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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
48/285

閑話 不思議な少年 チェス

10月25日第3話目の投稿です。

 チェスは突如、冒険者ギルドの3階の会議室に呼び出された。

 数週間にも及ぶクエストからエルドベルグについさっき戻ったばかりで疲れ切っていた。それにもかかわらず、陰気くさい会議室なんぞに無理やり引っ張り出されて、正直機嫌は最悪だった。

 ヴァージルに会議室までに案内されるまで、本来沈黙が苦手なはずのチェスが終始無言だったくらいである。

 チェスが入ると会議室にはギルドの幹部が勢揃いしていた。


(この面子がそろうなんて何かあったんかね? まあ僕には関係ないけど)


 普段ならばこの異常な状況に少しは興味を持つのだが、今回は疲れもあって早く用件を済ませて宿屋に戻りたかった。だから礼も挨拶もせずに尋ねる。


「で? 僕に何か用ですか?」


 チェスの無礼な態度にも一同は大して気にも留めた様子はない。そんな些細なことはどうでもいい。そういう雰囲気が場にはあった。


(面倒な事が起こっている?)


 話を成立させるくらいの興味は出たので話を聞く姿勢をとる。


「コカトリスロードが出た。魔の森の中域だがな」


「っ!? 何かの冗談っすか? ホントに現れたならあなた達がこんなところで落ち着いてお茶飲んでいられるわけないでしょ?」

 

 デリックが冗談を言っているのかと思い、先ほどやっと収まっていた怒りが再燃した。疲れているときに態々(わざわざ)呼び出しておいて冗談を言うなど、馬鹿にするのも(はなは)だしいだろう。

 幹部と言う人種はよほど暇なのだろうか。


「勘違いするな。嘘などいっていない。本当に出たんだ。それで登録して数日の新米冒険者に倒された」


「はぁ? 何言っちゃってるんです? 僕をバカにしてるんですか? 

僕もクエストから帰ったばかりで疲れているんでもう帰っていいですか?」


「馬鹿になどしていない。大真面目だ。だからお前を呼んだ」


 幹部達の顔を見回すが全員真剣な表情でとても嘘を言っているようには見えない。だがそれをホイホイ信じるにはその内容があまりも馬鹿げている。


(登録して数日の新人がコカトリスロードを倒す。コカトリスでもありえないよ)


 幹部の真剣な顔に負けてそれが真実であることを前提に話を進めることにする。


「本当なので?」


「ああ。本当だ。その少年が魔晶石を持参してきた」


「偽造した可能性は? そんなの無理か……」


 一瞬偽造の可能性が頭を霞めたが、直ぐに振り払う。偽造するのは実際に倒すよりも遥かに難しい。それほどの性能がギルドの魔晶石認識機械にはあるのだ。偽造をすればどんなに精密でも確実にばれる。そして、ばれれば冒険者としてはまさに再起不能だ。そんな分の悪い賭けを冒すとも思えなかった。


「そうだ。それで明日お前に昇格試験に試験官として参加してもらいたい。明日の午前中がギルド内の対抗試合による試験で、明日の午後がクエストの実地試験だ」


 チェスは少しずつ、そのコカトリスロードを倒したとする少年に興味が湧いて来た。

 まだ、実際に倒したとは微塵(みじん)も思ってはいないが明日の暇つぶしにはなる。仮にホラを拭いているならその少年に八つ当たりをしても罰は当たらないだろう。


「わかりました。明日の午前中の昇格試験、僕も試合をするので?」


 対抗試合の試験官には2種類のタイプがある。実際に試合を行う試験官、試合を注意深く観察し実力を分析する試験官である。

 勿論、高クラスの冒険者程、対抗試合を観察し分析する方を担当する。冒険者としての実力が高いものの方がより正確な分析ができるからである。


「ああ、Eクラス昇格試験の試験官をやってほしい」


「この僕がEクラス昇格試験の試験官ね」


 通常、対抗試合の試験官などBクラス、たまにAクラスの冒険者がするくらいなのだ。チェスはエルドベルグに4人しかいないSSクラスの冒険者である。試合の分析を担当する試験官どころか、試験官自体する事は皆無である。

 だからチェスが試験官をすること自体が異例中の異例なのだ。それほどデリックが入れ込んでいるということだろう。明日の試験がどうなるか楽しみになりチェスの機嫌は来るときとは一変して良くなっていた。


               ◆

               ◆

               ◆


 翌日チェスは試験場の2階へ予定時間の数十分前に到着した。時間にルーズなチェスにしては珍しく速い到着にヴァージルが大層驚いてくれた。それほどチェスにとってコカトリスロードを倒したとする少年は気になる存在になっていたのだ。

