秘密兵器
アイリ様が、幼女を連れて帰って来ました!
アイリ様が連れてきた少女は、チユリというそうだ。
全身黒ずくめの服装で、フードを被っているのだが、私にはその地味な服装が、愛らしい顔をより一層引き立ているように感じられた。
突然の美幼女の出現に、少し取り乱してアイリ様に叱られたが、当のチユリちゃん本人は気にする素振りもなく、普通に会話してくれている。たまに、不思議そうに見られている気もするけど、細かいことは気にしないに限る。
そしてそのチユリちゃん、なんとこれからここで一緒に暮らすというではありませんか。アイリ様から詳しい話しはまだ聞かされていないけど、国王に頼まれたらしい。ナイス国王、グッジョブ国王。美幼女二人との共同生活。ああ、なんて素晴らしい。
ひとつ残念だったのは、チユリちゃんが会うのを楽しみにしていたファングが、見回りに出ていて留守だった事でしょうか。町の外まで見てくると言って出ていったので、今日は帰って来ないでしょう。お預けを喰らった形です。モフモフのファングを愛でるチユリちゃん、見たかったなあ。
私の所感を語るのはこれくらいにして、現状に話を戻しましょうか。
アイリ様達が戻られてから、私は急いで夕飯の仕度を済ませて、いまは和気あいあいと、夕飯の真っ最中です。
「変わった事はなかったか?」
アイリ様が不意に、留守中に何か無かったを、私に確認してきた。
「特に無いですよ。お得意様が何人か薬を買いにいらっしゃったくらいで」
私は特にいつもと変わり無かったことを伝えた。
「そうか」
アイリ様が私の言葉に答えた後、私はふと思い出した。
「そう言えば、鎮痛香草の在庫が切れそうですね。あれは、庭で栽培してないですし」
薬の材料が無くなりそうだった事を思い出したので、それを一応アイリ様に伝えた。
「ああ、そうだったな。すっかり忘れておった。城から貰ってくればよかったな。あれは、自家栽培には向かんからな」
「そうなんですよね。明日山に行ってきましょうか」
幸いと言うべきか、鎮痛香草は町の近くの山に自生していて、その場所を私たちは知っている。
「そうだな、頼む」
私とアイリ様がそんなやり取りをしているなか、チユリちゃんは食事に夢中だった。
今日のメインである鶏肉のソテーを、口一杯に頬張り、モゴモゴと咀嚼してる。
ああ、カワユイ...
「旨いか?チユリ?」
私と同様、そんなチユリちゃんの様子を見ていたアイリ様が声を掛けると、チユリちゃんはアイリ様の方に顔を向けて、モゴモゴしたまましばしの沈黙...口の中の一杯だからね、話せ無いんだね。もうっ、何この愛おしい生き物
「おいしい」
ようやく口の中のお肉を飲み込んだチユリちゃんが、アイリ様にそう答えた。
どうやら、チユリちゃんの口に合ったようだ。アレだけの勢いで食べてくれていたから、不味いと言われる事は無いだろうと思ってたけど、やっぱりおいしいって言われると、作った者としては嬉しいね。
「おかわりもありますから、沢山食べてくださいね」
私がそう伝えると、チユリちゃんは嬉しそうに頷いた。
「うん。食べる」
その言葉通り、チユリちゃんは幼女らしからぬ量の食事を平らげたのだった。
食事の後片付けを終えた私は、お風呂の準備を始めた。
この国において、一般家庭にお風呂があるのは希だが、ここリクセルは、先程言った鎮痛香草が自生している山から温泉が湧いていて、そのお湯を町の各家庭に引いているのだ。町には冒険者や旅行者のための、共同大浴場もあったりする。
なので、準備と言ってもやることはほとんど無い。浴槽はあらかじめ洗っておいたので、後はお湯を溜めるだけだ。
「アイリ様、お風呂もうすぐ溜まりますけど、どうします?」
私がそう尋ねると、ソフアで横になっていたアイリ様が身体を起こした。チユリちゃんはアイリ様の横で、膝の上にいるピーさんを撫で回している。
「おお、では先に頂こうかの。チユリも一緒に風呂入るか?」
「入る」
アイリ様の誘いに、チユリちゃんはコクりと頷いた。
美幼女二人の入浴..是非、私も混ぜて頂きたいっ!でも、アイリ様は私とお風呂入ってくれないんですよね。どうにかして、一緒に入れないものですかねえ。
「ミナも、一緒に、入る?」
そんな私の心情を知ってか知らずか、チユリちゃんが神と言っても過言ではない程の、慈悲深い言葉をかけてくれた。
「わ、わ、私も...」
「ミナはワシらとは別だ」
「その方がよい」
私の言葉を遮り、アイリ様がそう断言すると、ピーさんもそれに即座に同意した。
「そお」
アイリ様の言葉を聞いて、そう短く答えたチユリちゃんが、なんかホッとしたように見えたのは、私の気のせいですよね?そうですよね!?
