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リモート  作者: 飛鳥 友
第1章 鬼畜と呼ばれたパーティにさえも見捨てられた超人見知りのこいつは、どうやって生きていくのだろうか?
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孤独な闘い

異世界アクション活劇ですが、転生というか今はやりのリモート(行き詰って、検討しているうちに時期を逃した感は否めませんが……)ものです。どのような展開になるのか、先行きに関して見通しは全くありませんが、見切り発車的に、まあやってみます。応援よろしくお願いいたします。

1.孤独な闘い


『うぉぉーん……』『ぐぎゃおぅ……』『がうー』

「ひいっ……」


 男は逃げていた。暗く湿ったダンジョンの洞窟内を、遠くから聞こえてくる魔物たちの咆哮や嘶きから、ひたすら逃げていた。痛い足を引きずり、時には洞窟地面から突き出た岩や石筍に足を取られそうになりながら……転んで頭から地面に突っ込んでもすぐに起き上がり、また駆け出す……。


 動いていなければ終わり……それは全ての終局……死を意味するのだ。足の痛みはとうに限界を超えていたが、生きたいと願う気持ちが脳内にアドレナリンを分泌し、体の活性化とともに痛みを和らげていた。


 どこまでも続く果てしない洞窟内を……当てもなく逃げ回る……どこへ逃げればいい?どれだけ逃げ回っていれば?どちらの方向が正解?……生き延びる術を模索しようとするが、疑問符がつくたびに思考は停止していた。そう……彼はこのダンジョンの構造も知らなければ、今がどの辺りかすらわからなかった。


(おい……このままだと死ぬぞ。)


 不意に声がして、男はきょろきょろと周りを見渡す。もしかすると仲間が助けに来てくれたのかもしれない。

必死で薄暗い洞窟内を目を凝らして動く影がないか見回すが、視界内には魔物を含めて動くものはいないようだ。魔物たちは視覚の影から様子を伺い、獲物が動けなくなるのを待ちわびているのだ。


 動いてさえいれば、こちらから手を出そうとしない限り襲い掛かってくることは稀だ……魔物たちと同等かそれ以上の体の大きさがあり武器を持つ人間を、魔物たちはむやみやたらと襲い掛かってくることはない。

 傷ついて迷路のように複雑に入り組んだ洞窟内で力尽き、動けなくなる瞬間をじっと待ちわびているのだ。


 下手に突っ込んでいって返り討ちに会うことよりも、一定間隔で追い続け獲物の生き延びようとする欲求が尽きる時を待った方が、より確実で安全に獲物にありつけるのだ。

 ただの空耳であったことに少し気持ちが萎えかけたが、それでも男は足を引きずり歩き出した。


(ふうん……動いてさえいれば、活発に動いていれば一人だけでもそうそう襲い掛かられることはない訳ね。


 だが……お前の足……固定どころか止血もしていないし、ごつごつした洞窟地面に当たってあらぬ方へ曲がろうとしたりして、足首ごと失いかねないぞ。さっきから何度もちぎれそうになっていたからな。

 一寸でも止まって手当てをしたほうがいい。)


「てて手当?……よよヨンがいない……むむ無理……」


 またもや男に呼び掛ける声が聞こえてきて、すぐに立ち止まって左右と背後に加え、洞窟天井まで目を凝らして見回すが、やはり動く影は見当たらない……男は少し肩を落とし、それでも返事をつぶやきながら再び歩き出そうとした。


 どういうことかと自分に問いかけてみたが、先ほどの呼びかけはイチの頭の中に直接声が響いて来た。なんということだろうか……ここまでのあまりの恐怖のために気がふれてしまったのだろうか……いや……意識ははっきりとしているし自分の名前だって分る。気がふれているのではない……と思いたい……。


 きっと絶望的な状況下で意識を失いかけ、白昼夢を見ていたのだろう……と、イチは気を取り直した。


(おお……話しかけようとすると、反応するんだな。さっきから何度も手足を動かそうと試みていたんだが、なんにもできなかった……俺の方こそ、これは夢だとずっと思っていたさ、何かに追われる恐怖の夢は……罪悪感や欲求不満の表れ……とか言うからな。


 俺の姿は見えないはずだ……理由は分からないが俺はお前の中にいる。お前の目を通して周りを見られるし、お前の耳を通して音も聞こえる。そうして手や足の裏の感触や痛み迄……伝わってきている。


 ヨンというのはお前の弟のことだな?僧侶なのか……回復系の魔法でけがの治療をしてくれる……そいつがいないから、お前のけがはどうしようもない……と思っているな?


