閑話 レイナとショウタ(3) フィオン
さらにその翌日の朝早くショウタは尋ねてきた。何かをやり遂げた清々しい表情をしていた。てっきり賊が捕まったのだと期待したが異なったようだ。
レイナはショウタに氷のような態度を貫いて入る。だが、尻尾が左右に揺れているのをレイナは気がついているのだろうか。まあショウタも気がついていないみたいだしそれはそれで良いのだろう。
翔太が真剣な顔でレイナを見つめる。
告白でもされるとでも思ったのだろうか。頬を赤くし耳をピンと立て、尻尾も心なしか振りが激しくなっているようだ。緊張しているのかもしれない。
ショウタはアイテムボックスから、純白の綺麗な包装と可愛らしい赤いリボンがなされた30cmの四方の箱を取り出すとレイナに渡す。レイナは何が起こったのか理解できなかったのだろう。一瞬呆けていたが、手にある綺麗なプレゼントを見て頬がさらに赤く染まる。尻尾などブルンブルン状態だ。飛び上がるくらい嬉しいのだろう。だが怒っていた手前、それを上手く表現できないらしい。顔がやや強張っている。
そんなレイナとショウタの微笑ましい姿を見て思わず頬が緩む。
レイナが包装を丁寧に取り外すと包装の中身は木箱だった。木箱からはとんでもない圧力が発せられている。冷たい汗が背中を流れた。
レイナが箱を開けた。開けてしまった。箱を開けた途端途轍もないオーラが部屋中に立ち込める。それは猛虎を象った黒と赤を基調するガントレットだった。
王族のフィオンでさえも、初めて見るかのような絢爛豪華な装飾がなされている。装飾品としての価値だけでもかなりの値がつくはずだ。だがそんな豪華な装飾など今のフィオンにとってどうでもよかった。
(こ、こ、このガントレット【伝説級】か? いや違う。【伝説級】にこのオーラが出せてたまるか。兄貴の武器と発する威圧感が似ている。【神話級】だ! 間違いない。それもかなり質の高い【神話級】。
神の武器を何故ショウタが? この前の悪い笑い。近隣の遺跡にでも探索に行っていたのか? それとも魔の森でそれらしい場所があったとか?)
【神話級】は人間種が作りえない最強のアイテム・武具であり、このアースガルズ大陸に存在する数は極めて少ない。アイテムで4個、武器・防具で5個あるに過ぎない。
その中でも人間種が持つのはアイテムがエルフ国、ドワーフ国、人間族の帝国の3つ。武器が獣王国、竜人国、魔国の3つだ。
この【神話級】は、【特質級】以下とはもはや同じ武器という大きな枠にさえ分類してよいかも分からない程の性能の差がある。
この武器が一つあるだけで、戦争の戦況がガラリと変わってしまう。
国の大隊500人を壊滅させる。龍種をいとも簡単に屠る。神さえも傷つけることが可能。そんなまさに神々が作りし最強の兵器なのだ。
それが出土されたとすれば大問題だ。他にも出土される可能性がある。他の戦争好きで無能な国が手にするより先に、獣王国が手にするべきであろう。
確かに獣王国にも戦争好きはいる。多いと言っても良い。だが、今獣王国はほぼすべての国と同盟関係にある。それを一方的に破棄し戦争をすれば他国全てを敵に回しかねない。
戦争好きの彼らは事、戦争に関しては極めて有能だ。人間の貴族共のように【神話級】が一本増えた程度で他国全てと戦争して勝ち進めると思うほど無能ではない。
だからショウタに思わずつめ寄ってしまった。
ショウタは自分が作ったと言った。それはあり得ない。【神話級】は神々にしか作れないから【神話級】なのだから。
なぜ、ショウタは自分に嘘をつくのだろうか。フィオンはショウタを実の兄弟同然に思っていたのに。その思いが焦りを生んでいく。ショウタも遂に拗ね始めてしまった。しまったとも思ったが、次に続くショウタの言葉で頭が真っ白になる。すなわち、『【伝説級】でも【神話級】でもない』だ。レイナが今持つ武器が【特質級】以下のはずがない。それは一つの事実を意味していた。それは――
そう、ショウタがレイナのために作った武器は【超越級】だった。
【超越級】――それは言い伝えにすぎない神話上の武器。
神話に必ずといってよいほど出て来る神話の中の最強の武器。神話ではその武器は超越神が作成し、最上級神に与えたとされている。それを所持する自体が神話上、最上級神しかありえない。お話の話だけだとしてもどれほど馬鹿げたことかわかるだろう。
取扱説明書を見ると規格外のまさに神の中の王の武器たる性能が記載されていた。勿論フィオンもこの出鱈目な性能を信じたわけでは決してない。いや違う。信じたくなかった。
