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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
89/285

第79話 調子に乗ったクソ悪魔をぶっ殺すぞ

 意識が覚醒していく。ゆっくり瞼を開ける。

 頭がすっきりする。久しぶり(・・・・)に世界へ誕生したのだ。思う存分味わいたい。大きく息を吸い込み吐く。所謂(いわゆる)、深呼吸というやつだ。

 ついでに周囲を確認する。

 どうやらマンティコアの野郎がガス、ガイと呼んでいた雑魚悪魔に縫い付けられているようだ。翔太の奴はこんな雑魚共に一体に何をやっているのだろうか。


(取り敢えず殺そう。鬱陶しい)


 今までガスとガイの20本の爪により床に縫い付けられ、ピクリとも動かなかったショウタの腕がピクリと動く。

 ガスとガイは眉を顰めながらも、万一のために備えたのだろう。再度、ショウタを細切れにしようと、爪を高速で動かそうとする。だが逆に爪がピクリとも動かせない。

 狼狽しショウタに視線を向けるガスとガイ。

 ショウタとの絶望的なまでの実力の差も把握できないガスとガイに殺意たっぷりの凶悪な笑みを投げかける。


「「っ!!」」


 ガスとガイは口角を三日月状に吊り上げるそのショウタの顔を見て声にならない悲鳴を上げる。

 ショウタは爪が刺さっているのをお構いなくユラリと立ち上がる。真っ青な顔でガスとガイは共に必死で爪を抜こうとするがショウタが全身の筋肉を締めており抜くことができない。

 ショウタは左手にガスの頭を右手にガイの頭を持ち捻じり上げる。


 ゴキリ!


 ガスとガイの首の骨が折れる鈍い音がする。

 同時に体内で練るに練った氣を両手からガスとガイの頭部に大量に放出し、氣の正常な流れを狂わせる。そして両手に持つガスとガイを左右に交差するように壁に放り投げた。


 ドゴォォォォォォォォンッ!


 ガスとガイは大型トラックと正面衝突したような馬鹿げた速度で壁に吹き飛ばされ頭からめり込みピクリとも動かなくなった。

 ショウタは床を静かに蹴りフローラの下へ一瞬で行き、フローラに圧し掛かっているオークキングの頭を鷲掴みにし、グルリと一回転させる。


 ゴキャッ!


 首の骨を折られ成仏したオークキングがフローラに倒れ込む。

 フローラの両手両足を押さえているオークキング4体が驚いてショウタに視線を向けようとする。だが、その間も与えられることなく、その首があらぬ方向に捻じり上げられ、糸の切れた人形のように床にドスンと倒れ落ちる。

 フローラは自分に倒れ込んできたオークキングにギャーギャー喚いている。(かしま)しい女である。ジタバタ手足を動かし、息を引き取ったオークキングを押しのけようとしているフローラを見下ろす。


「テメエ、何、遊んでんだ?」


 ショウタは心底でどうでもよいような軽い調子で言葉を発する。


「遊んでなんかいない! 眺めてるくらいなら、この豚を退けるの手伝ってくれ!」


 泣きべそをかきながらも蜘蛛の巣にかかったみたいにジタバタするこの女は心底哀れだ。確かに助けるメリットはほとんどないがデメリットもないのも確かだ。

 面倒そうに、ショウタはフローラに圧し掛かっているオークキングの身体を後ろにポイと放り投げる。


「無事か? 無事だな? ならとっととそこの足手まとい共を連れて失せろ」


 此奴らがどうなろうと知ったことではないがショウタもこの世界で遂げねばならぬ目的がある。流石の冒険者ギルドもフローラ達がショウタと木端悪魔の戦闘の巻き添えで死亡したとすれば怒りくらいはするだろう。そうなればショウタの目的の障害になる可能性は高い。ならば今冒険者ギルドなる組織とドンパチやるのは愚策というものだ。使える奴は愚者でも使う。『俺』はそういう奴なはずだ。


(まあ、奴らが俺に喧嘩をうってきたら話は別だがな)