 だが……止血ぐらいはできるだろ?絆創膏ぐらい持っていないのか?いや……絆創膏程度じゃあダメか。大判の絆創膏……でもダメだろうな。最近は血や体液を含むと密着性が高まり治癒力を上げるような……いやいや……タオルとか……長い布切れなんか持っていないか?なければ今着ているシャツを切り裂いて……)


「ふうー……」

 深呼吸して少し息を整えると、男は再び駆け出した。


(おいおいおい……無視か?聞こえないふりか?このままではすぐに出血多量で動けなくなってしまうぞ!)


「ううううるさい……だだ黙れ!だだダンジョン……けっ怪我しても……うう動けば……まま魔物……おお襲われない。だだだから……とっともかく……うう動いて……にに逃げ回る。


 そそそれが……いい生き延びる……すすす……すっ術……。」

 一旦立ち止まった男は、またもや小走りに駆けだした。


(ああそうなんだな?魔物の縄張りに入ったり敵意を示さない限り、とりあえず動いて隙を見せないでいれば、魔物は遠巻きにするだけで襲ってこないんだな?冒険者登録した初級の講習会で習ったんだったな?お前が頭の中で考えると、俺に伝わってきたよ。


 ところがお前の体を動かすことはできなかった……お前の体の中に入り込んだのはいいが、お前自身はどうやらそのままで、俺の意識だけが入り込んで高みの見物をしているといった感じだ。寄生しようとして、失敗でもしたのかなあ……俺はそういったパラサイト的な……???


 そうだ……お前が窮地に立たされて……召喚魔法なんて使わなかったか?それで俺が呼び出された……みたいな……?だったらお前にも呼び出した責任が……)


「しょしょしょ……しょう……か……ん……?」

 男が立ち止まる……どうやら言葉を発する際には立ち止まらざるを得ない様子だ。


(うーん……召喚の召の字も知らないみたいだな……そうなるとお前ではない何者かか……。いや……この世界に召喚魔法なんてのがあるかどうかも怪しいもんだわな……。


 それでもお前が傷ついたら痛みを感じているのだから、死んじまったら俺だって一緒に死んでしまうんじゃないかな?なんせ理由は分からんが、間違いなく俺はお前の中にいるのだろうからな……。


 その俺を助けるためと思ってくれてもいい。こんな……訳の分からないところに放り込まれて、何も分からないままでは死にたくはない。せめて今この世界の様子を把握して、どうして俺がこの世界へやって来たのか、調べて理解してから死にたい。なんだったら元の世界へ戻る手段を、見つけたい。


 だから……頼むよ……俺を助けるためだと思って……傷の手当てをしてくれ……)


「だだだから……よよヨンいない……てっ手当て……ででできない……」


(手当てなんてやったことないからしませんって……お前あれだろ?困っている姿を見せつけて、誰かが助けてくれるまで、そこら中を歩き回って声かけてくれるのを待つタイプだろ?


