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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第62話 作戦会議をしよう(3)


 本日8話目です。


 詳細の説明といっても二班の役割は非常に単純だった。一班が城門内までの道を切り開くまでは、オークジェネラルを見つけて討伐。街中に入ったらすべてのオークを討伐ということだ。おそらく翔太にはこれにオークキングを倒すことも加わる。

 

 すべての説明が終わり、二班の冒険者達が会議室を出ていく。メガラニカ行きの馬車は今から2時間後にエルドベルグの城門を出発する。つまり1時間半後にエルドベルグの城門前が集合場所というわけである。

 最後の冒険者が出て行ったのを確認してからデリックの所に向かう。今現在会議室に残っているのはデリック、バリーとヴァージルだけだ。

 翔太にはどうしてもデリックに伝えなければならない事があった。すなわち、ラシェルを守るためのメガラニカでの自由行動の件とヴァージルの護衛の件である。

 ヴァージルはエルドベルグで昼間はデリックに守られ、夜はオットー達に守られるから通常心配はいらないはずだ。不安要素は内通者だ。ギルド職員に内通者がいることは間違いない。内通者からの情報により、今日の様にオットー達の少しの隙を見て攫われる事も考えられる。

 だがこれもデリックにギルド職員にスパイがいる事を伝えておけばそれなりの処置をとってくれるだろう。少なくとも翔太がオーク共を滅ぼすまでは安全なはずだ。

 

「すまなかったな。ショウタ」


 デリックが顔を顰めながら謝って来た。支部長と言う職も大変なのだろう。苦労が顔に滲み出ている。


「いえ実害はほとんどありませんし。問題ありませんよ」


 その翔太の言葉を聞いてヴァージルはすごい剣幕で捲し立てて来た。


「あれのどこが実害ないんです!? 明らかにショウタさんだけ狙いうちじゃないですか!? 悔しくないんですか!?」


「まあ僕はあのような扱いには慣れてますから」


 苦笑しながら翔太は答える。


「扱いに……慣れている? 出鱈目な噂をギルド中にばら撒かれることもですか?」


「出鱈目な噂?」


 ヴァージルの話が徐々に脇道に逸れて行く。


「ショウタさんが私に付き纏っているということです!」


「別に全くの出鱈目という訳ではありませんよ。というか八割方真実でしょう? かなり強引に護衛してしまいましたし」


 翔太のその言葉でヴァージルは無表情となり口を一切開かなくなった。ヴァージルがへそを曲げた以上、彼女を下手に刺激したくはない。不用意に刺激すると地雷を踏むことはこの数日間ヴァージルと接して骨身に染みてわかったことだ。

ギルド内の内通者の件を、冷静さを欠いた今のヴァージルの前で話しても、再びヴァージルを大激怒させるだけで翔太にとって何も益もない。何とも面倒な人である。

 よってまず、メガラニカでの自由行動の件を先にデリックに伝える事にした。


「デリックさん。僕がメガラニカに到着した後の自由行動をお許しください。みなさんの邪魔になる事は決してしませんし、オークキングは僕が責任をもって倒します」


「ギルドはそれで差支えない。翔太に任せたいのはオークキングの討伐だ。今回のクエストにはかなりの手練れがそろっている。負けることはまずないだろう」


 デリックも翔太からこの提案がされるのを読んでいたのだろう。快く了承してくれた。

 内通者の件はヴァージルの前では話せない。従って、《隠密》スキルを用いて後でデリックの部屋へ訪れ伝えることにする。

 デリック達に頭を下げて会議室を出ようとすると、再びヴァージルが口を開いた。


「自由行動とはラシェルさんの護衛のためですか?」


「…………」

 

 ヴァージルからラシェルの名前が出てくることに動揺してうまく言葉が出ない。喫茶店ブリューエットでお茶を飲んでいるときにも聞かれたが、ラシェルの事になると翔太は冷静な受け答えができなくなる。その理由は不明だ。