「…………」


 無言で床にへたり込みつつモジモジと体をくねらせるフローラ。俯き気味の顔が首の付け根まで朱を注いだように真っ赤になっている。全く意味不明な反応をする奴だ。


「早くいけ。二度とは言わん」


 声色を強めると瞼を閉じる。そしてやっとフローラは顔を上げてショウタの目を見つめる。その顔は案の定トマトのように真っ赤で目尻には涙が浮かんでいた。


「す、すまない。腰に力が……入らない」


「はぁ?」


 翔太の知識では此奴は一応、SSクラスの冒険者のはずだ。それが戦場で腰を抜かす?  要するに此奴は戦士ではなく、正義ごっこが好きなただの餓鬼というわけか……。

 面倒だ。翔太の奴、実に面倒な奴をショウタに押し付けてくれたものだ。

 大きく息を肺から吐き出す。


「ぐ……す、すまない。本当に立てないんだ……」


 遂に泣き出し捨てられた子猫のような視線で見上げるフローラ。

 ショウタは軽い舌打ちをしつつフローラを抱き上げて部屋の入り口付近まで連れていく。次いでアドルフ達の場所へ行きアドルフ、ロニーを背負いフローラの傍へ置く。

 フローラが立てるようになればアドルフ達を連れてそこの扉から部屋の外へ逃げるだろう。逃げる間もなく戦闘に巻き込まれ死んだらそれはショウタのせいではない。そのときはフローラ達の運命だと思い諦めてもらうことにする。


 視線を部屋の中心にいるマンティコアに向け固定する。

 このショウタの隙らだけの行動にもマンティコアは身動き一つせず、ただ観察するだけ。今まであった余裕の笑みはその顔から消失し、その瞳の中には激烈な驚愕と不安が見える。


「それにしても、このメガネと長い髪マジ鬱陶しいしいな。

大体、俺、視力全く悪くねえじゃねぇか。今、柚希の野郎はいねぇのになぜメガネをはずさねぇ? 翔太のやる事は相変わらず訳が分からんぜ」


 今寝ている翔太と今起きているショウタは記憶を共有している。だが、それは断片的なものにすぎない。翔太が特に印象に残った事しか覚えていないようなのだ。現在メガネをしている理由は今のショウタにはわからない。とすれば、今眠っている翔太にとってもさほどたいした理由ではないのだろう。

 翔太はポケットにメガネを入れ自分の髪の毛を二本引き抜いた。そして髪の毛の端を右手で握り、氣を込めると髪の毛はピンと針金のように固くなる。その針金のような二本の髪の毛で自らの長いだらしない髪を後ろで縛った。


「これでよし」


 目の前に遮るものは何もない。これで闘いに没頭できるだろう。


「ショウタ君……僕……」


 心細そうなフローラの声が背中越しから聞こえてくる。

 ショウタは無意識にもフローラに向き直り頭をグリグリと撫でていた。フローラは驚いて目を白黒させてショウタを見上げながらなすがままになっている。

 

「心配すんな」


 自身の不可思議な行為と言葉に軽い自己嫌悪を覚えつつも、フローラからマンティコアに視線を移す翔太。

 そろそろ限界だ。目の前の愚者を殺せとショウタの本能が喚きちらし五月蠅いことこの上ない。

 ショウタは自らの殺意を解放させる。ショウタの殺意を体現した真紅のオーラが翔太の身体から湧き出し身体に纏わりつきユラユラと揺らめく。

 

「ひっ!」


 後ろでフローラの悲鳴が聞こえる。肩越しに振り返りフローラを見ると顔面蒼白となり、身体を小刻みに震わせている。

 とんでもなく面倒な女だ。だがどうしても今寝ている翔太の残滓が無視することを否定する。内心で舌打ちをしながらも、フローラに言葉を投げかける。


「目を瞑ってろ。どうせすぐ終わる」


 おそらくこれは寝ている翔太の癖なのだろう。頭をグリグリと再度撫でてしまう。


(あの野郎……普段からこんな事をしてやがったのか……)


 フローラは顔にもみじを散らしながらもコクンと頷く。

 どうも目覚めて早々ショウタらしからぬ行動が目立つ。まあまだ目覚めたばかりだ。翔太と意識が混在していても何ら不思議ではない。そのうち元の自分に戻っていくことだろう。それまでの辛抱だ。


 存外フローラという女は素直な奴らしい。瞼を固く閉じてご丁寧に耳まで両手で塞いでいる。

 これならショウタの覇気を浴びて死ぬこともあるまい。仮に死んだとしても、元々この状況はフローラの幼い心が招いた事態だ。自己責任という奴だ。


 ショウタはフローラから視線を外しマンティコアに向き直る。そして先ほどとは一転凶悪な笑みを顔一面に張り付かせつつマンティコアに向けて静かに歩き出す。

 マンティコアは能面のように無表情な顔で5柱の悪魔達にショウタの討伐を命じる。


「そのお兄さんをやれ、最悪殺してもかまわない」


 マンティコアの命により5柱の悪魔達は四方八方からショウタに襲いかかりその鋭い爪を突き立てる。しかし――

 ショウタは5柱の全ての爪を器用に掻い潜り一体に張り付くように接近し、右手を固く握り、たっぷり氣を込めた正拳を悪魔の頭部に衝突させる。


 ボゴォッ!!


