中学3年編①
中学編はプロローグ的な意味で主要人物を書こうと思います。
喉がカラカラになりながらも額に流れる汗は一向に止まってくれない。
俺は今どこにいる?
全国大会の決勝で最終回で1ー1の同点で1アウト1・3塁のサヨナラのピンチで内野手がマウンドに集まっている。
俺は今なにをしている?
うだるような暑さの中でもショートしそうになる頭を叱咤して俺は思考をフル回転させて打席に立っているバッターのデータを洗いだしながら今日の配球を思い出していた。
どうすればいいのかと考えているとマウンドにいる中心人物が言う。
「ピンチでもなんでもないだろ?俺が三振で抑えれば問題ない訳だし。」
皆が一様に呆れながらも投手であり『体』の天才幼馴染である夏原 貴史はニカッと笑った。
「それでリードは俺に丸投げと。」
「そりゃ、俺は頭が悪いからな!仕方ない!圭吾に任せる!」
俺が辟易しながら言うが貴史はムダにドヤッている。周りは頑張れと言う哀れんだ目を向けてくる。
(その信頼はホントどこからくるんだよ。)
貴史は俺とバッテリーを組んでる時は一度も首を横に振ったことはない。Uー15の試合ではたまにみたことはあるが俺の時はどういう訳か壊れた人形の様に縦にしか振らない。
「わかったよ。お前は投げることに集中してろ。」
正直、難問だ。なんせバッターの辻くんは強打者というよりは好打者だ。なにより地区大会・地方大会・全国大会を通して三振はたったの一つしかしていない。
打ち取れという注文ならやりようはあったが三振となると最後のピースが埋まらない。
(仕方ない。少し賭けにでるか。)
「貴史、スプリットを使うぞ。」
俺と貴史以外はなにそれ?って顔をしているが今は無視させてもらう。
「いいのか?高校まで使わないって言ってたのに。」
「現状の持ち球だと辻くんは対応してくると思う。データにないボールを投げるしか三振は取れない。」
「わかった。そうしよう。」
「なんで即決できるんだよ…」
「圭吾が必要だっていうんならそうなんだろ?」
ここまで信頼が厚いともはや押し付けでしかないような気がしてきた。
まぁこいつとバッテリーを組めるのも今日で最後だから付き合ってやろう。
「ああ、これで最後のピースも埋まった。やってやろうぜ。」
「「「「待てぇい」」」」
「高校で投げさせようと思って覚えさせたボールだ。以上。」
「「「「……………」」」」
黙ってくれた。これ以上ないくらい簡潔に説明できて不思議な満足感に満たされた。
だが心が一つになることはなかったようで
「後で殴る。」
「後で説教。」
「ラーメン奢れ。」
「彼女欲しい。」
厳しいご意見を言われたが最後は違うだろうと突っ込みたいがそろそろ再開しないと主審の方の殺気で殺されそうだ。
おそらく最後になるだろう円陣を終え各々が自分のポジションに戻っていく。
結果だけで言えば俺たちは負けた。
辻くんは追い込んでから最後のスプリットがはまり三振に取れたが次の強打者である加藤くんにヒットを打たれてしまった。
みんなは惜敗のなか泣いていたが俺はなぜか涙がでてこなかった。
悔しい気持ちもある。
やるせない気持ちもある。
勝ちたかった気持ちもある。
でも涙がでてこない。
理由なんてわかっている。
これは俺の心に染み付いている呪いのようなものだ。
そこにはきっと悪意とか貶めたいとかの負の感情とでも言うべきものはなかっただろう。更に言えば発破をかけたくてつい口から出てしまっただけかもしれない。
でも俺はいつでも四人の天才たちの比較対象にされ続けた。
まだ周囲の人間が四人の天才たちが『本物』の天才だと認識されていなかった時ならよかった。
誰でも1度は経験があるのではないだろうか?
『あの子のように◯◯頑張りなさい』
と、言われたことが
小さいときはまだよかった。比較対象が
『知』対 俺・『体』
『体』対 俺・『知』
という構図が成り立っていたからだ。
しかし天才たちが頭角を表し出したら周囲の認識もおのずと変わってくる。
『知』の天才たちは当然ながら勉学ができてしまう。
『体』の天才たちは当然ながら運動ができてしまう。
天才というだけあってできるというlevelも当たり前の様に全国・世界基準と遜色ないものになってしまう。
そうなってくると
運動ができなくても賢いからしなくても大丈夫。
勉強ができなくてもアスリートになれば大丈夫。
『できなくてもいい』という免罪符を天才たちは手にすることができる。
それで終わってくれたらよかったのだが周囲の人間たちも当然ながら凡才なのだから自分たちの基準に合わせた比較対象が欲しかったのだろう。
『知』対 俺
『体』対 俺
という構図にすり変わっていた。
それまではよかった。まだ周囲から自分が認識されているという自負に似たようなものがあったからだ。
しかしそんなことは長く続くことはなかった。
天才たちはその才能を遺憾無く発揮していくものだから凡才の俺と比較することさえもバカバカしくなったのだろう。
俺は比較対象の相手にもされなくなった。
そうなると誰も自分を見てくれない。周囲はもう天才たちしか目に写らなくなった。
最初はそれでよかった。かってに比較対象にされて悪意のない悪意の言葉をかけられることも惨めな思いもせずにすんでいることに胸を撫で下ろした。
しかし今度は俺が耐えられなかった。所詮は子供のメンタルなのだから誰からも相手にされない現実に屈してしまった。
でも自分は凡才で天才たちの様な才能には恵まれなかった。
だからただひたすらに努力した。寝る間を惜しんで勉強をやり誰よりも早く起床してトレーニングをやり始めた。
その時は気付けなかった。これが報われることがあることに……
評価してもらえるようにがんばります。