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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
4/285

第3話 「勇者様」 第一王女 キャロル


 相変わらず導入が長いです。削る事も考えましたが、まあいいかなと思いほぼそのままとしました。

 



 聖法教国アグレシアの第一王女キャロル・エイリング・アグレシアは現在【儀式の間】で【召喚の儀式】の真っ最中であった。

 キャロルの腰まである金色に艶やかな髪は汗で顔にベッタリとへばりつき、パッチリした大きな瞳をもつ美しい顔からは玉のような汗が流れる。小柄ではあるが女性特有の凹凸の利いたプロポーションを持つ身体からは汗が滝のように流れ出ている。


 儀式の間は四方が漆黒の大理石からなり月や星の一つもない夜空のような印象を受ける。明るい色の好きなキャロルにはそこにいるだけで気がめいる場所だ。今床には巨大な赤色の魔法陣が描かれておりそこからは通常では到底あり得ない程の力の渦が竜巻のごとく巻き上がりうねり狂っている。

キャロルは歯を食いしばり最後の魔力を儀式の間の黒い大理石の床に横たわる魔法陣へと注ぎ込む。

 

 キャロルが召喚の儀式をしているのにも訳がある。今現在この聖法教国アグレシアは未曽有の危機に瀕していた。この数百年沈黙を守っていた魔人族がこのアグレシアに対し侵略を開始したのである。

 アグレシアは人間族の国の中では唯一魔人族の国である魔国と北方で接している。魔軍の侵攻は凄まじく瞬く間にアグレシアの領土の3分の1が奪われた。

この原因はいくつもあるが一番の理由は人材の不足にあった。魔人族の身体能力は人間族を遥かに凌駕する。しかも魔軍の将校一人に1000人からなる連隊が壊滅したことは、魔人族と人間族との間に横たわる絶望的ともいえる力の差をアグレシアの上層部に思い知らしめた。

 

 もっともアグレシアは唯一人間族の守護神アイリスの神殿を持ち他の人間族の国である帝国や魔法王国と比べてアイリスの強い加護を受けている国でもある。

そして先々日、このアグレシア劣勢にアイリスから神託があったのである。その内容は『異世界から勇者を召還すること』であった。もちろんアグレシアの上層部はこの神託に喰い付いた。たった数週間で領土の3分1をも失ったのだ。当然と言えるかもしれない。

 キャロルとしては『勇者』なる不確定要素に頼り切る事に賛同しなかったが、上層部が決めてしまったのだから仕方がない。


 アグレシアの王族の女性は代々巫女のような役割も担う事となっている。そしてアイリスの守護を受けて特殊な神の力を行使し得るのだ。今回の召喚もその特殊な力の行使といえる。

 魔法陣の赤い光がさらに強さを増して目を開けてはいられなくなる。キャロルは思わず目を閉じた。その瞬間ズズンと地響きがする。キャロルがゆっくりと目を開くと魔法陣のあった場所に十数人の人間が佇んでいた。


(よし! 成功したわ)


 キャロルはその人間達に礼節をもって話しかける。


「勇者様方。ようこそおいでくださいました」


 11人の異世界人達はかなり混乱しているようであった。口々に『これって何かのドッキリ?』などと叫び、隣の異世界人同士で話している。 

 キャロルはこれでは埒が明かないと考え、異世界人たちに勇者召喚とその目的について説明しようと考えた。まずは現在の状況を理解してもらわないと話も成立しない。


「勇者様方が混乱なされるのも当然と存じます。ですがどうぞ(わたくし)の話をお聞きくださいませ」


 キャロルは優雅なお辞儀をして自らの名前と勇者召喚の事実とその目的を説明する。キャロルの説明に異世界人たちは中々納得してくれなかった。一番納得しなかった事はここが地球ではなくアースガルズ大陸であるという事だ。これを納得してもらうのに一番時間がかかった。この程度の理解力しかない者が魔軍と戦う事ができるのかと一抹の不安を抱きつつ説明を続ける。


 ここがアースガルズ大陸であることを納得してもらいやっとの事で全員の名前を聞き出した。彼ら11人の名前は、月宮日葵、有馬悠斗、志賀神奈、佐藤信二、竹内蒼、赤城大輔、坂上卓也、田宮柚希、丹野渉、西園寺雪、長谷川心菜、であった。


