解体
とある狩猟ゲームで言う、はぎ取りシーンが含まれます。
さほどグロくはないと思いますが苦手な方は気をつけてください。
自己責任でお願いします。
ウチは立ちあがって、スカートを払いながらおじさんの方へ歩く。
見れば黒大狼は、お腹に穴が空けられて、その下の地面が掘った跡で盛り上がっている。
赤く染まってるのは少しだけだ。
いつの間にそんな事したんだろう?
自分の体に軟膏を塗るのに忙しくて気が付かなかった。
女が肌の手入れに時間を使うのは宿命みたいなモノだから仕方ない、と思うことにする。
「ねぇ、おじさん。それは何をしてるの?」
ウチは白大狼のお腹に小さい穴を空け、肩まで腕を突っ込んでるおじさんにたずねた。
「石を取り出す」
「いし?動物の体の中に?」
「あぁ」
そう言って、おじさんは白大狼から太い腕を引き抜く。
赤く染まった手には、管のようなモノと赤い袋みたいな塊があった。
「石だ」
おじさんはぎこちないけど動かせるようになった腕に、管と袋を持ち替え、空いた赤い左手でナイフを抜く。
サッサッと2つに切れ込みを入れる。
おじさんって両利きなのかな?
そんな事を思っていると、2つの切り口から赤く濡れた石が出てきた。
管の石は少し白みがかった透明で、ダイヤの原石みたいだ。
袋の石は薄い青色で半透明な石の真ん中に違う色の石が入っている。色彩が二層になっていてとても綺麗だ。大きさも管の石より大きい。
おじさんはその2つを、布で包んで、背中の袋へしまう。
残った管と袋をお腹に戻して、白大狼の解体を再開した。
「ウチこっち、引っ張ろうか?」
「あぁ」
おじさんの右腕は白大狼のせいで、まだ動かしにくい様なので、ウチも手伝う事にする。
白い毛皮を腹側から開いてるので、ウチは背中に回って皮の端を引っ張る。
もう脇のあたりまで来てるので、あとは背中だけだ。
おじさんは素早い動きでナイフを動かし、肉と皮を切り離していく。
「ねぇ、さっきからさ。ドクダミみたいな薬臭いニオイしてない?」
「この辺りに撒いた」
「そうなんだ。なんで?」
「他の生き物が匂いで寄りにくくなる」
「なるほどねぇ。確かに良い匂いではないもんね」
おじさんは黙々と手を動かし、ウチが適当に話しかける。
「それで、この大きい狼が横から襲ってきて・・・・・・」
おじさんは話かけても基本的に黙りだ。相槌も無い。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてる」
ただ、質問には短い言葉だけど答えてくれる。短い言葉だけどね。
そうしてる間に、白い毛皮が切り離された。
かなり急ぎだったからか、ところどころ脂がついてる。けど、さすが元猟師と言うべきか、素人目だけど、かなり手際がいいと思う。
「あっちの黒い方はどうするの?」
ウチはそう言って、黒大狼を指す。
「アレは持って行く、移動するぞ」
おじさんはそう言って、ナイフやら石の槍やら水筒やらを、鞘や袋へ片付け始める。
「白い方は?」
ウチもならって、自分のカバンを探しながら尋ねる。
「大きいから無理だ」
「そっかぁ」
おじさんは前に、猟で得た獲物は無駄にしないと言っていた。
なのに放って移動するってことは、なにか無駄にしなきゃならない理由が有るんだ。
カバンは少し離れた笹モドキに引っかかっていた。
ウチは葉っぱに気をつけながらカバンを救出する。
カバンの側面に白大狼の爪痕がはっきりと残っていた。
デコっていた缶バッチまで引き裂かれている。
かなり強い攻撃だったんだと今さら思う。
いや、もしかすると缶バッチのおかげで防げたのかな?まぁ、勢いに負けてふっ飛ばされたんだけど。
うーん、でもこれじゃ中の物が落ちちゃって使えないな。
ウチはカバンを開けて必要な物だけポケットに入れて持って行く事にする。
ウチがどれも捨て難いとウンウン悩んでいると、おじさんが隣に来て背中の袋を横で開く。
「入れろ」
袋には鉈、ロープ、いくつかの水筒、何かを包んだ葉っぱと赤くなった布包み、様々な道具が入っている。が確かにまだスペースはある。
「ありがと」
ウチは捨てなくて良かったと安心しながらカバンを丸ごと袋に入れる。
おじさんはキュッとヒモを締めて背負い直す。
手には石の槍、背中や腰にいくつかの袋と鞘、そして肩には軽自動車みたいな黒い狼。
対して、ウチは手ぶら。
いくらおじさんがウチの倍近い身長があって人間離れしてても、流石になんか申し訳ない。
「ウチも何か持とうか?ってか、そいえばウチ、笹モドキで通れないけど」
「これを羽織れ」
おじさんはそう言ってさっき剥いだばかりの白い毛皮を折ってウチの上に被せる。
「毛皮は笹の葉を通さない」
「そう、なの?」
てかこの毛皮、毛が硬くてチクチクする。しかも皮まで硬くてゴワゴワして、とても持ちにくい。なにより、かなり重い。
おかげで姿勢は前屈みで、背中と腰にのせるのがやっとだ。
っとそこで、ウチの足元に使用済みになったピンクのウサギが丸まって落ちてる事に気がついた。
さっきおじさんがウチからはがして、ズボンのポケットに押し込んだと思ったけど、きっと動いてるうちに落ちたんだ。
