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黒い少女2

お城でのお話の続きです



今日、ブックマークして頂いていることに気がつきました。

そこら辺の情報の見方を知らなかったもので。


誰かに読んで頂けているんだなと、実感しました。

引き続き読んでもらえるように、自分なりに考えながらやっていこうと思います。

「理由を聞こうか」


チユリをワシに預けたいというバトラの言葉に対し、ワシは納得できる理由を求めた。


子供を保護するのであれば、専門の施設に預けるのが一般的で、この城にも孤児院が併設されて居たはずだ。


そういった施設ではなく、ワシに預けようとするにはそれなりの理由があるのだろう。


「それはだな、チユリが自分より強い者の言う事しか聞かないからだ」


「なるほどな」


チユリ位の少女が力、ここでは戦闘力と言うべきだろうか、の優劣で、主従関係を考えることに疑問を持つかもしれないが、彼女は暗殺者(アサシン)集団(キャラバン)に拐われ、三年はそこで過ごしてきた。


暗殺者(アサシン)集団(キャラバン)では強い者が上に立ち、弱いものはそれに従う、言うなれば、完全な実力社会だと聞いた事がある。


恐らくチユリは、その在り方が至極当然なものだと考えているのだろう。


「情けない話だが、城内でチユリを従わせられる者は、数えるほどしか居らん。正直、チユリの世話に手が回りきらんのだ」


確かに、ワシも先程身を持って感じたが、チユリは戦闘力は高い。恐らく、城内でチユリを上回るのは、騎士団長クラスで無いと無理だろう。そして、そういった役職持ちの人間は基本、忙しいものだ。チユリに付きっきりなることなど不可能だろう。その状況で、保護してから半月持ったのを、褒めてやってもいいかもしれない。


「持て余しているから、ワシに押し付けるという事か」


ワシは敢えて厳しい言葉をバトラに向けた。


チユリの面倒を見るのはやぶさかではない。むしろ、この短時間で、愛着すら芽生えはじめている。


しかし、それとバトラがワシを頼って来たのは別な話だ。本来ワシは、ヒトの社会には存在しない者なのだから。


国王ともあろうものが、安易にそういった者を頼るは良くないと、元王であるワシは考えるからだ。


「うむ、そう取られても仕方が無いな。お前が安易に頼っていい相手で無い事も理解している」


ワシが言わんとしている事を、バトラは当然理解している。そうでなくては、今まで付き合うが続く事も無いし、ワシがここに来ることも無かった。バトラがワシを頼るということは、他に手が無くなったということなのだ。


今回も、半月はなんとかやってきたが、これ以上は無理という事なんだろう。


バトラは立ちあがり、ワシに対して深く頭を下げる。


「頼む。今言ったように、身勝手な事を言っている事は重々承知している。チユリを預かってはくれないだろうか」


ワシはそんなバトラを数秒静観したのち


「はあ、頭を上げろ。易々と頭を下げるなと、何度も言っているだろうに」


王たるもの、容易く頭を下げるものではない。特に家臣の前では。


ワシの言葉を聞き頭を上げたバトラは、苦笑いを浮かべつつ、もとの場所に腰を下ろす。


「私も何度も言っているが、例えお前が相手でもそう易々とは頭を下げたりしない。頭を下げるだけの理由があるときだけだ。それにだな...」


「わかった、わかった」


ワシはバトラの言葉を遮り、もういいと、言葉と動作で示した。


「承諾してくれるのだな?」


一瞬不満そうな表情を浮かべたバトラだったが、ワシの言葉の意味を理解し身を乗り出して同意を求める。


「条件が二つある」


ワシはチユリの面倒を見るには、条件があることをバトラに伝えた。


「条件?なんだ?」


バトラは姿勢を戻し、条件を聞いてきた。


「一つは、チユリの意思だ」


これが最も重要な事だった。


ワシとバトラの間でいくら話をつけても、チユリ自身にワシと一緒に暮らす意思が無ければ、無理強いは出来ないし、するつもりも無い。


「なるほどな」


バトラもワシが言わんとしている事を理解した様子で答えた。


「チユリよ」


ワシはバトラとの会話の最中に、ピー助をワシの肩の上からかっさらって、撫で回しているチユリに呼び掛ける。


「なに?」


チユリは撫で回す手を止めずに、顔だけをワシに向けた。


「ワシと一緒に暮らすか?」


チユリはワシの言葉に「ん?」と言って、首を傾げる。


意味が通じなかったのだろうか?突然で理解出来ていないのか?そんな事をワシが考えていると


「それは、命令?」


チユリから予想外の言葉が返ってきて、ワシはいたたまれない感情で一杯になった。


恐らくチユリは暗殺者(アサシン)集団(キャラバン)での生活で、自分の意思というものを無くしてしまったのでは無いか。強い者から命じられた事を実行する。それは絶対で、それが全てだったのでは無いか。