だが信じざるを得ない事実が次々と積み重ねられていく。まずガントレットをレイナが装着したときにそれは起こった。レイナの圧迫感が突如膨れ上がる。その圧力にフィオンは思わず顔を顰める。その圧力には身に覚えがあった。
勿論現獣王グラディスだ。丁度本気になったグラディスが醸し出す雰囲気によく似ていた。しかもその圧力はその本気になったグラディスをも凌ぐ気さえする。
お次はレイナのギルドカードを見たときのリアクションでほぼフィオンの望みは打ち砕かれる。
この説明書に書いてあることは全て真実だと実感し、むしろ前よりは落ち着いて考えられるようになった。
ショウタは異世界人なのだろうか。会ってから常に頭の片隅に常にあった事だ。
――通常の異世界人はその発動や魔法陣を認識しただけでスキルや魔法を取得できない。
――通常の異世界人はレベル10代の低レベルでコカトリロードや、バジリスクの王を倒す事はできない。
――通常の異世界人は、【神話級】や【超越級】を作る事は出来ない。
疑問と不安がジワジワと這う虫のように全身を這い上がって来た。
もし、ショウタが神、しかも最上級神だったらどうなるのだろうか。今まで人間の王侯貴族達がしてきた数々の無礼、いかに寛大な神でも許される事ではあるまい。無礼を働いた者だけで済めばよいが、人間種すべてまで神罰が下ってはたまらない。背筋に氷を当てられたように身震いする。
フィオンは決死の覚悟でショウタが異世界人であるのかを聞く。ショウタはフィオンの言葉を聞くと、心底うんざりしたように、馬鹿馬鹿しさを全身で表現して接してきた。このいつものショウタの態度を見て、フィオンも急に冷静になって来た。
確かにショウタが神だとしたら、必死でヒマリやユズキ、ユキなる異世界人を探す意味がわからない。自ら動かなくても神託でもして人間種に見つけさせればよいだけだ。頭を冷やして考えれば、ショウタが神のはずがない。ただのレイナを妹のように心配する少年でしかない。
以前レイナが誘拐されかけたときの発明王も今の翔太と同じだったのかもしれない。ただ、レイナを守ろうとした。だが発明王やショウタにはやれることが他の者よりも大きかった。それだけなのだろう。
(発明王二世か……それはそれで厄介だがな)
最後にショウタに一振りの刀を貰う。【雷切】という名らしい。
鞘から抜き刀身を見る。刀身は蒼色のまさに神話の再現ともいえるほど美しく部屋に蒼色の光の花びらを煌めかせる。幻想的な光景に息を呑むが、それ以上に刀から与えられる凄まじい力に身体が震える。
筋力、体力、反射神経はフィオンもこれで、全て100を軽く超えることになった。魔法を使えないフィオンからすれば魔力など上がっても全く嬉しくはない。これは実にありがたかった。
加えてスキル2のアップ。フィオンは過去に師匠のアズマの指導を受けたことから、多数の剣術スキルを取得している。実際のところ、フィオンは才能もレベルもステータスも他の兄弟たちのように高くはない。だが、実際に戦えばグラディス以外の兄弟に負ける事はないと自負している。それも数多の剣術スキルを取得している故だ。そして、その全ての剣術スキルの等級が2ずつ上がるのだ。これは想像を絶する凄まじい事だ。
ショウタはレイナにももう一本の刀を与えた。まるで玩具か何かを与えるように。
だがその刀もグラディスが持つ刀以上の圧力があった。さすがに顔面が痙攣するのを止めることができない。一体ショウタはいくつ【神話級】を持っているのだろうか。
レイナが抱き付くとショウタは真っ赤な顔をして慌てふためいていた。ショウタも満更でもないのだろう。
これでレイナを攫うのは事実上不可能となった。
人間種では大陸最強の魔軍が全軍で襲ってこない限り勝負にすらならないだろう。もちろんレイナの警護に気を抜くつもりはないが、今までのようにずっと引っ付いていなくても問題はなくなった。
レイナはよほど嬉しいのか刀を脇に抱えつつ、美しいガントレットを摩っている。
ショウタが帰った後、性能実験も兼ねて、魔の森へ行こうとレイナにせがまれる。
フィオンも【雷切】の性能を確認したかった。ガントレットを決して外さない事を条件に二つ返事で了承し魔の森浅域へ向かう。
まずはゴブリン相手に性能のテストだ。目の前に6匹のゴブリンがフィオン達を睥睨していた。レイナがまず6匹全部倒したいというので任せることにする。ガントレットを装着前のレイナならば決して許可しなかった事だ。
直情的なレイナはまず自らの上昇した力をためしたい様子だ。右腕をブルンブルン振り、準備運動らしきものをしている。だが、レイナもフィオンですらも本当の意味で上昇した力がどれ程兇悪なものかを理解してはいなかった。
レイナはゴブリンの一匹に向けて地を蹴る。
ドガァッ!
