第二話 白紙のアートブック
まずは町中を回り、紙と鉛筆と消しゴムを譲って貰った。
気味悪がる人もいたが、生きるためだ。
そりゃあもう、相手が引くくらいガツガツと攻めた。
その甲斐あってか、そこそこの紙と鉛筆と消しゴムが集まった。
次に求めたのは、開店をする場所だ。
そもそも、勝手に商売を始めていいのか……?
なんて考えてた矢先、当事は親切だったパン屋のおじさんに出会った。
後々、場所代を払えと言われるようになるんだが……。
そんなこんなで、パン屋の前で似顔絵屋をいざ開店。
最初は珍しさもあってか、かなり繁盛した。
似顔絵の値段は、一枚500ゴルド。
日本円の一円が大体1ゴルドなので、初日はなんと一万五千円を稼ぐことができた。
しかしオリジンの町は、この世界じゃ小さな町だったのだ。
開店三日目から徐々に客足は減り続け、今じゃ遠征にやって来たという数少ない冒険者達から依頼されるだけになってしまった。
「今のところ、今日の稼ぎは1000ゴルド……か。これでも、三日ぶりの稼ぎだ。いつか、王都に行けば……」
オリジンの町の、数十倍はでかいと聞く王都。
その王都に行けば、また稼げる。
稼いで大金持ちになったら新しい服も買えるし、その後オリジンの町に凱旋したら、パン屋のおじさんに「場所代? あっ、もういいでーす」ってドヤ顔で言える。
最近の俺の頭の中は、そんな妄想でいっぱいになっていた。
ただ一般人の俺が王都へ行くには、馬車代や護衛代が必要になる。
王都は遠く、道中にモンスターが現れるからだ。
まとめると、今の俺はコツコツと貯金をしながら、その日暮らしをしているってわけで……。
†
「……もう、こんな時間か」
気がつけば、夕暮れ時。
冒険者達が、酒場などに篭り始める時間だ。
こうなると、客はまずこない。
今日は店仕舞いかなと、重い腰を上げたその時だった。
「珍しいことをしておるのぅ。どれ、一枚頼もうか」
なんと一人のおじいさんから、似顔絵の依頼がきたのだ。
一日三回目の依頼とか、いつ以来だろうか?
すかさず座り直し、おじいさんを誘導する。
「ありがとうございますッ! じゃあそこに、座ってくださいッ!」
「ほっほっほっ、よろしく頼むわい」
俺は描いた。
恐らく行商人であろう、そのおじいさんの似顔絵を――。
「――できましたッ! どうぞッ!」
「おおっ、早いのぅ……ぬおっ、しかも上手いッ!」
「早くて上手い、それがタクヤ・ジンノの似顔絵ですッ!」
「ほっほっほっ、いい思い出ができたわい。では、500ゴルドだったかのぅ」
これで今日の稼ぎは、1500ゴルド。
明日の場所代を差し引いても、久々にプチ贅沢な夕食にありつけそうだ。
しかし次の瞬間、おじいさんがハッとした表情を見せる。
「……すっ、すまない、財布をなくしてしまったみたいじゃ……」
「えっ?」
「どうしようかのぅ……そうじゃ、わしの商品と交換はどうじゃろうか?」
「はっ、はぁ……」
やはり行商人だったおじいさんは、背負っていた風呂敷をのそのそと広げ、俺の目の前に商品を並べた。
並べられたのは、液体が入った二つのビンと、一冊の本。
おじいさんの説明によると、中級の回復薬に中級の解毒薬、そしてアートブックだった。
アートブック……この世界の、画集か。
「アートブック……ですか」
「古い遺跡で見つけた物でのぅ。三冊見つけた内の、残り一冊じゃ。ただのぅ……」
なぜかおじいさんが首を傾げる中、俺はアートブックを手に取った。
こちとら、一応絵描きだ。
興味心身で、手に取ったアートブックを広げる。
「……あれっ?」
「驚いたじゃろ?」
「はっ、はい……」
「他の二冊は、ちゃんと絵が描いてあったんじゃがの。その一冊だけは……」
なんとそのアートブックは、全ページ白紙だったのだ。