第四話 久々のご馳走
「ハムッ、ハフハフ、ハフッ! ズズッ! ズズズズッ! ハムッ、ハフハフ、ハフッ!」
それが“実物”かどうかとか、もはや関係なかった。
俺は気がつくと、現れたご馳走を食べ始めていたのだ。
まるでがっつくという言葉が、世界一似合う男かのように。
久々の日本食。
そして、久々のご馳走。
こんなの、止められるはずがない。
「――くぅ~~~~~~~~~~~~~~ッ!! うんめええええええええええええええッ!!」
俺は現れたご馳走を、僅か三分程で完食した。
思わず両腕を掲げ、後ろにバタンと寝転ぶ。
今更だが、このご馳走、完全に実物だ。
一緒に描いた、食器なども全て。
そのまま顔を横に向け、投げ捨てたアートブックを見つめた。
……うん、もう光ってないな。
そっと腕を伸ばし、アートブックを指でツンツンつつく。
……うん、ビリッとしたりもしないな。
安全を確認したので、アートブックを手に取る。
「……っていうか、一体全体何だったんだ?」
俺は体を起こし、アートブックを広げた。
俺の画集、一発目の絵。
サンマの塩焼きなどの絵を、ジッと見直す。
そのまま興奮気味に、何度も酒樽の上と見比べた。
もうご馳走はないが、何度も、何度も……。
「もしかして、もしかして……だ。描いた絵が、実物になったのか……?」
信じられないことだが、そうとしか考えられなかった。
だって酒樽の上に現れたご馳走は、描いた絵そのものだったのだから。
いやいや、落ち着け俺。
いくら魔法が存在する世界だからって、んな馬鹿なことが起きるか?
描いた絵が実物になるとか、どう考えてもありえねぇだろ……。
「……だけど、食べたいと願ったら現れた……よな?」
俺はゴクリと唾を飲み込み、もう一度願った。
先程と同じように、腹いっぱい日本食が食べたいな――と。
すると……だ。
「おわッ……! きたきたきたきたーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
やはりアートブックが、再び大きく光り輝いたのだ。
そして予想通り、酒樽の上にご馳走が現れる。
今度は冷静に、描いた絵と現れたご馳走を見比べた。
……うん、やっぱり描いた絵そのものだ。
「マッ、マジかよ……ハムッ ハフハフ、ハフッ! ズズッ! ズズズズッ! ハムッ、ハフハフ、ハフッ!」
再び、完食。
もう一度、願う。
ご馳走、現れる。
これまた、完食。
「……ゲップ、やっぱりそうだ。このアートブックに描いた絵が、実物になるんだッ!」
次の瞬間、俺はアートブック片手に家を飛び出していた。
†
俺は一目散に、とある場所へと向かっていた。
その途中、パン屋のおじさんにバッタリと出会う。
「あっ、こんばんは」
「……あぁ、君か」
すると、なぜかパン屋のおじさんはニヤニヤと笑い出した。
……うん、絶対に何か言ってくるな。
案の定、パン屋のおじさんが両手をパンッと叩く。
「丁度良かったッ! 実はね、今日言いそびれたことがあるんだよ。明日から、場所代値上げね。そうだなぁ……500ゴルドから、1000ゴルドかな」
「場所代? あっ、もういいでーす」
「……えっ? ええッ!? いいでーすって……君ッ! 明日から、一体どうするつもりなのッ!?」
「どうするもなにも、俺、チート能力手に入れたんで。だから、もういいでーす」
俺の返答を聞き、パン屋のおじさんはポカンとした表情を見せた。
ハハッ、そりゃそうだろうな。
つい先程までヘコヘコしていた人間に、ドヤ顔を決められたんだから。
さてと、もう行くか。
あっ、一応お礼だけは言っとかなきゃな。
「おじさんッ! 今まで、本当にありがとうございましたッ!」
「ちぃと……能力……? きっ、君ぃッ! 後悔したって、もう遅いよッ!? 後から泣きついてきても、知らないからねッ!?」
何やら背後からそう聞こえたが、俺は無視をして目的地へと向かった。