 現れたのは何とも特徴のない少年だった。中肉中背で服の上から見ても戦いに最低限必要な筋肉がついているようには見えない。確かに身に着けている黒いローブと刀は超一級品であるが、それだけだ。おそらく装備の強さと自分の強さを勘違いしているのだろう。これほどの装備を揃えられるならば、有名な冒険者に討伐を依頼して成し遂げたのかもしれない。それも十分非現実であるが、目の前の少年がコカトリスロードを倒すよりはよほど信憑性があった。それほど少年は一見して強そうには見えなかったのだ。


(ハズレだね。今日は退屈な試験になりそうだ)


 チェスは完全に少年への興味を失っていた。

 Gクラス程度の冒険者の試合など見ても面白くもなんともない。退屈なだけだ。他の試験官もチェスと同じ気持ちらしく少年を冷めた目で見詰めていた。チェスも完璧にババを引いたと思いつつ少年の観察を開始する。



 Gクラスの試験はダンカンというBクラスのスキンヘッドの冒険者だった。

ショウタとかいう少年とダンカンが円上の白線の所定の位置に立つ。

 ダンカンはショウタ少年を睨み付けている。チェスと同様、無理やり駆り出されて苛ついているだろう。もしくは不正に対する憤りか。

だがショウタ少年本人は殊更気にした様子もないようだった。


(へ~、気が弱そうに見えて結構図太いのね。さて何分持つか?)


 ちらっと、幹部共の慌てる顔でも見ようと視線を向けるとデリックは額に大粒の汗を流していた。このようなデリックを見るのが初めてでショウタを注視する。すると確かに何か違和感がある。今までチェスを生き残らせた冒険者として勘が警報を鳴らす。

 ヴァージルの開始の合図で勝負は一瞬で終わった。だがそれは当初チェスが予想したとは正反対の結果であったが。

 ショウタ少年の姿がぶれたと思うと、チェスでもなんとか視認し得るほどの速度でダンカンの背後へ移動し右手の掌でダンカンの背中を軽く押す。

 するとダンカンはまるでボールのように壁の(そば)まで転がって行きそこでやっと止まった。


(……は?)


 当初、チェスは目の前の光景をただ呆然と眺めていた。ただあまりに非現実な事実に脳による理解が追い付かなかったのだ。


(ははは! 強いとかそういう次元じゃない。あの少年本当に人間? 竜人か魔人とかいうなら何とか納得も行くんだけど……)


 チェスは周囲の様子を見るとFクラス昇格試験の試験官――ジェイクは全身真っ青で今にも死にそうな顔をしていた。自分が試験官としてショウタ少年と相対したことを考えてしまっているのだろう。

 チェスもジェイクを臆病者と罵ることはとてもできなかった。あんな化物と戦ったら命がいくつあっても足りはしない。だいたいショウタ少年は刀すら抜いていない。拳すら握っていない。彼がやったことは背後をとって背中を押しただけだ。これはもはや戦闘とは呼べない。


(冗談じゃない。あんな真似アドルフの兄さんでもできないよ。それにこの話の流れからして次の試合は僕って事になるんじゃ?)


 チェスの予想の通りジェイクは辞退しチェスが次の試験官に指名された。

退屈を紛らわそうなどと考えていた少し前の自分を盛大に罵りながら所定の位置に着く。

 チェスにもSS冒険者としての誇りがある。だからダンカンのような負け方だけは死んでもごめんだった。なんとしてもショウタ少年に攻撃させてみせるという弱気な目標を立てつつ戦闘態勢をとる。そして自分の全てを戦いに溶け込ませていく。

 ヴァージルの開始の合図により、ショウタ少年は高速でチェスの真横を抜けて背後を取ろうとする。


(なめるなよ! 一度使った手が僕に通用するわけないっしょ!)


 チェスは、渾身の力を込めて右手に持つ剣を左から右に横一文字に横薙ぎにする。

 ショウタ少年は当然にこれを(かわ)すが、予めそれを見越して、《雷光》を発動させ、僅かに態勢を崩したショウタ少年に向けて上段から振り下ろす。

 《雷光》により剣のスピードは各段に上がっている。命中する可能性は十分ある。そしてこれが当たれば多少はダメージを与えられるはずだ。まあこれで倒せるとは微塵も思わなかったが……。

 だがショウタ少年はバックステップであっけなくこれを(かわ)した。だがそのバックスッテプにも唖然とする。たった一歩のバックステップで、円の縁まで移動してまっていたのだ。


(冗談じゃない。もっと人間らしいことしようよ。君一応人間のつもりなんでしょ?)