 次に議論の中心となったのは『地球に帰れるのか?』ということである。キャロルが勇者召喚に反対した一番の理由がこれであった事もありこの質問は十分予想できていた。この質問のへの返答が一番デリケートなのだ。異世界人を怒らせて協力を断られる可能性も十分ある。それでは本末転倒だ。キャロルたちにとっても異世界人にとっても利益など全くない。もうすでに勇者召喚はなされてしまったのだから。


「私達には勇者様方を元の世界に戻す方法を存じ上げてはいないのです」


 怒り、困惑、絶望など思った通りのリアクションが返ってきた。キャロルは普段では考えられない程の負の感情をぶつけられ思わず顔を(しか)めそうになる。だがそんな異世界人のなかにも冷静な者もいる。


「それは私達には帰る方法がないということですかな?」


 この質問をしたのは異世界人の中では一番年齢が高いと思われる長谷川(はせがわ)(ここ)()であった。心菜は他の異世界人よりも話が分かる。何が自分達に最も利する事かを明確に判断できる人物だ。キャロルはそのように判断した。


「いえ、あくまで私達が存じあげていないというにすぎません」


「それはどういうことですか? 詳しい説明をお願いできますか?」


 キャロルはできる限りオドオドした様子を醸し出しながら話す。あまり冷静過ぎるとかえって異世界人の反感を買うとも思えたからだ。


「今回の召喚術は、我らが神アイリスから指定された方法で、与えられたアイテムを用い、神の力により行ったに過ぎません。

ですから魔王を倒せば我らが神アイリスにより勇者様方の世界に帰る方法も分かると存じます」


 キャロルの言葉に一同からはほっとした空気が充満する。もう二度と元の世界に帰ることができないと思っていただけに首の皮一枚つながった心境なのだろう。キャロルもこれで次の話に進めると胸を撫で下ろしていた。だが異論の声が上がる。


「翔太君がいないようだけど彼はどこにいるの? 私達と同じ黒い床に吸い込まれたのは間違いない。なら彼はここにいるはず。どこ?」


 西園寺雪がすごい剣幕でキャロルに詰め寄る。西園寺雪の顔は興奮で赤らんでいる。いきなりの事でキャロルも目を白黒させた。キャロル以外のほとんどの異世界人達も西園寺雪の剣幕に目を丸くしている。西園寺雪の様子から翔太なる人物は彼女にとって大切な人物であるとキャロルは判断する。これは慎重に会話を進めなければならない。


「ショウタ様とは、勇者様御一行のお一人なのでしょうか? 私達が把握している勇者様方は此処に居られる方々だけです。お役に立てず申し訳ありません」


 キャロルは異世界人に頭を下げながら『翔太』なる人物がここにいない理由を考える。無事に召喚は成功した。今回の召喚はアイリス神の指示された方法で行ったに過ぎず、勇者の選定基準などが一切不明なのだ。だから考えられる理由は2つ。

 そもそも勇者に相応しくないとしてアースガルズ大陸に召喚されていないか、召喚の儀式中にあった地震のために異なる場所に落ちたかのどちらかである。だが前者ならばアースガルズ大陸にいないのだから探しようがないし、後者では死亡している可能性が極めて高い。勿論それは口が裂けても言えないが。


 キャロルは異世界人達を観察する。すると翔太なる人物を心配する者としていない者がいる事が分かった。心配しているのは月宮日葵、竹内蒼、田宮柚希、西園寺雪の4人である。相変わらず長谷川心菜は表情を変えないので心配しているかは表情からは読み取れない。


 キャロルはひとまず胸をなでおろす。正直生きているかどうかもわからない翔太なる人物の捜索に人員を避ける余裕はない。勿論捜索の約束をするつもりではあるが、仮に捜索をしていない事がばれてもこの4人以外は引き続き協力をしてもらえるだろう。しかもこの4人は大して強そうには見えない。協力がもらえなくともそこまでの損出ではないと考えられる。


「翔太君、私の直ぐ傍にいたから彼が黒い床に吸い込まれるのを見たよ」


 西園寺雪が不愉快そうにムッとしながらキャロルに問い詰める。西園寺雪をなだめようと優しく有馬が話しかける。キャロルの見たところ非常にマメな男であるようだ。このような男に夢中になる女性もさぞかし多いことだろう。


