アイリ薬店
初投稿になります。
完全趣味レベルなので、誤字脱字等はご容赦下さい。
普通に働いてますので、更新は不定期になるかと思いますが、物語に区切りがつくまではやっていこうと思っています。
不快な表現などありましたら、ご指摘ください。
精霊王
精霊族を統べる王にして、魔王を凌駕する力を持つとも噂されている。
そんな世界最強とも言える、『元』精霊王が営む薬屋が、とあるヒト族の町にるといったら、信じてもらえるだろうか?
いや、実際あるのだ。
私、ミナこと『ミナルネア・サラマンドラ』は、『元』精霊王様の御付きの者として一緒に働いているのだから。
町といっても、住民は300人程度でそれほど規模は大きくない。
だがこの町、ミクセルは国の中心である王都から、馬で2日程の距離に位置しているため、王都と遠方への中継地点として、冒険者や旅人などが多く訪れる。
この日も町の大通りは、多くの人で賑わっていた。
大通りから少し離れ、路地をいくつか曲がった先に、その薬屋はある。
『アイリ薬店』
私の主であるアイリ様が、この町に店を出してからもうすぐ1年が経とうとしている。
出店当初はいろいろ大変な事もあったけど、最近は常連のお客様も増えて、程々に忙しく平和な日々を送っている。
今日も私が店の奥で薬の在庫を確認していると、店主であるアイリ様と常連のお客様との会話が聞こえてきた。
「お婆殿、今日はどうされた?いつもの腰痛の薬は、まだ残っておるのではないか?」
「あれ、アイリちゃん。今日もめんこいのう」
私が店内に戻ると、常連のお婆さんがアイリ様の頭をなでなでしていた。うらやましいっ!
お婆さんが言う通り、今のアイリ様のお姿はとても可愛らしい。もう、どうにかなってしまいそうなくらいに!
本来のお姿も麗しいけれど、今のこのお姿がもうっ!たまりません!!おっと失礼、取り乱しました。
お気づきかも知れませんが、アイリ様は魔法で人間の姿に変化して、生活しているのです。
本来のお姿だと、目立つし精霊だと直ぐにバレてしまいますからね。
もちろん、元精霊王だと言うことも、町の人達は知りません。
まあ、かく言う私も精霊なので、人の姿で生活しているのですが。
アイリ様のお姿は人間の年齢で言えば、7歳位でしょうか。
本当に可愛らしい幼女です!
私の見た目は17歳位ですかね。
アイリ様の使用人兼保護者という事になっています。
出来れば、姉妹という設定が望ましかったのですが...
アイリ様に物凄い嫌そうな顔をされたので、断念しました。
そりゃ実年齢はアイリ様の方が遥かに上ですからね。仕方ないです。
さあ、お仕事お仕事
「お婆さん、今日はどうされました?」
声をかけると、アイリ様を愛でていたお婆さんの視線が私に移る。
「おお、ミナちゃん。いやね、爺さんが風邪を拗らせちまったみたいでな」
「おや、それはいけませんね。症状は発熱と頭痛ですか?」
「喉が痛いとも言っておったかな。食欲もないみたいでよ」
「なるほど、ではこれとこれ」
症状に合わせた薬の包みを幾つか手に取り、アイリ様に視線でお伺いをたてる。
アイリ様が頷いてくれたので、どうやらこの組み合わせで問題無いようだ。
私も薬にある程度の知識は持っているが、ここにある薬は全てアイリ様が調合したものだから、アイリ様に確認するのが最も確実なのだ。
ならば、初めからアイリ様が薬を選べばいいと思うかもしれないが、アイリ様の見た目は7歳の幼女
視覚の情報が大半を占める人間にとっては、幼女のアイリ様より、成人間近の私の方が信頼できるのだ。
アイリ様もそれを理解した上で、私に薬の選定をやらせている。
そもそも、何故幼女なんだという疑問もあるかもしれないが、それは追々話す事にしよう。
「この薬を朝晩1包ずつ飲ませてください」
お婆さんに用法を説明しながら、薬を渡した。
「後、これもな」
アイリ様が別の薬をお婆さんに渡す。
「この薬はなんだい?」
「栄養剤だ」
栄養剤、それを聞いて私が捕捉する。
「食欲が無いと言ってましたので、食事が取れないようでしたら、この薬を飲ませてあげてください」
「おお、そんな薬もあるんだねえ。ありがとう」
「はい。お大事になさってくださいね」
お婆さんから薬の代金を受け取り、店先まで見送りに行く。
アイリ様も一緒だ。
因みに、今更だがアイリ様は自分で歩いてはいない。
私同様、アイリ様に仕える霊獣の背に乗っているのだ。
まあ、霊獣と言っても見た目は大きめの犬なので、私達とは違い本来の姿のままだ。
といっても、身体の大きさは自由に変えられるようなので、本来の大きさではないのかもしれない。
言葉も話せるしね。もちろん、人前で話すような事はしないけど。
アイリ様はいつもこの霊獣、ファングの背に乗っているので、この辺りでは犬の女の子などと呼ばれる事もある。
お婆さんを見送り終えた私は、アイリ様に謝罪した。
「アイリ様、申し訳ありませんでした」
「ん?どうした、ミナ」
店の奥に向かおうとしていたアイリ様が、ファングに乗ったまま、顔だけをこちらに向けて、小首を傾げている。
ありがとうございます!可愛いすぎますっ!