レイナの人外の脚力で地盤は吹き飛び空中に巻き上がり小規模なクレーターができる。
フィオンですら視認し得ない速度でレイナはゴブリンの一匹に迫り、右拳をゴブリンの正中に叩き込む。
ドゴォォォォォォォォン!
劈くような爆音と全てを吹き飛ばす爆風が吹き荒れる。
フィオンは上昇したステータスにより、その場に何とか留まる事ができた。拳を受けたゴブリンは肉片一つ残らず消し飛ぶ。
拳を受けていないゴブリン達5匹さえも竜巻のように荒れくるう爆風に粉々になりながら吹き飛ばされて、地面や木々に叩きつけられ、血飛沫と臓物を撒き散らす。
さすがのフィオンも目の前の光景にドン引きしていた。
少し――いや大きく【超越級】という武器の性能を誤認識していた。
大急ぎで周囲に冒険者等の怪我人がいないかを確認し、いない事を確認しほっと胸を撫で下ろす。なぜそうしたのかは目の前の非常識な光景にあった。まるで隕石でも衝突したかのような巨大なクレーターがそこに出現していたのだ。
(兄貴が完全装備で本気を出したらこうなるわけか。
これは本国に知られたらいろいろ面倒な事になりそうだ。兄貴がもう一人増えた様なものだしな。兄貴とレナルドの爺さんだけに伝えるとするか……。
しかし、これほどとは――)
フィオンはレイナが破壊を巻き起こした事実よりも、その破壊を引き起こす武器を簡単に作り上げてしまうショウタに強い畏怖を覚える。
「フィオン……ごめんなさい……」
レイナが申し訳なさそうにフィオンのところに来るとモジモジと謝罪する。あまり悪いと思っていない事はその嬉しそうな表情からも明らかだ。
レイナにとって、ショウタにガントレットを貰った事も、そのガントレットで超常的な力を示せることも、さらには、その力でフィオンやショウタと共に本当の意味で闘えることも全てが喜ばしい事なのだろう。
フィオンは肩をすくめて大きなため息をつく。
一方、内心ではレイナがもう攫われない事を肌で感じ安堵していたのも事実だ。【雷切】を装備し大幅にステータスが向上しているフィオンであってもレイナを攫うなど無理に決まっている。ただの裏ギルドの賊ごときではなおの事不可能だ。
その後いくつかの性能実験を行った。
その結果【フラゲルム・デイ】はレイナが敵と認識したものを問答無用にほぼ一瞬で粉々に切り刻み焼き尽くす兵器であることがわかった。事実、この実験中スライム6匹がレイナの前に出現した途端一瞬で煙のように消え去った。レイナ曰はく、自分の強さが実感できないからこの機能はつまらないのだそうだ。この機能こそがこの兵器の肝だろうに。この娘は何を言っているのだ……。
フィオンの【雷切】も常識の枠を二歩も三歩も飛び出した出来だった。確かに凄まじい程の身体能力の上昇もある。だがそれ以上に刀の特殊能力が圧倒的であった。雷を出し操る。当初、魔法やスキルと同じようなものだと勘違いしていた。
しかし、仮にも神々の武器。生易しいものでは断じてなかったのだ。
天から降ってきた荒れ狂った雷は形をなし一体の巨大な虎となる。雷虎は稲光を放ちながら天と地を神速で駆け巡り辺りを蹂躙する。フィオンの敵と見なしたものを自動的に攻撃するらしい。しかもこの雷虎は複数呼びだせる。最高では4体程だ。これ以上だとフィオンの【知能】では同時処理ができない。雷虎なのもフィオンが虎の獣人であるからだろう。竜人族が使えば龍になると思われる。
フィオンが【雷切】を装備すれば、【神話級】を装備していないグラディスならば、フィオンでもいい勝負はできると思われる。
性能実験が終わったのでエルドベルグに戻る事にする。頬を上気させまだ戦いたいと我侭を言うレイナを叱咤して宿屋キャメロンまで帰還した。
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帰還し部屋で寛いでいるとヴァージルがフィオン達の部屋の扉を叩く。
だが護衛を連れていない様子だ。目下ヴァージルは賊から狙われているはずだ。