「西園寺先輩。あの咄嗟の話だ。貴方の見間違いも十分あり得ます。奴がこの場所にいないのが一番の証拠なんじゃないんですか?」


 有馬の発言に佐藤信二、志賀神奈、赤城大輔、坂上卓也が同意する。翔太なる人物の所在よりも早く話を進めてほしいという気持ちが彼らからはヒシヒシと感じられる。翔太なる人物はあまり好かれてはいなかったようだ。キャロルはまだ見ぬ翔太なる人物に多少の同情しつつも話がうまく進みそうだと心が緩んだ。

 だが翔太なる人物を全く心配しているようには見えなかった人物により有馬の意見は呆気なく否定される。金髪の少年――丹野渉である。


「いや確かに、西園寺先輩の言う通り彼はあの黒い床に吸い込まれた。僕もその時彼を見とったからね。あれだけ注目されてたんや。全員みとったとちゃう?」


 丹野渉の言葉に心当たりがあるのか、有馬の意見に賛同していた者達は全員なんとなく決まりの悪そうな表情をしていた。どうやら丹野渉の言葉が止めだったらしくもう全員翔太なる人物が共に召喚されたことは認めたようである。キャロルは内心で舌打ちをしながらどう話を持って行くかを思案する。

 

「翔ちゃん……は?」


 月宮日葵は顔からその表情を消して誰に対してでもなしに尋ねる。彼女の顔からは血の気が引いて蒼白であり異世界人達も驚きで目を見張っていた。


 有馬はそんな日葵を見て一瞬悔しそうな顔をみせるがすぐにいつもの笑顔に戻り日葵の肩に手をのせて優しく(なだ)めながらキャロルに対して問いかけてきた。どうやら有馬は日葵が好きなのだろう。キャロルも年頃の女の子だ。そういった恋愛の話は三度の飯よりも好きなのだ。後で日葵に詳しい話を聞こうと心に誓い、キャロルは有馬の質問を聞く。


「田宮は他の場所に召喚されているという事はありえるのでしょうか?」


(やはり聞いてきたわね。上手く答えなければ)


「確信をもって言えるわけではありませんが、この度の召喚の儀式の最中に軽い地震がありましたので、その結果タミヤ様が他の場所に召喚されたことも十分考えられます。我々、アグレシアは全力でタミヤ様の捜索を行う努力をする事をお約束いたします。」


 キャロルは深く頭をさげてもう一度謝罪の言葉を述べる。キャロルの発言の内容と謝罪の言葉でその場の雰囲気がキャロルを信じて待ってみようという方向に傾いた。キャロルが何とか山を乗り切ったと安堵していると田宮柚希がその気持ちを容易に切り裂いた。


「申し訳ないが私は貴方を信用できない。翔太は私が自分で探します」


 田宮柚希に西園寺雪も同意する。そこで丹野が柚希に尋ねる。


「会長、おのれで探すのはよしておいた方がええと思うんやが」


 田宮柚希の返答を聞いたときキャロルは柚希という人物を甘く見過ぎていたと思い知ることになる。


「君が言いたいこともわかっている。まずは情報収集力の問題だろ? 個人で収集するのと国全体で収集するのとでは比較するまでもない。

 だがね。そもそも王女様は探す気があるのですか? これでは無礼か。探すことが可能ですか? 貴方は先ほど捜索を行う努力をすることを約束した。だが戦争状態にある現状でこの国に翔太の捜索をする余裕があるだろうか? 私にはそうは思えない」


「そ、それは……」


 キャロルは冷や汗がじっとり肌にしみるのを感じた。どうやら柚希にはキャロルの考えは見透かされていたようだ。西園寺雪と竹内蒼が瞳を怒りで燃やしながらキャロルを睨み付けて来た。そんな視線には慣れていないキャロルは自分の顔が蒼ざめていくのが分かった。そんなキャロルの様子に周囲の家臣たちが殺気だつ。キャロルは手で家臣たちを制する。 

柚希は構わず話を続ける。


「もう一つはこの世界の事について私達には全く知識がないこと。何もかもが不明な場所で無事でいられる保証はない。だがな。私や雪にそんな心配必要か?」


 丹野渉はニヤニヤしながら答える。


「確かに会長と雪さんには必要おまへんね。それに僕も行きますからもっと必要おまへん」


 キャロルは内心かなり焦っていた。話の流れから田宮柚希と西園寺雪、丹野渉はかなりの実力者であることが分かる。そうでなければ何の準備もなく異世界を旅しようとは思えないだろう。キャロルなら絶対に嫌だ。


