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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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説得

18.説得


(ありゃりゃ……断ってしまったか……受け取って置けよ……大した金額ではないと言っているだろ?)


「大したことはしていないだなんて……そんなことはないさ……弓の代用や模擬剣に盾……練習道具だって我々には考えもつかなかった。


 収穫が終わったブドウ棚にかまど用の薪をロープで一列に吊るし、左右に持ち上げて振り子のように揺らした中を歩いたり走ったりしながら抜ける訓練や、ばねを仕込んだ筒を大きな板に配置して、無作為にゴムボールを飛ばして、それをよけながら突進したり攻撃を仕掛ける訓練装置もすごい発想だね。


 直線的に飛ばして剣や槍などの接近戦用、放物線状に飛ばして弓や魔法などの遠隔戦用の区分もあるし、実戦で必要となる身のこなしが自然と身に着けることが出来た。


 さらに……魔法使いと僧侶・巫女の修業として発声練習とはや……早口……言葉か?あんなものが訓練になるとはね……そりゃあ確かに、はっきりとした正しい音韻を踏んで発生しなければ、確かな魔法効果は得られないと言われているのだが……あんな訓練方法があったとはな……うちの神官も驚いていた。


 その代金としてでもいい……子供たちは順に道具や手順を引き継いで訓練していけるからね。


 お前さんがここへ来てから半年にもなるが……その間お前さんが外出したことはあるか?用務係の給金で、毎晩どころか週に1回も飲みに出歩けるものではないと言われてしまいそうだが、週一どころか月一も出かけたことがないだろ?頼むから……この臨時収入を使って、楽しんできてほしい。


 酒は嫌いか……?煙草も……吸っているところを見たことがないな……女は……?あいにくうちには、お前さんに似合うような年ごろの娘はいなくてね……外に出て調達してきていただく以外はない。


 クエストに出発する前日以外は門限すらないのだし……お前さんはクエスト要員に志願したことはないから、午前様どころか……2,3日帰ってこないくらいも問題ないさ。

 ただし……帰ってきてくれないと困るがね。だから……楽しんできてくれ。


 これは……ここにいるみんなの気持ちだ……お前さん一人に子守りから炊事から雑用まで、全て押し付けて、俺たちはのうのうと暮らしているだなんて……世間体が悪いんだ……お願いだ。」

 そういってサーティンは頭を下げた。


(ほれ見ろ……周りからも色々と言われそうだから……イチばかり安い給金でこき使っているってな……サーティンだって困っているんだから、受け取ってやれよ!ブドウ園の棚にロープで薪を吊るして、それを揺らして避ける訓練は、お前が子供のころにやっていた身のこなしの訓練だろ?アイデア料を取っていいさ。)


(でも……サーティンヒルズは高い塀に囲まれているから、周りから見えるはずない。だから世間体は気にしなくてもいい。)


(世間体って……サーティンヒルズ内でだってあるわけだ……ほかにもたくさん冒険者たちがいるわけだからな。そりゃあ、これまでは持ち回り当番みたいなもんで共有部分の管理をしていたようだが、専任のイチが現れたわけだ。さらにイチには高校入学前の子供たちの基礎訓練もお願いしたわけだろ?


 そうして色々と道具を作ったりして、大きな成果を上げたわけだ……桜子たちが冒険者登録の試技で優秀な成績で合格したわけだからな。そのお礼なんだから、もらっておけばいいのさ。)


(だけど……早口言葉や座禅はどうやって考えたと答える?心の声に聞いたというか?)


(それもそうだな……孤児院の神父さんに早口言葉を教えてもらったとか……座禅は師匠の下での修業中に見て覚えたとかにしておけ。ほかの装置は信者の大工さんが訓練用具を作ってくれたんだろ?それを真似して作ってみたと、ありのまま答えておけばいいんじゃあないのか?)