急いでショウタを呼びに行く。ショウタは説明を受けると、著しく狼狽し転がるように1階のロビーを掛けていった。
ヴァージルはそんなショウタを見て少し嬉しそうだった。
ヴァージルが一人で来た理由がわかってしまい内心で頭を抱える。ヴァージルはレイナ以上に精神的に幼い。これではショウタも大変だろう。同情的な目をショウタに向ける。
そこからは恐ろしい程テンプレ的な展開だった。
ヴァージルの気持ちを微塵も理解していないショウタ。そんな鈍いショウタにムキになるヴァージル。両者お互い思いあっているのに絶望的な程噛みあわない。
もっとも、その思いの性質はヴァージルとショウタでは明らかに異なっていた。それがヴァージルには許せないのかもしれない。
ショウタがオットーという第三者の名を出してから加速度的に関係は悪化していく。
ショウタまでがヤケを起こしてしまい、ヴァージルが護衛もつけずにキャメロンを訪れる事について自分には関係ないと言い放ってしまう。
ヴァージルは無表情となるが、握り締める手が僅かに震えている。誰がどう見ても激しく傷ついている。明らかにショウタが悪い。ショウタを後で叱咤しようと固く誓う。
ヴァージルはショウタが日葵という異世界人のためだけに自分の護衛をするのだろうと問いかける。ショウタは何も答えない。コイツ等はアホなのではなかろうか。それだけならば階段を転げ落ちる程、焦るはずがないだろう。少し冷静になって考えればわかる。
遂にヴァージルが金輪際私に付き纏うなと禁断の言葉を口走る。
ヴァージルの本心ではないのは明らかなのに、ショックを受けるショウタ。
それを見てヴァージルはややほっとしている様子だ。今のヴァージルにはショウタしか映っていない。自らの危険さえ二の次なのかもしれない。
しかし、これ以上関係が悪化するのを指を銜えてみている必要もないだろう。二人の言い争い――痴話喧嘩を止める。
ヴァージルは少し頭が冷えたらしい。用件を話し始めた。その内容から疑問の全てがつながった。『豚』とは文字通りの意味だったらしい。『豚』に協力する人間共に対する殺意がフィオンの中で渦巻いて行く。
話を聞き終わって、ショウタは青白い顔をしていた。一人で来たヴァージルの無鉄砲さに恐怖を覚えているのかもしれない。かなり強い口調ですぐにギルドハウスへ戻るようにいう。周囲の冒険者達が殺気立つがお構いなしだ。端からこのように積極的にしていればヴァージルも意固地にならなかったものを……。
その後も二人は噛みあわない痴話喧嘩を続ける。フィオンも暇ではないずっとこうしているわけにはいかないのだ。だから話を終わらせる魔法の言葉を使う。
フィオンがヴァージルの護衛をする事を申し出ると痴話喧嘩はすぐに終了した。ヴァージルの負けだ。恨めしそうな目をフィオンに向けるとヴァージルはキャメロンを出て行ってしまった。
ショウタもフィオンに頭を下げながら急いで出て行く。
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ショウタとヴァージルの痴話喧嘩を少し離れた場所で見ていたレイナの機嫌は再び地に落ちる。見る者が見れば我侭な彼女を必死で宥める彼氏の図だ。あんな熱烈な恋人同士が演じる演劇をみせられればレイナでなくても腹も立とう。
ギルドハウスへ行くまでイライラするレイナをあの手この手で宥める。ギルドハウスの中でレイナと同じくらいの歳の冒険者に話し掛けられガントレットを自慢し始めて怒りが鎮静化した。ほっとはしたものの今度は、ガントレットの性能を暴露するのではないかという不安が付き纏う。
だが、冒険者の女の子達は豪華なガントレットにしか見えない【フラゲルム・デイ】よりも、見た目が派手な【小狐丸】に著しく興味があるらしくそちらの方に気がとられている様子だった。