(これは対応を間違えたかもしれない……)


 さらにキャロルの悪夢は続く。


「俺も行くよ。翔ちゃん心配だからな」


「蒼か。君なら大丈夫か……いいだろう。同行を許可しよう」


「サンキュウ! 柚希さん!」


 田宮柚希と西園寺雪が翔太を探すため別行動をとると言ったときには何の反応を示さなかった周囲の者も丹野渉と竹内蒼もいなくなると知って急に心細くなったのか慌てて引き止める。キャロルにはこれが天から落ちてきた蜘蛛の糸のように感じた。


「おい丹野! お前何勝手なこと言ってんだ? 俺達地球に帰らなきゃなんねえんだぞ?」


 赤城大輔が怒りで顔を真っ赤にして丹野の胸倉を掴んで叫ぶ。一人でも人員が少なくなれば他の異世界人たちの負担がそれだけ増すのだ。当然の反応であろう。


「ごめんな。俺それどうでもよいわ。君たちで好きにやって!」


 笑顔で答える丹野渉にさらに怒り狂った赤城大輔が丹野渉を殴ろうとするが、丹野渉は左手で赤城大輔の拳を軽々と受け反対に鳩尾に強烈な右拳を入れて悶絶させる。周囲は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。それもそうだろう。 

 キャロルから見て一回りも二回りも大きな赤城大輔が小柄な丹野渉に一撃で気絶させられたのだ。


「せ、生徒会が生徒に暴力振るっていいのかよ?」


 額に脂汗をにじみ出しながら坂上卓也が抗議の声をあげる。


「はあ? 何言ってんの? こないな異世界に来て、生徒会もへったくれもないでしょ? それにこれで暴力ちうんなら田宮君にやった君達はどうなんのさ?」


 ここで初めて長谷川心菜が口を開く。長谷川心菜は今までずっと腕を組んで周囲を観察し状況判断をしていたようだ。彼女の立場もあるのだろう。億劫そうに坂上卓也と丹野渉を(いさ)めた。


「やめろ! お前ら!」


「長谷川先生、教師が生徒にそんな危険な行為を認めていいのですか?」


 佐藤信二が長谷川心菜に即座に質問をぶつける。


「ふん。話の流れからして此処(ここ)にいても十分危険だろう。柚希達の実力は把握している。心配はいらない。それに柚希達が一度言い出したらどうせ止めても聞きやしない。行かせてやれ」


 長谷川心菜の有無を言わせぬ迫力にみんな黙ってしまう。だが……。


(ゆず)()お姉ちゃん。私も連れて行って!」


 睨み付けるほど真剣な顔つきで月宮日葵が柚希に頼む。この言葉にほとんどの者が動揺した。キャロルの見たところ一番動揺したのは有馬悠斗だった。やはり有馬悠斗は日葵の事が好きなのだなと緊張感のない事を思わず考えてしまう。


「だめだ。日葵は連れてけない」


 日葵は絶望的な目つきになり、すぐに柚希に食って掛かった。


「なんで? 蒼ちゃんは連れていくのに私はだめなの?」


「ああ、君は強くはない。危険すぎる」


「構わないよ。私も翔ちゃん心配だもん」


「駄目! 日葵は連れて行けない!」


「嫌! 蒼ちゃんばかりずるい!」


 月宮日葵は眼に涙を溜めながら息も切れるように叫ぶ。キャロルから見ても日葵はもう自分が何をしゃべっているかが分かっていない様子だ。だがこの月宮日葵の言葉に蒼が烈火のごとく反応した。


「俺ばかりずるい? 俺がどんな気持ちで今まで我慢したと……。翔ちゃんがあれほど苦しんだのは日葵が空気も読まずに毎日あんなふざけたスキンシップしたからだろ?」


「わ、私の……せい? 私のせいで翔ちゃんが……辛い目に?」


「当り前!」


 月宮日葵は泣きそうな顔になりながら田宮柚希と長谷川心菜を見る。おそらく否定をしてほしかったのだろう。だがその月宮日葵の期待も虚しく二人は月宮日葵と目が合うと僅かに顔を顰めた。そして代弁して長谷川心菜が話始める。


