古の捕食者
遅くなりました、たいへん申し訳ありません。
言い訳ですが、さいきん猛暑で頭が働きません。
現れた巨大な恐竜は頭から尻尾の先までの長さが、たぶん十数メートル。背はおじさんの倍はありそうだから、ウチの4倍ぐらいか。
さらに体重もかなりあるらしく、ゆっくりと歩くだけでウチが寝転んでる所まで小さな振動が伝わってくる。
そんな巨大恐竜が周囲を見渡す。
おじさんが隠したんだから大丈夫。とは思いつつも見つからないかと緊張して鳥肌が立つ。
巨大恐竜が大き過ぎて、さっきの広場が小さく見える。
その姿は太い二本の後ろ足で歩き、大きな頭と小さな前足のアンバランスな感じが印象的だ。
先に出てきた二頭を太く大きくした感じで、こっちにも頭の先から尻尾にかけてトゲトゲした羽毛が生えている。
小さい恐竜は背の高さが2メートルぐらい、大きい方が3メートルぐらいだけど、巨大恐竜の迫力は二頭の数倍だ。
ただ映画で見ていた恐竜と違って牙はむき出しじゃないから、よりトカゲっぽい顔立ちだと思う。
グフッ、グフッ。
巨大恐竜が鼻を鳴らすと、先に来た恐竜の大きい方が白大狼の肉塊を鼻先で押して転がす。
巨大恐竜は頭を下げて転がってきた肉塊の匂いを嗅ぐ。
すると慌てて頭を上げてブルブルと頭を振り、ブフッブフッ鼻から息を吹き出す。
グググッ。
巨大恐竜は不機嫌そうに喉を鳴らすと、肉塊を片方の後ろ足で踏みつける。
そして肉塊に噛み付き、いちど咥え直すと首を引いて肉塊を引き千切る。
ブチブチ、ボキボキと音が聞こえ腰のあたりで肉塊が2つになる。
勢いが強すぎたせいか、中にあった肉片や液体が周囲に飛び散る。
すぐに、笹薮に隠れて様子をうかがうウチの所にまで鉄臭い匂いが届く。
その直後に強い悪臭を感じて顔をしかめる。
動物園というか、動物がたくさんいる場所特有の匂いをさらに強くした刺激臭だ。
ウチは少し吐き気を感じて鼻を摘む。
ググッグググッグ。
巨大恐竜が何かを伝えるように喉を鳴らす。
千切れた肉塊に噛み付こうとしてた小さい方の恐竜は動きを止めて、巨大恐竜の方を見るとギューンっと短く鳴いて、笹薮の中に戻って行く。
もう一頭の大きい方もすぐに後を追った。
幸いウチラの居る場所ではなく、恐竜達が出て来たほうだ。
最初に大狼が出てきた方向を北と仮定すると、ウチラは今、広場を挟んで反対の南側に隠れている。
恐竜達が出てきたのはウチから見て右手、東の方向になる。
最後に残った巨大恐竜も、もう一度周囲を見回した後、ゆっくりと東の森の中へ帰って行く。
ヤバそうな恐竜が居なくなってホッとする。
けど、しばらく待ってもおじさんは動く気配がない。
ウチはおじさんの方を見てどうしたのかと目で訴える。
声を出さなかったのは、おじさんがまだ警戒してると分かったからだ。
おじさんは誰も居なくなった広場をしばらく見ていたけど、ウチの視線に気がついて手で押し止める様な仕草をした。
まだ待てって事らしい。
何かあるんだろうか?
