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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第72話 悪魔の親玉を倒そう(1)

 

ウコバクは一向に動く気配すら見せない。ただ嫌な笑みを浮かべ翔太を嘲笑(あざわら)っているだけだ。そのウコバクの姿を見て翔太は奇妙な焦燥に駆り立てられる。もはや一刻の猶予も許されないと判断し《破斬》を悪魔に叩き込む決心をする。

 すると冒険者が警戒をしながらもギルドハウスの中へ入って来た。救助が来たとほっと息をつくのも束の間、その中にある人物がいることを確認し翔太は深い絶望感に襲われた。


「翔太、助けに来た!」


 救助に来た冒険者の中にはラシェルがいたのだ。あまりの絶望で声を放って泣きたい衝動に駆られる。そんな翔太の気持ちを知りもせず翔太の傍に駆け寄るラシェル。


「馬鹿ぁぁ~~!! 何で来たの? 来たら絶対に許さないって言ったでしょ?」


 翔太はウコバクに余計な情報を与える事の愚行を十分に承知していたにもかかわらず思わずラシェルに尋ねてしまう。


「翔太も闘うなら私も闘う。私強いから心配ない」


(心配に決まっているだろ。目の前の悪魔は人間レベルで強さを測れる存在じゃない。人外の力を得た僕とほぼ同格なんだよ。

 いくら、【乱光包】を装備していても、まだ人間種の領域にいる君は足手纏いにしかならない)


 翔太はラシェルに何を言っても無駄と判断しラシェルの隣にいるヘクターにすべての希望を託す。


「ヘクターさん。あそこにいる人達をこのギルドハウスから出してすぐにこのギルドハウスから、いえこのメガラニカから離れてください。

 ここの領主の館にはチェスさんもいます。彼と協力して住民の街からの避難をお願いします」


 突然の翔太のメガラニカからの脱出の指示に救援に来たエルフ達も当惑の眉をひそめる。ヘクターが代表して落ち着いた調子で尋ねる。周囲の動揺を治めようとしたためだろう。


「……このギルドハウスからはわかりますが、メガラニカから避難とはどういうことです?」


(~~糞! 今は悠長に説明している場合じゃないのに……あの悪魔今まで動かなかったのはこの状況を作り出すため。おそらくラシェル達を無事にこのギルドハウスから出すつもりはない)


「説明の時間が惜しいので端折って話します。目の前のアレは悪魔です。威圧感や圧迫感から強さの次元が違います。僕も全力でやらないと勝てない。でも街に誰かいたら僕は本気を出せない。僕のスキルは威力が大きすぎて殆どが使用不可なんです」


 【悪魔】と聞いた途端エルフ達に嵐のような動揺が走った。ラシェル以外の全員の表情がかわいそうなほど強張っている。どうやら悪魔の恐ろしさには十分認識しているようだ。これなら話は早い。


「悪魔。異世界の伝説上の化物……あれが悪魔なら貴方以外太刀打ちはできないでしょう。私達が何人いても足手纏いなだけですね」


(ヘクターさんは理解が早くてマジで助かる)


「心配には及びません。目の前の悪魔程度なら僕だけで十分処理できます。その処理の際、人がこの街にいる事が僕の枷になるんです。市民の避難誘導をお願いします。

 ですが万一のとき他はすべて投げ出してでもラシェルと貴方達の安全を第一に考えてください!」


「了解しました。お前らいつまで呆けている。直ぐに人間達とともにギルドハウスを離脱する」


 翔太の言葉にヘクターは深く考えもせずにすぐに反応してくれた。翔太の力を信頼しくれている証拠だろう。心底ヘクターには頭が下がる。

 ヘクターはエルフの仲間達からかなり信頼されているのだろう。ヘクターに急かされ、トランス状態から回復したエルフたちは直ちに動き出す。しかし――。


「どうやら、話は終わったようだな。そのエルフの娘は貴様の大切な者。フフ フ、やはり待ってよかった。これを待っておったのだよ。

 その娘を生贄にすればどれほどの絶望が得られるか。ただの人間からではない。真の強者からの絶望だ。最高の供物となろう! そして、最高の絶望に染まった貴様を喰らえば、私も男爵に進化できる。いつまでも準男爵で終わる吾輩ではなぁ~~い!」


 悪魔は両手で空中を仰ぐようなオーバーリアクションをとり恍惚した表情で自分の想像に酔っているようだ。何を想像しているかはわからないがどうせ碌な事ではないだろう。


(予想通り攻撃を待ってたのはわざと。しかも僕の馬鹿のせいでラシェルまで標的になった……もう他はどうでもいい。ラシェルを守ることに最善を尽くす)