 街中ならまだしも、今この状況だと間違いなく後1時間もしないうちに、お前はその辺でぶっ倒れて魔物たちに寄ってたかって食いちぎられるのがおちだ。


 とにかく……明りはないのか?目が慣れてきたから洞窟の壁の位置位は何とか分かるが暗すぎだ。傷の状態も分からない。ジンジンとする痛みが左足と右の尻から伝わってきているけどな……明りが欲しい。)


「ひひ火種……なっないけど……ひひ火打石……あああある……」


(火打石?それがあれば火を熾せるのか?すぐに火をつけてくれ。)


「わわ分かった……」

 男は何が始まるのかわからなかったが、とりあえずこのうるさい奴のいう通りにしてみることにした。冒険者の袋から松明用の木の棒と火打石及び、着火用の乾いた藁を取り出して石を打ち、藁についた火種を息を吹きかけながら松明に移した。


(おお……ちゃんと明りも持っているんじゃないか……どうして使おうとしなかった?ああそうか……いつもなら仲間たちが松明もって先導してくれるから……お前はただついて歩いていればよかったんだな?


 魔物たちとの戦闘時には、明かりを持って動くのが難しいから、壁に立てかけた松明の明かりだけで戦うんだな?だからと言って……お前だって道具を持っているのに……どうして使おうとしなかった?


 まあいい……ともかくここはまずいな……広すぎる……周り中を魔物たちに囲まれたら助からない。)


 松明の明かりに照らされた空間は天井までの高さが5m以上ありそうに感じ、洞窟の幅も7,8mはありそうで、両側へ伸びる洞窟は延々と続き先が見えないほどだ……。


「おお恐らく……こっここ……めめメイン……るるルートででも……ちゅ中層の……かか回廊……。

 ぶぶ分岐……たた沢山……でっでて……ささ最下層……ぼぼボスステージ……めめ目指す……」


(ああそうか……ここで立ち止まるのはまずいな。ほれ……右前方に分岐の洞窟が見えるから、そこへ入れ。まずは傷の様子を見よう。こんなに痛いのは、どんだけひどい傷だよ……経験したことないぞ。)

 男は言われるとおりに痛い足を引きずりながら、それでも小走りで分岐の中へ入って行った。


(よし……ちょっとでも影に入れればよし……松明をまわして……こりゃひどいな……かなり鋭く一気に切ったんだろうな……傷口がキレイで……出血もさほどでもなかったんだろう。


 だがお前が痛いのに無理して手当てもせずに走り回ったおかげで、傷は開くは足首がふらふらだから足の裏だけではなく側面が地面についたりして……足首の傷ばかりか左足全体がひどいことになっている。

 よくこんなんであんな勢いで……走れたものだ……手で触るな!ばい菌が入るぞ……)


「どど……どうする?どどうすれば……?」


(ああ……時代劇とかでひどい出血の場合は、焼いて止血するなんてのを見たことがあるが……松明の炎なんかでも出来るのかな?ドラマじゃあるまいしな……生身の体じゃあやらん方がいいか……。


 やり方なら教えてやるから……と言っても俺だってちょっと指先切った時に、キズバン貼ったことがある程度だけど……。テレビドラマなんかの知識で、深い傷なんかの時には縛って止血していたのも見たな。

 まずは水で傷口を洗え。見ず持ってるんだろ?ロープとかないか?後さっきも言ったがタオルか長い布……)


「たたタオル?……ははハンカチ……いっいつも……ささサン……もっ持たせて……くくれる……。

 ほほ他に……さささらし……ひっ紐……ははハサミ……ふっ袋の中……」


 男は着物の懐から竹筒を取り出すと、小さな木の栓を抜いて流れ出る水に傷口をさらし、タオルとハンカチを取り出し、さらに腰につけた冒険者の袋を持ち上げた。


(あるんじゃねえかよ、もったいぶりやがって……さらしとか紐なんて、間違いなく応急処置用だろうよ……まあいい……まずは紐を取り出して、左脛の真ん中より少し下の位置に、ぎゅっと強く巻いて縛れ。)

 男は言われるがままに袋から長い紐を取り出し、足首よりも少し上の位置に巻いてきつく縛った。


「いいい……い痛い……」


(痛いのは俺にだって伝わってきているよ!痛みがあるのは生きている証拠……というか、左足の感覚自体は失えていない証拠だ。助かる可能性がありそうだな……とりあえず急ぎだから、ハンカチは使っていない様できれいだから傷口に当ててから、タオルで一巻きして固く縛れ。


