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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第82話 事後処理すんぞ(3)

             

 暫らくしてからアドルフは立ち上がりショウに頭を深く下げて来た。もう以前の覇気のあるアドルフだ。


「ありがとう。もう少しで俺は自分の弱さをメイソンにすべて押し付けてしまうとこだった。貴方のおかげで戦士の誇りを思い出した。これだけは決して忘れてはいけない。メイソンのためにも」


「礼ならそこのチンチクリンにいいな。俺は助ける気などこれっぽっちもなかったんだ。そいつがあまりに鬱陶しかったから。ただそれだけだ。」


 アドルフはフローラに向き直り頭を下げる。


「フローラ、礼を言う。この恩は決して忘れない」


 フローラはアドルフにこのように頭を下げられたのは初めてだったのだろう。真っ赤になってアタフタしている。ショウはそんなやり取りが馬鹿馬鹿しく思いつつも鞄から最高位ポーションを数個取り出して、直ちに飲むように指示する。アドルフは大層感謝しショウに対し頭を何度も下げまくっていた。

 回復したアドルフが何かすることはないかと聞くので、ショウとフローラの服を調達してくるように頼む。ショウは数時間にも及ぶ拷問で上半身はほぼ裸だし、下半身は腰みのみたくなってしまっていた。

 フローラもショウの姿が裸同然だったことに気がついたようで、真っ赤になっていた。『反応が遅せぇよ! このトリケラトプス女!』と思ったのはご愛嬌である。


               ◆

               ◆

               ◆


 ショウは次にロニーに近寄る。

 ロニーの傷は途轍もなく深くこのままでは十数分としないうちに確実に死ぬだろう。重症というよりはもはや死ぬ寸前、まさに瀕死という言葉がしっくりくる。さらにロニーからは生きる意思が欠けているのだ。最高位のポーションを飲ませれば数十分は長持ちするだろうが、ロニーに飲ませようにもすべて吐き出してしまう。

 まずは意思を取り戻すのが先決と考え、アドルフと同じように左手で胸倉をつかみ、右手で頬を打つがうんともすんとも言わない。

 ショウがアドルフを正気に返らせることができたのはアドルフが戦士だったからだ。だからこの手の言葉に反応した。ロニーには戦士特有の雰囲気を感じない。確かに力はアドルフよりも強い。しかしロニーにはアドルフ程の覚悟が認められなかった。ショウには全く架空の世界に逃避行した馬鹿を戻す方法など知らない。

 暫らく語りかけていたが無理と悟って立ち上がる。生きる意思がないものなどそもそも助けようがないのである。


「無理だな。諦めろ。完璧にお花畑に旅立ってやがる。現実に戻って来ねぇよ。それにコイツ完璧に死ぬ寸前だ。ポーション飲ませても数十分の延命処置にすぎねぇ。このまま楽に死なせてやんな」


 ショウの言葉にフローラは血相を変えて疑問を口にする。


「アドルフ殿は助かったではないか? なぜロニーだけだめなのだ? 確かに傷は深いがそれにしたって――」


「コイツには戻ってくる意思が端からねぇからさ。アドルフの場合は自らにその意思があった。俺はあくまでその橋渡しをしただけにすぎん。戻って来る意思がなければ俺でも無理だ。それに……」


「それに?」


「さっきも言っただろう。コイツはもうほとんど死んでいる。生命維持機能の8割は失ってんじゃねぇか? 死ぬ運命の人間を生き返らせることは通常不可能だ。諦めろ」


「通常でも君なら出きるんじゃないのか?」


(此奴、俺を何だと思ってやがる? 俺にだって不可能はある。万能じゃねぇんだよ)


「…………」


 押し問答に飽きたショウは部屋を出ようとするがフローラがショウの腰にタックルしてくる。


(フローラの奴、こうすりゃあ俺が折れると考えてんじゃねぇだろうな?)


「離せ! 二度とは言わん」


 濃密な殺気を放出しようとするが、フローラの目尻に浮かぶ涙を視界に入れた途端直ぐに視界が歪む。

 間違いない、翔太だ! かきむしりたいほど怒りが全身から湧き上がる。


(またか! あのくそ、日和見野郎ぉ! いい加減にしやがれ!

 できねぇもんはできねぇんだよ!!)


