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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
81/285

閑話 信仰 ヘクター(1)

 本日1話目。後1話投稿いたします。

 ヘクター・ミッチェルは絶望的に運が悪い。ラシェルが絡むと特にだ! 

 100年以来の神童とまでいわれるが、アルフヘイム王国の高等魔法学院在籍時代に一度も主席をとった事はなかった。同学年に『始まりのエルフ』の再来といわれたラシェル・メイヤーがいたからだ。

 ラシェルはヘクターが数百、数千の時間をかけて取得した上級魔法をものの数時間で体得してしまう。嫉妬は覚えない。嫉妬をするのは実力や才能が拮抗している場合のみだ。ラシェルとヘクターの【才能】という壁はどんな高い山脈よりも遥かに高くヘクターの前に聳え立っている。

 だから魔法でラシェルに勝利するのは早々に諦めていた。ヘクターが目指したのは魔法と剣との融合である。最初はヘクターに剣の才能があったことからの単なる思い付きであった。だが、実験的に使用するうちにスキルとして取得するに至りすぐにヘクターの切り札となる。

 高等魔法学院卒業試験ではラシェルと熱戦を繰り広げ勝利の一歩手前まで行く事ができた。

 当然のようにアルフヘイム王国魔法騎士団に入団しメキメキと頭角を現していく。まさにこれからだというときに、王から呼びだされた。

周囲には騎士団の中でも錚々たる実力者達が玉座の真っ赤な絨毯の上に跪いている。そして、ラシェルが王の脇に控えていた。そのとき嫌な予感が身体中を駆け巡る。

 ラシェルは現王にしてエルダーエルフでもあるジーグフリード・メイヤー・アルフヘイムの次女であり、王の脇に控えていること自体は大して珍しくはない。王族特有のドレスなどの服を着ていればここまでヘクターも危機感を抱かなかっただろう。だが、ラシェルは高等魔法学院で着用していた魔法のマントと帽子をしていたのだ。

 期待は裏切らず、王はヘクター達にラシェルの護衛をするように命じる。このアルフヘイムの王族には糞面倒な仕来りがある。すなわち数年間各国を旅し、精霊と契約することだ。精霊と契約をするまで本国に帰国はできない。しかも、その際の金銭、物資等の援助は一切ない。まさにサバイバル状態なのだ。

特に人間国とエルフ国の仲は最悪であり、王族一人で行けばいくら命があっても足りはしない。だから、王国魔法騎士団でも選りすぐりの精鋭が護衛に選ばれる。

 それほどの精鋭でも、命を落とすものは後を絶たない。精霊がいる場所は大抵迷宮や秘境などの特別な場所が多い。そう言った場所には強力な魔物や幻獣がいるのが相場なのだ。それらの強力な生物からすれば少し魔法や剣が使えるエルフなど、虫けら程度にしか見えないだろう。

 まだ命の危険だけならいい。王国魔法騎士団に入団して以来、任務で命を落とす覚悟ぐらいできている。一番厄介なのは、精霊が見つかるまで本国には帰れないという事だ。これは事実上島流し状態に等しい。

 しかも、一番精霊がいる可能性があるのが、人間の国ビフレスト王国エルドベルグ近隣にある魔の森だ。そこの中域ならば精霊がいる可能性は極めて高い。だが、精霊と契約するまで人間の国で暮らさねばならない。数か月、運が悪ければ数年にそれは及ぶだろう。もしかしたら、数十年間人間の国暮らしかもしれないのだ。気も滅入るのも当然だ。周囲の騎士達も絶望的な表情を隠しきれない様子だ。

 国王は精霊と契約して戻れば昇進と褒美を約束してはくれた。だが、始まるであろうサバイバルに浮かれる者など皆無だったのは確かだ。

王に命じられヘクター達騎士団の面々は、溜息をつきながらも冒険の支度を整える。さらに、人間の国エルドベルグで生活するためには冒険者の身分になるのが一番安全だ。エルフ国の冒険者ギルドで登録しすぐにエルドベルグに向かう。