ここでワシが命令だと言えば、チユリは素直に従っただろう。上下関係は出会って間もなくに出来上がっているのだから。


ただ、ワシにそうする事は出来なかった。それでは意味がないのだ。


「命令では無い。チユリがどうしたいか、聞いているのだ」


ワシはチユリの頭を優しく撫でながら、そう伝えた。


「わたしが、どう、したいか?」


チユリはゆっくりと、言葉の意味を噛み砕くように、ワシが言った内容を繰り返した。


しばらく考え込んだチユリが、震える声でこう続けた。


それはここまでの会話を通じて、初めて感情の色が伺えるものだった。


「でも、命令されていない事は、してはいけない、から」


その言葉を聞いたワシは、チユリを力一杯抱きしめた。


「え?」


チユリは急に抱きしめられて驚きの声を上げたが、ワシは構うことなくチユリの体を抱き続けた。そして、ワシが思う事をゆっくりと伝える。


「もうよいのだ、チユリ。もう、やりたくない事を、無理してやる必要は無い。そんな事で、もう誰も、チユリを傷つける事はしない」


ワシの言葉を聞いたチユリは、全身を震わせながら、嗚咽混じりに答えた。


「...ほ、本当?本当にっ...いいの?」


ワシはチユリから体を離し、しっかりと目を合わせて、ゆっくりと頷いて笑みを向ける。


「ああ、もう、いいのだ」


ワシの目をじっと見ていたチユリの目に、涙が溢れた。


「わ、わたしっ、アイリちゃんとっ、ひっく、一緒にっ、行くう...うわぁーん」


チユリはそう言うと、泣きながらワシに抱きついてきた。


ワシはそんなチユリの頭を、泣き止むまで優しく撫でてやった。


「二つ目の条件だが」


チユリが落ち着くのを待ってから、ワシはバトラに残る二つ目の条件を切り出した。泣き止んだチユリは、ワシの隣に座って、膝の上に乗せたピー助の頭を撫でている。どうやらチユリは、ピー助の事をいたく気に入ったようだ。ピー助も抵抗する事無く、されるがままになっている。


暗殺者(アサシン)集団(キャラバン)の件は、お前がなんとかしろ」


バトラはワシに言われなくても、端からそのつもりだろうが、わざわざ改めて言ったのは、ワシはその件に手を貸すつもりは無いという事を、ハッキリと意思表示するためだ。


「もちろん全力を持って対応している。お前たちに要らぬ手間を掛けさせるつもりも無いし、これ以上面倒事に巻き込むつもりも無い」


バトラも理解しているようだ。こういった事に下手に関わると、当事者だけではなく周囲も危険に晒される可能性がある。ミクセルで暮らす人達を、ワシらのせいでそんな状況に巻き込むのは御免だ。


「それならば、よい」


ワシはバトラの答えに納得し、了承した。


「陛下、そろそろ」


話が落ち着いたところで、ギリスタが口を開いた。先程から落ち着か無い様子で、時計を気にしていところを見ると、この後に公務が控えているのだろう。もしかしたら、予定時刻を過ぎている可能性もあるが、ワシの知った事では無いので、気にしないことにする。


