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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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天の声?

2.天の声?


「ちいっ!」


 襲い掛かってくる狼系魔物に連続で矢を放ち、一瞬で4匹を仕留めながらも悔しそうに舌打ちする。矢袋から4本の矢を取り出し矢を弓につがえながらも、次の矢を一本ずつ右手の指と指の間に挟み準備した状態で連続して矢を射かける。4本までなら1秒で連射が可能という手練の技だ。


 しかも左手に弓を構えたままで、右手だけで流れるような一連の動作でやってのけるという……まさに神業。本人が意識して行っているというよりも、腕が、手が、指が覚えていて、何も考えずとも自動機のように絶えず次弾を供給していく様は、まさにマシーンと言えた。


 だが……いくら連射能力に優れていようとも、凄まじいまでの数の魔物たちに囲まれてしまっては、生き永らえる時間を、ほんの少し伸ばすに過ぎないと感じられた。


 持っている矢には限りがあり、さらにそれを射かける体力にも限界があるのだ。一撃4殺の手練の技を、一体どれだけ繰り出したのだろうか?ただでさえ集中力が必要な大技故、百発百中などとはいかず、いつもなら6から7割程度の命中率であればいい方だったが、今は全弾命中……しかも必殺の必要性があった。


 当初は一匹ずつで襲い掛かってきていた魔物たちも、途中からは群れで襲い掛かってくるようになり、今では狭い分岐に一度に入れるぎりぎりの4匹同時に攻撃が仕掛けられている。そのすべてを何とか葬ってきてはいるのだが……集中力にも限界を感じ始めていた。


 命が懸かっているためか死に物狂いで驚異の力が働き、これまでにない高い命中精度が得られてはいるのだが、このような状態がどれほど続くのか……初めてのこと故想像すら適わない状況だ。


 本道途中に見つけた、人が2人ようやく並べる位の幅で奥行き4mに足りない行き止まりの窪みに身を置き、背後からの不意打ちの心配はなくなったのだが、目の前の洞窟本道両側へ魔物たちは獲物の存在を察知して集結してきたため、両側を囲まれ既に逃げおおせる可能性は限りなくゼロに等しくなった。


 今討ち果たした魔物たちの死骸がゆっくりと動いて、窪みの脇へと消えていく。窪みの入り口が魔物の死骸で埋め尽くされてしまわないよう、次に控えている魔物が口に咥えて引きずり出していくのだろう。


 分岐本道の広さは幅2.5mほど高さも2.5mほどあるが、恐らく窪みの両側には射殺した魔物の死骸がうずたかく積もり始めていて、それが障害となり襲い掛かる方も大変だが、命がけで突進していっても逃げだせないと容易に考えられた。


 くそっくそっ!一体どうしてこんなことになったのだ?次に襲い掛かってくる魔物に備えて、矢袋から矢を取り出しながら何度も何度も自分に問いかけてみる……だが、その答えは容易には見いだせないでいた。


 左足首がずきずき痛む……さらに右臀部が燃えるように熱い。左足首は……腱を切られており、とりあえず止血はしたが歩くこともままならず、足を引きずりながら松明の明かりだけを頼りにダンジョン内をうろつきまわり、ようやくこのくぼみを発見してもぐりこんだのだった。


 まさに、よくぞここまで逃げおおせてきた……と言った感じだ。あの……天の声がなければ……


 目覚めた時にはすでに仲間の姿はなく、おそらく夜半に魔物たちの襲撃を受け、パーティメンバーたちはちりじりに逃げ惑い、不覚にも寝ていた自分だけが取り残されて魔物に襲われ足首を食いちぎられ、さらに右臀部を炎系魔法に焼かれるという大失態を犯してしまったのだろうと考えられた。


 だが……人一倍慎重派で、ダンジョン攻略の際の野営時には、幾ら仲間が交代で見張り番をすることになっていても決して酒などは飲まず、食事を終えたら日々の鍛錬を行い寝付くことを習慣にしていた自分が、如何に疲れていようとも見張り番の声に反応せずに寝入っていたなど、とても信じられないことだった。


 そうして……右臀部を焼かれたときに一瞬だけだが意識が戻り……暗闇の中で聞こえてきた言葉……


((おい……いいのか?こ……。))

((ああ……イチの野郎は、寝つきが良くなるからと酒を勧めても……だから……食いもんに……。朝まで目覚ない……大量にな……痛みなんか……))

((だけど……じゃあ……))

((俺のいうことが……!……永遠の眠り……))

((……たよ……))


 朦朧とした中で聞こえたとぎれとぎれの言葉……あれは……夢だったのか……?それとも現実なのか?

 だがしかし……家族同然の仲間たちが裏切ることなど……到底あり得ないことであり、やはり魔物たちに夜襲をかけられ仲間たちとはぐれてしまったと考えるのが、一番妥当な線であった。


 だとすると……仲間たちは今頃どこに……自分を探してダンジョン内を見回ってくれているだろうか?

 それとも仲間たちも傷ついて……全滅はしていないまでも、どこかでそれぞれ魔物たちと戦っているのか?