               ◆

               ◆

               ◆


 エルドベルグに来て数年にもなるが一向に精霊には出会えない。

 ラシェルは箱入りのお嬢様であり、当初何一つ一人ではできなかった。それに加え、王族特有の危機感の欠如があった。

 ヘクター達はラシェルが王族であることを悟られないように、敬語は使用せずに冒険者の仲間の一人として接した。さらに生活の身の回りの事も全部自分でするように指導をする。

 ラシェルは数年のエルドベルグの生活で見事に一般冒険者の生活に順応してしまった。それどころか、水を得た魚のように、ラシェルは元々興味があった冒険者という職業にのめり込んでいく。

 ついにはヘクター達の止めるのも聞かず、昇格試験を受け続け、ギルドのクラスをSSまで上げてしまった。


               ◆

               ◆

               ◆


 そんなある日、やけに機嫌が良さそうにラシェルが宿泊施設に帰って来た。理由を聞いても決して教えはしない。機嫌がいい事は悪い事ではない。そう思い放置する事にした。

 

 次の日、魔の森の捜索のため早朝に城門へ向かう途中で、人間の少年とすれ違う。大きなメガネと長い髪で顔が隠れ、あまり見栄えが良いとは言えない。

 少年はラシェルを見ると突然立ち止まり硬直する。訝しく思いラシェルに知り合いかと聞くが、頬を紅色に染めながら知らないと答えた。その反応から知らないはずなどないのだが……まあ、人間ではあるがラシェルに害を及ぼすほど度胸があるようにも見えない。放っておいても差支えないだろう。

 少年もすぐに無視して通り過ぎてしまう。その日、ラシェルの機嫌は底がないほど悪くエルフの仲間達は右往左往していた。気分屋のラシェルに付き合うのは本当に疲れる。


               ◆

               ◆

               ◆


 次の日ラシェルの帰りが遅く、ラシェルの姉役のアナ・コルトレーンが終始イライラしていた。アナを筆頭とするエルフの女性陣はラシェルに過保護すぎる。まだ9時だ。子供ではないのだからそこまで過剰反応しなくても良いだろうに……。

 

 ラシェルは当然のごとく、アナ達女性陣に説教くらっていたが、心がここにあらずといった風にボーとしていた。

 一応遅くなった理由を聞くと、精霊のペンダントを失くしてしまいそれを今まで探していたらしい。

 悲鳴を上げそうになった。まだ契約してはいないとはいえ、国宝級のアイテムだ。それに精霊のペンダントがなければ祖国に帰れなくなる。それだけは御免だ。ヘクターも説教に加わり、責め立てるがやはり聞いておらず自分の世界に入ってしまっている。


               ◆

               ◆

               ◆


 本屋に行ったラシェルが戻って来るが物思いに(ふけ)っている。いつもにも増してボーとしている。表情は真剣そのものだ。少なくともいつものような食べ物の事で悩んでいるのではなさそうである。アナ達女性陣は気が気ではないらしく機嫌がすこぶる悪く、周囲に当たり散らしている。えらい迷惑な話である。

 宿屋の食堂で昼食をとっている間も心ここに在らずであった。ラシェルが物思いに耽る姿は、美形が多いエルフでさえも刺激が強い。

 案の定、周囲の客から注目の的となっていた。特にこの宿屋は冒険者が多い。エルフと敵対関係にあるはずの人間の暑苦しい男達が真っ赤に頬を染めてラシェルに熱い視線を送るという異様な風景を体現している。アナ達女性陣は顔を歪めて心底嫌そうだった。

