王の便り
ぺトロ王子達が店を発ってから数日後
店内の開店準備を終えた私はいつものように、店先の掃除をしていた。
店内はもちろんだけど、お店の外も綺麗だと気持ちがいいからね。
「よし、こんなものかな」
一通り掃除を終えて、店内に戻ろうとした私に、背後から呼び止める声がかかった。
「失礼、伝令局のものですが」
私が振り替えると、そこには緑の制服を着た青年が立っていた。
彼が言った通り、この緑の制服は伝令局のものだった。
伝令局とは、王国内の主要となる町や拠点に存在している、国が運営している機関だ。
伝令鳥を使い、伝令局間で国家情勢などのやり取りを行っている。
ちなみに、一般人が手紙などの文書を送る際には、民間で経営している伝文屋を使う。仕組みとしては、伝令局と一緒である。
その伝令局のお役人が何の用だろうか?
私がそんなことを考えていると、彼が尋ねてきた。
「こちらは、アイリさんのお住まいで間違いありませんか?」
「はい。そうですが。何でしょう?」
私が彼に問い返すと、肩に下げた鞄の中から一通の封筒を取り出した。
「アイリさん宛ての封書です。こちらに、受取のサインをお願いします」
私は差し出された封筒を受け取り、これも彼が貸してくれたペンで、受取人欄にサインをした。
「ありがとうございます。それでは、失礼します」
サインを確認した伝令局員は、軽くお辞儀をして帰って行った。
私は受け取った封筒を手に店内に戻ると、本来の受取人を呼んだ。
「アイリ様~、伝令局から封書が届いてますよ~」
「ん~呼んだか?」
暫くすると、ファングに乗ったアイリ様が、二階から降りて店内にやってきた。
「これ、アイリ様宛てですって」
私は受け取った封筒をアイリ様に差し出した。
「伝令局と言ったか?」
アイリ様は封筒を受け取らず、私に確認する。
「はい。さっき伝令局員の方が届けてくれました」
「そうか」
答えたアイリ様は、封筒を受け取る素振りを見せず、顔をしかめてうむむと唸っている。
「アイリ様?」
私は封筒を受け取ってもらえるように、アイリ様の顔の前でヒラヒラと封筒を振って見せた。
アイリ様が封書を受けとりたくない理由はわかっていた。
出元が伝令局だからだ。
伝令局とは先も言った通り、国が運営している機関で、旅先での訃報など一部の例外を除いて、一般人がおいそれと使用できる所ではないのだ。
そうなると、自ずと差出人は絞られる。
「はあ、ミナ読んでくれ」
アイリ様は珍しく大きな溜め息をつき、私に読むように促した。
「はい」
私は苦笑いを浮かべつつ、封筒から書面を出して音読する。
『アイリ殿
此度は、我が愛息を救ってくれたこと、誠に感謝する。
ついては、直に謝辞を陳べたく、城にお越し願いたい。
リオネル・バトラ』
なんとも、簡潔な文面だった。
その内容を聞いたアイリ様は、再度大きな溜め息をついた。
「はあ、バトラめ、面倒な」
首を振りながら、国王に対して悪態をついている。
そんなに面倒な事だろうか?確かにお城まではちょっと遠いけど、アイリ様がそんなに嫌がる理由にはならないと思うんだけど。
「ぺトロ王子の件でお礼をしたいから、城に来いって事ですよね?」
私は確認の意味を込めて、文面の内容そのままをアイリ様に聞いてみた。
「まあ、文面通りなら、な」
私の疑問に、アイリ様は心底面倒くさそうに答えた。
この口ぶりは、文面以外の意味があるということなんだろうけど、私にはさっぱりだった。
「国王は他にも何か、アイリ様に用があるということですか?」
「あやつ、移動手段を用意してこなっただろ?」
私の質問に、アイリ様はそう問い返してきた。
「そう言えばそうですね。迎えを出すとか、その辺りは何も書かれて無いですね」
「そういう事だ」
「ん?」
そういう事とはどういう事か?
確かに王様が城に招くのに、迎えが無いっていうのは不自然だけど、それが何を意味しているんだろう?
「あやつは、ピー助の事を知っておるのだ」
答えが出ずに悩んでいると、アイリ様が教えてくれた。
「迎えを出さんということは、それ以外の方法で来いと、ピー助に乗って来いと言っておるんだよ、あやつは」
「ああ」
私はここでようやく理解した。
「急を要する何かがあるということですか」
ピーさんで移動すれば、馬車で移動するより格段に速い。
要するに差出人である国王は、ピーさんの移動速度でアイリ様が城に来ることを望んでいるということだ。
恐らく、文面にあったぺトロ王子の件は、アイリ様を城に招く表向きの口実なのだろう。
伝令局を経由する文書は公文書扱いとなる。
それは国王といえど例外ではないのだろう。
手続きは物凄く面倒らしいいが、一般人でも開示請求することで、伝令局が扱った文書は閲覧することができるのだ。
当然そんな文書に内々の面倒事を記す訳にはいかない。
それならば伝令局を使わなければいいと思うかもしれないが、残念ながら伝令局以上の速度と正確さを持った連絡手段をヒトは持たない。
「まあ、確実に何かあるだろうな」
アイリ様はそう言って、再び大きな溜め息をついた。
「それで、どうするんですか?」
国王が暗にさっさと来いと言っているのだ。
いくらアイリ様でも、無下には出来ないのでは無いだろうか。
「行かんわけにもいかんしな。ピー助頼めるか」
「主の申し付けならば、何なりと」
いつの間にか、定位置である止まり木の上に居たピーさんに確認すると、それを快諾した。
「ふむ、では行くかの」
そう言って、アイリ様がひょいっとファングの背から降りる。
「ミナ、店番頼んだぞ。夕食の前には戻って来れるだろう」
「はい、お任せ下さい。これ、持って行った方がいいのでは?」
私は国王からの書面を封筒にしまい、アイリ様に渡した。
「そうだな。普通に行っても城には入れてくれんだろうからな」
アイリ様なら城に入り込むのは簡単な事だろうけど、それって不法侵入だからね。
さすがに王様のお城に不法侵入っていうのは、如何なものかと思うし。
国王直々の書面があれば、門番も問題なく通してくれるだろう。
アイリ様は私から受け取った封筒を、お気に入りの肩掛け鞄の中にしまった。
「ファングも留守番よろしくな」
「任せろ」
アイリ様が、ファングの頭をわしわしと撫でながらいうと、ファングは尻尾をぶんぶん振りながら、気持ち良さそうに答えた。
「では、行ってくるでの」
「はい、お気をつけて。ピーさん、お願いしますね」
「うむ、言われるまでもない」
私はそう言って、アイリ様とピーさんを見送った。
今回は少し短くなりました。
次回はアイリ様主観のお話です。