 突如ショウタ少年の雰囲気が変わった。ゾワリと何か虫のようなものが這いあがってくるような強烈な悪寒がチェスを襲う。

 ショウタ少年は顔一面に笑みを浮かべていた。それがどうしょうもなくチェスの恐怖を煽る。


(化物が本性を現しやがった。次来るよね。チャンスは一度だけ)


 ショウタ少年の身体がぶれた。


(来る!)


 すぐに上段から袈裟懸けに剣を振り下ろす。ショウタ少年が剣の射程範囲に入ることは唯の勘である。だがその勘があたった。チェスの振り下ろした剣の真下にショウタ少年の姿があった。


(やった! ドンピシャ)


 だが、ショウタ少年の左手により剣は呆気なく掴み取られた。


(んな? こ、こんな理不尽な)


 次の瞬間チェスの胸に凄まじい衝撃が走った。


(コナクソ! SSランカーの最後の意地さね)


 チェスは剣を床に突き立てて円から落ちないように耐える。

 円の縁ギリギリでどうにか止まることができた。だがショウタ少年は次の攻撃のために右拳を強く握る。


(ダメダメ、もう無理! 今のでマジで限界だから! 僕にしてはかなり頑張たって!)


 慌ててチェスは降参をショウタ少年に告げる。これがショウタ少年との初めての情けない出会いだった。


               ◆

               ◆

               ◆


 翌日の午後はショウタ少年とクエスト実地試験だった。

 スカルスネイクがメガラニカ近隣の鉱山で発生したらしい。ショウタ少年の実力ではスカルスネイクなど遊びにすらならないだろう。彼の本気の戦闘はスカルスネイク程度ではみられまい。少し残念である。

 少年はどこかの傭兵部隊か、国で特殊な訓練を受けたと思われる節がある。最初には全く気がつかなかったが、歩くとき足音が全くしない。まるで幽霊が近くにいるようだ。道中それを聞いてみても全く教えてくれなかった。

 メガラニカのギルドに到着すると、どうやら面倒なことになっていた。なんでも坑夫達が昨日からまだ帰ってこないらしい。

 アレシアという気の強そうな女の子が今回のクエストについて来たいと主張するので、これ幸いとOKした。足手纏いのいるときの対処法も見ておきたかったのだ。


               ◆

               ◆

               ◆


 鉱山に到着するとスカルスネイクが引くほど(うごめ)いていた。しかも真っ昼間にだ。これは冒険者としての経験豊かなチェスから見ても異様な光景であった。

 確かに数はいるが、夜と異なり動きは鈍いはず。ショウタ少年の実力なら問題はないだろう。

 ショウタ少年は『これが本当にDクラスの試験なのか?』と目で訴えてきたので、親指を立てて『その通り!』と言っておく。

 

 ショウタ少年の戦いが始まったが、ほとんど冗談のような戦いだった。

 まず、チェスの持つ剣術スキル《雷光》を使いだした。このスキルはチェスが何年もかけて会得したものだ。そう簡単に使えてもらっても困る。だがショウタ少年はいとも簡単にこのスキルをチェス以上に使いこなした。瞬く間に8体のスカルスネイクが消し炭になった。

 次は口から緑色の煙のようなものを吐き出した。


(お前は魔物か!)


 思わずショウタ少年に突っ込みを入れる。ショウタ少年はどうやら完璧に遊んでいるようだ。スカルスネイクに効きもしないのに、緑色の煙を吐き続けている。


(遊んでないで早く終わらせてよ)


 アレシアが黒い感情を露わにしてショウタ少年に毒を吐く様子にやっとショウタ少年が気付いてからは戦闘スタイルがまた変わった。


 《破斬》だと思う。ただあまりにも威力が高すぎるが。スカルスネイクに《破斬》の空気の刃を一体ずつ当てて倒して行くショウタ少年。

 さらに、水の龍まで出したときはもう開いた口がふさがらなかった。

 こうして、スカルスネイクはあっという間に全滅していた。

 これでさらにショウタ少年が分からなくなった。本当に人間なのだろうか? あまりにも多くのスキルを持ちすぎだ。スキルはそう簡単に会得できる代物ではない。才能があるものでも数十年に1つ会得できれば御の字なのだ。それをチェスが見ているだけでも、4つのスキルを扱ってみせた。アレシアさえ文句を言わなければもっと別のスキルを使っていたかもしれない。