 彼女は翔太の無言を肯定とみなしたらしい。ヴァージルはデリックに向き直り何かを決心したような表情で宣言する。嫌な予感がする。馬鹿のする顔だ。


「支部長、私もBクラス冒険者として討伐任務に向かいます」


 その言葉を聞いてデリックもバリーも『何を言っているんだ? こいつは?』と言う顔をした。


「ちょっとまて! ヴァージル! お前今日攫われたのを忘れたのか? レイナの場合とは違い実際に攫われたんだぞ! ギルドの規則にも冒険者が事故にあった当日と翌日は討伐義務が免除される事になっている」


 ヴァージルは攫われたことを正直にデリックに報告していたらしい。実直で責任感の強い彼女らしいと言えば彼女らしい。


「そうだ。いいからお前はエルドベルグでの任務につけ! エルドベルグの防衛、雑務の処理も大事な任務だ。お前がいなければギルドの機能自体がストップする」


「いえ攫われたと言っても体に異常があるわけではありません。これでギルドの職員の私が義務を免れては示しかないでしょう」


 ヴァージルの言葉にデリックとバリーは苦い顔をする。ギルドは完全個人主義が原則だ。その者が戦場へ行くと言っていたら、それを止める権利はギルドの支部長にもない。

 だがこの中で一番焦っていたのは翔太だった。


「ふ、ふざけるなぁぁ!!!」


 初めて見る翔太の怒鳴り声と憤怒の表情に実際に怒りの感情を向けられているヴァージルはもちろん、デリックやバリーでさえも目を大きく見開いていた。


「貴方は自分が一体何を言っているのかわかっているんですか? さっきあんなに危ない目にあったのに? アホですか?」


 強い感情をぶつけられひどく狼狽しているのを隠すかのようにヴァージルも強い調子で言い返す。


「自分のことくらい自分が一番分かっています。それでできると判断したのです」


「ははは……この人全然わかってないや。あなたが自分のことをわかってる? あんなゴブリン程度の力しかない賊に簡単に攫われた貴方が?」


 今の翔太にはヴァージルを思いやる発言をするなどと言う高等技術は皆無だった。ただ自分の中にある感情をヴァージルにぶつける。


「馬鹿にしないでください。私もBクラスの冒険者です。たかがオークにそう簡単に遅れは取りません」


「それが全く分かってないと言ってるんです。闘いに絶対などありません。万が一後れを取ったときどうするつもりです? 今度は都合よく救助など来るとは限りませんよ? 仮にオークに捕えられたら何をされるかあなたにも想像くらいできるでしょう?」


「そ、それくらいの覚悟は私にはあります」


「っ!! 覚悟などされては困りますよ!!」


 翔太の大きな声が会議室内に響き渡る。ヴァージルはビックと身体を強張らせるがそれでも翔太を睨む。


「意思を変えるつもりはありません」


 翔太は焦燥を通り越して泣きたくなってきた。護衛対象は一人で限度だ。ラシェルとヴァージルのどちらかを見捨てなければならないだろう。

 翔太がラシェルを見捨てることはその心が許さない。これは説明が不可能だが無理なのだから仕方がない。

 とすれば今目の前にいる女性を見捨てることになる。ギルドに登録した日になら、何も考えず真っ先に見捨てていただろう。翔太は自分でも嫌になるくらい薄情な人間だ。だから簡単に他人を見捨てることができる。

 だがこの一週間、彼女とあまりにも多くの接点を持ってしまった。

 彼女がレイナと同じくらい無鉄砲で、ほっとけなくて、人の話を聞かない人間であることが分かってしまった。

 彼女が実は弱い人間であることがわかってしまった。

 彼女が見た目通り優しい人間だとわかってしまった。

 もはや彼女を見捨てれば翔太の心に大きな傷を残す。それが明確に確信できた。


「お願いです。ヴァージルさん。僕は人との関わりが上手くありません。僕が貴方を不快にさせたのなら謝ります。ですからいつもの冷静な貴方に早く戻ってください。一体どうしたんです?」