 翔太が《破斬》で目の前のウコバクへ攻撃しようとするが一足遅かった。ウコバクの笑顔が悪鬼のように歪む。


「《悪魔召喚》!」


 ウコバクが何かのスキルを発動せるとウコバクの足元にいくつもの魔法陣のようなものが浮かび上がる。それぞれの魔法陣から執事服を着た男達が10柱、幻のように姿を現した。翔太から見てもかなりの威圧感を感じる。目の前の悪魔には足元にも及ばないが、かなりの強さであろう。具体的には【乱光包】と【雷切】を装備したラシェルやヘクターと同格程度ではなかろうか。

 ラシェルやヘクター達程の実力者なら全員でかかれば、2~3体は相手ができるかもしれない。

 同時にスキルラーニングに特有の体内における力の爆発が生じ翔太の動きを鈍くする。


(またこの負荷だ。ラシェルを守らなきゃならないのに! 絶対負けられないのに! 相手はかつてない強者なのに僕は、僕はぁぁ!!)


 翔太は根性のない自らの身体を呪いながらも悪魔達を睨み付ける。

ウコバクはラシェルに指を指しながら眷属の悪魔達に命じる。


「お前達あのエルフの娘を捕えろ。決して殺すな。

 あの人間の前で豚共の相手をしてもらうのだからな。他のエルフ共はどうでもよいが一応殺しておけ。吾輩はたとえ小事でも全力を尽くす主義なのだ。フフフ」


 この悪魔の言葉を聞いたとき翔太は文字通り我を忘れた。自制できないほどの震える怒りで自らの表情が野獣のような凶悪なものに変わっていくのを感じる。


「ショウ……タ?」


 仲間のラシェルでさえも悪魔の吐いた言葉よりも未だかつて見たこともない翔太の様子に声が震えているようだ。


(ラシェルに、ぶ、豚共の相手だと! こ、殺す。肉片の一遍も残さずぶち殺す!)


 翔太は激しく燃え上がるような怒りを刀に込めて《破斬》を悪魔達にぶつける。今まで翔太の攻撃に反応すらできないオーク達とは全くその結果は違った。

ウコバクはいとも簡単に左腕を払うだけで《破斬》を軽々と吹き飛ばす。

 10体の眷属悪魔達は《破斬》を周囲に散らばるように移動する事によって避けようとする。

 避けきれなかった2体の眷属悪魔に2m以上もある風の刃が床を抉り飛ばしながら数個殺到し衝突する。同時に眷属悪魔の身体は一瞬で破裂し、細切れとなりその血肉を床に撒き散らせる。


「役立たずが! この程度の術に!」


 ウコバクは気分を悪くしたように眉間に(しわ)を浮かべている。そんなウコバクの様子をみて眷属悪魔達は恐怖に顔を引き攣らせる。この戦闘後自分達が折檻される事を想像しているのかもしれない。全員闘犬のように闘志をみなぎらして翔太を睨み付けてくる。

 

 翔太は《雷光》を全身に纏わせた。この状態は体力がどんどん削られる。長くはもたない。まず狙うとしたらラシェルを攫おうとしている眷属悪魔だろう。

だがオーク共とは違い眷属悪魔は一か所には決して留まらず8体すべてが散らばった状態で周囲から翔太達を狙っている。もし翔太が眷属悪魔一体に向けて攻撃を仕掛けるために一歩でも踏み出せばその時点でラシェルが攫われる。

ここで使いたいのは自動追尾能力のある《炎弾》だ。だがこんなもの室内で使うものなら間違いなくこの屋敷は火の海だ。フローラやアドルフ達がこの屋敷にとらわれている以上おいそれと使うことはできない。

 次の候補は《毒吐息》だが、ゲームや小説でも悪魔に毒が効くなんて聞いたことがない。たぶん耐性くらい持っているだろう。今状況で賭けに出るわけにはいかない。

 最後の候補が《水龍》だ。明らかに《破斬》よりは攻撃力があるから眷属悪魔程度なら一撃だろう。ただあくまで当たればだが。

 翔太は【水龍】を全力で発動し空中に水の球を()りっ(たけ)作れるだけ出す。


(喰らい尽くせ!)

