……再配置してみよう。)

 イチはすぐにしゃがみ込んで、近くに落ちていた木の枝で地面に、いくつもの丸印を書き始めた。


(イチのいたチームの配置はどうだった?)

(俺は一人だけで戦っていたから、チームの皆の配置は知らない……。)

(やっぱりそうか……ううむ……悩むな……)


「先生……イチ先生……?」

 桜子がイチのところへきて一緒にしゃがみこんでイチの顔を覗き込むが、イチは無反応だ。


「体が冷えてしまうから……柔軟と素振りでもしていましょう。」

 仕方がないので、皆に少しでも体を動かしているよう促した。



(とりあえず前方に魔物の群れがいるという設定だから、前方の守備力と攻撃力は余り落とせないぞ……せいぜい一人だな……後ろへ回せるのは……僧侶の萩雄は……障壁を張れるんじゃあなかったか?

 だったら1時的には、何とか耐えることが出来るかも知れん……)


(わ……わかった……じゃあこれで……)


『イチニイサンシッ』

 イチがようやく顔を上げたころ、皆は柔軟運動の真っ最中だった。


「みみみ皆……ごっごめん……はっ配置……すす少し……かか変える……きっ菊之助……まま松五郎……おお同じ……うっ梅吉……はは萩雄のよよ横。うっ梅吉……はっ萩雄……ここ後方……けけ警戒……うっ後ろ……むむ向く……。はっ萩雄……しょっ障壁……はは張れるな?」


「はいっ。大きなのは無理だし短い間だけど……1m角で10秒くらいなら……障壁効果出せますよ。」

 萩雄が笑顔で答える。魔物の突進を1時的に止める障壁も、僧侶の重要な役割である事を思い出した。


「ほっほかは……かか変わらない……けっけど……あっ菖蒲……さっ最初……ああ菖蒲……ぜぜ前方……ここ攻撃……。おお終わったら……うっ梅吉たち……いい一緒に……うっ後ろ……けけ警戒……いいいいな?」


「ふうん……先制攻撃した後は後方警戒ね……任せてください!」

 菖蒲は嬉しそうに、胸をポンっと叩いた。


(菖蒲は機敏だから……最初に前方攻撃の口火を切らせてから、後方警戒もこなせるだろう。配置はそのままで後ろへ振り返るだけで済むしな……じゃあまずはやってみよう……)


「よっようし……じじゃあ……いい行くぞ……まっまず……ああ菖蒲……ほっ炎系……まま魔法……。さっ3発……くっくらい……だだだな。」


「はいっ……えーと……しゃがんだままボールを……後ろに手を伸ばして……そのまま肘を曲げずに……弧を描くように……腕を前方へ大きく振って投げるっと……。」


 イチから指示された通りに菖蒲がボールを3つ投げ、放物線状の軌跡を描いたボールは狼系魔物に見立てた張りぼて近くに落ちた。

 ガラガラガラッ同時にイチが、思い切りロープを手繰り寄せる。


「さっ桜子っ……やや矢を……いい射かける……あっ脚だけ……ででなく……どどどこでも……あっ当たれば……いいい……。」


「はいっ……任せてください。」

 桜子が突進してくる張りぼてに対して、模擬矢を射かけ始めた。


「よっようし……ちっ近づいて……きき来た……きっ菊之助……たた盾……しししっかり……かか構えて……うう受け止める……。」


「任せてください!」

 張りぼての台車は大きく乾いた音をたて、勢いよく菊之助の竹板の盾に衝突して止まった。


「まま松五郎ッ、すすすぐに……でっ出て……けけ剣で……つっ突き刺す。」

「はいっ!」

 松五郎は勢いよく飛び出し、竹刀で張りぼてをついた。


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