あ、いや、そうじゃなくて。
「栄養剤の件です。私が至らずに」
あれは薬屋の店員として、私が気づくべきだし、謝罪して叱責を受けるべきだと思ったのだ。
「なんだ、そんなことか。ミナは仕事に対して、些か真面目過ぎるな。気にしすぎだ」
「いえ、ですが」
「どちらかと言えば、ワシは感心しておるよ」
「感心?ですか?」
アイリ様の思わぬ返答に、声が裏返った気がする。
「栄養剤を渡した時に、ワシの意図をきちんとお婆殿に説明できたではないか。それで充分だ」
アイリ様はそう言って、優しく微笑んでくれた。
「うう...」
その天使のごときアイリ様のご尊顔を目の当たりにして、私は思わずしゃがみこんで泣いてしまった。
「おいおい、泣く程の事か!?」
私の突然の涙に、さすがのアイリ様も驚いたようだ。
「ううっ..うっ」
どうしよう、涙が止まらない。
自分でもどうしてこんなに泣いているのか分からない。
「...やれやれ、しょうがないやつだな」
いつの間にか私の前まで来ていたアイリ様が、ため息をつきながら私の頭を優しく撫でてくれた。
アイリ様のなでなでを暫く堪能すると、不思議と涙が止まった。
「お、泣き止んだな」
私が恐る恐る顔を上げると、満面の笑みのアイリ様が目の前に居た。
どうしよう。どうしようもなく可愛いんですけどっ。
「??」
私の反応を待っているのだろうか?
アイリ様が不思議そうな表情を浮かべている。
ああ、愛おしい。
このままギュッてしたら、怒られるかな。
まずい、このままでは一線を越えてしまうかも。。
などと思い悩んでいると、突然私の頭に衝撃が走る。
「ぶへっ!?」
なんか変な声出ちゃったけど!何事!?
「おお、ピー助、お帰り」
私の頭上に話しかけるアイリ様
「只今戻りました、主」
頭上からアイリ様へ帰還の挨拶
「あの、ピーさん。何故私の頭に」
頭上の声の主に、私の頭に勢いよく帰還してきた理由を確認してみる。
「うむ、なにやらミナから、主に対する邪な気配が感じられたからな」
「うっ」
確かに否定は出来ない。
痛いところをついてくるな、ピーさんは。
だからって、そんな勢いよく頭に乗らなくてもいいのに。
でも、衝撃だけで痛くないのは、ピーさんなりに気を使ってくれた結果なんだろうな。
「で、どうだった?ピー助」
アイリ様、このまま話を続けるんですね。
なんか私、土下座みたいな格好になっちゃってるんですが。
そんな事を考えていると、ピーさんがバサバサと私の頭から飛び立ち、アイリ様の肩に止まる。
ピーさんこと、ピースカイはアイリ様の使い魔だ。
普段は雀より一回り大きいくらいの鳥の姿をしている。
ただ、ピーさんもファング同様、大きさは自由に変えられる。
さらに人間の姿になることも出来る、上級魔族だったりするのだ。
そんな上級魔族を使役するなんて、アイリ様有能過ぎですねっ!
「今日も問題はありませんでした。冒険者同士の小競合いがあった程度です」
ピーさんは、日課となっている町の見回りの報告をしていた。
アイリ様は『元』精霊王だ。
精霊王とは、先にも説明した通り、世界最強とも言える存在である。
言い方を変えると、世界屈指の権力者ということにもなる。
世の常として、権利者の周りには善からぬ事を企む者達が集まって来るものだ。
そうした輩は、アイリ様自身に手を出すことはまずない。
アイリ様に正面切って敵う筈も無いことは、重々理解しているからだ。
そうなるとどうするか、周りを巻き込むのである。
分かりやすい例だと、アイリ様と親しい存在でかつ、力の弱いものを人質にとる。
過去何度か経験しているが、こういった単純な策が意外と効果的だったりするものなのだ。
そのため、アイリ様は万が一にも、自分のせいで町の人達に迷惑がかからないように、ピーさんに町の見回りをさせているのだ。
報告を聞く限り、今日も町は平和だったようで、安心した。
「そうか、ご苦労だったな、ピー助」
アイリ様がピーさんを労うように、首元を優しく撫でている。
ピーさんは気持ち良さそうに、目をつぶっていた。
「アイリ、腹が減った」
そう言ったのは、今まで無言だったファング
ファングは基本的に口数が少ない。
人前で話すとまずいというのもあるんたろうけど、私達だけの時でも、必要最低限の言葉しか発しない。
「ん?そうだな。そろそろ夕食の時間か」
アイリ様はそう言いながら、ファングの頭をわしわし撫でている。
ファングは気持ち良さそうに、しっぽをブンブン振っている。
「そうですね、店じまいしてご飯にしましょうか」
店の二階が私達の居住スペースになっている。
店の戸締まりを確認して、私は夕食の支度に取り掛かるべく、皆と一緒に二階へ向かった。
登場人物紹介を兼ねた1話目です。
次からそれなりに物語っぽくなる予定です。