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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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有無を言わさず

19.有無を言わさず


「じゃあ今晩は町へ繰り出して……ぱあっとやって……明日は冒険者組合に行って……新チーム登録をしてきてくれ。初戦のダンジョンはすでに決まっている……なあに……すでに攻略済みで日が浅いから、まだボスと言えるような魔物は育っていない……完全攻略後……3年ほどのダンジョンだ。


 挑戦日は1ヶ月後を予定している……食肉用魔物の収穫には最適の時期だな……チーム登録したら、ほかのチームに取られちまわないよう……予約してダンジョンを確保しておいてくれ。


 菖蒲たちも真新しい道具や装備を手に……楽しみにしている。松五郎と梅吉なんかは……毎晩剣を抱いて寝ているくらいだ。危ないからやめろと……言ってあるがね。挑戦するダンジョンが決まったら……実戦に近い模擬訓練も……やったほうがいいな。これが……挑戦するダンジョンの内部地図だ。


 じっくり検討して……メンバー配置を決めてくれ。

 戦法も検討しておいた方がいいぞ……なんせ全員……素人だからな。じゃあ……任せたよ!」

 最後は……強引に押し切られた形になってしまった。


 サーティンは一気に伝えると、足早に事務棟に帰って行ってしまう始末。碌な反論も許されず……反論の時間を与えられたところで、人付き合いが苦手なイチには、心の声の支援がなければサーティンを逆に論破することなど、絶対に不可能だった。


(まあ、仕方がないさ、また色々と考えて指導方法を検討していくしかない。その上で、どうしても自信がなければ、その旨を真摯に説明すればいい。子供たちは素直でいい子たちばかりだし何とかなる、心配するな。)


(…………………………)

 一人残されたイチは、その場に呆然と立ち尽くした……。



「では、イチ先生……一緒に参りましょう。」


 翌朝、今では弟子ともいえる子供たちと遅めの朝食を済ませ、後片付けの後で菖蒲たちに誘われた。勿論、昨晩はサーティンに勧められたが、どこにも外出することはなかった。そもそも出歩いたことのないイチには、行く当てすらなかった。前の町でもそうだったが、イチが知っているのは冒険者組合までの道筋だけだ。


(なんだなんだ?どこへ行く?)

「えっ?いいい……行くって……どっ……どこへ?」


「どこって……冒険者組合に決まってるでしょ?……あたしたちのチームの登録に行くんですよね?一人だけで行かないでくださいよ!あたしたちだってチームの一員なんですから……一緒に登録に行きますよ。


 明日は、あたしたちが学校へ行かなければならないからって理由をつけて……一人だけで行くなんて絶対に許しませんよ。今日は日曜ですから……今日のうちに登録を済ませますよ。ほかに用事があるなんて……言っても無駄ですよ。用務係も日曜は朝食準備と後片付けだけで……仕事がないことは調査済みですからね!」


 今度は桜子がまくしたててきた……チームの登録……って?


「ええ……えええっ……ととと……とっ登録……いっ行く……つつつもりは……。」


(ありゃりゃあ……もう少し今後の進め方をしっかりと考えてから、検討しようと思っていたのにな……待ったなしだな。)


 サーティンからは昨日無理やり押し付けられたのだが、イチの心はまだ固まってはいなかった。あいまいな気持ちでダンジョンへ向かうと子供たちを危険にさらしてしまう……イチはまだ暫くはこのままとぼけてしまえと考えていたのだ。


「あれ?サーティンおじさんが……イチ先生にはお願いしてあるって言っていたけど……まさか知らないとは言わせませんよ!一人だけ抜け駆けして……勝手にチーム名まで決めようなんて……させませんよ。

 チーム名は……公平を期するために……投票で決めさせていただきますからね!」


(どうやら子供たちはお前と作るであろうはずの、チームの名称が気になっているようだな?まあ気持ちはわからんでもない……お前に決めさせたなら、とんでもなくダサい名前にされそうだからな。


 しかしまあ参ったね……まだ引き受けていないつもりでいたんだが、どうやらお前がこいつらとチームを組むということは、もはや既成事実化されちまっているようだな?さすがサーティン……有無を言わせない。

 仕方がない……あきらめろ!)


