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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
39/285

閑話 王女の気持ち デリック

「それで姫様、これはどういうことですかな?」


(まあ、聞かんでも察しはつくがな……それにしても驚いたな、あの姫様がねぇ~)


 エレナは視線をテーブルに固定しながらも身を震わせている。テーブルの上にポタポタと落ちる雫により、この茶番の大筋はデリックにも予測できていた。


(何ちゅう素直じゃない方だ。普通に接すれば良かったものを)


 カルロは高潔な人物だ。仮にエレナが貴族ではないショウタを単に配下にしたいがために借金を負わせたのなら国王陛下に通報くらいしていただろう。

 カルロがそうしなかったのはそれがエレナの幸せと関連があり、かつショウタにとっても悪い話ではないからだ。


「デリック殿、申し訳ないがこの話は――」


「わかってますよ。真に姫様が先ほどショウタに説明したような目的で借金を負わせたのなら、ショウタも冒険者。俺には支部長としてショウタを守るべき義務があります。

 ですがそもそも借金など負わせてはいなかったのでしょう?」


 エレナの代わりにカルロが大きく頷く。

 

(やはりか……)


 極度のブラコンで他の男に一切興味を示さなかった彼女が遂に恋をしたらしい。その相手がショウタか。別に意外には感じない。エレナ姫がショウタに惹かれたのはどことなく兄と似ているからだろう。

 そう。今日のショウタとチェスの勝負はデリックにある光景を想起させていた。それは10年ほど前に失踪したビフレスト王国の第一王子が当時SSクラスの中では最強とされていた冒険者を捻り潰した光景。しかも第一王子は当時僅か5歳だ。あの嫉妬する気さえ起こらない理不尽さが今日のショウタにはあった。似たような景色をエレナが目にしたのなら、このブラコン娘の事だ。コロッといってしまうのも不思議ではない。


「それなら俺の出る幕はありませんな。ただの痴話喧嘩に冒険者ギルドは不干渉です」


 デリックの言葉に目に大粒の涙を溜めながらも耳の付け根まで真っ赤になるエレナ。その姿は女神のごとき非常識な美しさがあった。今のエレナの姿を見れば大抵の男ならイチコロだろうに。それを惚れた男を手に入れるために奴隷化をほのめかすなど……そんなことをすれば仮に惚れていたとしても心など離れる。全く愚かな方だ。


「デリック殿、ショウタの姫様に対する誤解を解いてもらえないだろうか?」


 誤解か……少なくとも今のショウタのエレナ姫に対する不信感は想像を絶する。ヴァージルの言葉からも他に貴族とひと悶着あったのだろう。今話しても逆効果だ。寧ろ、デリックがエレナ姫を庇ったと誤解し、冒険者ギルドに対する不信感さえ持たれかねない。それは困る。


「そうしたいのは山々なんですがね。今のショウタには何を言っても無駄でしょう。冷却期間が必要です」


(あの様子じゃ、本当に冷却するのかまでは保障できんがな……)