 頭部が爆砕され、血肉の雨が舞い振る。頭部を破壊された悪魔はドシャと床に倒れ塵となり床に崩れ落ちる。

 1柱を殺したショウタは、近くにいた悪魔に爆風を巻き起こしながら迫る。


 ゴシャリッ!


 そして接近した悪魔の頭部のみを捻じ切って通り過ぎていく。

 驚いた残りの3柱は直ぐに態勢を整えようとするが、ショウタの姿がぶれ、次々にまるで瞬間移動のようにいろいろな場所に現れる。


 ドゴォッ!


 次の瞬間悪魔の1柱の頭部が爆ぜる。

 悪魔達が恐慌状態となりショウタの居場所を探すが、もう一柱の上半身がはじけ飛ぶ。最後の悪魔はショウタに捻じ切られた悪魔の頭部を投げつけられ爆発し挽肉となっていた。


「オイオイ、まさかこんなもんか?」


 ショウタは目の前の悪魔よりも悪魔らしい凶悪な笑みを浮かべつつ、マンティコアに視線を向ける。

 勿論、笑っているつもりなど微塵もない。

 今寝ている翔太との記憶にはパスがつながっている。したがって、翔太に強い印象として残っている記憶は映像となってショウタにも送られる。その映像の中にはラシェルがオーク共に襲われている映像もあった。例え、幻とはいえあれほど不快なものをショウタに見せつけてくれたのだ。文字通りただで済ますつもりはない。ただ目の前の木端悪魔をなぶり殺しできると思うと、自然と口角が吊り上がるだけだ。

 マンティコアはそんなショウタの表情をみて、石のような固い表情になっている。

 額に冷たい汗を垂らしながら、ガスとガイが吹き飛ばされた方に視線をやりながら声の限り叫ぶ。 


「ガス、ガイ! お前達、いつまで寝ているつもり? 早く、アイツを戦闘不能にしなよ。いや、もう殺して構わない。アイツは危険だ。早く殺して!!」


 マンティコアは何度も命じるがガスとガイは頭を壁にめり込ませたままピクリとも動かない。


「おい、なぜ、返事をしないの? ガス、ガイ、僕の命令が聞けないのか?」


「お前の2(ふた)()の側近に期待しても無駄だぜ。頭を捻じってから止めに氣の流れを狂わせた。悪魔も精神生命体の一種だろ? なら死があるはずだ。死がある以上、氣を狂わせられれば確実に滅ぶ」


 ショウタの顔に張り付いたような笑い顔に狂気も混ざり合い、さらに悪質でかつ兇悪に歪む。その人間とは思えない狂った表情から発せられるその言葉にマンティコアは頬をヒクヒクと引き攣らせる。


「お兄さん、聞いていい?」


 マンティコアは声を僅かに震わせながら恐る恐るショウタに尋ねる。その様子はまるで野ねずみが猛獣を前に怯えるようだ。


「なんだ?」


 カス悪魔との問答など無意味だし面倒だ。正直どうでもよい。


「お兄さん。誰?」


「俺か……一応、ショウタ・タミヤってことになるんじゃないのか? まあ確かに彼奴と一緒では後々紛らわしいな。『ショウ』とでも呼びな」


「そんな意味じゃないよ! お兄さんは僕と同じ悪魔なの?」


 マンティコアは脂汗を垂らしながらも、必死の形相で尋ねる。


「そう怒鳴るなよ。しかし俺が悪魔ねえ――」


 ショウの顔が残忍に歪む。


「ひぃっ!」

 