 そうであるとするならば、少しでも早く彼らを助けに向かわなければならない。経験豊富な兄や一つ違いの弟はまだしも、冒険者になって間もない5つ下の弟と妹は、単独であれば手負いでなくても魔物たちの群れに対して生き永らえることは難しいと考えられた。


 攻撃魔法の使えるサンはともかく、回復系魔法だけのヨンに関しては誰かが守ってやらねば、なすすべなく魔物たちの餌食となってしまうであろう。うまく兄たちとともに逃げおおせていればよいのだが……。


 頭の中には仲間たちの安否を危惧する事しか浮かばなくなってきていた……とはいっても左足と右尻に大怪我を負っていて、まともに歩けない身の上……これだけ何重にも魔物たちの群れに囲まれた中で、打って出るなど到底かなわないことなのだ。


いつもなら……さらに研修生として参加している若者たちの心配も加わるはずなのだが、今回は珍しく研修生を募集せずに正規メンバーだけでダンジョン挑戦していたのは、不幸中の幸いとも言えた。


 どの道……最近の若者は……とかいうつもりはさらさらないのだが、孤児院育ちのイチが中学を卒業してすぐに、一つ違いの同じ孤児院で育った兄として慕うゼロとともに冒険者見習いとなった時には、つらく長い下積み生活を経験していた。


 ダンジョンに入るどころか剣技や弓など戦い方の指導をしてくれるわけでもなく、ただ毎日師匠たちの生活の世話をさせられていた。


 いわゆる雑用係のつかいっぱしりで定められた給金もなく、たまに師匠や他の冒険者たちが機嫌がいい時に、お使いのお駄賃をくれる程度で、それすらも施設に残った年少の子供たちの生活の足しになればと、全額送金して自分のために使ったことなど一度もなかった。


 尤も自分は人とのコミュニケーションが苦手なため、用事を言いつけられてもどう動けばいいのかわからず、失敗を繰り返していた。都度、兄がわりのゼロが自分の代わりに謝ってくれて、そのあとでゼロに何度も繰り返しやり方を教えてもらうことにより、慣れてくれば十分一人前の仕事はできていたつもりだ。


 買い物等の対外的な用事を覗いては……だが……。


 朝早くから夜遅くまで言いつけられる雑用は、自分もゼロも修業とは名ばかりの無給のお手伝いではないかと感じはしていたが、それでも毎日3度の賄はあるし、師匠の下に居れば少なくとも食べる事と寝る場所に窮することはないため、それだけでもありがたいと感じて修業時代の5年間を過ごしたのだった。


 師匠たちの生活の世話以外で何も指導されることがないまま、師匠や他の冒険者たちが早朝や深夜に行う鍛錬の様子を盗み見しながら、それをまねて自分たちで工夫しながら訓練を続けた。


 それなりに型が出来てきた時点で、師匠が自分たちの体に合わせた初級者用の弓と剣を与えてくれて、ダンジョンへ連れて行ってくれるといってくれた時には、本当に涙が止まらなかった。


 体を作るための柔軟や基礎トレーニングは、どれも辛いだけで教えられたとしても毎日継続するのは難しく、自分から積極的に学ばせるために敢えて指導をせず、師匠たちの生活習慣を学ばせていたのだということに気づいたのだ……それなのに……今の若いものたちは……。


 師匠たちに習って、組合に参加したばかりの冒険者見習いともいうべき若者たちを定期的に何人か研修生として引き受けて修行させているのだが、どの子も長続きせず、大抵1から2回のダンジョン挑戦が限界だ。


 もちろん初めてのダンジョン挑戦で、いきなり魔物と対峙させるなんてことをするはずもなく、荷物運びとテントの設営に飯炊きなどの雑用をさせるだけなのだが、それが面白くないのか大抵の場合ダンジョン半ばで逃亡してしまうのだ。


 ダンジョン内で朝目覚めた時に研修生の姿がなく荷物ごと残されていて、それを再分配して重くなった荷物を背負いながらクエストを続けるときの無念さと言ったら……。


 今回は、そういった研修生たちがいない分だけ、スムーズにクエスト進行が出来るはずであった。研修生が長続きしないのは、結局自分たちの修業時代のようにろくに訓練方法も教えず雑用ばかりさせているからだとゼロに何度も掛け合い、ようやく理解されたと思ったら今回は、研修生自体を引き受けるのをやめてしまった。


 それはそれで不満だったのだが、それでも研修生という重荷がない分それだけ高度なダンジョン挑戦となった途端にこのありさまだ。


 こんなことなら……頭の中を走馬灯のようにこれまでのいきさつが繰り返し流れていく……いやいや……後悔していても始まらない……まずは今この状況を何とかするのだ……そうして仲間たちを助けに行かなければならない……とか考えながらも動けないでいた。


 今いる場所の地の利を生かして、襲ってくる魔物たちを確実に射貫いていく……そうしていずれ攻めあぐねて撤退してくれることを待ち望むしか、自分の生きる道はないと考えられた。