「いいい……いや……あの……その……れれれ冷静に……なななって……すっ少し……。」


「冷静も何も……あたしたちの意見を、きちんと取り入れて名前を決めていただきますからね!チーム名は一生ものなんだから……。」

『そうだそうだ!』

 桜子の言葉に、他の子供たちも一緒になってエールを送る。


(お前が子供たちにせっつかれるのを断れる性格していないことを読まれているし、下手に時間を与えないほうがいいことも知っている。サーティンの奴って、とぼけているがなかなかの策士のようだ。


 まさか今ここで、もう数日待ってくれとは言えんだろ?この期に及んで断ろうって言うんなら、俺は一切協力せんぞ。お前が自分で考えて何とかしろ!)


「じゃあ、行きますよ!」

 イチの体を菖蒲と桜子に両側からがっちりと腕組みされ、連行されるがごとく引っ張られ、無理やり馬車に押し込まれた。



「すいません……」

「いらっしゃいませ……御用でしょうか?」


 馬車は冒険者組合の玄関先に横付けされ、またもや菖蒲と桜子に挟まれ組合事務所内へ連行された。菖蒲は目が大きくてぽっちゃりとしたかわいらしいタイプの……桜子はすっきりとした目鼻立ちで細面の美形……どちらも超がつくほどの美少女だ。まさに両手に花ともいえる見た目ではあったが、イチにとっては地獄だ。


「あああ……あっ……あの……そそそ……そっ……その……」

 受付カウンター前に受付嬢を呼び出し、菖蒲たちに前へと押し出されてイチが戸惑う……。


(どうした?冒険者の登録……そうか……お前……大人の女性相手だとしゃべれないんだ……。)


「先生……イチ先生……落ち着いて……まずは受付に……冒険者証を……」

「ああああっ?……そっそうか……ははは……はい……ぼぼぼっ冒険者証……です……。」

 耳元で桜子に囁かれ、言われるがままイチは、シャツの胸元から冒険者証を取り出して受付嬢に提示した。


(おお……この子たちのほうがしっかりとしているな……)


「はい、イチ様ですね?現在どのチームにも属さず単独登録されたままとなっておりますが、所属チームがお決まりでしょうか?あるいは弊所の登録を解除して、他の組合へ登録を切り替えなさいますか?」

 受付嬢は台帳を繰りながら、イチに申請内容を尋ねてきた。


「いっいや……あああ……あの……そそそ……その……。」

「チーム登録……でしょ?新しいチームの……登録……」


 桜子がイチの背中を小突きながら囁いてくる。イチが逃げ出すことを心配しているのか、菖蒲とともにがっちりとイチの背後の両側から体を密着させて動けないようにしてくるものだから、彼女たちの体の線と息吹がイチの背中と首すじに伝わってきていた。


 すでに膨らんでいると言ってもいい2人の柔らかな胸の感触が、イチを耳たぶまで真っ赤にさせた。


(はあー……このままずっとこうやっていてもいいくらいだな……)

(ばばば……ばっ……馬鹿を……いいい言うな……)

(嫌なら……話を進めろよ……)

「………………………………。」


「すみません……新チームの……登録手続きに伺ったのですが……どうすればいいのでしょうか?あっ、あの……あたしは桜子です。先日組合登録しました。」

 イチがいつまでも固まったままなので、いい加減焦れた桜子が自分で切り出し、自分の冒険者証を提示した。


「そうですか……新チーム登録ですね。少々お待ちを……。


 こちらの用紙にチーム名と構成者名……こちらは冒険者証番号とお名前を併記して頂き、リーダーとなる方のお名前とサインはこちらの枠に……必要となります。

 チーム名は……他チームと重複していないことを調べてから、正式適用となります。


 記入が終わりましたら、登録料とともに提出願います。桜子様は未成年者ですから、ご両親若しくは保護者様の承諾書も必要となりますが、ご用意できてますでしょうか?」


 受付嬢はカウンター下から用紙をすぐさま取り出し、申請者が記入する部分を鉛筆で丸く囲ってから手渡してくれた。


(ありゃりゃ……何もできないでいたら、勝手に進められてしまったよ。だがよかったな……ここで1日立ち往生しているわけにもいかなかったからな。)


「ああ、ハイ。あたしのほかに5名が中学を卒業したばかりの未成年者で、保護者の承諾書は持ってきてます。

 親も冒険者ですから、その辺は抜かりがありません。

 チーム名は……ここへ記入すればいいのですね?こっちがあたしの名前……と……。


 イチ先生……チーム名は多数決ですから……あたしたち6人全員が希望するチーム名にしますよ。6対1ですから……投票してもあたしたちの推すチーム名で……決まりですからね。」