 それからさらしを50センチくらいの長さに切って、土踏まずの部分で足を一周させてから、両端を伸ばして足首の後ろ側へ回して足首を一周半させてから前でしっかり結べ。そうすれば不安定な足首も固定できるだろう。保健体育の授業で、応急処置の手順自体は習ったからな……やったことはなかったけど……)


「わ……・分かった……」

 男は言われた通りにタオルを傷口に巻き、さらしで足首を固定した。


(ようし……これで少しはもつだろう……ここじゃあ後ろは素通しだから、前後から挟み撃ちにされる恐れがあるから、いつまでもいるのはまずい。もう少し先へ進んで、もっと狭くて行き止まりの分岐を探そう。)


「ば……馬鹿な……だだダンジョン内……はっはぐれたら……うう動き回る……きっ基本……。

 そそそのうち……でっ出口……ちち近づく……に逃げられる……」


(ああそうだろうな……どこかでじっとしていたって、やがては血の匂いを嗅ぎつけて魔物たちは追ってくるだろうし、隠れていたって誰も助けが来なければ、そのまま野垂れ死にだ。


 だがお前だって感じているんだろう?今入った分岐の後方……広い回廊からだけじゃあなく……分岐の前からも魔物たちの咆哮が聞こえてきているじゃないか。間違いなく挟み撃ちにされているぞ。


 どれだけの魔物がいるか知らんが……お前ひとりだけで魔物の包囲網を突き破って逃げおおせる自信があるのか?武器はあるのか?戦う武器は?)


「ゆゆ弓……あっある……やや矢だって……ああある……」


(そうか……矢はまだ十分ありそうだな?取り敢えず、今挟み撃ちにされている状況を何とかしなければならない。お前がいくら優れた弓使いでも……前後に同時に矢は放てないだろう?)


「そそれは……む……無理だ……」


(だったら、この先の分岐を探って、行き止まりになった分岐を見つけてそこで籠城するしか方法はないだろ?

 今襲い掛かってきている群れを片付けてから、出口を探そう。)


「わわ……分かった……」


 男は頷くと分岐の奥へ歩き出した。高さも幅も2.5m程度の小さな分岐を早足で歩き、分岐を見つける度に松明で奥を照らし、先を伺っていく。先ほど手当てをしたので、痛みはあるが左足もさほど辛くはなくなってきていた。


(急げ……魔物たちの足音が聞こえる距離にまで詰め寄られているぞ。見つかったら背を向けている側の魔物から、襲い掛かってくるかもしれん……)


『グルルルル!』『グルルル!』


(まずい、追いつかれたようだぞ)

 分岐の洞窟前後から、松明の炎を反射する無数の目が睨みつけているのがはっきりと分かった。


(急げ!目の前の分岐へ飛び込むんだ!かなり狭いから一度には襲い掛かってこられないだろう。)


 男が飛び込んだ先は、高さ1.5mほどで幅が2mもない狭い分岐だった。分岐手前に松明を置いて、頭からスライディングのようにして飛び込んでイチは、すぐさま弓を構えて矢袋から矢を取り出して構えた。


「グギャオギャオ!……キャンっ!」


 男の背後を追うようにして飛び込んできた狼系魔物を一撃で葬ると、後続の魔物たちの動きが凍り付いたようにして止まる……獲物はまだまだ元気であることを認識した群れは、一旦攻撃を取りやめた。


 魔物たちが尻込みはじめ、ほっと一息ついて男が周りを見回すと、飛び込んだ分岐は奥行きが4mほどの行き止まり分岐だった。これなら背後を突かれる心配はない……。


(ラッキーだったな……中を確かめずに突っ込んだが、目当ての分岐だった。とりあえずここで少しやり過ごそう。なあに……奴らだって手ごわいと分かれば、いつまでも追おうとはせずに、あきらめるだろう。腹が減って来れば、いつもの餌場へ向かうんじゃあないかな?) 

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