 エルフの男性陣は冒険者達の気持ちがわかるのかそのときばかりは怒る気にはなれず寧ろ共感しているようだった。

結局その日は一日中ラシェルの様子は変わらなかった。


               ◆

               ◆

               ◆


 再び、顔が良く見えない少年とすれ違う。少年がヘクター達に目も合わせず通り過ぎるとラシェルは突如、癇癪を起した。

 突然のラシェルの豹変に仲間達は困惑している。ラシェルと少年は知り合いのようだ。

 察するにあの少年に無視されたことが原因だろう。

 頭を抱えたくなった。ラシェルは、外見は10代前半にしか見えないが実際にはもう25歳の大人だ。子供じゃあるまいし、この御姫様は何をやっているのだ。

 少年の目には敵意は感じられなかったのでこのまま放っておくことにする。

 やはりその日のラシェルは一日中不貞腐れていた。


               ◆

               ◆

               ◆


 少年とすれ違って翌日に、オークが大軍勢を率いてメガラニカへ襲撃した件でギルドハウスへ呼び出される。

 会議室でまた少年とすれ違う。ラシェルはそっぽを向いていたがすれ違い様に少年を一目見てから心配に堪えないような顔になり、ずっと少年が行った方を凝視している。


 その後、会議室では件の少年が人間の馬鹿貴族共に吊し上げを食らっていた。それを見たラシェルが今にも暴れそうだったので慌てて押さえつける。どうやらラシェルにとってこの人間の少年は、侮辱されて怒るほどの存在にまでランクアップされているらしい。

 だが、ヘクターが見るところ少年の方が数段も上手のようだ。全くに気にしている様子がない。寧ろ人間の馬鹿貴族を観察しているようだ。それが、狼が獲物を狙っている眼光にそっくりで思わず身震いをする。


               ◆

               ◆

               ◆


 この感覚が正しかった事は後で嫌というほど痛感した。


 会議の内容によほど腹が据え兼ねたのか、ラシェルはいつまでも地面を蹴っている。今から命を懸けた闘いだ。これでは戦闘にならない。ラシェルの気を紛らわす必要がある。

 そこでラシェルとアナに武器・防具の店、カヴァデール店で刀を買ってくるように指示を出す。


 カヴァデール店は数日前から、大量の質の良い異世界人の武器――刀を売りに出しており、今エルドベルグでは有名になっていた。

 数百万Gで【希少級(レア)】の刀が買える。700万Gで【特質級(ユニーク)】が買ったという信じられない噂を耳にしたとき、さすがのヘクターも食指が動き、冒険で今まで溜めたヘソクリに手を出すことを決心したのだ。今ヘクターが装備しているのはミスリル製の剣であり、【上級(ハイ)】である。武器をさほど重視していないアルフヘイムで、このクラスの武器を持つのはヘクターくらいだろう。

 武器の到着について心を躍らせながら待ちわびていると、件の少年が話しかけてきた。

 少年は話を聞いて欲しいといい、地面に頭を擦り付ける。エルフでもこの姿が屈辱的な姿であることはわかる。話の内容はラシェルの事らしい。

ヘクターとしては少年が地べたに這いつくばらなくてもラシェルに危険が迫っていると言われれば無理にでも聞かなくてはならない。情報はあって困るものではない。その情報が誤りを含む情報でも踊らされなければよいのだ。


 話を聞くとヘクターの想像を遥かに超える下種さだった。人間達が魔物のオークと手を組み、よりによってラシェルを売り払おうとしているらしい。ラシェルはエルダーエルフの後継者として、アルフヘイム王国になくてはならない存在だ。そのラシェルをオークに売るなど、人間とは実に狂気に支配された存在らしい。

 怒りで我を忘れそうになるが、怒りに狂う仲間をみてかえって冷静になった。

少年にラシェルの安全のみを考えてくれと頼まれる。そうしたいのも山々だが、冒険者ギルドはそんな甘い存在ではない。歯向かえば、アルフヘイム王国に甚大な打撃を与える程の大勢力なのだ。その組織を裏切るような事はできない。

だが、狙われているのはよりによってラシェルだ。ラシェルは危なっかしい。ヘクター達が目を離して本当に攫われないと言い切れるかは甚だ疑問だ。特に人間共はこのような下種な行いにはやたらと知恵がまわる。

仲間達もラシェルを優先すべきとする女性陣とギルドを裏切ればその制裁により本国にまで迷惑がかかると主張するものとに分かれた。いずれの主張も理由がある。

 全て少年に罪を被せれば良い。そう少年は主張する。この少年は自らの言っている事がわかっているのか。わかって言っているなら、とんだ見込み違いだ。自己犠牲など馬鹿のする事。自らの力で解決し得ない者のする一種の逃げだ。