ショウタが会議室の部屋へ入って来る。しかし、一番後ろの席に座ってしまう。ショウタの事だ。なにか考えがあるのだろう。期待を裏切らずレイナはイライラし始める。
フィオンがトイレに立つと廊下で呼び止められる。ショウタはすぐに用件を説明する。その用件の内容は呆れて言葉も出ないような内容だった。
それは、このクエストに参加する冒険者の中に裏切り者がいる。さらにギルド職員の中にもいるらしい。横の繋がりが深い獣王国の冒険者ギルドではこんな馬鹿な事はありえない。人間族とは本当に度し難い生き物だと痛感する。
無論、人間族にもまともなものはいる。デリックしかり、ヴァージルしかりだ。同時に屑共も多いのもたしかだ。現に異世界人のショウタはこの世界の人間族には良いイメージはもっていない様子だ。
ショウタにレイナの近くに座ってもらえないかと頼むが断られる。そのとき、ショウタの目の中には途轍もない憎悪、憤怒、殺意が凝集され渦巻いていた。
その原因はラシェル・メイヤーだ。レイナの襲撃の件で頭が一杯で忘れていたが、彼女も狙われている。彼女とショウタは深い関係があるようだった。レイナにとって強力なライバルが出現したものだ。
それにしても対抗馬がヴァージル、ラシェル・メイヤー、レイナとは……全員各種族一の美女と言っても過言ではない者達だ。ありとあらゆる意味で規格外だな。
最後に、ショウタにレイナを守るように頼まれる。即座に頷くが、あの【フラゲルム・デイ】のとんでも性能を見た後で、今のレイナを人間やオークがどうこうできようはずもない。
話を聞く限り、ショウタはレイナの精神的な未熟さに危機感を持っているらしい。ギルド内部に裏切り者がいた事がショウタを追い詰めているのだろう。
だが、フィオンはもうその事を知っている。フィオンの目の黒い内は誰であろうとレイナに指一本触れさせない。
フィオンがショウタの頼みを受け入れると、ショウタはこのギルドハウスに入ってから初めてといって良いほどの心底安心したような、子供のような笑顔を浮かべた。ショウタにとって【フラゲルム・デイ】を持たせても、まだ安心すらできないのかもしれない。本当は自らレイナを守りたいだろうに……。
だが一つ疑問も覚える。ショウタはレイナを妹のように考えているのだろうか。妹にしてはいささか過剰に心配気味のような気もする。よくわからなくなる。
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会議室では冒険者側のスパイ――目の下に傷がある男を従者として侍らせている貴族の青年――ボリスがショウタに絡み、ショウタが受け流していた。ボリスと言う青年はギルドでもある意味有名だ。フィオンも名前くらいは知っていた。
話は簡単だ。なぜ、ショウタがDクラスなのに、Cクラス以上の本件クエストにいるのかという貴族共の疑問だ。要するにショウタに出て行けという事だろう。
滑稽だ。実に滑稽だ。ショウタは別にこのクエストに参加したくはない。断言してもよい。
さらに他の冒険者達もキャメロンの一件から、ショウタがヴァージルに付き纏っていると勘違いしている。ショウタがデリックから頼まれヴァージルの護衛をしていた事を知るフィオンとレイナには見当外れもいいところだった。
飛び出して暴れそうなレイナを全力で押さえつける。フィオンもそこまで冷静でいられたわけではない。弟同然の者が敵かもしれない者に公然と中傷されているのだ。怒りを覚えないはずもない。
だがショウタは終始、目の下キズの男の事のみに注意を払い、ボリスなど眼中にすらない様子だった。
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デリックが部屋に入ってきた。デリックはレイナの【フラゲルム・デイ】を見るやいなや、青い顔で冷や汗を額に浮かべていた。非難めいた目でフィオンとショウタを見るデリック。【神話級】だと考えているのだろう。【神話級】をそう簡単に生み出されては世界の均衡が崩れかねない。だから、デリックの気持ちは十分にわかる。しかし、事はレイナの安全がかかっているのだ。こればかりは仕方ない。諦めてもらうとしよう。
