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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第46話 別れと出会い 


 本日1話目です。


 

 重たい瞼を開くと開けっ放しにしていた窓から朝日が差し込んできた。

 起き上がるが、全身が気だるく足や腰が自分のものではないようだ。昨日のバジリスクキングとの戦闘で翔太が考えている以上に疲れが溜まっているのかもしれない。

 だが、今日はジャンとルネがエルドベルグを去る日だ。寝ているわけにもいかない。

 午前6時ジャストにキャメロンの扉を開けると、ジャンとルネが勢いよく抱きついてきた。


「お兄ちゃん、あそぼ!」「あそぼ!」


 頭を優しく撫でてジャンとルネと僕らのエルドベルグでの最後の遊びが開始される。

 

 今日はオーソドックスな《鬼ごっこ》だった。

ジャンもルネも当初は昨日と同様にはしゃいでいたが朝食が近づくにつれてしょんぼりしてしまっていた。

 迎えに来たモーズリーさんに一礼する。


「おにいじゃん……」


 僕のお腹に顔をつけて泣き出す二人。

そんな二人をみていたら僕も鼻の奥がツーンと痛むが、ここで泣いたら示しがつかない。

 僕は彼らにとって英雄(ヒーロー)なんだ。それが例えつぎはぎだらけの紛い物だとしても僕にはその役を演じなければならない責任がある。

 しゃがみ込み、ジャンとルネと視線を合わせる。


「大丈夫。また会えるさ」


「ホント?」


 顔をグシャグシャにしたジャンとルネの頭を乱暴に撫でてやる。これはフィオンに習ったスキンシップ。


「本当さ。僕は嘘つかないよ。約束だ」


「「うん!」」


 指切りをして再開の約束をする。

 もう一度、モーズリーさんに頭を下げて逃げるように自室へ戻る。このままだと確実に泣いてしまいそうだったから。

 自室のベッドへとダイブすると頭から毛布を被る。


(おかしいね。たった数日知り合った子供との別れにここまで心が動かされるなんて……)


 正体不明の心の疼きに胸を押さえながら僕は瞼を深く閉じた。


               ◆

               ◆

               ◆



 起きると9時を過ぎている。連日の強者との戦闘を慮ってフィオンから自室待機が命じられていた。どの道今日の翔太の冒険は休み。ジャン達との別れも一眠りして大分心が落ち着いてきた。

 

 レイナに魔法を教えると言ったままずっと有耶無耶になってしまっていた。普段世話になりっぱなしのレイナに魔法を教えたい。

 だが今回のバジリスクキングとの戦闘で思い知った事がある。魔法がちっとも役に立たないことだ。その一番の理由は初期の魔法しか使えない事にあると思われる。魔法を基礎から勉強し直す必要がある。まずは魔法の参考書を買って一読すべきだろう。

 もっとも宮廷魔導士クラスが稚拙な魔法を使えるに過ぎない事からもあまり期待はできないが……

 今朝色々あって何も食べていない。本屋へ向かう前に何か口にしよう。

とは言え、宿屋キャメロンの朝食は午前6時から9時までなのだ。もう9時を過ぎている。そこで喫茶店ブリューエットへ行く事にした。



 喫茶店ブリューエットのドアを開ける。


 カラン! カラン!


 鈴の音がして、喫茶店のウエイトレスでありヴァージルの親友――ブレンダが翔太を迎えてくれた。


「ショウタ君、いらっしゃいませ」


「こんにちは、ブレンダさん」


 最近、キャメンロンで朝食を食べそこなうとこの店に来る。ブレンダが席に案内してくれる。席に着くとブレンダが陽気に話しかけてきた。


「今日も朝ごはん食べそこなったの?」


「はい。そんなところです。モーニングセット頼めます?」


「はい。ご注文承りました」


 そういうとブレンダが翔太に顔を近づけてきた。

 勿論色っぽい事では断じてない。彼女は内緒話になると必ずこうしてくるのだ。それがわかってはいても緊張するものは緊張する。


「な、なんです?」


 翔太がどもりつつも尋ねると意味ありげな嫌な笑みを浮かべてきた。


「この頃、ヴァージルとどうなの?」


 なぜ、ヴァージルの話がここで出て来るのかわからない翔太はキョトンとしておうむ返しに尋ねる。


「どうといいますと?」


 心底不思議そうな翔太にブレンダは肩を落として項垂れてしまった。


「…………なんだ、違うんだ。面白いと思ったんだけどな」


「意味がわからないんですけど――」


「ごめん、ごめん。ヴァージルとショウタ君実は楽しい事になっているのかなあと思って」


「違いますよ。発言には十分気を付けてください」


 思わず周囲を神経質に見渡し、今の言葉が聞かれなかったかを確認する。どうやら聞かれなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

 そんな翔太の姿を見て心の底から残念そうにブレンダは翔太の肩を叩く。


「わかってるわよ。今のリアクションで絶対ないと確信した」


「なぜ、そんなあり得ない話が出て来るんです?」


「いや~、最近ヴァージル、ショウタ君がブリューエットによく来るって聞いたら、何時に来るんだとしつこいくらいに私に聞くもんだからてっきりね。まあ、あり得ないとは思ったんだけどね」