 ショウの表情を見てマンティコアの顔がさらに恐怖に満ちて行く。


「くくく……悪魔? 俺がそんな下等生物にお前は見えるのか?」


「見えるよ。お兄さんからは僕ら悪魔と同じ匂いがする。純粋な悪の匂いが」


 確かに今のショウが悪なのは違いない。というか悪そのものだろう。今のショウはそのように作られた。

 だが悪には悪のルールというものがある。それすらわからない奴は悪ではなく只の外道だ。


「テメエと一緒にすんじゃねぇ! 別に俺が悪だという点を否定するつもりはない。奪う事も否定はしない。

力がない奴が悪いんだ。だがなぁ、騙す? 仲間の肉を食わせて楽しむ? 人前で女を襲わせる? テメエのやり方は全然スマートじゃねぇんだよ」


 ショウの怒りに反応し人外で出鱈目な殺気が身体中から発せられ渦を巻きマンティコアに向けられる。

 その殺気はもはや視認できるくらいの凄まじいものだ。実際に向けられれば通常の人間なら即死だろう。

 現に悪魔のマンティコアも苦しそうだ。


「ぼ、僕はもうお兄さんとやりあうつもりないよ。矛を収めてよ。これ以上は無駄な戦闘でしょ」


 この馬鹿悪魔はショウを怒らせるのが殊の外得意らしい。ショウの逆鱗に触れる事を態々選択してくる。

 許すわけがないだろう。逃がすわけがないだろう。そして、ただ楽に殺すことももうしない。

 慈悲――楽な死を与える限度は目の前の愚者はもうとっくに超えたのだ。肌が焼け付くような殺気がショウの怒りに反応しさらに増した。


「あぁ? テメエは俺を拷問したんだぞ。今更止められると本気で思ってんのか?

それにテメエは……」


 翔太は悪鬼のごとき姿と声でマンティコアを威圧する。


「か、勘弁してよ。あの少年に君のようなバケモノが眠ってるなんて知らなかったんだ。

 もう二度とこの世界には関わらない。だから――」

 

 途中からマンティコアの言葉は耳に入っては来なくなっていた。今はマンティコアに永劫の苦しみを与える方法のみをただ考えている。

 そしてついに閃いた。愚者に永劫の地獄を与える方法を! 最高の方法を!


「テメエ、ホントに屑だな。いい事思いついたわ」


 翔太の顔の口角が三日月状に吊り上がった。マンティコアの顔が蒼白になり唇がこわばる。


「もう一度俺とテメエで契約する。そうだな。契約内容は勝負して勝った方が好きな事を一つ命令できるってのはどうだ? 

 まさかもう契約は嫌です――なんて日和った事は言わないだろう? あれだけ俺に喧嘩売ってくれたんだ。拒否権は認めねぇぜ!」


 マンティコアはショウが最も嫌悪するタイプの悪魔だ。

他者に危害を与える覚悟はあるが、他者から危害を加えられる覚悟はない。高みの見物を決め込むことしか能がない。

 だから次のマンティコアの言葉は容易に想像できたし、その言葉が今ショウの中を暴れまわっている怒りの劫火にガソリンをぶちまける事になる事も十分に予想できていた。

 

「嫌だよ。もう契約をするつもりはない。僕はもう帰らせてもらう」


 マンティコアはマジックアイテムを起動させようとしているようだ。だが、そんなものはすでにショウには想定済みだった。

 マンティコアの顔に狼狽の色が宿る。


「もしかして転移系アイテムの発動のことかぁ? それならさっき糞悪魔ども捻り殺したときに全部潰したぞ。ほらよ」


 ショウはマンティコアの足元に漆黒の宝石の欠片を放り投げる。先ほどの5柱の悪魔を捻り殺したとき確保し粉々に砕いておいたものだ。これほど粉々に砕けばもう使用は不可能だろう。

 本来あれほど派手に動き回るのはショウの戦闘スタイルではない。ショウが不自然に無駄な動きをしていたのは戦闘に特化した者なら直ぐにわかっただろう。加え転移系アイテムの破壊など戦闘の基本中の基本だ。ショウの動きをみれば、戦闘に特化した者なら転移系アイテムの破壊をまず初めに疑うはずだ。

 だがマンティコアは気付きもしない。どうやらこの悪魔は愚者中の愚者らしい。

 

「実験動物、女を殺せ!」


 そして、最も愚かな滅びへの選択をマンティコアは自らの意思で選び取る。

マンティコアがオークエンペラーモドキに命令すると同時に自らは外に逃げようと窓際付近に疾風のごとく疾駆する。

 だが、マンティコアのような下種のやり口など知り尽くしているショウは直ぐに、オークエンペラーモドキに近づきその正中に右正拳を叩き込む。


 ボシュッ!!