 ヴァージルは翔太の決死の言葉も虚しく、デリックとデリーに一礼すると会議室を出て行こうとする。翔太は慌てて肩を掴む。ヴァージルは少し痛かったらしく顔を顰めた。翔太はただ必死だった。


「痛いです。離してください!」


「あ、す、すいません」


 翔太は謝りながら、アイテムボックスから【神話級(ゴッズ)レベル4】で翔太が持つ最強の一振り、【雷切】を取り出しヴァージルに渡す。

 【雷切】の発する禍々しいオーラに、冷や汗を浮かべながらデリックは頭を抱え込み、バリーが息を呑む。ヴァージルも手に持つ規格外の力に全身から流れる冷たい汗を隠せないようだった。


「な、何です? これ?」


「それは【雷切】という名の武器です。その【雷切】を持てば途轍もない能力が得られます。これなら僕が護衛しなくてもオーク共に不覚をとることは万が一にもなくなります」


 ヴァージルからまた再び表情が消えた。これは悪い兆候だ。経験則上厄介な事になる。


「いりません。武器に頼るようでは冒険者失格です。失礼します」


「え、ちょ、待って!」


 ヴァージルは翔太に【雷切】を突っ返し今度こそ礼をして会議室を出ていっていまった。

 翔太は呆然と会議室内に佇んでいる。ヴァージルの全てがわからない。狙われているのに参加する必要がない危険なクエストに参加しようとする。

 【雷切】も受取ろうしない。このままでは確実に翔太の予想する最悪の未来に到達する。

 一歩も動けないくらいの無力感が全身を襲う。デリックが翔太の肩に手を置いた。


「ショウタ、ありがとよ」


「よしてください。守れない可能性の方が遥かに高い。僕の危惧には根拠があります。このギルド内にスパイがいます。しかも冒険者だけではなく、ギルドの職員の中にも」


「ど、どういうことだ?」


 デリックが翔太の両肩を掴み揺らす。

 翔太のその幽鬼のような生気のない顔をみてデリックは顔を顰めた。事の重大性が理解できたのだろう。


「レイナとヴァージルさんを攫う相談をしていた男が冒険者として今の会議室にいました。それに、今日ヴァージルさんが攫われたのもあまりにも手際が良すぎます。まるでヴァージルさんが外出するのを見計らったかのように賊達は行動を起こしました」


「なぜそれを今まで黙っ…………いや、言えるはずもないか……」


「はい。全て僕の記憶と、状況証拠でしかありません。明確な証拠がないんです。賊がどんな手を使おうともラシェルだけなら僕でもなんとか守れると思ったから。でも……」


「ショウタ、ヴァージルも守ることはできないのか?」


 デリックの声が裏返り会議室に虚しく反響する。


「それができれば世話はありません。相手は恐ろしく狡猾です。現に僕がほんの少し目を離した好きにヴァージルさんは攫われてしまいました」


 暫らく会議室は静寂に包まれた。これから起こる最悪の未来を想像してしまい誰もが言葉を発する事が出来ないのだろう。バリーが翔太に頭を下げ、絞り出す様に言葉を紡ぐ。


「頼む! この通りだ。ヴァージルを守ってやってくれ。あの子の父と儂は親友同士でな。昔からよく遊んでやったもんだ。儂にとってあの子は我が子同然なんだ。頼む!」


 今度はデリックが翔太に深く頭を下げる。


「俺からもお願いする。ヴァージルは俺達エルドベルグのギルド職員にとって娘のような奴なんだ。こんな所で失うことはできねぇんだよ」


「わかってますよ。僕だって……僕も彼女と少なからず関わってしまいましたから。やれるだけのことは全てやってみます」


「ありがとよ。じゃあスパイについて詳しく教えてくれ! 俺達は俺達のできる限りのことを尽くす」


 翔太はデリックにスパイと思われる人物をすべて教えてギルドハウスを後にした。



 まだまだ続きます。

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