「デリック殿、それはいつ!!?」


 エレナ姫は席を勢いよく立ちあがり、デリックに詰め寄り胸倉を掴んでブンブン揺らす。

 カルロはエレナ姫の奇行に右手で顔を抑えて、大きなため息を吐く。

 カルロの心中は痛いほどわかる。普段のエレナ姫は聡明で機知に富んだ人物だ。デリックにこのような粗雑な態度をとることなどあり得ない。

 まあそれを言うならショウタに奴隷化を口走ること事態があり得ないことではあるのだが……。


「それはお答えできません。理由は姫様が一番おわかりのはずです」


 デリックの胸倉から手を放し、ソファーにポスンと腰を下ろすと顎が胸につくほど項垂れるエレナ姫。

 このままではまた泣き出しそうだ。デリックがいてどうにかなるものではない。ここはカルロに任せて退散することにしよう。


「それでは俺はこれで……」


「デリック殿!!」


 エレナが再度席を立ちあがる。


「そ、その……ショウタのこと、今度話を聞かせてくれ」


 カルロも頭を下げてくる。思わずため息が漏れる。勿論呆れからだ。

 これほど惚れているなら本人に思いを打ち明ければ良いものを。

 見た感じショウタもこの手の浮いた話は無縁だろう。エレナ姫の心のうちを知れば、意外に問題は丸く収まるかもしれん。少なくとも嫌われる程度で憎まれはすまい。


「わかりました。その程度なら俺が暇なときならいつでも」


 立ち上がり一礼して部屋を出る。

 部屋を退出するとロビーで聖王騎士団第四師団団長――ハワード・ミュールズが一礼をしてデリックを迎えてくれた。


「デリック様、お手間をおかしました」


 察するにハワードもエレナ姫の気持ちを知っているのだろう。

 ショウタの出鱈目な力を鑑みれば、カルロやハワード達王族派にとってエレナ姫とショウタが添い遂げる事には大きな意義が認められる。国王陛下も身分等を気にするような方ではないし、そもそもショウタは異世界人であり、貴族ではないだけでビフレスト王国の平民ではない。そういう意味では障害はない。

 しかし問題が全くないと言う訳でもない。ビフレスト王国の第一王子が失踪中である以上、エレナ姫は事実上第一王位継承権者。異世界人とはいえ、貴族ではない者との婚姻など貴族派は認めやしないだろう。

 下手をすれば王族派と貴族派の戦争に発展しかねない。そうなればあの非常識とカリスマの塊のような第一王子がいない王族派には人員的にも財政的にも敗北の道しかない。


「ハワード、お前も大変だな……」


 ハワードの肩を軽く叩き、屋敷を後にする。


               ◆

               ◆

               ◆


 ギルドハウスの支部長室に戻る前に好物の大鳥の串焼きを買って帰ることにする。

 店舗のある中流区の西区へ向かうと既知の集団と出会う。


「あっ! デリック支部長!」


 身体を硬直させ直立不動の状態と化す虎娘――レイナと軽く頭を下げてくるフィオン。

 フィオン達の隣にはデリックにとって意外な人物がいた。


「モ、モーズリー男爵!!?」


 慌てて胸に右胸に手を当て一礼する。


「おう、デリックか? 久しいのう」


 モーズリー・ボールドウィン。現国王――エルバート・ミルフォード・ビフレストの親友にして、ノア・アズマに並ぶビフレスト王国の英雄の一人。

 王都の近隣に突如として出没し周辺の村や街で暴虐の限りを尽くした腐竜討伐を単騎で成し遂げ、帝国との戦争ではたった一人で1個中隊を壊滅させた。何よりノア・アズマと共にエルドベルグの危機を救った伝説の人物。最近まで活動中であったノア・アズマと異なり、既に数十年前に隠居し今や王国でも限られたものしかその存在を知るものはいない。