 豪風を巻き起こしながら迫るショウの右拳がオークエンペラーモドキに衝突し身体の大分部分を破壊する。暫らく回復は無理だろう。このオークエンペラーモドキは後で使えるかもしれない。そう思い粉々にするのは止めておいた。

 すぐに、マンティコアを探す。案の定、マンティコアは窓際に到達するところだった。直ぐに、床を蹴り、マンティコアが視認し得ない程の速度で疾走し、マンティコアの下半身に氣を十分に練った左フックをぶちかます。


 ドゴォッ!!


 マンティコアの下半身が粉々に爆砕され、鮮血がギルドハウスの床を赤く染める。


「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁッ――――――!!」


「いいぜぇ~! いいねぇ~! テメエは最高に馬鹿で愚かで屑野郎だ!!」


 ショウの表情に獣のような怒りがギラギラ光る。何から何まで此奴はショウをイラつかせる。ある意味その一点につきマンティコアは天才なのかもしれない。


「み、見捨……てたの……か? 女……を?」


 マンティコアは激痛に顔を歪めながら尋ねる。

 ショウにとってフローラなどの赤の他人の命などには興味がない。今のショウにとって大切なのはラシェルだけ。そういう存在だ。

 あくまでフローラを見捨てないのはショウの今後の行動をしやすくするために過ぎない。


「あぁ? んなわけねぇだろ! キッチリあの豚はミンチにしておいた」


 横目でフローラに視線を向けるとフローラはショウの言いつけを守りまだ瞼を閉じ、耳を塞いでいた。これなら此奴のトラウマを思い起こすこともあるまい。

ショウは再度視線をマンティコアに向ける。


「ところで、あの豚すげえ生命力だよな? 身体を粉々に粉砕したのにもうくっついてるぜ。そこでだ。閃いたのさ」


 ショウはマンティコアに遠慮するつもりはない。精々地獄を見てもらおう。


「閃いた?」


 オウム返しのように尋ねるマンティコア。


「俺が好きな言葉、教えてやろうか? 目には目を歯には歯をだ! 最高に素敵な言葉だろう? 

 テメエ、確か肉を他人に食わせるのが好きだったよなぁ? テメエが俺との契約を受けられないなら、テメエを少しずつスライスして豚に食わせるってのはどうだ? 心配すんな! 何度も回復できるように少しづつ切り刻んでやるよ!」


 悪魔のマンティコアが実験動物とみなしていたオークエンペラーモドキに喰われるというのだ。今屈辱で腹の底が煮え立っているのだろう。ショウを睥睨していた。

 ショウはマンティコアが視認できない速さで接近すると左腕を根元から捻じり切った。


 ブシュッ!


 左腕の付け根から大量の血液がピューピュー流れ出る。


「ほい。豚君。たんとお食べ」


 ショウはマンティコアの左腕を投げ放つと、既にショウに爆砕された上半身が癒えていたオークエンペラーモドキがボリボリと食べ始めた。


「ああああああぁぁぁ――――――!!」


 涙と鼻水で顔を醜く歪めつつ悲鳴を上げる。あまりにもの悍ましさからだろうか。全身の苦痛に加え、嫌悪感と濃厚な恐怖がシェイクされてマンティコアの顔一面に浮かんでいた。

 マンティコアは床にへたり込みながらもショウを見上げる。その姿はまるで恐怖に晒され切った子羊の姿だ。


「おい、おい! まさか翔太よりも根性なしとは思わなかったぜ! テメエ、一応悪魔だろ? 少しは根性見せろ!」


「わ、わかったよ。もうやめてよ! 儀式契約を結ぶよ」


「ちっ! テメエ、本当に根性ねぇな! 