「三人だと流石に狭いからの」
取って付けたような理由を言ったアイリ様の視線が痛い。
「は、はは、そ、そうですよね」
私は後ろめたさを隠すように、明後日の方向を向いて答えたのだった。
「鳥さんは、入らない?」
チユリちゃんが、今度は膝の上に乗せているピーさんに、同じ質問をした。
「む?我か?」
まさか自分に聞かれるとは思っていなかったのだろう。珍しくピーさんが驚いた様子だ。
「そう言えば最近、水浴びしかしておらんだろ、ワシとチユリで綺麗にしてやるぞ?」
チユリちゃんの言葉に乗って、そんな事をピーさんに言ったアイリ様の顔には、タチの悪い笑みが浮かんでいる。あ、これ、完全に悪ノリしてる時の顔だね。
「あ、主に清めて貰うなど、滅相もない」
ピーさんも、アイリ様にからかわれているのは分かっているんだろうけど、動揺を隠しきれていない。
そんなピーさんを見て、アイリ様は悪い顔のままニヤニヤと笑っている。これじゃあ、どっちが魔族か分かんないよ。こんなこと、口が裂けてもアイリ様には言えないですけどね。
そんなアイリ様のタチの悪い遊びを、ただ一人純粋に受け止めていたチユリちゃんが、ピーさんに続けて言った。
「鳥さん、お風呂、嫌い?」
「い、いや、そう言う訳では..」
チユリちゃんの言葉が、ピーさんの更なる動揺を誘う。
「クク..そうだよなあ?綺麗にしないと、駄目だよなあ?」
悪ノリが止まらないアイリ様が、これでもかと追い打ちを掛ける。
もうなんか、笑い方も悪役っぽくなっちゃってますけど。
そんな裏に隠れた状況を分かっていないチユリちゃんは、アイリ様の言った事を言葉通りに受けとり、コクりと頷いてピーさんにトドメを刺した。
「うん、汚いのは、よくない」
「き、汚い...」
ピーさんはチユリちゃんの言葉に、相当なショックを受け様子で、もうメンタルは瀕死の状態だ。
アイリ様、これ以上純真なチユリちゃんを利用して、ピーさんで遊ぶのは止めてあげてくださいと、私はなんとか目で伝えようとしたが、当のアイリ様は笑いを堪えるのに必死で、全く気づいてくれない。
「お風呂、入ろ?」
ノックアウト寸前でなんとか踏み止まっているピーさんに、チユリちゃんが諭すようにそう言った。
「い、いや、我は..」
ピーさんはなんとか逃れようとするが、言葉に詰まる。
年貢の納め時か、いやよく考えれば、私からしたら、物凄く羨ましい話なんですけどねっ!言葉に窮していたピーさんが、ハッと私の方を見て出した答えは
「..そ、そう、我は、ミナと入る」
なぜそうなる...まあ、別にピーさんと一緒に入るのはいいですけど。見た目は鳥だし。
そもそも、ピーさんから発せられている、話を合わせろという圧が物凄くて、断れないんですけどね。ここで断ったら、あとで何をされるか...考えたくも無いので、私はピーさんの最後の希望となることにした。
「ソウデスネー、ワタシモ、ピーサント、ハイリタイカナー」
但し心に嘘はつけず、あからさまな棒読み台詞になってしまった。
「う、うむ、そうであろう」
ピーさんは、そんな事を気にすることなく、そう言いながら、私によくやったと目配せしてきた。
「そお」
安心した様子のピーさんとは逆に、チユリちゃんは残念そうに呟いた。
何だか私が悪者みたいになってませんかね?チユリちゃん、私は悪くないんですよ?分かってくれてますよね?
「さて、では風呂に行こうか、チユリ」
ようやく笑いを押さえ込んだアイリ様がそう言って、チユリちゃんの頭を撫でから立ち上がり、お風呂へと向かった。
コクりと頷いたチユリちゃんも、ピーさんを膝の上から下ろして、アイリ様に続いた。
アイリ様とチユリちゃんがお風呂場へ向かったあと、私はタオルを置き忘れたことに気づいた。それと同時に、脱衣場からアイリ様の声が聞こえた。
「ミナー、タオルが無いぞー」
「はーい、すぐお持ちしますー」
私はアイリ様にそう堪えてから、小走りでタオルを取りに向かった。
私がタオルを持って脱衣場に向かうと、中からアイリ様とチユリちゃんの話し声が聞こえた。
「そう言えばチユリ、お前尻尾は無いのだな」
「ないよ。お母さんは、あったけど、わたしは、耳だけ」
尻尾?お母さんにはあった?いや、耳は誰でもあるけど、尻尾は無いでしょ?私は二人の会話が理解できずに、頭の中に?がいくつも浮かんだが、取り合えず当初の目的を果たすことにした。
「タオルお持ちしました。開けますよ?」
「おお、悪いな」
アイリ様が問題ない様子で答えたので、私は脱衣場の扉を開けた。
そこで私が目にしたのは、服を脱いでいる途中だった半裸のアイリ様と、もう既に全裸になっているチユリちゃん。
幼女二人の柔肌が露になっているにも関わらず、私の目は別の所に釘付けとなった。
私の見つめる先には...
「け、け、ケモミミ!」
そう、なんという事だろうか。チユリちゃんの頭に、可愛らしい二つのケモミミがあったのだ。しかも、ピコピコ動いている。美幼女にケモミミ...何なのですか、この恐ろしいまでの破壊力は。
「..天使」
という呟きを最後に、私の意識は途切れてしまいました。
ええ、情けない話ですが、興奮のあまり卒倒してしまいました。実にお恥ずかしい。
その後、私が目を覚ましそうに無いと見たアイリ様は、そのままチユリちゃんとお風呂のに入ったそうです。
ピーさんのクチバシによる、強烈な一撃で目を覚ました時には、二人とも既にお風呂を済ませていましたからね。
いやー、それにしても驚きました。チユリちゃんがあんな秘密兵器もをもっているとは。
あ、次回、私もピーさんと、ちゃんとお風呂入りますので、お楽しみに!
チユリちゃん、最強でした。
次回は本文の最後でも触れたように、私の入浴シーンですよ。
書き進める程に、ミナさんの変態度が増していく気がします。
暫くこんな、変態ほのぼの物語が続く予定です。