 桜子はイチに断る……というか、無理やり押し付けるがごとく既にチーム名は決まっているとし、自分の名前とチーム名を申請用紙に書き込み、菖蒲に渡した。


(チーム名は……やはり決まっていたようだな……だからだろ……お前ひとりで勝手にチーム登録されないように、彼女たちは一緒についてきたがっていたわけだ。彼女たちにとっては自分たちが所属する最初のチームになるわけだから……そのチーム名も重要なんだろうな……特に新生チームだからな。


 どうせお前一人で申請に来てチーム名決めろって言われても、なんの案もなかったんだろ?ちょうどよかったな。)


「はい……イチ先生はチームリーダーだから……こことここに名前と冒険者証No.を記入してください。

 これにあたちたちが持ってきた……保護者の承諾書をつけて提出すれば……申請できます。」

 用紙がイチのもとに戻ってきたのは、菖蒲や梅吉たちメンバー全員が記名とサインを終えた後だった。


(ほれ……あきらめて申請書に名前と冒険者証No.を記入してやれ。今更いやだとは言わないよな?さすがにそんな大人げない真似……出来ないだろ?サーティンがこの子たちをお前が指導する気になるように、助言してから寄こした時から……ここまで想定していたんだとしたなら……すごい読みをしているということだな。


 まさか……自分は断ったのにサーティンが勝手に言っているだけだなんて、逃げ出すなんてことしないよな?サーティンには……色々と恩義を感じているだろ?)


 仕方なく……本当に仕方なく……イチは自分の名前と冒険者証No.を記入し、申請書にサインを入れた……新チームのリーダーとして……。


「登録料の100Gは……あたしたちがお小遣いを貯めてきたのを出し合ったから……イチ先生は心配しなくてもいいですよ。用務係の手当てなんて……すっごく安いって……うちの両親も申し訳ないって言っていたから……。」


 さらに桜子が代表して、全員の保護者の承諾書と登録料が入った封筒を申請書に備えて提出しようとした。


「ちょちょちょ……ちょっと……ままま……待ってくれ……こっ子供……に……かかか……金まで……はは払わせる……いいいかない……。」


 そういってイチは登録料が入った封筒だけは桜子の手元に戻し、懐から茶封筒を取り出して、そこから登録料を取り出した。サーティンから無理やり渡されたものだったが、使いみちが出来たのはうれしかった。


「こここ……これは……みみみみんな……ぼぼ冒険者……とっ登録……しし審査……ごっ合格した……しゃしゃ謝礼……ごっ……ご両親たちから……いいい頂いた。だっだから……こっこれ……きっ君たち……ちちチーム……とと登録料……つっ使うのが……いいい一番……いい……。」


「あたしたちの……チーム?」

 イチの言葉を、菖蒲が反芻する。


「そっそうだ……ここここのちちチーム……おお俺の……でででは……なっない……きっ君たち……ちちチーム……。ももももちろん……おっ俺も……ささ参加……だだだけど……きっ君たち……いいい一人前……なななるまで……さっサポート……すすする……だっだけ……。」


(そうだな……子供たちをある程度のレベルまで上げるためのチームだものな。彼らが成長して巣立っていく、そんなチームになればいいな……)


「そうですね……チーム名も……あたしたちで勝手に決めさせてもらったんですものね……。このチーム名のナナっていうのは……あたしたちのお姉さんがわりだった那奈さん……4つ違いだから生きていれば……二十歳かな……すっごくきれいなお姉さんだった……。」


「あたしたちが小学校のころまで……一緒に生活していたんです……でも高学年の頃に病気で入院して、そのまま……大魔導士になるんだって、修業をしていたんですよ……菖蒲はその影響で……。」

 菖蒲の言葉に桜子が続けた……。


(そうか……なくなった知り合いの名前を……チーム名はナナファイターズか……うまい事付けるなあ……確かに構成人数は7人だし、那奈さん……にも由来する。一寸西洋かぶれだがな……。)


「チーム名の重複はなく、このチーム名が皆様のものとして登録されました。」


 しばらく手続き業務でカウンターを離れていた受付嬢が、笑顔で戻って来た。長い髪の毛をポニーテールのように後ろで束ねて縛ってある、目鼻立ちがはっきりとしたなかなかの美人だ。イチはようやく受付嬢の顔を、認識できたことに、ほっと胸をなでおろしていた。


 拘束ともいえる菖蒲と桜子に、がっちりと挟まれた状態から解放されたのだ。


(うーん……何だったらずっと美少女たちに挟まれていたかったな……)

(ばばば……馬鹿を……いいいいうな……)


(イチは興奮すると思考でも噛むんだな……思考だったら普段は平気なんだから、落ち着いてゆっくりと話せば、普通に話すこともできるんじゃないのか?)


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