まあいい、契約内容は俺とお前が戦って勝った方が一つ命令できるでいいな?」


 ショウは心底不愉快だった。この程度の覚悟しかないものにあのような不快な映像を強制的に見せられたと思うと、憤怒と憎悪で全身がマグマのようにグツグツと煮え立つのだ。

 だから、マンティコアに氷のような視線を送る。


「ちょっと待って! 僕と君じゃあ力の差があり過ぎてゲームにすらならない。だから条件を加えてほしい」


「条件ねえ……別にかまわんが」


 ショウは目の前の馬鹿悪魔のやろうとしている事が手に取る様にわかった。ショウが了承した事で、おそらくマンティコアは内心では腹を抱えて笑っていることだろう。

 それにもかかわらず、条件を受けたのには理由がある。散々舞い上がった挙句それが打ちのめされたときの絶望は格別だからだ。一度、翔太にそれをしたのだ。同じことをされても文句は言わせない。それに――。


「僕が全力でお兄さんに攻撃を加える。それでお兄さんが僕の攻撃を受けてもまだ戦闘可能ならお兄さんの勝、戦闘不能なら僕の負け。どうシンプルでしょ?」


「構わん。だがそれじゃあつまらねえ。俺に傷一つでも付けられたらテメエの勝でいいぜ。おまけにてテメエが完全回復するまで待ってやる」


 さらにオマケを上乗せしてやる。乗せられた目の前の阿呆が顔を醜く歪める。ショウはそれに気付かないふりをしつつ、オークエンペラーモドキに近づく。

涎を垂らしながら佇んでいるオークエンペラーモドキを右拳の一撃で今度は文字通り粉々に爆砕した。ここまで徹底的に破壊すればもう回復することあるまい。

その後、ショウはマンティコアの下半身と左腕が回復するまで黙って目を瞑っていた。ものの数分の休憩でマンティコアは欠損部が復元する。


 マンティコアがスキルを発動し空中に文字の書かれた羊皮紙が突如出現させる。

ショウが内容を確認してからマンティコアが自らの親指を爪で切りつけて契約書に押す。ショウも親指をかみ切って血判を押す。契約書の中の文字が発光し契約書が空中へ飛んでいき静止する。準備は整った。


「馬鹿が! 僕を舐めすぎだよ。これでお兄さんも僕の奴隷、お兄さんの大切なラシェルとかいう娘もお兄さんの目の前で思う存分に辱めてやる」


「…………」


 ラシェルの名前を聞いた途端凄まじい怒りがショウの瞳に灯り燃え上がる。それはショウの存在そのもの否定の言葉。


「そうだ。お兄さんの頭の中を全部見せてもらってお兄さんの大切な者達を僕の冥界の城に招待する。豚たちや醜い魔物のペットとして暮らしてもらおう。

大丈夫早く壊れたらつまらないからね。できる限り壊れないように気を付けるからさぁ。そうだ壊れたらお兄さんにあげるよ。ほら僕ってとても優しいからぁ」


「御託はいい。さっさと始めろ」


 魂すらも凍えさせるようなゾッとする声音でショウはマンティコアに告げる。


「言われなくてもそうするさ。僕も次の快楽が楽しみで、楽しみで待ちきれないからね」


 マンティコアは少年の服を引き裂き巨大な獣と化していく。その姿は赤い鋼のような被毛に覆われたライオンのような生物だった。だが通常のライオンとは明確に異なっていた。まずサソリのような無数の棘の生えた長い尾をもち、三列に並ぶ鋭く長い牙をもっていた。

 マンティコアは空中に飛翔、停止し口を大きく開く。するとマンティコアの口の中に雷を纏った紅の火炎の球体が生まれそれが急速に膨れ上がる。その塊は直ぐに部屋いっぱいに充満した。球体の放つあまりにもの超高熱で床が一瞬で焼失する。

 ショウは眼を閉じて構えの姿勢から右手の拳を脇の下まで引き息をゆっくり吐いてゆく。 そんなショウをみてマンティコアは人を馬鹿にしたような薄笑いを浮かべながらも話しかけてくる。


『そんな事で僕の最強の一撃を防ぎきれると思ってるのかい? 街ごと吹き飛んじゃいなよ。でも大丈夫。お兄さんの出鱈目な回復力なら絶対に生きてるさ。でもその後ろの娘は諦めてね。僕のこの一撃だけは悪魔一軍でさえも壊滅させるだけの威力があるんだ。その娘なんて一瞬で蒸発さ。せいぜい自分の甘さと愚かさを呪うがいい』


「…………」


 ショウは無言で息をゆっくり吐いている。これをマンティコアは諦めの態度と採り法悦の笑みを浮かべる。大方、勝利の確信と翔太を奴隷とした後の悦楽の未来でも想像しているのだろう。


『《超獣王の炎雷砲》ぅぅ!!』


 マンティコアから雷を纏った超高密度の紅の火炎球が翔太を焼滅させんと高速で放たれた。


 ゴオォォォォォォッ!