「どどどっ道具……おおお俺たち……ここ孤児が……ぼっ冒険者……なっなりたい……いいい言った時……ししし信者……だだ大工さん……つつ作って……きっきてくれた。おっ俺が……かかか考えた……でででない。」

 イチはそう言って、小さく首を横に振った。


「にっニイが……はっ入って……すす少しして……ぜっゼロ達と……くく訓練……わわ分かれた……さっサンと……よよヨンは……なな何になるか……きっ決まって……なななかった……かかから……いっ色々……しょしょ職業……くく訓練……だだ大工さん……いい一緒……かか考えた。


 ははははっ発声練習と……はは早口……こっ言葉……おっ俺が……ここ言葉……おお遅いから……その……しし神父さん……かか考えた……ちち治療……つつ使った……。


 いっ色々な練習……たた試しながらくく訓練していた……しっ師匠に……でで弟子入りして……さっさらに修業して……ぼぼぼ冒険者……なななった。しゅしゅ集中力……たたた高める座禅……そっ……僧侶……せせせ……先輩……しゅ修業見て……覚えた。


 おおお……俺も……こっ子供たち……冒険者なる……てて手伝う……ああ当たり前……れれ礼金……もっもらう……おおおかしい。」


 イチは言われた通りに、昔修業時代に先輩たちの訓練見て覚えたり、周りの人が教えてくれたり作ったくれたりしたものだと説明した。そうしてあくまでも、礼金欲しさに指導したのではないと主張した。


「そうか……そうだろうな……木刀や木製の模擬弓は一般的だが、あれは中学を卒業したくらいの体が出来てからでないと、重すぎるから体の負担が大きく成長を止めてしまうと言われているからな。下手に振り回して大怪我されても困るし。


 だから……冒険者になる修行は一般的には中学を卒業してからと言われている。だが……お前さんはずいぶん若いのに……本当に若いのに……大した腕をしている。初めて会ったダンジョンで仕留めた獲物の山を見て、本当に神の使いかと思ったほどだ……まさに神がかっていた。


 孤児院育ちと聞いて厳しい境遇の中、幼いころから修業を積んでいたのではないかと……親におもちゃを買ってもらう代わりに木の枝で弓の修業……なあんて考えて子供たちをやったわけだ。修業の秘訣でも教えてくれないかと思ってね。まさに思い通りに事が進んで……本当に満足している。


 それで今度は……お前さんの番だ……。」


「ううう……うん……?おっ俺の……ばばば番……?」


「ああそうだ……いや……遊びに行ってこい……と言っていることではない。人生は一度きりだから、楽しまなければいけない。こんなところに閉じこもっていないで、外に出て楽しんでくるべきだ。


 さらに……それだけではなくて……だな……お前さんの冒険者としての腕を……このままにしてはおけない……。実にもったいない限りだ……お前さんならA級狙撃手いや、S級だって……狙撃手どころか、S級の弓道士にだってなれるだろう。こんなところの、用務係で埋もれさせたくはない。


 だから……ぜひともうちのチームに入ってくれ……。」


 子供たちを立派に育ててくれた礼をしたいサーティンは、イチに断られてもしつこく説得を重ね、再度その大柄な体を畳んで頭を下げた。


「いいいいや……ぼっ冒険者……ももも戻る……ささ誘い……こっこれまで……なな何度も……こここ断った……。ぼっ冒険者……ととと登録……なっ仲間たち……ちちち近く……きっ来たら……くく組合……れれ連絡……ももももらえるよう……とっ登録……しししてある……だっだけ。


 そっそれに……おっ俺は……びびB……くくクラス……ゆゆ弓使い……。えええAクラス……かか過大……ひょひょひょ評価……だ。」

 ところがイチの心はかたくなだ……サーティンがどれだけ願っても受け入れられることはなさそうだ。


「いや……そうではないね……お前さんが弓を放つ姿を見たことがないが……子供たちと一緒に訓練する様子を聞いて、おおよそ分かって来た。どうやらお前さんは弓使いのくせに、パーティでは前衛を担当していたようだね?素早く駆けだして、魔物との距離を詰めて撃つ練習をしていると聞いた。」