「私の下に泉や花園達数名の直談判があったんだ。翔太の姉である柚希が仕切る生徒会にもな。内容は翔太のいわれのない虐めを止めさせてくれというものだった。

 その話によれば翔太は日葵、お前を連日ストーカーしている事になっていた。勿論そんなことはあり得ないと当初から泉達は主張していた。それが原因で泉達はクラスの特定の人物から目をつけられ翔太と口を聞かない様に命令されていたらしい。まあここでその名前を言う事は伏せるがな」


 長谷川心菜の意地の悪い笑みを見て数人が咄嗟に目を伏せる。佐藤信二と坂上卓也だった。長谷川心菜は話を続ける。


「泉達は罪の意識に苛まれていたよ。私達ところにきたのも友達を裏切ったことに対する懺悔(ざんげ)のようなものだったのかもな。終始泣きながら翔太を助けてくれと必死で私に頼んできた」


 月宮日葵は泣きそうなのを通り越して顔には深い絶望が浮かんでいた。身体を小刻みに震わせながら独り言のように呟く。全身からは大量の汗を流して洪水のようだ。


「ストーカー? 翔ちゃんが私の? で、でもそんな事、泉君達は私に一言も言ってくれなかったよ。なぜ?」


 長谷川心は暫し思案した後躊躇(ためら)いがちにその疑問に答える。


「泉達は日葵が翔太の虐めの主犯だと考えていた。だから日葵に言うなんてありえない」


「っ!? わ、私、そんなことしてないっ!!!」


 月宮日葵は喉が崩壊しそうなほどの叫び声をあげる。大音量の声が室内に木霊し、周囲は少女とは思えない声の大きさに驚きつつも月宮日葵と長谷川心菜を凝視した。


「わかってるさ。だが泉達には日葵と赤城、有馬達が意思疎通して連日翔太を追い詰めるようにしかみえなかったらしい。連中の言葉を借りれば日葵が隙を作り赤城と有馬が攻めるだったかな?」


 月宮日葵は青ざめた顔でヒックヒックと泣き入りはじめた。有馬が近づき肩に手を当て優しく諭すように『君のせいじゃない!』と言う。キャロルはここで月宮日葵が有馬悠斗の胸の中に飛び込み泣き出すのかと若干期待したがそうはならなかった。どうやらそこまで二人は色気のある関係ではないようだ。

 有馬悠斗は直ぐに長谷川心菜に向き直り、怒りの形相を彼女に向けた。


「俺達は田宮を虐めてなんかいません。それに田宮が月宮さんに付き纏ってたのは事実です。昨日、月宮さんの手を無理やり引っ張ったのも。月宮さんが泣き出したのも。すべて田宮が行ったことです。自分のしたことに責任をとるのが社会というものでしょう? 違いますか? 長谷川先生?」


 長谷川心菜は穏やかな表情で有馬悠斗に向けて言葉を発する。


「確かに自分のした事は自分で責任をとるべきだ。私も日頃からそう教えている。だがそれは自らのした事に責められるべき責任がある場合の話だ」


「田宮の行いについて奴に責任がないとでも?」


 肩をすくめて長谷川心菜は月宮日葵に向き直り優しい口調で尋ねた。


「じゃあ、聞くが日葵、お前は翔太に付き纏われているのか? 昨日翔太に無理やり手を引っ張られ、それが原因で泣き出したのか?」


「それは俺がさっき答えたはずですが! 田宮の行動には多数の目撃証言が――」


 有馬悠斗がすかさず答える。


「有馬には聞いていない。少し黙ってろ!」


 有馬悠斗は屈辱の表情を顔に浮かべて長谷川心菜を睨み付ける。

目に涙を浮かべ身体を小刻みに震わせつつ月宮日葵は答える。


「付き纏っていたのは私の方。昨日も校門で待っていたのは私。

 翔ちゃんに手を引いてもらって泣き出すわけない。そんな嬉しい事されて泣く訳ない。翔ちゃん、そんなこと絶対にしてくれない。翔ちゃんはあの時、自分が注目の的になったからその場を離れるため咄嗟に私の手を掴んだだけ。私何度も説明したのに……」