 ショウは引き手とした右拳を腰の回転を切り返しながら、対象である火炎球までまっすぐ神速で突き出す。

 それは唯の正拳付きにすぎない。だがこれこそが必殺最強の一撃、すべての武道の原点であると同時に極地。

 ショウの右拳が消える。そして、その瞬間、世界から音が消え、色も消え、すべてが真っ白に染め上げられる。

すべてが消えた後、暫らく遅れて世界は息を吹き返す。


 ドゴオォォォォォォォォォォォォンッ!!


 その直後ミサイルが直撃したような爆発音が鳴り響き、空気をビリビリと震わせる。屋根を含めてギルドハウスの3階以上をすべて吹き飛ばし、夜空の月と星々がショウとマンティコアを出迎える。

 マンティコアはショウの一撃でもはやライオンの頭部しか残っていない。飛翔する力も無くなったのだろう。重力により床に叩きつけられ轟音をあげる。ショウはゆっくりマンティコアに近づいて行く。


「俺の勝だ。俺には傷一つねえ」


「ふざけるな! 僕に攻撃するなど契約違反だろう? お前の負けだ!」


「おお、いいねぇ。『お兄さん』からやっと、『お前』になったか。テメエはこう見苦しくなくちゃあなぁ。俺はそれが見たかったんだ。

 だが、契約違反じゃあねぇよ。契約内容覚えてるだろ? 『お前の一撃を受け、俺が無傷』が条件だ。確かに俺はお前の一撃を俺の右拳で受けた。ちがうか? 

 それにな、仮に契約違反なら俺に何らかのペナルティーが発生しているはずだろう? それがない」


 ショウは狂喜に近い表情を顔面に漲らしつつ、気を抜けば嘔吐しそうな程の殺気をばら撒きながらマンティコアを睥睨する。

マンティコアの顔一面に恐怖と絶望が満ちる。


「じゃあ、命令だな。これはずっと決めてたんだぜ」


「僕がお前の奴隷になるのか?」


「阿呆! テメエみたいな根性なしの(くず)など欲しくねぇよ!」



「だったら何さ? まさか僕に狂わないことの誓――」


 愚者の言葉などこれ以上聞く意味もない。だからショウは終わりの言葉を紡ぐ。


「…………コーキュートスに落ちろ。そして永劫の苦しみを味わえ」


 ショウの無機質で氷のように冷たい声色で紡がれる言葉にマンティコアのライオンの頭部が光り輝く。


「コ、コ、コーキ……ュート……ス? ふ、ふざけんな! どうして僕が? あそこは、あそこだけは嫌だ。絶対に嫌だぁぁぁぁ――――!!」


「ほう――一応悪魔だけあって恐ろしさぐらいは分かってるみてぇだな。そうだ。修羅神仏悪魔、人に非ざる者の拷問所。怪物達が跳梁(ちょうりょう)跋扈(ばっこ)する失楽園。

 いいじゃねぇか? 拷問好きなんだろ? 人間の拷問なんかじゃ味わえねえありとあらゆる拷問をいやっというほど実体験できるぞ? 喜べよ。俺からの贈り物だ!」


 ショウの口角があり得ない程三日月状に吊り上がり悪魔でも浮かべることができない形相を形づくる。マンティコアは噴出するような絶望的な泣き声を張り上げる。


「嫌だ。嫌だ。嫌だ。助けてくれ。なんでもする。もう人間を襲ったりしない。そうだ。僕の城をあげる。僕の集めた様々なアイテムも。飛び切りの女達もいる」


「…………」


「ぼ、僕は最初から乗り気じゃなかったんだ。ただあの方に唆されただけなんだ。本当だ。信じてく――」


「いや、もう時間だ」


 ショウがマンティコアの言葉を遮る。それと同時にマンティコアの背後に大きな扉が音もなく出現した。その扉はすべて黒色の人骨でできており、禍々しい漆黒のオーラを放っている。扉がギギィーと開かれる。扉の中は漆黒の闇があり、黒赤色な生き物がウゾウゾと蠢いている。突然いくつのも槍がマンティコアを突き刺す。そして引きずり込まれていく。


「た、た、た、助けてくりぇ! もうしないきゃら――――! いりゃだぁ! い――」


 マンティコアが扉の闇の中に引きずり込められ扉は堅く閉められる。




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