 

 心の中で水龍に命じると水龍達はその強靭な水の咢をウコバクと眷属悪魔に突き立てるべく、その水の細長い体をくねらせながら、豪速で空中を疾駆する。さすがのウコバクもこの攻撃は片腕で薙ぎ払うだけでは済まず鋭い爪を延ばし水龍を切り裂く。切り裂かれた水龍はバシャと水に戻り床に流れ落ちる。

 同時に眷属悪魔に向かった水龍は翔太の怒りを表すかのように身をくねらせながら眷属悪魔に高速で食らいつく。眷属悪魔は火炎のブレスを一斉に吹いてこれを相殺させようとする。

 しかし3体があまりにも高速で迫る水龍にブレスの発動が間に合わず一歩も動けず水龍の咢に身体中を抉られる。


「おびょおょおぉお!!」


 悪魔は絶叫を上げながらも塵まで分解される。翔太には原理は良く分からないがこの威力だ。ただの水ではないのだろう。

 翔太をスキルラーニングの負荷が襲うがさほど強いスキルではなかったのだろう。先ほどのウコバクの使ったスキルのときに比べれば些細な負荷に過ぎなかった。


 だがさすがは悪魔。オークと異なり仲間の悪魔が水龍に喰われている間に3体が翔太に高速で接近しその鋭い爪を突き立てる。その鋭い爪は同時に翔太を切り裂かんと三方向から風を切って迫る。翔太は3柱の眷属悪魔の爪をすべて躱しながら《雷光》を纏わせた刀をもはや視認し得ない超高速で振る。刀はまるで生きものように滑らかに動き黒色の刀の刃が空中で光煌めく。

 翔太が刀の動きを止めたとき翔太に切りつけた3柱はすでにその命を散らしていた。

 眷属悪魔の一柱は横一文字に身体を横断され、上半身が世界の重力に従って地面に崩れ落ちる。

 眷属悪魔の2柱目は袈裟懸けに斜めに切断され糸の切れた人形のように力を失い半身がグシャっと地面に叩きつけられる。

 翔太に爪を突き立てた最後の1柱は真上から垂直に斬りつけられ縦断されたのにも気付かず動こうとしたが、左右に身体が分かれていき慣性の法則に従って地面にドシャという音ともに倒れる。

 もっともこの3柱の悪魔達は囮で真の狙いはラシェルにあった。3柱の悪魔体が翔太に爪を突き立てると同時に、ラシェルに向けても2柱の眷属悪魔が接近しその剛腕を彼女の立つ床に叩きつける。轟音とともに木製の床が爆ぜ衝撃波が生じる。その衝撃と粉々になった床の木片が暴風となってラシェルを襲う。

 ラシェルはとっさに後方へ飛び威力を殺そうとする。しかし、強力な衝撃波が爆風となって渦をまきラシェルの小さい身体を壁まで吹き飛ばし強く叩きつける。

 ラシェルは【乱光包】により【体力】の上昇と共に【防御力】も上昇しており、床の木片などでは傷はつかない。だが、眷属悪魔の繰り出した拳の衝撃波はかなりのものだったのだろう。ラシェルは苦しそうに表情を歪めながらよろよろと起き上がる。もし、【乱光包】を持っていなければ今の攻撃で全てが決していた。

 この傷ついたラシェルに指を(くわ)えて観ている眷属悪魔でもない。すぐにラシェルを捕えるべく接近しようとするがヘクター達が前に立ちはだかり何とか窮地を免れた。

 横目でそれを見ていた翔太は悲鳴を上げる。

 

「ラシェル!」


 翔太はラシェルを傷つけられた悔しさで奥歯が粉々になるほど歯を食いしばる。瞳の奥に強い憎悪を燃やしながら眷属悪魔に地面を這うように移動する。


(此奴!! 八つ裂きにするくらいじゃ済まさないよ)


 反応すらできない残りの眷属悪魔の1柱に怒りの籠った渾身の力で刀を振り下ろす。だがそれはウコバクの真紅の鋭い爪によりあっけなく止められてしまった。

 翔太は殺しても飽き足りないほど憎い面前のウコバクに殺意をたっぷり含んだ視線を向ける。


「素晴らしい! 下位とはいえ悪魔を一瞬で屠る胆力。これは掘り出し物だ。このような強者の絶望ならば今度こそ吾輩は進化できる」


「ぐちゃ、ぐちゃ、五月蠅いな! どうせ君は進化なんかできないよ。ここで惨めに死んでいくんだから。今更泣いて詫びても許さない」


 ウコバクはよほど機嫌が良いのだろう。翔太の言葉にも全く動じず一面に満悦らしい微笑が浮かぶ


「お前達は件のエルフの娘を捕え邪魔をするエルフ共を殺せ。この男は吾輩がやる」


 ウコバクは真紅の爪を50cm程度に長くする。翔太も刀を正眼へと構えた。そして真の戦いが今始まった。


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