 アレシアは連れてくるんじゃなかったと周囲を探索しながら猛省(もうせい)していると、異変に気がつく。

 至る所に石像が置いてあるのだ。それはリアルでまるで石にされたかのようだった。

 ショウタ少年も違和感に気づいたらしく、すぐに退却すべきだと主張してきた。チェスも同感だったので即座に同意する。


 退避しようとしたとき何かヤバイものに周囲を囲まれているのに気がついた。これほど接近されるまで気がつかないとはよほど気を抜いていたらしい。自分の間抜けさを呪いながらも次にすべき行動を考える。だが一向に打開の策が浮かばない。

 ショウタ少年は自分には護衛スキルがないからチェスにアレシアを街まで送るように頼んできた。

 足手纏いのチェスとアレシアを早く厄介払いしたいだけであることはすぐにわかった。かなりカチンと来るものもあったが現実にはそれが一番いいので了承する。

 

 だがそこで恐怖を体現したような化物は地響きとともにチェス達の前に現れた。チェスも過去に戦闘したことがあったからバジリスクであることは一目でわかった。だがその一体はバジリスクにしてはあまりにも大きすぎた。それに他のバジリスクにはない蝙蝠の翼のようなものさえある。明らかに変異種だ。

 絶望的だった。巨大なバジリスク、その周囲には複数のバジリスクが取り囲む。これを倒しながら突破する。こんなものは数千人規模の冒険者が終結して初めて挑むクエストだ。チェスはこのとき死を覚悟した。

 

 巨大なバジリスクがあげた咆哮により、チェス達が逃げ込んだ小屋がビリビリと震え、壊れる。

 チェスはとっさにアレシアを庇う。ショウタ少年が発生させた防御系スキルによってダメージは負わなかったが、その咆哮はチェスの心を呆気なく砕き、片膝をついたまま立ち上がれなくなってしまう。

 ショウタ少年はおそらくそれが分かっていたのだろう。すぐに、外に出て行き《破斬》らしきもので目の前の2体のバジリスクをバラバラの肉片に一瞬で変えてしまった。

 その後小屋の中から見たものはもはやあまりにも非現実的過ぎた。夢か幻影でも見たのではなかろうか。そう考えても無理ない光景が眼前に広がっていた。

 巨大ないくつもの空気の刃。

 上空に舞う土煙と倒れる大木。

 いたるところで発生する轟音とクレーター。

 空を染め上げるほどの火炎の弾丸。

 最後は、空中に巨大な隕石まで浮かんでいた。その隕石が地面に高速で落下してくる。チェスは衝撃に備えるが、いつになっても衝突の衝撃はなかった。ただ、ズズンという大きな物が倒れるような音がして周囲は静寂に包まれたのである。

 

 暫らくしても物音一つしない。しかも今まであった圧迫感が軒並み消えている。

 そこで、アレシアを連れてショウタ少年が駆けていった方へ周囲に限界まで注意を払いながら向かう。

 巨大なバジリスクらしい肉片と血だまりの中にショウタ少年が倒れていた。始め死んでいるのかとも思ったが息はしているようだ。それどころか、左腕以外まるで傷というものを負っていなかった。

 左腕もポーションで治る程度の火傷だ。あの巨大なバジリスクと戦ってこの程度で済むことに戦慄しながらも、先ほど退いた山小屋へショウタ少年を連れていき寝かせ周囲を探索することにした。


 まず目についたのはバジリスクの死体の山だった。ある死体は細切れになり、ある死体は炭化している。あまりの熱量により魔晶石にも多少の傷がついてしまっているものさえあった。おそらく《雷光》だろうが、そんな威力はチェスにはどう逆立ちしても出せない。

 次に目についたのは地形すら変わってしまった鉱山、森林だ。地面は深く抉れ、陥没している。巨大な竜巻のようなものが蹂躙した痕さえあった。これを人間が起こしたことがチェスにはどうしても信じられなかった。


(これはもはや災害だろ――いい加減、僕も感覚が麻痺してきたな)