「そうですよ。あり得ません。だいたい、ヴァージルさん、今彼氏いるみたいですよ。金髪イケメンの騎士風の人です。よくすれ違います」


「ああ、私も見た。この前一緒に喫茶店に来たわ。なるほど、あの人がヴァージルの今の彼氏ね。見た感じあの人もかなり身分の高い貴族だろうし、確かにお似合いかしらね」


 うっとり妄想に浸っているブレンダ。溜息をついてブレンダを促し、お花畑から現実に帰還してもらう。翔太も暇じゃないのだ。


「ブレンダさん。こんな所で長話してていいんですか? 店長睨んでますけど――」


 ヒラヒラの女性の服を着たごついオッサンがブレンダに溢れんばかりの殺気を纏わせながら睨んでいる。


「ヒッ、お客様。畏まりました。少々お待ちくださいませ」


 ブレンダは青い顔をして逃げる様に厨房へ消えていった。代わりに店長がやって来る。


「ショウタちゃん。いらっしゃい。ブレンダがごめんなさいね。私の教育が足らなくて」


「いえ、とんでもないです」


「じゃあ、ゆっくりしていってね」


 そういうと体をくねらせながら厨房へ戻っていた。この店長、どこからどう見てもオカマだ。

 だが、ただのオカマではない。エルドベルグではちょっとした顔で、喫茶店から風俗店まで経営するやり手のオッサンらしい。

 元冒険者でもあるらしく新米冒険者の翔太に親切に接してくれる。

 

 朝食が翔太のテーブルに運ばれて来る。それを食べていると、翔太の前に誰かが立つ気配がする。

 顔だけ上げると、話にでたヴァージルの彼氏――金髪のイケメン青年だった。

近くで見ると男でも見惚れる程の美しい顔だ。ほっそりとしているが、痩せているわけではなく、強靭な鍛え抜かれた肉体であることが服の上からでもはっきりわかった。

 服は黒のズボンに白と赤のシャツを着ている。一目で一般人では買えない高級品。十中八九、貴族だろう。


(ヴァージルさんの彼氏や許嫁ってレベルが高すぎるよね。反則でしょ。こんなの……)


「君、少しいいかい?」


「は、はい。構いませんよ」


「まずは自己紹介だな。僕の名前はオットー・ミラードと申す者。よろしく頼む」


 かなり丁寧な対応をされる。街でヴァージルと並んで歩いている際にすれ違ったときにはかなり冷たいイメージがした。本当に同一人物なのだろうか。


「はじめまして。僕の名前はショウタ・タミヤです。よろしくお願いします」


「先ほどのウエイトレスとの話聞かせてもらった。君には謝らなければならない。

 てっきり、君とヴァージルさんがお付き合いしていると思っていた。それで道ですれ違ったとき、失礼な態度をとってしまったのだ。本当にすまなかった」


この人貴族なのだろうか。それにしては誠実すぎるような……。


「あ、あの、オットー様――」


 オットーは翔太の言葉を真剣な顔で遮る。


「オットー様はよしてくれ! ヴァージルさんの友達に様付けしてもらいたくはない」


「では、お言葉に甘えてオットーさん。貴方は貴族様ですよね」


「ああ、一応な……」


 オットーはなぜか歯切れが悪い。何か深い家庭の事情があるのだろう。


「僕は貴族ではありませんよ」


「おかしな事を言う奴だな。それがどうした?」


 どうやら冗談で言っているようではないらしい。本当に不思議そうにキョトンとしている。


「……オットーさん、変わってますね」


「よく言われる。そういう君も十分変わっていると思うぞ。いろいろ噂は聞くからな。

なんでも、アームレスリング大会での人間族では前代未聞の優勝。登録数日でDクラスにまで昇格した冒険者ギルドの超新星だったかな」


「何です? その恥ずかしいネーミング……マジ勘弁してほしいです」


 翔太は顔を引き攣らせる。


「そうか……? 結構カッコいいと思うんだが」


(オットーさん。絶対おかしいですって。超新星って……)


「ははは。でも、謝っていただく必要はありませんよ。自分の付き合っている女性が他の男と仲良くしたら嫌なのは当然だと思います」


 翔太は脱線しかかった話を強引に元に戻す。


「そういってもらえると助かる。自分でも、自己嫌悪気味だったのだ。

どうも、ヴァージルさんが絡むと僕は冷静ではいられなくなるらしい。幼少のときに会ったときからずっと憧れていたんだ。

 数日前、王立魔法騎士学院の夏休みを利用してヴァージルさんに会いにこのエルドベルグに来ていたんだ。その際ブルーノ……殿が婚約を解消したと聞いた。

これがヴァージルさんとお付き合いできる僕の最後のチャンスだろう」


「なるほど、ブルーノさんが……僕もヴァージルさんには貴方のような方がふさわしいと思いますよ」


「そうか。そうか。ありがとう。やはり君はいいやつだな」


 よほど嬉しかったのだろう。オットーは翔太の両手を固く握ってきた。ヴァージルは他人に誤解を与えやすい体質をしている。日葵と同じなのだ。

 だから、オットーの苦悩は十分わかった。日葵のような女の子の彼氏は実に大変だろう。


「僕も応援しています」


 翔太がそういうと、オットーは目を潤ませている。やはりいい人だ。こんないい人を変えてしまうヴァージルも恐ろしい女性だと改めて実感する。


「ここが僕の住所だ。ヴァージルさんの事で何かあれば連絡をくれないだろうか?」


「喜んで。変わったことがあればすぐにお知らせしますよ。同じ冒険者なのでそれなりに会うものですから」


 オットーは何度も感謝を述べてから店を出て行った。

 オットーの存在はある意味、今まで王侯貴族に幻滅していた翔太とって一筋の光明だ。オットーのような人がいるなら貴族ももう少し信じてもいいのかもしれない。

 

 ご飯を食べて喫茶店ブリューエットを出て今度こそ本屋へ行く。





 

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