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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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入門者多数

16.入門者多数


「ふうん……矢先が震えていると狙いがうまくつけられない……ということね?だからしっかりと弓を構えられるように、毎日構えの訓練をするというわけかぁ。大変勉強になります!この訓練をこなしたら、次はどうするのですか?」


 今度は桜子が話しかけてきた。少しは緊張が解けてきた様子だ。


「あっああ……そそそそのうち……りょ両手首……おおお重し……つっつけて……。」

 イチはそう言いながら自分の両手首に巻いた、鉛棒入りのリストバンドを外して持たせてやった。


「ちょ……おおおもーい……こっこんなの両手首につけたまま、弓を持って構えていたのですか?そんけーい……ねっ……すっごく重いでしょ?」


「ほんとだ……すごーい……」

 イチから渡されたリストバンドを両手で受け止めた桜子は、あまりの重さによろけて見せた。そうして菖蒲にも渡しながらイチへ向けるその目は、羨望のまなざしだった。


「さささ最初……つつつつけて……いいいいけない……むっ無理する……よよよ良くない……。


 ききき君たち……まままだ……かっ体……ちちち小さい……ととと当面……ゆっ弓……ももも持つ……だけ……さささ最初……ゆっ弓……かかか代わり……わっ割竹……かかかから……はっ初めて……れっ練習用……しょしょ初級者用……ゆゆゆ弓……かかか変える。」


 イチはリストバンドの説明を交えながら、構えの訓練の目的を説明する。桜子たちは自分の弓を持っていなかったので、イチが近所の竹やぶに行って手ごろな竹を切り出してきて、1m位の長さに揃えてから節を抜いて半分に割り、バランスをとるよう上下に小さな鉛のおもりを貼りつけた弓の代用を準備しておき、弓代わりに持たせてやっていた。


 イチの修業時代は手ごろな重さとバランスの木の枝を、森の中を何時間もかけてようやく探して使っていたらしい。ずっと木の枝を探し続けるイチを見かねた心の声が、提案したものだ。


「ちゅっ中学……そそそ卒業……しししして……こここの……おっ重し……つつつける……すすす少し……ずつ……おおお重くして……いいいいく……。そっそれから……おおお俺は……さっさらに……ややや矢先……おおお重し……つっつけたまま……さささ30分……かかか構える。」


「さっ……30分……???」

 菖蒲が仰天して、飛び上がって少し引いた。


「ききききみ……たたたち……まっまだ……ととと当面……わわわ割竹……だだだけ……。お重し……ごごごゴム……ちゅちゅチューブ……くっ訓練……ずずっと……ずっと……さささ先……。」


『はいっ、分かりました。』

 少しほっとしたような笑みを見せ、2人とも姿勢を正し、直立して大声で答えた。ハキハキしていて、非常に気持ちがいい。



(ようやく訓練初日が終了したな……途中からは俺が促さなくても、自分からきちんと受け答えできるようになってきたぞ。言葉遣いもきちんとしていて、最初に会った時とは大違いだからかな。誰かに態度に関して注意でもされたのかな?おかげで気難しいイチ先生が……自発的に教え始めたというわけだ……。)


「お……俺は気難しくなんかない。」


(うん?そうか?命の恩人ともいえるサーティンに誘われて、ここへ来たのはいいが、冒険者チームに参加するのは断固として拒否……さらにここの誰とも言葉を交わさないよう、常に人がいないところいないところへ移動して、過ごしているじゃないか。こういうのを気難しい奴というんだ。


 ご機嫌とるのが難しいから、周りの人たちが態度に窮するんだよ。恐らくサーティンの奴が裏で手を引いているのは、間違いがないだろう。だが……お前が人に慣れるのにいい機会だ。


 精神年齢の幼いお前だから、子供たちであれば仲良くできるんじゃないかと考えたんだろうな……ズバリ的中というわけだ……サーティンの奴……なかなかやるなあ……。)


「おおお俺は……こっ子供……では……なななない……!」


(なんだよう……俺との会話は声に出すなって言っているだろ?まだその辺に桜子たちがいるかもしれん。一人だけで大声出しているところ見られたら、ますます変な奴と思われちまうぞ。


 お前は実年齢はともかく……精神は子供だよ……訓練の最中にリストバンドを外して、桜子たちに持たせて見せたろ?こんな重いものつけてても、何食わぬ顔をして訓練していてすごいっていう風の、羨望のまなざしを向けられたが、俺はこんなにすごいんだぞ……なんてアピールする時点で十分子供だよ。


