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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第88話 久々の休暇を満喫しよう(1)


 ラシェルに豚共が圧し掛かるのが見える。翔太はラシェルに駆け寄ろうとするが、身体が何かで縫い付けられて動けない。泣き叫ぶラシェル。翔太の目から涙が流れる。喉が潰れんばかりに叫ぶが届かない。そして……。



「ラシェルゥゥ――!!!」


 大声を上げながら飛び起きる。そこは翔太が借りている宿屋キャメロンの見慣れた部屋だ。どうやら夢を見ていたらしい。

 ほっと胸を撫で下ろす。メガネがない事に気が付きポッケットをまさぐると、メガネが出てきた。メガネを掛けて、髪の毛が縛れているのに気付き直ぐに外す。ふと気が付く。

 着ていたはずの服が変わっているのだ。

 今は、薄いグリーンのズボンに濃いグリーンのシャツ。その上に薄色グリーンのチョッキを着ている。これはメガラニカでの職員の服装だったはずだ。


(僕、黒のゆったりとしたズボンに黒のシャツを着てたよね。これメガラニカのギルド職員の服装だよ……ん? 僕大事な事忘れてる?)


 ゆっくり翔太は記憶を探っていく。ウコバクの討伐後、駄々をこねるラシェルをヘクターが眠らせ、ギルドハウスを出て行った。

 翔太はメガラニカのギルドの3階へ行き、あの下種悪魔――マンティコアに会った。


(そうだ。それで僕は数時間にも及ぶ拷問を受けて……)


 自分が何をされたかを思い出し身震いをする。かなりドギツい拷問をされたのに、身震い程度で済む自分に苦笑しながら、さらに記憶を探っていく。


(拷問にあきたマンティコアが趣向を変えるとか言い出して…………!!?)


 突如、オーク達に白い鎧をはぎ取られているラシェルの映像が翔太の脳裏に鮮明に浮かぶ。そこで翔太は一番重要な事実を完璧に思い出す。顔から血の気がサーと引いて行く。涙が浮かんできて目の前がぼやけて見えない。


「ラ、ラシェルゥゥゥゥ――!!」


 翔太はただ夢中でキャメロンの1階へ階段を駆け下りる。階段を転げ落ちながらも1階へ着くと、黒いマントにとんがり帽子のエルフの少女が翔太を見つけて嬉しそうに微笑んだ。

 駆け寄るとラシェルの肩を掴む。ラシェルは翔太の迫力に驚いて身を縮めている。


「ラ……シェル……無事? 何もされてない?」


 翔太に心配してもらえて嬉しかったのだろう。ラシェルが僅かに頬を染めて頷く。


「良かった! 良かったぁぁー!!」


 翔太はラシェルを抱きしめる。頬に熱いものが流れるのを感じた。暫らく翔太はラシェルを抱きしめていた。

 ラシェルも顔をリンゴの様に真っ赤に染め上げ帽子を深くかぶっていた。


「ショ、ショウタ、そろそろ離してくれ。痛い……」


 翔太はやっと我に返る。12歳くらいの美少女に泣きながら抱き付く男の図である。すっかり注目の的となっていた。四方八方から向けられる非難の目に慌てて身体を引き離す。

 今気付いたが身体が汗臭い。こんな臭い身体で抱き付くなんてあまりに失礼だろう。臭くなくても許されないかもしれないが。

 ラシェルは全身発火したかのように紅に染めている。慌てて謝る翔太。


「ラシェル、ごめんね。つい……」


「いい。翔太も無事でよかった」


 ラシェルの頭に鎮座するとんがり帽子をとると黄金色の光が漏れ出す。それほど、ラシェルの髪は綺麗だ。頭に手を乗せ優しく撫でる。ラシェルがモジモジしている。こういうところは年相応に見え思わず頬が緩む。