 後は……それまでに自分の体力が持つか……ということと、何よりもまず手持ちの矢が尽きる前に、魔物たちの影が消えてくれること……これだけを願うのみで……仲間のことは気にはかかるのだが、この場を動けないでいた。


 親の顔どころか自分の誕生日さえ知らない孤児で、教会併設の孤児院で育てられた。孤児院とはいっても国認可の公的施設ではなく、先代神父様が地域のあまりの孤児の多さに見かねて教会横に、掘っ立て小屋というか隙間風が常に吹き抜けるような粗末な建物を、近隣大工の片手間仕事でようやく建てたものだ。


 日々の食べ物にも汲々とする中、教会わきに小さな家庭菜園を作り、自分たちの賄の足しにした。

 貧しいながらも同じ境遇の孤児たちと教会の手伝いや畑仕事をこなし、小学校低学年になると近所の農家の手伝いも行い、頂く野菜や駄賃を生活費の足しとした。


 そうして中学を卒業すると先に卒業していたゼロと一緒に冒険者見習いとして、近所の名のある冒険者のもとに弟子入りした。学歴も肩書も関係なく、自らの身体能力を駆使してダンジョン内に眠るお宝を取得するという一獲千金を狙える冒険者という職業は、イチたち孤児がなり上がることが出来る唯一の職業と言えた。


 雑用仕事が開いた暇な時間は手製の弓や木刀で鍛錬を欠かさず行い、ダンジョン挑戦時も重い荷物を背負わされ隊列の最後尾を歩き、仕事と言えば飯炊きやテント張りではあったが、先輩冒険者が倒した魔物たちの皮を剥ぎ、毛皮や肉を取得するための解体作業は、魔物たちの体の構造から急所を知るには格好の教材だった。


 数年も修業を続けると一度遭遇した魔物でさえあれば、その急所を捕らえて一撃で大型魔物でさえも倒してしまうことが可能となった。だがそれも……1対1で魔物と遭遇した場合であり、今のように一度に数体で襲い掛かられた経験は、これまでにない。


 1人前に戦えるようになるころ、中学を卒業した弟たちを加え5人で冒険者パーティを組み、孤児院で育った兄弟で活動することにした。そのほうが辛い下積みを経験させないで済むだろうとゼロ達と相談した上での決断だったが、実戦を兼ねた魔法修業はそれなりに成長したが、初級レベルを超えることはなかった。


 上級魔法使いや上級神官に弟子入りしたわけではないため、呪文なども自分たちが修業中にダンジョン内で聞きかじった呪文と魔法効果を説明して、何度も唱えさせることによって取得したものであり、当然ながら呪文が短い初級の……しかも使用頻度の多い魔法効果に限られた。


 ダンジョン挑戦を何度も重ねてある程度蓄えが出来たら、魔術書を購入して再度修行させる予定でいた。


 師匠の魔法効果を実際に目で見て体感しながら呪文を口頭で教えられるのと異なり、文書による魔法効果に加え呪文を唱える際のイメージの仕方や細かな所作など記載されている魔術書は、当然のことながら分厚く、その割に需要が少ないため発行部数が少なく非常に高価である。


 確かに自分たちが取得した弓や剣技も入門書があることはあるがやはり高価で、しかも実践での取得には遠く及ばないと言われているため、サンたちも修業させることも検討されたが、それではいつまで経ってもイチたちが独り立ちできないため、稼ぎの面から早急な独立が望まれた。


 師匠たちとのパーティでは、いつまで経っても新入り扱いであり下働きの時給しか受け取ることが出来ず、幾ら最前線で魔物たちと相対したとしても、その取り分は先輩冒険者たちの10分の1程度でしかなかった。


 飯炊きと荷物運びしかできない時分は、それだけもらうことが出来ればうれしかったのだが、自分で戦えるようになってしまうと、やはり物足りなかった。とはいえ……師匠とともにダンジョン挑戦する場合のイチたちの仕事はやはり飯炊きでしかなく、戦う必要性はなくても自ら進んで戦わせて頂いている立場だった。


 そのためどうしても独立したくて、心配する師匠を何とか説き伏せて、身内ともいえる元孤児たちだけでパーティを組むことにしたのだ。


 師匠たちが組合から依頼されて挑戦するダンジョンへ同行させていただく場合でも、分け前は格段に上がった。ただし……当然のことながら自分たちのパーティが危機にふんしても、手助け無用という厳しい条件付きではあったが……それでもダンジョン挑戦を重ねるうちに成長していった。


 そうして自分たちだけでも小規模ダンジョンであれば、攻略可能と組合からも許可を頂き、いっぱしの冒険者となった。独立後2年経過し、ようやく中級ダンジョンに単独パーティで挑戦するところまでこぎつけ、今回が初戦であったのだ。


いつも応援ありがとうございます。ブックマーク設定や感想の書き込みなど、連載を続けて行くうえでの励みとなりますので、お手数ですがよろしかったらご協力お願いいたします。よろしくお願いいたします。

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