説明が始まってからも、例のボリスとかいう貴族の青年がショウタを攻撃し始めた。これ以上、レイナを押さえつけるのも無理だ。それにフィオンもいい加減堪忍袋の緒が切れそうだ。怒鳴りつけようとするが先を越される。
B級冒険者のダンカンがショウタを擁護し始めたのだ。ダンカンはショウタの昇格試験の後、フィオンがギルドハウスへ行くと度々ショウタの事について尋ねてきた。
話の口調からショウタに心酔していることが窺われた。ショウタが平民だと知れ渡ったのもダンカンが広めたからだろう。ダンカンにとってショウタは真の英雄なのかもしれない。その英雄が侮辱されたのだ。その怒りはフィオンの想像を超えるものだ。ジェイクの援護射撃もあり何とか無事にギルドの会議が終わる。
レイナはショウタが気がかりになっている様子だ。1班は他室へ移動する手筈なのに、ショウタから一時も目を離さず、会議室から動こうとしない。引きずるようにレイナを他室へ移動させる。
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説明の後、ギルドハウスを出たフィオン達は一度キャメロンに戻る。戦闘が近いせいかレイナも高揚している。大規模戦闘はレイナにとって初めてなのだ。緊張しているのだろう。レイナに約束をさせる。
一つ目、いかなる事態になってもガントレットを外さないこと。二つ目、フィオンとディートのいう事をちゃんと聞くこと、三つ目、無茶は絶対にしないこと、四つ目、ある程度手加減をして戦う事。
三つ目までは素直に頷いたが最後の手加減をする事については渋った。兄――グラディス以上の力を持つものに全力で暴れられたのでは他の冒険者に危険が及びかねない。何とか説得して、集合場所へ行く。
集合場所にはすでに冒険者で入り乱れている。レイナと共にショウタを探す。ショウタはすぐに見つかった。集合場所の木の根元で眠っていた。駆け寄ろうとするレイナを慌てて引き留める。時間まで眠らせてやれと指示すると意外にも素直に従った。
レイナは、ショウタの事に関しては驚くほど素直になる。普段からこう素直になってくれればフィオンとしても楽なのだが……。
周囲を観察するとヴァージルもいることに気付き思わず顔を顰める。ショウタの話では実際に攫われたらしいし、本件クエストに出る必要も義務もないはずだ。ヴァージルの視線がチラチラと寝ているショウタに向けられるのに気付く。参加の理由が朧げにわかってしまう。子供のような理由だ。ショウタも気が気ではないだろう。ショウタが絶対的強者となったレイナに気を回している余裕はもはやなくなった。フィオンがレイナを守らなければならない。
ショウタが起きたらしい。レイナが手を振ると、こちらにやって来た。レイナの目が輝く。耳もピンと立ち、尻尾も左右にゆっくりと揺れている。相変わらず我が姪ながら丸わかりの反応だ。これに気付かないショウタはどうかしている。
ショウタはレイナの頭に手を置いて、レイナにいくつかの約束事をする。レイナはショウタに頭を撫でられるのが殊の外好きらしく、尻尾がブルンブルン触れていた。一応話は聞いている様子だ。
もっとも、それはフィオンが事前に宣誓させていた事でもあったのだが。最後に自分の身を一番に考えろと言われレイナは完璧に舞い上がってしまった。名残惜しそうにするレイナの後ろの襟首を掴みながら引きずる様に馬車に連れて行き乗り込む。
フィオンはこの戦いがレイナとフィオンの分岐点になるという漠然とした予感があった。
それはすぐに証明されることになる。ある超常的な力をもつ英雄の誕生と共に――。
お読みいただきありがとうございます。
今、仕事から帰りました。今週は特にクソ忙しく。予定通りの投稿は難しいかもしれません。申し訳ありません。