 いつもは変に妖艶な所がありドキリとすることがあるのだ。翔太自身はラシェルには大人っぽい雰囲気など似合っていないと思っている。子供は子供らしく振舞うのが一番だ。


 脇にヘクターがいるのに気がつき頭を深く下げると慌て始めた。取り繕うかのように、翔太と別れた後の事を説明始めるヘクター。相も変らず変な人だ。

 まずはラシェルについてだが、ラシェルを眠らせギルドハウスを出た後、アナがラシェルを担いで一足先にデリックの下に駆け込んだ。

 デリックに今大事な作戦が進行中なので、オットーのところに匿われてくれと言われ、ずっとヴァージルとともにオットー邸にいたらしい。

 ヴァージル、アナ、ラシェルは意外にも意気投合し、一晩中話に花を咲かせていたらしい。今では親友ようになったようだ。何の話題だったのかをラシェルに聞くが俯くだけで教えてはくれなかった。

 オットー邸なら人類最強クラスのアントンとカミラがいる。その彼らは【小狐丸】を所持する。賊程度が何千人来ても負けはしない。実に打倒な判断だ。

 

 ヘクター達はギルドハウスを出てからすぐにメガラニカの領主の館に行く。領主の館で市民の警護に当たっていたチェスに翔太の言葉を伝えるとチェスは何の疑問も持たずに動いてくれた。ヘクターとチェスの指示のもと冒険者達が協力し比較的短期間にメガラニカからの一斉避難が完了したわけである。その後やはり、デリックに現在作戦中である事を伝えられ、オットー邸へ他のエルフ達と共に身を隠していたというわけだ。アントン達に加えヘクターまで加われば大軍団で来ない限り落とすのは無理だ。

 メガラニカで悪魔が出現したので、その報告にラシェル達は十日後には本国に帰るらしい。アルフヘイム王国では悪魔が出現した場合には本国に帰国し詳しく報告すべき義務が存在する。その義務は何よりも優先されるそうだ。

 ラシェル達は現在、精霊との契約をするために魔の森周辺のエルドベルグに来ているらしい。それが果せずの帰国は残念だと言ってはいたが、ヘクターの顔には堪えられない程の笑みが浮かんでいた。数年ぶりの帰国がよほど嬉しいのだろう。

 これに対してラシェルは不機嫌そうだ。ラシェルの性格からして中度半端で投げ出すのは嫌なのかもしれない。頭をグリグリと撫でて宥めた。

 ラシェルの頭はいくら撫でても飽きない。あまりやり過ぎるとレイナと同様セクハラになる。さすがに帽子をとって撫でるのはやりすだ。自重するとしよう。

 

 今回は本当に肝を冷やした。すべき事の優先順位を決めるべきだ。

 第1にラシェルの最強の武器を作り持たせる。だが、今の材料では【超越級(トランセンデンス)レベル2】までしか作れない。【超越級(トランセンデンス)レベル2】では、あのマンティコアクラスから逃げる事は難しい。そこまでの圧倒的な力の差があった。素材を見つけるしかあるまい。

 ヘクターに聞くところによると、ラシェルは帰国の準備のためあと10日程はエルドベルグにいる。それまでに、必要な素材を魔の森で見つける。少し怖いが深域まで探索範囲を広げるべきであろう。


 第2は、ヴァージルとフィオンの【超越級(トランセンデンス)】の作成だ。

 フィオンとヴァージルの【超越級(トランセンデンス)レベル2】で取り敢えず良いと思われる。【超越級(トランセンデンス)レベル4】まで必要ない一番の理由はフィオンとヴァージルはマンティコアからは狙われていない。あのマンティコアが襲ってくるのは十中八九、翔太かラシェルだ。幻影がラシェルであったことから間違いはない。襲われる事はまずないだろう。二人について【超越級(トランセンデンス)レベル2】が必要な理由は別にある。