 大人なら……かっこいいとは思えないから、子供には自分の頑張っている姿は見せようとしない。


 だがまあ……面白みに欠ける基礎動作の訓練で、その先にはもっと厳しい修業ともいえる過酷な訓練が待っていることを、知らしめておいたのは正解だった。竹棒くらい持って構えているのは簡単だわ……なんて感じて基礎訓練を疎かにしてしまう心配が、なくなっただろうからな。


 そういった意味では、イチをあの子たちの訓練の教官にしたのは正解と言えるだろう。そこまで考えているのであれば、サーティンというやつは……人を見る目があるというか……なかなか侮れん奴と言えるな……。)



 こうしてイチが教える桜子たちの基礎訓練が始まった。翌朝は女の子たち4人でやってきて、イチの飯炊きの手伝いをしてくれたので、ずいぶん早い時間から始めることが出来た。


 もちろんイチがいつも行っているように、飯炊きの火加減などしっかりと蒸気の上がり具合を見ながら調整するのだが、元々飯炊きは菖蒲たち子供の仕事だったようで、要領が分かっている分呑み込みは早かった。


 その分、桜子たちが学校へ行く時間まで朝練習に回すことが出来た。割竹は、まだ余っていたので、全員で基礎訓練を開始出来た。



 さらにその日の夕方には……


「イチ先生!……桜子たちだけに教えるのはずるい……です。どうして女だけしか……教え……ないのですか?……僕たちにも教えて……ください……!」


(おいおいおい……始まったよ……最初はかわいい女の子の世話をさせておいて……気持ちを緩ませておいてから、ごつい男か……と言っても子供だ……恐らく桜子たちと同じくらいだろうな。

 先発部隊が勝利したので、次鋒を送ってよこしたというわけか……)


 今度は数人の男の子たちもやってきていた。言葉使いからして恐らく、サーティンに言われてやってきたのであろう。


「だって……梅吉たちは……剣士か騎士にしか興味がないって言っていたでしょ?……イチ先生は弓の先生なのよ!……あなたたちも……弓に転向するの?」

 既に訓練を始めていた菖蒲が、手を休めて男子たちを睨みつける。


「いや……その……さっ……」


(どうする?まとめて指導すれば手間はさほど変わらないだろうが、剣士や騎士志望者となると、基礎訓練方法だって変わるんだろ?


 女の子ばかりに教えるのは……贔屓しているって思われて、ここサーティンヒルズでイチの立場が悪くなる恐れはあるが……弓以外は指導できないってはっきり言って、騎士や剣士志望など接近戦志望への指導は無理と、明確な線引きしてしまうかだな……)


(剣士も騎士も……先輩たち訓練見ていたから……覚えてる……だけど……道具ない……木刀や木の槍に盾もいる……防具だってないと怪我する……。)


(そうか……装備は考えるとして……ランニングや柔軟は一緒にできるし、じゃあ教えてやろう……)


「………………………………そっ……そうか……ももももし……よよよよかったら……ひひひ一通り……ききき基礎訓練……おおお覚えてる……けけけ剣……ややや槍……たたた盾……かかか格闘……ぎ……せせせ先輩たち……みっ見よう……みみ見まね……だだだだけど……。


 ききき基礎訓練……ままままで……いいい一緒……ででで出来る……よよよかったら……あああ明日から……いいい一緒に……れれれ練習……すっするか?」


「本当……ですか?やったぁー……じゃあ明日、早起きしてここへ来ます。」

「ううう運動……しっしやすい……かかか恰好……でな!」


『はいっ!』

 男の子たちは大喜びで、帰って行った。


「あっあの……あたしは……魔法使いを目指していました。けど……イチ先生は弓の先生だから……弓を習おうとしていましたけど……魔法の……訓練もできますか?」


 男の子たちと一緒にイチの言葉を聞いたおかっぱ頭の菖蒲は、少しもじもじしながら言いにくそうに尋ねて来た。


「……………………」

(どうした?弟と妹が魔術師と僧侶なんだろ?基礎訓練位知っていないのか?)