「ああ、そうだな。話がついた直後ですまないが、仕事が溜まっていてな、これで失礼するが、もう問題はないな?」


ギリスタの言葉を聞いて、バトラがこれ以上話が無いか確認してきた。


特に話さねばならん事もないので、ワシは頷いて肯定した。


「それでは失礼する。チユリ、アイリの元で元気にな」


バトラは立上がり、チユリにそんな挨拶をした。


「王様も」


チユリもバトラに簡単な挨拶を返した。


「帰る前に、ぺトロに会っていくといい。昼食には少し時間が過ぎたが、何か食事も用意させる。ではな」


バトラは部屋を出る間際に、ワシにそう言い残した。


「では、ご案内します」


部屋に残ったギリスタが、案内役を買って出た。


「お主は戻らんでいいのか?」


ワシはふと思った疑問をギリスタにぶつけた。ギリスタも色々と仕事があるのでは無いかと思ったからだ。


「はい、今日はアイリ殿がお帰りになるまで、案内役を務めるのが私の職務ですので」


「そうか、ならば頼もう」


どうやら、ワシの杞憂だったようだ。


ワシとチユリは、ギリスタの案内で応接室へと向かい、そこでぺトロが合流したあと、遅めの昼食を済ませた。


食事のあと、ぺトロから紹介された宮廷魔法医に、薬学について教えて欲しいと頼まれたので、簡単な講義を終えた頃には夕方になっていた。


「さて、早く戻らねば、ミナが心配するな」


チユリの身の回りの物などを纏め、帰り仕度を済ませたワシの独り言に、チユリが反応した。


「アイリちゃん、ミナって誰?」


そう言えば、チユリにこれから生活する、ワシの店や同居人達の話をしていなかった事に気づいた。


「同居人だ。見た目だけで言えば、ワシらの保護者になるのかの。あと、おっきい犬も居るぞ」


チユリが目を輝かせている。


おそらく、大きな犬というところに惹かれたのだろう。正確には犬では無いんだがな。喋れるし。ピー助の時の反応を見る限り、チユリはファングも大いに気に入るだろう。


「詳しい話しは、帰りながらしてやろう」


「うん」


ワシがそう言うと、チユリは嬉しそうに頷いた。その表情は初めて見たときとは比べ物にならないほど、生き生きとしていた。


「ピー助、帰りも頼む」


「御意」


ピー助はワシの言葉に答えると、身体を巨大化させた。


「「おお...」」


「鳥さん、すっごい」


ワシ以外の面々が、驚嘆の声を上げる。


場所は、城の裏庭だ。四方を城壁にかこまれたここは、限られた人間しか入れないらしく、人目に付くことも無いという話なので、帰りはここから飛び立つ事にした。


ワシとチユリの他に、見送りにぺトロとギリスタがいる。


チユリは例の如く目を輝かせて、ピー助を褒め称えていた。


「さて、それでは、帰ろうか」


ワシがそう言うと、ぺトロとギリスタが見送りの挨拶をしてきた。


ワシとチユリはそれに手を振って答えると、ピー助がゆっくりと浮き上がる。


それと同時に、ワシは来る時と同様、身隠しの術と風の加護を掛ける。


「なんと」


「消えた」


術により姿が見えなくなった事に驚いた、ぺトロとギリスタの声が聞こえた。


ピー助はある程度の高度に達したのを見計らって、移動を開始した。


帰りの道すがら、ワシは約束通り、チユリにこれから生活する店や、周りの人達について話してやった。


空を飛んでいることに夢中なチユリだったが、話しはしっかりと聞いていたようだ。


行きとは違い、話し相手が居たこともあってか、ワシはあっという間にミクセルに付いた気がした。


行きと同様、街外れの空き地に到着したワシらは、そのまま無事に店へと戻ってきた。時刻はちょうど夕飯時だ。ミナに言っておいた時間には、なんとか間に合ったというところだろう。


店の扉を開けると、ミナが店の片付けをしているところだった。


「帰ったぞ」


「アイリ様、遅いで、す?」


ワシの店に姿と声を確認したミナが、ワシに文句を言ったまま固まる。最期疑問系になってなかったか?


ミナが見つめる先には、当然と言うべきか、チユリが居た。


「アイリちゃん、あの人、どうしたの?」


そんなミナの様子を不思議そうに見ていたチユリが、ワシに聞いてきた。


まあ、確かに不思議に映るよな。根は素直でいいヤツなんだがな、ちょっと、いや、だいぶアレなだけで。


「アイリちゃん、ですと..?愛らしい幼女にちゃん付けされる、アイリ様...尊い」


不思議な生き物として見られている事を知ってか知らずか、ミナは意味不明な言葉を呟いていた。


「チユリ、ひとつ、やってやれ」


ワシはミナには聞こえないように、チユリに伝えた。


「いいの?」


ワシの意図を理解したチユリが、本当にいいのか確認する。


「ああ、あいつは頑丈たからな、思いっきりやってやれ」


「ん、わかった」


チユリはそう答えると、瞬時にミナとの間合いを詰めて、手刀をミナの喉元目掛けて繰り出した。


その手刀は、ミナの首にクリーンヒットするかと思われたが、ミナは驚異的な反応速度で手刀をかわすのと同時に、チユリを抱きしめた。


「ん~可愛い幼女を捕まえました」


そして身動きが取れないチユリに頬ずりした。


チユリは何が起きているのか解らない様子で、固まっていた。


ミナの頬ずり攻撃は、ワシが止めに入るまで続いた。


ワシはチユリのトラウマにならないことを、ただただ祈った。

アイリ様がやっと戻られました。

しかも、アイリ様にも引けを取らない幼女を連れて。

ああ...なんて素晴らしい。



なんとかお店に戻って、ミナさんを登場させようとしたら、ちょっといつもより長くなってしまいました。

次回は、ミナさんが更に...

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