「あっああ……おっ俺……みみみ短い……ゆっ弓で……きき近距離攻撃……たた担当……ぜぜ前衛……だ……。ゆゆ弓……はは幅広……たた盾……かっ代わり……」


「そうだろう……素早く動き回っていればそれだけ照準もぶれて、命中精度は名人クラスでも50%くらいだろう。ところが……置き去りにされたダンジョンでは魔物たちに囲まれて自然と……向かってくる魔物たちを待ち受けて、射的する形に変わった。


 おかげで照準がぶれることなく命中精度は……なんと百%だ。全ての魔物の急所を的確に射抜いていた。


 あの射的評価だけで……冒険者組合はAクラスと評価したわけだ。しかも……恐らく連射……だろ?さらに動き回っての命中精度が、どれくらいか評価してA+どころかSも十分あり得て、下手をすると夢の……S+なんてえ驚異的な評価が出るかもしれないと、俺の話を聞いた組合の評価者ががぜん乗り気なんだ。」


(ほおー……すごいじゃあないか……夢……だとよ……)


「いいいや……だっだから……おっ俺は……ぼぼ冒険者……やややめた……。ゆゆ弓……ひょひょ評価……どどどうでも……いっいい。」


(頑固だなあ……兄妹同然の仲間に裏切られてダンジョン内に置き去り……生贄にされたことを、まだ気にしているのか?あれは……鬼畜と評された、お前の兄妹たちのせいだろ?普通じゃああり得んだろ?


 ここで冒険者としてやり直せばいいんじゃあないのか?お前の才能を、このままにしておくのが惜しいといってくれているんだ。こんなすごいこと、なかなかないと思うぞ!)


(いやだ……俺もう冒険者しない。ある程度金貯まったら……仲間たち探す……)


(はあ……そうだったな……お前の兄妹たち……探し出すんだったな……だからか……短期間だけじゃあ、かえって迷惑だろうからチームに入るのを遠慮しているのか?)


「お前さんが俺の誘いを断るのは……お前さんがまた仲間に裏切られることを危惧してのことだろ?また……仲間から裏切られて、ダンジョン内に置き去りにされてしまわないかと……それが怖いんだろ?」


「ばっ……ばかな……こと……を……おおお……おっ……おれ……は……。」


「無理をしなくてもいい……あんな経験をしたなら……冒険者廃業が当たり前だ。俺だってそうするかもしれない。だがお前さんの……あの狙撃の腕を……このまま消滅させてしまうのは……本当に惜しいんだ。


 だから……お前さんがチームリーダーの……お前さんのチームを……作ってはどうかな?菖蒲たちだって、ダンジョンに挑戦したがっているんだ。だけど……うちには未熟な冒険者の支えとなって面倒を見てやれるほどの腕前を持った奴はそうはいない。もう足のけがは治っているんだろ?」


「あっああ……おおおかげ……さっさまで……さささすが……じょじょ上級……しっ神官……けっ腱……つつ繋がって……すすすっかり……ちょ調子……いっいい。みみ右尻……やっやけど……ああ跡……ちょ一寸……つっ吊る……てて程度。」


「それならちょうどいい……今は……ダンジョン内の魔物たちの収穫期で大忙しで手が足りてない。


 いつもなら新卒冒険者なんてのは……せいぜい年に一人か2人だけだ……多くは冒険者登録時の試技でレベルに達せず、見習いとなるからね。だから……何処か余裕の出来たチームで一人の面倒ならなんとか見切れる。


 ところが今年は当たり年で……なんと6名……さすがに6チームも手練れで構成されたチームはない。恐らく宮殿にだってそこまで多くのチームは存在しないだろう。そうなるとどうなる……?今年は2人だけ仲間に入れて……あとの4人は来年……再来年……待ちかい?レベルに達しているのに……かわいそうだろ?