 だがその評価も少年が2本の刀を取り出すことで、愚かな思い違いであることを骨の髄まで思い知ることになる。

 少年が取り出したのは神の武器だった。いわゆる【神話級(ゴッズ)】だと思う。かつてアルフヘイム王国最強の騎士であり、ヘクターの直属の上司――ルクレーシャ・ワースノップの所持する武器を振らせてもらったことがあった。その武器は王国の宝具の一つで【伝説級(レジェンド)】の武器であり、上司の類まれなる功績から特別に国王から賜ったものである。だが、その【伝説級(レジェンド)】の武器さえもただの名もない剣に見える程、全てが明らかに異なっていた。

2本の1本、【乱光包】はアルフヘイム王国最強魔法と同等の奇跡を何の代償もなく即座に起こす事ができる。アルフヘイム王国の最強魔法はアルフヘイム王国最高の精霊魔法の使い手が数十人規模で、数時間に及ぶ演唱を必要とする大規模光魔法の一つだ。こんないかれた能力を何の制約もなく使用することができるとすれば、人間の小国なら簡単に滅ぼす事も可能だろう。もう一振りは【雷切】という刀だ。やはり性能は尋常ではない。

 

 エルフの仲間はこの刀から発せられるオーラに完全に畏縮してしまった様子だ。感覚が鈍い人間達ならいざ知らず、感覚の鋭いエルフにはこの武器の異常さは手に取るようにわかる。まさに神々の作りし武器であろう。

 

 だとすれば、目の前の少年は何者なのだろうか。人間であるはずがない。人間が神々の武器を2本も持ち、しかもそれをなんの代償もなく他者に与えるなど考えられない。一番可能性が高いのは精霊王だろう。

 精霊王――精霊たちの王であり、エルフ達にとって神にも等しい存在である。伝承では人間の祖と精霊王が交わり誕生したのが『始まりのエルフ』と言われている。

 そして、現在のアルフヘイム王国の王――ジーグフリードは風の精霊王――ジンと契約を結んでおり、精霊王の力を借りて強大無比な力を行使する。

 ジーグフリードは元から精霊に好かれやすい体質があった。そして、その体質は娘のラシェルに色濃く受け継がれている。少年が精霊王であるとすれば、ラシェルを守ろうとこのような無茶な行為に出ても何らおかしくはない。

 だとすれば、ヘクター達は神にも等しい精霊王に地面に額を擦り付けるなどの屈辱的な行為をとらせてしまった事になる。わかりませんでしたなどで済ませられるはずもない。背中に冷水を浴びせかけられたような感覚に襲われヘクターは思わず身震いする。

 少年はラシェルが傷つけば全てを滅ぼすと宣言する。少年の身体から濃密な殺気が竜巻のように渦を巻き辺りに吹き荒れる。息ができない。このままこの場所にいれば、心臓さえ止まりそうだ。少年はヘクターが苦しそうにしているのを見ると慌てて殺気を解き謝罪してきた。あの殺気は人間には出せないやはり精霊王に違いない。

 ヘクターは武器を受け取り、駄目元で名前を聞くが、ショウタ・タミヤと言われる。やはり、真名(マナ)は教えてはもらえなかった。当然だろう。


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               ◆

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 その後、アナを含めた仲間のエルフ達に事情を説明しラシェルにはこの事を秘密にするように言う。

 ともすれば、ショウタ様にラシェルと契約してもらえるかもしれない。契約できれば、大手を振ってアルフヘイム王国に帰る事ができる。国王も精霊王と契約したと知れば飛び上がらんばかりにお喜びになるはずだ。そのためにも、ショウタ様を不快にさせる行為は極力回避しなければならない。ラシェルがいないところを見計らってヘクター達に接触してきたところからも、ラシェルに知られることをよしとしないのは明らかなのだから。

 ラシェルは素直な子である。【乱光包】を王国出発前に王から与えられたと伝えると、素直信じて喜んでいた。説明書をラシェルに見せて熟読させる。素直に従ってくれて助かった。

 一時的に会議室での事も忘れてくれた。まさに一石二鳥といえよう。


        

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