 だが、モーズリーは今のデリックを形成した一人であり、神にも等しい。


「爺ちゃん。知り合い?」


 手足が痺れるような緊張を味わっていると、黒髪の男の子がモーズリーの後ろからヒョコッと顔を出す。


「知り合い?」


 次いで妹らしき女の子が顔を出す。

 モーズリー男爵は子供達の頭を優しく撫でる。モーズリー男爵は孤児の子を引き取って育てていると聞いたことがある。この子達もそういった経緯の子達だろう。


「お主たち、此奴はデリックじゃ。挨拶せい」


「ジャンです!」「ルネです!」


 ペコと頭を下げる兄妹。そんな子供達に頬を緩ますモーズリー男爵。まさに目に入れても痛くない。そんな様子だ。その心は孫を持った心境か。


「モーズリー男爵、エルドベルグへいらしていたのですか? ならば一声かけてくだされば」


 白く長い顎鬚を摩りながらも首を左右に振るモーズリー男爵。


「うんにゃ。儂らはアームレスリング大会を見物しに来ただけじゃ。その必要はない」


 アームレスリング大会……ショウタが優勝したというあの大会のことか。レイナとフィオンが行動を共にしていることからも、ショウタと男爵は知り合いと見てよい。

 この数日でエレナ姫に獣王国の王族のレイナ、フィオン、ショウタには王族や偉人を引きつける引力のようなものがあるのだろうか。


「いつまでエルドベルグに滞在なされるのですか?」


「明後日ここを発つ」


 子供達は男爵の服を掴みながらも辺りをキョロキョロしている。邪魔しては悪い。退散するとしよう。


「では後程、挨拶に向かいます。どこに宿泊為されているので?」


「宿屋キャメロンじゃ。そうじゃな、今晩は一杯やろう!」


「ジャン、ルネ、今日はフィオンとレイナの部屋に泊めてもらいなさい」


「ホント?」「わ~い!」


 二人が飛び上がってはしゃぎだす。レイナもよほどこの決定が嬉しいのだろう。目を輝かせてジャンとルネに抱きついている。

礼をしてその場を後にする。

               ◆

               ◆

               ◆


 仕事を終え、直ぐに宿屋キャメロンのモーズリー男爵の部屋へと向かう。

 王国の英雄との同席だ。当初は気が張っていたが、男爵と対面で飲んでいるうちに自然に腹を割って話せるようになっていた。


「それで男爵はショウタをどう考えますか?」


 モーズリー男爵は髭を摩り、暫し天井の木目に視線を向けていたが、デリックに視線を向ける。その目は極めて真剣そのものだった。


「異世界人じゃろうな……多分」


 ショウタが異世界人であることは誰にも話さない約束だ。いくら崇拝してようとその約束を違えるつもりはデリックになかった。

 だがショウタと1日接しただけで彼が異世界人であることをデリックが確信したくらいだ。デリックが伝えずとも、アズマ・ノアと旧知の仲であるモーズリーが気付かぬわけがない。

 もっとも、それにしてはやや自信がなさそうな発言ではあるが……。


「多分と仰られるのは?」


「異世界人にしてはあまりにも短期間で成長し過ぎじゃ。

 1日会うごとに別人のように変わりおる。肉体だけではない。その精神もがな。

あれではまるで……」


 ほぼフィオンと同意見か。二人の目は確かだ。ならば真実なのだろう。

 モーズリー男爵は言葉を切り、押し黙る。


「そうですか……ならば一つお聞きしたい。我ら冒険者ギルドは今後、どのようにショウタと関わればよいと思いますか?」


 モーズリー男爵は隠居の身。一切の政治事には口を出さない。ならばこのデリックの質問に答えるはずもない。要はダメ元という奴だ。

 と思っていたのだが、意外にもモーズリーはこのデリックの問いに答えてくれた。


「そうさなぁ、ショウタを利用しようとするなら止めておくことじゃな。

彼奴(あやつ)はいわば劇薬じゃ。適切な量なら傷を癒す妙薬ともなろう。だが一度量を誤れば取り返しのつかぬ害を及ぼす」


 穏やかな口調での第三者的立場からの言葉ではあるが、これはデリック達冒険者ギルドに対する忠告だ。仮にショウタを使い捨ての駒にしようとするなら身の破滅を味わう。そういう意図の言葉。


「肝に銘じておきます」


 デリックもショウタを使い捨てにするつもりは端からなかった。ショウタが冒険者として活動するならデリック達は最大限の支援はする。

 しかしデリックがショウタと知り合ってまだ1日足らず。ショウタ・タミヤという人物についてまだ何もわかっちゃいない。無条件で信じることなどできないのだ。

 仮にショウタが他の勢力につき冒険者ギルドと敵対する可能性も否定はできない。そうなれば何人の冒険者が死ぬかがわからない。そうなったときの対処を考えるのも支部長の役目。

 明日、チェスにショウタ・タミヤという人物を見極めさせる必要がある。そう。確証が欲しいのだ。ショウタ・タミヤが信頼に値する人物であることについて。

 だから――。




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