ウチは前に倒れ込まないように注意しながら拾おうと手を伸ばす。
すると突然、森の遠くの方で、鳥たちの騒がしい声が聞こえた。
グワバッとおじさんが毛皮ごとウチの腰に腕を回した。
そして突如、腰に負荷がかかり、数秒の浮遊感、直後ガサガサガサガサッと笹モドキの中に飛び込んだ。
ウチは毛皮の簀巻き状態だったけど、おじさんがウチを抱えて跳び上がったのは分かった。
「動くな」
おじさんはそう言ってウチを地面に下ろすと、背中から鉈を取り出しウチの周りの笹モドキを根元から刈り取る。
笹モドキを少し傾け、地面に鉈を打ち込むようにしてるのは、茎が尖って残らないためだと思う。
ウチの周りに空間が出来ると、おじさんはガサガサと笹モドキを掻き分けて、今まで居た広い場所に移動する。
ウチは毛皮に包まって寝転がっているので、笹モドキの茎の隙間から広場の様子が見える。
おじさんは水筒を口で傾けたあと、ブハァっと緑色の液体を吹き出して広場に撒いている。
正直、ちょっと汚いな。
そんな事を思ってると、数分で戻ってきた。
肩には黒大狼。いや、硬くなった黒い毛の肉塊と、笹モドキを何本か抱えている。
戻ってきたのは良いけど、全身にドクダミの様な強い匂いをまとっていて、思わずむせそうになる。
毛だらけの黒い塊をウチの隣に降ろすと、そこからもドクダミの匂いが溢れ、目に染みて涙が浮かぶ。
おじさんはウチの毛皮の上にも何かふりかけ、ウチの目の前にその水筒を持ってくると。
「口に含め」
周囲のドクダミの匂いで、鼻がバカになりかけても分かる、強烈な匂いが水筒から漂ってくる。
それが目を刺激して前が見えなくなる。
何か良くない状況なのは流石にわかるので目をつぶって水筒に口をつける。
するとおじさんが一気に水筒を傾け、その液体が口の中に流れ込んでくる。
青臭い匂いと強烈な苦みで思わず吹き出してしまう。
おじさんがポンポンと毛皮から出てるウチの頭に触れた。
ウチが目を拭ってると、おじさんは採ってきた笹モドキを地面に刺しながら、屋根を作るようにウチとおじさんの周りにドーム状の空間を作っていく。
周囲の笹モドキの背丈はウチの身長か、それより低いくらい。
だからウチは苦ではないけど、おじさんはウチの倍ぐらいある。だから膝をついて四つん這いの格好だ。
「ねぇ、どうしたの?」
なぜ隠れているのか小声で尋ねる。
それだけで口に苦味が広がり、思わず顔をしかめてしまう。
「来る」
おじさんは口の前で人差し指を立て、それだけ答える。
だから何が?っとは思ったけど、すぐにガサガサと笹モドキををゆらす音がウチの耳にも届く。
そして二匹の生き物が、広い場所に飛び出す。
それは二本の後ろ足で歩いて、鱗の体、前かがみのような前傾姿勢で、頭頂から背中、尻尾にかけて、毛が生えている。
そしてトカゲの様な頭を持っている生物。
映画でみた恐竜に似た生物だ。
どういう事!?っておじさんの方を見るが、おじさんはこちらを見てもいない。
ジッと二頭の恐竜を見つめてる。
大きさは片方が2メートルくらいで、もう一頭はおじさんと同じ位は有りそうな大きさだ。
頭を上げて遠くを見渡した後、今度は地面まで頭を下げて匂いを嗅ぐ。
すると慌てて頭を引いてブルブルっと振りながら、鼻から息を吐き出す。
それを笑うかの様にもう一頭が頭を動かしながら喉を鳴らした。
ギュン、ギュン、グゥーグウッ。
2頭はまるで会話でもするみたい喉を鳴らしながら広場を移動を始め、所々で地面の匂いを嗅ぎ、頭を振るって鼻から息を吐く動作を繰り返す。
小さい方が、さっき拾おうとしたピンクのウサギのところで匂いを嗅ぐ。
すると、何かに気づいたようにキョロキョロを周囲を見回し、頭を上げて何度も匂いを嗅ぐ。
そして、鼻を何度も動かしながらゆっくりとウチらが隠れてる茂みの方に近づいて来る。
こっちは笹モドキの影で、簡単には見えないはずだ。
けど近づかれればバレてしまうかも。そう思った時、ウチと恐竜の視線が重なった。
(ヤバイ!見つかった)
ウチの隣でおじさんが石の槍を持つ手に力を込めたのが分かった。
ところが、大きい方が皮をむかれた白大狼に足を引っ掛け、蹴って転がしてしまう。
すると大きい方は、それを追いかけ、その匂いを嗅ぐ。
そして空を見るように頭を上げ。
ギューィン、ギューィン。
よく通る高い音で鳴き始める。
小さい方も振り向き、ウチらから離れて白大狼の匂いを確認すると、同じように鳴き始める。
ギュィン、ギュィン、ギュイーン。
「何?なんで見つからなかったの?」
ウチは二頭の騒々しさに紛れるように小声でおじさんに尋ねる
「動くものしか見えないのか」
なるほど、だから見ればすぐ分かる白大狼の肉を探すのにも手間取ったんだ。
ウチが納得した時、かすかな揺れを体に感じた。
グックッグックッグックククッ。
そんな喉を鳴らした様な音が頭上から聞こえ、それと共に現れたのは、十数メートルはある大きな恐竜だ。
読んでいただきありがとう御座いました。
また、ブックマークして頂いた方もありがとう御座います。
筆は遅いですが、確実に励みになっております。