(弟と妹は修業させずに、すぐに冒険者登録したから……修業方法知らない。でも……多分呪文覚えたりするだけ……取り敢えず体力だから、一緒にランニングや柔軟……弓みたいに遠くの的をねらう練習でいいと……思う。一人で弓の訓練するときに、大工さんに作ってもらった装置覚えている。


 呪文は……正確に発声しないと魔法効果が得られないと聞いた。)


(そうか……じゃあ俺が、正確に素早く発音する画期的な練習方法を教えてやろう。)

(画期的?)

(ああ……任せておけ。)


「あっああ……ももも勿論……ここここっ攻撃……ままま魔法……かか回復……ままま魔法……ききき基礎訓練……おおお同じ……いいい一緒に……ややややろう。」


「あたしは……今まで通りに……弓の訓練をお願いします……。この子もですよ。」

 桜子は中学に入ったばかりだろうか、まだ頬が赤い女の子の手を引いて連れてきた。


「藤子です……。スナイパーを……目指しています。」

 女の子は、礼儀正しくお辞儀した。


「牡丹です……。回復系魔法の……巫女さんを目指しています。」

 さらに菖蒲に手を引かれてきた女の子……結局4人来ていたうち弓を本気で習いたかったのは、半分の2人だけだったようだ。後の2人は魔法系志望だ。



 夜稽古が終わって遅めの夕食を取り、食器洗いを菖蒲たちに手伝ってもらい早めに済ませると、風呂に入って早々に寝た。夜明け前に起きたイチは、またも竹林に出向き大量の竹を切り出してきた。


(どどど……どうする?)


(まずは、竹刀を作ろう。木を削って木刀を作ってもいいが、それこそきちんとした防具がなければ、当たったら危険だからな。竹刀だったら、簡単な防具でも行けるかもしれない。盾だって、竹を割って作れるだろうからな。槍もそうだ……竹林が近くにあってよかったなあ)


(分った……まずはどうやる?)

(そうだな……長さは……節を抜いて……)


 竹を1.5m程の長さに切って節を抜き、縦割りして6等分した短冊をこしらえ、両端内面に切れ込みを入れて置き、竹の内径サイズに6角形に切った鉄板を切れ込みに刺してそれらを再度丸くまとめ、両端と真ん中をきつく縛り、持ち手部分と反対側先端になめした牛系魔物の皮を巻き、手製の竹刀を作成。


 さらに短冊を今度は板状に並べ、横に渡した竹の短冊をくぎ打ちして固定し、あぶって曲げた短冊を中心部分に取り付け持ち手とし、これまた手製の盾を作った。そうして竹槍は、2mの竹棒の先に綿布で綿をくるんみ、持ち手部分はなめし皮を巻き付けて作成。


(たた確かに……これなら当たっても、それほど痛くない……これはいい……)


(そうだろ?俺のいた世界じゃあ剣道と言えば竹刀だった。だけどこれだって、熟練の剣士がものすごいスピードで振り下ろせば大怪我をするぞ。最初は正確な構えの練習と素振りだけさせておけばいいだろうから、追々打ち込み稽古に備えて防具も作って行こう。)


(分った……)


 ナイフで薄く削いだ竹ひごを編んで籠を作り兜に、体に合わせて曲線状に連ねた竹の短冊で胴を作るつもりでいたが、さすがにそこまでは時間がなかった。それでも十分な支度はできていた。



「でででは……まままず……じゅじゅ柔軟……たた体操……そそれから……ららランニング……にっ2キロ。」


『2キロー……』


 人数が増えると、中には走るのが不得意な子もいるようで、全員軽々と……というわけにはいかなかったが、ひーひー言いながらも、何とか無事走り終えた。


 イチの修業時代は毎日朝晩5キロのランニングだったようで、様子を見ながら徐々に距離を伸ばしていくつもりでいた。



「ららランニング……おお終わって……しょしょ職業……ごっごと……ききき基礎……くくく訓練……ちちち違う……ままままずは……けけけ剣士……。」


「はぁはぁ……はっはい……俺は剣士を目指してます。」「俺も……剣士がいいです……。」「僕もー……」

 3人の男の子が手を上げて前に進み出た。


「じ……じゃあ……こっこれで……ちゅちゅ中段のかかか構え……訓練……そっそれから……すっ……素振り……くくく訓練……ささ最初……ひゃっ百回。」


 イチは3人に手製の竹刀を手渡し、自分でも持ち手を両手でもって中段に構え、すり足で半歩下がってから背中に竹刀がつくほど大きく振りかぶり、前に一歩踏み込んで振り下ろす素振りをやって見せて、訓練を開始させた。


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