 まず、フィオンだ。フィオンとは今後魔の森――深域の探索を一緒にする事からそれに耐えられる程の力の上昇がいる。そこで【超越級(トランセンデンス)レベル2】を作成するというわけだ。【超越級(トランセンデンス)レベル2】でも、人間種にとっては異常な力を得る。元から戦闘のプロであり、精神的にも肉体的にも強靭なフィオンはそれで十分翔太やレイナ以上の戦闘能力を得る事が可能と推測される。

 

 これに対しヴァージルが【超越級(トランセンデンス)レベル2】が必要な理由は、フィオンとは種類が異なる。依然としてヴァージルが襲われる可能性は捨てきれないことだ。

 当初は、外道人間共がオークとの取引で攫おうとしていたと考えていた。だが、それだけだと、不自然な事があまりにも多すぎる。まず、一番不自然なのはオークと取引することのメリットと、それに失敗したときのデメリットの比較だ。あまりにも、デメリットが大きすぎると思われる。つまり、目的は他にあると考えるべきだろう。スパイをギルド職員に送り込むほどの気合いの入れようだ。そう考えた方がむしろしっくりくる。

 次に、外道人間と悪魔共が共謀している事も一応考えられる。そうであるならば、翔太の大切な人である、ヴァージルやフィオンが狙われる事もあるかもしれない。しかし、人間をあれほど卑下していた悪魔共が外道人間に協力するとは翔太にはどうしても思えない。取り敢えずは、悪魔共の目的と外道人間の目的は別にあると考えて良いと思われる。外道人間共の目的が何にあるかわからない以上、再びヴァージルが狙われる事も考えられる。だから、【超越級(トランセンデンス)レベル2】をもたせるのだ。

 これがフィオンとヴァージルについては【超越級(トランセンデンス)レベル2】が適切だと思われる理由である。

 

 第3は、自らの戦力の増強だ。今まではどこか行き当たりバッタリであったように思える。例え幻覚であっても、もう二度とラシェルが汚される姿など見たくはない。死ぬ気で戦力の増強に努めるべきだ。

 具体的には自らの【超越級(トランセンデンス)】の開発を行う。できる限り強い武器が良い。だが、ラシェルの武器の方が優先だ。今ラシェルの武器に想定している素材は極めて希少である。採取できてもラシェル一人分がせいぜいだろう。それに、《魔道具作成術》さえ取得できれば《錬金術》への進化の道が開ける。とすれば、より強力な武具も作成可能となる。【超越級(トランセンデンス)】を作る素材もただではない。一々、開発していたのでは本当に必要となったとき強力な武器を作れなくなる恐れもある。それだけは避けたい。当分は【超越級(トランセンデンス)レベル2】で我慢するしかない。

 次は言わずと知れたレベル上げだ。ギルドカードを確認したわけではないが、おそらくまだレベル20代、それを50まで最低でも上げたい。できれば、70近く程早急にあげたいのだ。そのためにも深域へ探索範囲を伸ばす事は必要不可欠だ。


 いろいろ自分の世界に入ってしまっていると、ラシェルの機嫌が悪くなっていた。もう最後と心に誓い、頭をグリグリと乱暴に帽子を上から撫でる。ラシェルはまた帽子を深くかぶって俯いてしまった。頬も心なしか紅潮している。

 その可愛らしい姿をみて思わず抱き締めたくなるが、それをすれば立派なロリコン(変態)だ。止めておくことにしよう。



 ヘクターは帰国の準備があるからと、翔太に一礼して帰っていた。ラシェルはキャメロンに残って翔太と話を続けるつもりであったが、準備に忙しいヘクターに襟首を掴まれ引きずられるように去っていた。

 そのラシェルの寂しそうな様子はドナドナと売られていく仔牛のようで思わず微笑む。再び抱き締めたくなる衝動に駆られる。

 中学に上がったばかりの年齢の少女をこれほど抱き締めたくなるのはどう控えめに見ても異常だろう。自分にはロリコンの素質でもあるのだろうかと背筋に冷たいものがはしる。そんな翔太であった。


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