 ショウの怒号に反応するかのように一気に意識が遠のいていく。


(くそ! このままでは……何か…………あぁ、そうか……方法は一つだけあったな。ただし……)


「一つだけ手がないこともない……」


「ほ、本当か!?」


 眼に期待を潤ませつつもショウを見上げる。


「ああ、だがロニーが助けられるかはお前次第だ」


「僕なら何でもする!!」


「……餓鬼が『何でも』などとおいそれと口にすんじゃねぇよ」


「ご、ごめん……」


 吐き捨てるように呟くショウにフローラがビクッと身を竦ませる。こんな根性でよくもまあ冒険者などになったものだ。いや、なれたものだ。

 ため息をつきつつも、ショウは近くの瓦礫から釘を取り出しショウの黒刀で細い針状に削りあげる。5本ほど作り、それを火炎スキルでもやし火炎滅菌をする。

 ロニーに近づきうつ伏せにして鎧を脱がせる。そして服を捲り上げる。ロニーはとても男とは思えないほどの華奢な身体をしていた。この事に若干の違和感を覚えながらも、ショウはロニーの後頭部に針を刺す。

 おそらくショウがロニーに止めでも刺そうと勘違いしたのだろう。フローラは決死の形相でショウの腕に纏わりつこうとする。


「触るな!! 触ればロニーは死ぬぞ!」


 ショウの言葉にその右腕に触れる寸前で身体を硬直させるフローラ。


「た、助かるのか?」


 ショウはフローラの言葉に答えもせずに、後頭部にもう一つの針を刺す。ロニーの身体がピクンと動く。次に右の肩甲骨の上の部分にショウは針を3本さす。

 数分で死にかけの蒼白だったロニーの顔に少しずつ赤みが増して来た。成功を確信しショウは直ぐに針を引き抜く。直ぐに仰向けにして鞄から最高位のポーションを5本取り出す。

 ロニーの頭をショウの膝に乗せ最高位のポーションを飲ませようとする。だがまだ飲み干すだけの力は戻らないようだ。


(やべえな。この針の効果が完全に発現する前に、コイツ死にそうだ。それだけ時間が経っちまってる。今直ぐ何らかの処置して命繋がねぇと条件に行く前に死ぬなぁ……俺はそれで別に構わんが、そうなった途端多分翔太に意識が変わる。そんな気がする。

 おそらくこのふざけた現象は俺と翔太が分離したばかりで安定しちゃいねぇからだ。つまり、今後の俺と翔太のこの身体に対する支配権争いに関わる可能性が高い。

 ならば少なくとも、夜明けまでは俺は意識を保つ必要がある。

 それにまだ今日俺はやらねばならぬことがある。それを為さねば今後の俺の行動が著しく制限される。

 とすれば、やりたくはねえが……)


 ショウは最高位のポーションを口に含んでロニーに口移しで流し込む。ロニーの咽喉がゴクゴクと動いている様子からもどうやら無事胃まで到達すると思われる。そうすればあとは消化を待つだけだ。残りの最高位のポーション4本をすべて口移しでロニーの胃に流し込んだ。

 治療が終わってフローラに視線を送るとフローラは真っ赤になって俯いていた。


(相変わらずこの御姫様のリアクションは良く分からん。考えるだけ無駄か……)


 ここからが時間との勝負だ。

 そこに服をもってアドルフが部屋へ入って来た。ショウとフローラはアドルフから渡された職員専用の服に着替える。

 アドルフとフローラがそろったので丁度良いと思い二人に簡単に説明し始める。


今経絡(けいらく)のうちの活神と忘却孔という(けい)(けつ)を刺激した。難しい事言っても理解できないだろうから簡単に言うぞ。

 まず活神、これは生命力自体を亢進させる身体の要所のようなものだ。

 もう一つが忘却孔、これは都合の悪いものを忘れるという脳の機能を亢進させる要所だ。とは言ってもよぉ、この忘却孔を刺激しても実体験を完全に忘れるという事はねぇ。むしろ体験した事が当事者ではなく第三者のように感じるようになる。つまり夢の様に感じさせる経穴というわけだ。

 この二つを先ほど刺激した。特にこの活神、非常に強力だがある副作用がある」


「副作用?」


「人間の三大欲求が異常亢進すんのさ。つまり、これらの経穴を刺激すると、まず一番最初が性欲、二番目に食欲、三番目に睡眠欲が異常亢進し、これらに身体が支配される。

 だからこれらを沈める必要がある。じゃねえと、ロニーは狂う」


 フローラとアドルフはポカーンという顔をしていた。だが呆けられても困る。ロニーを救いたければ一秒たりとも無駄にはできない。

 ロニーの命など心底どうでもよいが、こうなっては仕方がない。内心辟易しながらもアドルフに食料の調達を頼む。

 加えてこのギルドハウス内に使えるベッドがあるかと聞くとギルド職員専用の宿直室が2階にあり、ショウ達の服もそこからとって来たそうだ。

 そこでアドルフにその場所まで案内してもらう事にした。



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