「だ、そうだが?」


「…………」


 有馬悠斗は長谷川心菜にはらわたの煮え返るような怒りの視線を容赦なくぶつける。長谷川心菜はそれを平然と受け流す。

 今まで沈黙を守ってきて竹内蒼が抑えきれなくなったのか無表情で月宮日葵を睨み付けながら罵った。


「日葵が翔ちゃんに何を思ってたのかなんてどうでもいい。聞いても不快になるだけだ! もうわかっただろ? 日葵のせいで翔ちゃんは友達も居場所も全部なくしたんだ。日葵、全てお前のせいだ!」


 月宮日葵が震えながら、涙で顔をグショグショにさせそれでも竹内蒼に何かを答えようと見上げ、彼女の顔を見て大きく目を見開いた。竹内蒼の頬を一筋の涙が伝っていたからだ。


「蒼……ちゃん?」


「お前のせいで俺はすれ違っても話しかけてさえもらえなくなった。お前のせいで机に反吐がでる落書きしたと勘違いされた。お前にわかるか? 一番大切な奴に疑いと失望の視線をぶつけられるあの感覚を?」


 月宮日葵の顔はもはや亡霊のように青ざめている。


「蒼ちゃん……まさか翔ちゃんのこと?」


「ああ。ずっと好きだった。気がついたらもう翔ちゃんが隣にいたんだよ。ずっと一緒だったんだ。お前なんかよりずっと前から見て来たんだ。それをお前なんかに! お前さえ翔ちゃんの前に現れなければ万事上手くいったんだ! お前さえいなければ――」


「止めろ。もうそれくらいにしておけ!」


 長谷川心菜が竹内蒼を抱きしめると胸の中で堰を切ったように泣き咽んだ。異世界人は全員その光景を呆然と見ていた。一人丹野渉だけはニヤニヤとしていたが。

 




 暫らくして田宮柚希は落ち着いた竹内蒼の肩に手を寄せ抱き寄せながら頭を優しく撫でる。長谷川心菜は真剣な顔で田宮柚希に視線を向ける。


「柚希、翔太の事頼んだぞ! こちらは私に任せろ! お前達が抜けた分くらい働いてやる」


「ありがとう。心菜姉! 日葵をお願いね」


「ああ、任せろ!」





 田宮柚希、西園寺雪、丹野渉、竹内蒼はキャロルに城の外に出る方法を聞いて来た。今晩盛大に勇者様を歓待(かんたい)したいから出立(しゅったつ)は明日にしたらどうかと引き留めたが、やんわりと断られた。盛大な歓待で心変わりを狙っていたキャロルは内心ではひどく落胆していた。  

 柚希達の案内を命じた衛兵に連れられ柚希達はキャロル前から姿を消した。


 大分減ってしまったが元々一人でも呼べればよいと思っていたのだ。恩の字というものだろう。


「話を進めて良いか?」


 いろいろ頭の中で思案していると突然長谷川心菜から尋ねられる。


「はい」


「結論として魔王を倒せば私達は神によって元の世界に帰ることができるということでよいか?」


「はい。私達はそのためのいかなる協力も惜しまぬ所存でございます。このアグレシア教国全国民を代表してお願いいたします。この国を救ってくださいませ。勇者様!」


「まったく……教師の立場からはこんな危険な行為を生徒にさせるわけはいかんのだがな……」


 長谷川心菜が渋々了承し残りの異世界人たちも皆頷いてくれたのでキャロルは一先(ひとま)ず胸を撫で下ろす。

 キャロルは改めて異世界人達を見る。

 田宮柚希達がいなくなり有馬悠斗は気を取り直したのか死体のように青白い顔の月宮日葵を慰めている。佐藤信二も同様に日葵に慰めの言葉を掛けている。

そんな有馬悠斗の様子を志賀神奈が黙って見つめていた。これを見てキャロルの女子脳が刺激される。


(おっ? もしかして三角関係というやつ~?)


 丹野渉に気絶させられた赤城大輔を坂上卓也が看病していた。見た目よりも友達思いらしい。

 長谷川心菜は思いにふけっているようだ。なんとなく田宮翔太という者の事を考えているような気がした。

 最初は人望がなく不憫にも思ったが今は完全に逆の感想を持っている。これほど一部の人間達から強く思われる男とはどういう人物なのだろうか。キャロルは強く気になっていた。キャロルのこの思いは想像もつかない所で叶う事となる。それはキャロルの運命を大きく変えることとなるのだがそれはまた別のお話。






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