4話 誰がどっちに?
悪女と名高い者が見せる、敗者の姿。
虚弱で国の行く末すら案じられた、勝者の姿。
――あのプリシア様が、我が身を犠牲に答えをつきつけた
落ち度はマダン側にあるため、大きな騒動には発展しなかったものの、娘・プリシアの一撃は宣戦布告と取れるもの。王が止めるのも聞かず剣戟を起こした者もいるが、川の上で戦う兵士・水軍の武術に太刀打ち出来ず、その場で組み伏せられる結果となった。
イルティムの兵の質を目の当たりにし、若干、王に焦りの色も窺える。
「――そのようなこと、信じられるかッ」
マダン国の王・グラドは唾を飛ばした。
『私はアレクシア様ではなく、プリシアです。どう言うわけか、入れ替わってしまったのです』
自身の娘が放った言葉、それが信じられないらしい。
無理もない話だとプリシアは思った。当人ですら、二人でふざけているとしか思えないことが起きているのだから。
頭突きをしたアレクシアこと〈プリシア〉の加勢があれば、多少は違っているだろうが、彼女はあまりのダメージなのか、頭を冷やしながら「うぅ……」と呻き続けている。
「で、ですが、我が娘がいきなり、アレクシア様に頭突きなんか出来るはずがありません……! 何かされたとしても、大ごとにせぬよう影で泣いて堪える子です」
イルティム国の王であり、父のティンバーの言葉にプリシアは、うんうんと何度も頷く。
「確かに、あんなトチ狂った行動に出るのは娘くらいだが……」
マダン国の王も、横たわる〈プリシア〉に目を向け、難しく唸った。
しかしまだ信用出来ていない。何か方法はないかとプリシアは逡巡し、部屋に置かれた花を見て「あっ」と声を上げた。
「お父様。カグレイ家のリア様が、秋にイース家に嫁がれますよね」
これは国の者しか知らないこと。
ティンバー王は驚いたものの意図を理解し、そうだ、と頷いた。
「誰の嫁になる」
「三男、ポール様です」
うむ、と父は頷く。
マダン国の王は難しい表情で、〈プリシア〉に問いかけた。
「お前は、我が国の秘密を知っているか」
「うー……お父様は最近、メイドに夜伽させましたわ」
「な゛!? なぜそれをっ!?」
あなた、と後ろで婦人が、剣よりも恐ろしく鋭い殺気を放っている。
このままでは別の争いが起きそうなので、プリシアはさっと話題を切り替えた。
「こ、これで信用してもらえたでしょう。戻し方について検討しましょう」
「そ、そうだな。うむ」「そ、そうしよう」
王たちは冷や汗をかきながら思案するも、やはりもう一度頭をぶつけるしかない、との結論からは離れられなかった。
だが、それには〈プリシア〉ことアレクシアが問題だ。思い切り頭突きをした結果が、今の起き上がれなくなった姿。何度も行えば、先に命が絶えかねない。
(私の弱った姿って、ああも情けないのですね……)
そして〈アレクシア〉の手を眺め、確かめるように握り締めた。
(……力強いです)
これが健康か。スリムな身体なのに奥から力がみなぎるように、こんな非常時だと言うのに世界はこんなに明るいのかと驚いてしまう。
「ティンバー王よ。この現象について、我が方の母が入れ替わりについて話していたのなら、国に何か手がかりがあるかもしれぬ。明日、娘をつれて帰国し、調べようと思う」
「それは構いませぬ。ですが……娘とはどちらを?」
マダン国の王は〈プリシア〉を指差した。
「な、なりませぬ!? 肉体は我が娘です」
「だが、中身は娘である」
「健康ならばそれも可能ですが、マダン国までは五、六日もあります。その道中を考えても、娘の身体が持つとは思いませぬ」
う、とマダン国の王は詰まった。
このイルティム国は川を下れば安定して運べるものの、マダンは荒野とも言え、荒れ地を馬車で駆けるには、相当な揺れを覚悟しなければならない。
「それに、弱り切った女になって帰ってくれば……」
「最悪、氾濫を起こされかねん……」
一部のみに留め、伏せておかねばならない。
それはプリシアにも言え、〈アレクシア〉の姿で国に留まれば、自国の者からどのような仕打ちが与えられるか分からない。
仮に両者をここに残せば、人質に取られたと国内から反発を受けるのは必至だ。
「「となれば……」」
王は目を揃え、プリシアこと〈アレクシア〉に目を向けた。