 さらに来年だって、中学を卒業する牡丹たちがいるぞ。彼女たちは3年待ちか?


 そこで考えたわけだ……どうせなら6人まとめて面倒を見させられるような凄腕を見つけようと……な。

 すぐに思い当たったねぇー……近くにいたからな……だから……頼むよ……。」

 サーティンは今度は膝を折って正座して、両手を合わせて拝むようにしてきた。


(これは真剣だぞ……だけど……イチの指導の腕前に期待しているってことだよなあ。確かに……中学出たばかりで冒険者の選考評価で1,2番の成績だったといっていたからな。あれは……子供たちも確かに頑張ったんだが……お手本になるイチの存在が大きかったといえるよな。


 子供たちの何倍もの負荷をかけながら平気な顔してお手本を示すもんだから、出来ませんとは言えないからな。特に男の子たちは……女の子たちの手前ということもあって必死だったよな。)


「いっいやだ……おおお俺は……にに2度と……だだだだダンジョン……はは入らない……。」

 それでもイチは大きく首を横に振った。


(ありゃりゃ……これだけ頼んでもダメか?短期間だけどいいのかって聞いてみるのも手だぞ?ある程度まで成長していれば、チームに入れてもいいといってくれるところも出てくるだろ。暫定的に引き受ければいいんじゃあないのか?)


「だからそれは……また裏切られるのが怖いからだろ?今度はどうだ……お前さんが裏切られることは絶対にありえない……なんせお前さんの指導がなければ、立ち行かないメンバーばかりだからね。


 お前さんが誰かを見限って置き去りにすることはあっても……お前さんが置き去りにされる心配はしなくてもいい……もちろんお前さんが……大切なメンバーをどんな事情があろうとも……見捨てるなんてぇことは絶対にしないことも承知している……信頼しているさ。


 だったら気持ちは楽だろ?これは……お前さんの心の……リハビリでもあるんだ……。

 お前さんが絶対的存在のチームの中で……少しは心を……癒して欲しいんだ……だから……。」


「いいい……いや……だだだだって……おおお……おっおれ……なななんか……」


「頼む……子供たちも……お前さんだったら、大喜びなんだ……。それに……こんな言い方はしたくはなかったが……今年……こんなに優秀な子供たちが出たのは、お前さんの教えのおかげ……いや……お前さんのせいだ。わかるか?ありえないほど多くの優秀な新冒険者たちが合格したが、その受け皿がない。


 我々には予想できなかったが、指導していたお前さんだったなら彼らの優秀さを見抜いていて、多くの合格者が出るから受け入れ態勢を整えておくよう、進言できたはずなんだ。それがなかったから、今になって大きな混乱を招いている。優秀な新人冒険者が多数いるというのに、その受け皿がないなんて大問題だろ?


 だから……その責任を取ってだな……ぜひともチームの面倒を見てくれ……いいな!」


(かかかっ……無茶苦茶な理屈だな……屁理屈もいいところだがどうする?イチのせいで優秀な新人冒険者たちが輩出されたが、準備していなかったから所属するチームがないと苦情の申し立てだ。


 だから言っただろ?子供たちの上達ぶりを、定期的にサーティンに報告しておいた方がいいって……預かっている身の上なんだからな。それなのにお前は、子供たちと一緒に訓練しているだけで、とりわけ指導しているわけではないと言って無視した。


 こんなに成長していますよって、お前の指導力を自慢しているみたいに取られるのが嫌だったんだろうが……。確かに子供たちは自ら考えて工夫していたし、進んで辛い訓練に耐えて上達したわけだからな。だけど……もしお前がいなかったなら、このような事態は起こりえなかったわけだ……これは納得できるな?


 その責任を取れと言われたら……断ることはできそうもない。桜子たちに……恨まれるぞぅ!)


「いっいや……そっその……でっでも……。」

 イチは必死で拒もうとするが、もう既にサーティンの策にはまっていた。


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