 魔晶石を回収しながら炭鉱現場にも行ってみると奥の岩の色が少しおかしかった。

 コンコンとノックしてみると、岩がスライド式にずれていき、恐る恐る中から一人の髭面の男性が外の様子を伺ってきた。

チェスが助けに来たと伝えると隠し部屋のなかから数十人の人間がゾロゾロと出て来る。

 彼らに聞いたところによれば、スカルスネイクの大群に襲われ、ここに隠れて助かったらしい。

 彼らの中には怪我を負って動けないものも何人かいる。一度アレシアの元に戻り坑夫達の無事を伝え再び隠し部屋へ戻り、彼らをアレシアがいる山小屋まで案内した。


「冒険者さんはこんなすごいこともできるんですね」


 抉れた大地を見た一人の坑夫のこの言葉にチェスは頷くことしかできなかった。


               ◆

               ◆

               ◆


 その後ショウタ少年をエルドベルグの冒険者ギルドに連れていき、デリック達に事後報告をする。

 今しがたデリックとチェス以外の者達が全員支部長室から出ていったところだ。ここからが本当の本音トークの時間だろう。


「チェス、ご苦労だった。それで今回のクエスト達成についての詳細の報告を聞こう。お前から見たショウタ・タミヤとはどういう人物だ?」


 チェスは今朝デリックに呼び出され、ショウタ・タミヤという人物を見極めろと命じられていた。

 デリックはエルドベルグのギルドの支部長、ギルドにとってショウタが益になるか害になるかは早目に知っておきたかったのだろう。チェスはどう答えたものかと一瞬思案するも答えなどとうの昔に出ていた。


「真白な力の塊かな」


「真白な力の塊? 一体どういう意味だ?」


 眉を寄せるデリックの様子から察するにもう少しわかりやすい言葉で言えということだろう。だが、チェスにはそれしか適する言葉が見つからなかったのだ。


「今は何ものにも染まっていないとてつもなく強力な力の塊。

 だが白は染まりやすい。染まる色は英雄の色――金色かもしれないし、破壊の色――真紅の色かもしれない。これから彼が何を見て何を選択するかによって変化していくと思いますよ。

 だけどデリックさん。一つ忠告しておこう。ショウタちゃんと事を構えることだけは絶対に止めておいた方がいい。あなたがショウタちゃんの人物を見極めろと言っている時点で明確に対応を間違えている」


 デリックは太い眉をわずかに動かした。チェスの言いたい事が掴み兼ねているらしい。


「対応を間違えているとはどういうことだ?」


「やっぱり分かってなかったみたいだね。確かに実際に彼が戦うところを見てないと実感が湧かないか……」


「実際に戦うところ? 昨日の午前中のギルドハウス内の試験でみたじゃね~か?

 あのいかれた試合でショウタの強さの概要は把握したはずだが?」


「違う、違う。あんなおままごとじゃない本当の命を懸けた戦いだよ。貴方もあれを見ればわかる。いや、わかってしまう。それに……」


 一度言葉を切る。次の言葉を言ってよいものか判断しかねたからだ。だがデリックは支部長だ。早いうちに認識の誤りは正しておいた方が良い。だから話を続ける。


「僕には聖法教国が人類の敵とみなしている魔軍よりもショウタちゃん一人の方がよほど恐ろしいよ。

 これは僕の勘だけど、今魔軍とショウタちゃんがガチで闘えばかなりいい勝負になるんじゃないかな」


「馬鹿馬鹿しい。魔軍と一人の人間が同じ力を持てるわけね~だろ!」


 デリックはどうしてもチェスの言う事が信じられないようだ。確かに国の一軍と互角に渡り合える人物が本当にいると考える方がどうかしている。それは通常おとぎ話の中の話だ。

 だがチェスにはショウタの存在がえらく現実味がなく、まるでおとぎ話の中から出て来た登場人物のように思えてしまっていた。

チェスは話を続ける。


「デリックさんの言いたいこともわかるよ。

 僕も今日のあれを見ていなければ同じ感想を持つからさ。でも僕の言っていることは全部真実だ。後はあなたが判断して欲しい。そして、愚かな選択だけは絶対にしないで欲しい」


 腕を組んで瞼を閉じて思案し始めたデリックに簡単な挨拶をして、チェスは支部長室を後にした。



               ◆

               ◆

               ◆


 正直チェスにはまだまったくショウタ・タミヤという人物をつかみ切れていない。

 確かにその力は強大で恐ろしい。だがそれ以上にショウタ少年には言葉に表せない魅力がある。これからも無性にその歩む先を一緒に見ていきたい。そんな魅力だ。

 だから今チェスはショウタ少年自身が少しも恐ろしいとは微塵も感じてはいない。それにショウタ少年の登場はこのアースガルズ大陸に新たな風を起こすような気がするのだ。

 今は静かな風だが、いつしか大きな風となってこの大陸に吹き荒れる。それを想像してチェスは自らに生じる興奮を押さえつけられなくなる。あたかも物語を読む少年のように心を躍らせながらチェスは帰路につく。

 


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