ウチは恐竜達が居なくなった森を注意しながら眺める・・・・・・けどなんでじっとしているのか分からない。
さらに、もういいんじゃない?と思うだけの時間じっとしていたけど何も起きない。
いいかげん毛皮に包まって寝ころんでるのも、鼻をずっと摘んでるのも嫌になって、もう一度おじさんの方を見る。
おじさんは相変わらずジッと広場をみている。
全然動く気配がない。
しょうがないのでおじさんを見てる事にする。
猪マスクみたいな顔、耳がピンと立ってる。それが時折ピコッと向きを変える。片方が恐竜が消えた東に固定され、もう片方は別の方を向く。
ウチが話しかけようと口を開くと、分厚い爪の生えた太い指を一本立てて口の前で止めた。
ウチは不貞腐されたように頬を膨らませて、そっぽ向くように広場へ向き直る。
不満ですよ。とアピールするためだけど、ウチに興味が無くて見向きもしないおじさんにはあんまり意味がないかも。
と、そこで初めて気がついた。
ウチラとは反対の、仮定北側の笹モドキが揺れている。
たぶん一匹じゃない。
そして黒大狼の時みたいにゆっくり迫ってくる訳でもない。
かなりの速度でどんどん近づき、ウチの耳にも笹モドキの葉音がザザザッと聞こえ始めると、笹薮から三匹の大狼が広場に跳び出す。
大きさは最初に襲ってきた黒と白の大狼より小さいか同じ位、茶色と灰色の毛が混ざった毛並みで、深い茶色の目をしている。
三匹は何度か鼻を動かした後、クシャミをする様に鼻から息を吹き出した。
ウチは大狼達が出てきた北側の笹モドキがまだ揺れてることに気が付く。
揺れは静かにゆっくりと広場を時計回りに迂回する様に移動している。
きっと白大狼の時も黒大狼を囮にしてああやって回り込んだんだ。
その間、広場に出た三匹は一匹がまだ周囲を警戒して、残りの二匹が千切られた肉塊の所に駆け寄っていた。
鼻を近づけ匂いを確認し、一匹がクゥーンっと鳴いた。
途端、笹薮から二頭の恐竜が躍り出る。
口を大きく開け、肉塊のところに居た大狼二匹に咬み付く。
小さい方は大狼の首元に、大きい方は大狼の背中にその鋭い牙を突き立てる。
一本一本が刃物の様な牙で攻撃された大狼はキャンッと、高く鳴く。
咬まれた背中からはゴキッと鈍い音が聞こえた。
ガァ!
周囲を警戒していた一匹が、吠えながら駆け出す。
首に咬み付く小さい恐竜の尻尾に噛み付きグルルっと低くく唸る。
ギュワァ
小さい恐竜は、叫ぶように喉を鳴らし怯む。
首に咬み付かれた大狼は、そのスキを逃さず、強引に頭を振ってなんとか恐竜の口から逃れようとする。
そのタイミングに呼応するように、笹薮から五匹の大狼が飛び出し、小さい恐竜目がけて上から殺到する。
ところが一匹が空中で不自然に静止する。
その体が何かに押し潰される様に歪にゆがむ。
ゴグッという砕ける様な音とともに体から赤い液体が吹き出す。
その液体は空中を伝い何かの形が現れる。
何もない空間に赤く浮かび上がったのは巨大なトカゲの顔。
透明な巨大恐竜の目が白く光ったように見えた。次の瞬間、何もないと思っていた景色が歪み巨大恐竜が姿を表す。
赤く染まった口元には一匹の大狼が咥えられている。
それを小さい恐竜に群がり引き倒そうとする大狼めがけて首を振って投げつける。
ボールを横から投げる様な靭やかな動きだ。
大狼達は小さい恐竜から飛び退き、避けようとしたけど、一匹が避けきれずに巻き込まれる。
ぶつけられた大狼は二匹で縺れて近くの木に激突し、ズンッという音が響く。
飛び退いた大狼達はグルルッと、牙を見せて低く唸りだす。
小さい方の恐竜は尻尾と背中に傷を負ったみたいだけど、痛そうな素振りはみせない。
その間に背中に咬み付いた大きい方の恐竜は、大狼を一度放し改めて頭にかぶり付いてから引き抜き、巨大恐竜の方に移動する。
巨大恐竜に投げ飛ばされた二匹は動く気配がない。
恐竜三頭と大狼五匹はお互いに睨み合う。
恐竜は喉を鳴らし、大狼は牙をむき出して唸る。
両者はまさに一触即発、いつ争いが始まってもおかしくない。
緊迫した空気が伝わる中、突然何かがウチの肩に触れ、ビクッと全身が固まる。
恐る恐る振り向けば、おじさんが肩から手を放し、手招きした。
声かけてくれればいいじゃん!その危険は分かってても、そうボヤキたくなるのは止められない。
歩きにくくなったらどうするのっと心の中だけで問い詰める。
そんなウチの気持なんてお構いなしで、おじさんは広場に背を向け仮定南の奥へ移動を始める。
低い姿勢のまま、這う様に移動してるのにかなり早い。
しかも、いつの間にか黒い肉塊にロープを巻いて、腰のベルト2箇所につないである。
それを全く重さを感じさせずに引っ張っていく。
しかも頭の上の笹の葉がほとんど揺れないのだから、もう意味不明だ。
ウチは恐竜と大狼の事も気になったけど、急いでおじさんを追いかける。
じゃないとすぐに見失ってしまいそうだ。
なにより恐竜と大狼、どっちが生き残るのか分からないけど、決着がつくまでここに居たら次やられるのはウチだ。
読んで頂きありがとうございます。
過去作にレビューありがとうございます。
初めてレビューしてもらいました。
とても嬉しいです。
評価ありがとうございます。
進みは遅いですが、頑張って書いていきます。