第27話 少年、少女と遊ぼう
レイナに魔法を教えようとするが、翔太がいくら話し掛けても反応すらしない。
このレイナの徹底的な無視は翔太に地球にいた頃の黒歴史を思い起こさせた。友人からの突然の裏切りは再度翔太の心を再び抉ったのである。涙が滲んだが気を取り直して本屋に行くことにする。
フィオンに借りた金も無くなって来た。あと1~2冊くらいが買える限度だろう。そう考えると欲しい本は沢山あったが買う決心がつかなかった。
本屋を出ると夕陽がエルドベルグの城壁の上に赤い玉になって落ちて行くところだった。
朝にすれ違ったのとほぼ同じ場所で再びヴァージルと出くわした。
本屋はギルドハウスの直ぐ傍にあるので、ギルド職員であるヴァージルと出会いやすい。朝と同様金髪の美青年と仲睦まじく歩いてくる。
ヴァージルの恋愛事情など翔太の知った事ではない。再び無視して通り過ぎようするが今回は今朝の様にはうまくいかなかった。
「ショウタさん! こんばんは!」
ヴァージルは口調に怒気が混じっている。激怒しているのだろうが、理由には全く心辺りがなかった。多分、貴族であるヴァージルを無視した事を怒っているのだろう。
この国の貴族とこれ以上関わりたくない。翔太はヴァージルの言葉には返答せずただ頭を深く垂れる。ビフレスト王国における平民の貴族に対する態度としては間違いではないはずだ。エルドベルグで主人の貴族に仕える平民がしている事を数度見ているのだから間違いはない。もうヴァージルには視線を向けずに通り過ぎる。
宿屋キャメロンの横の広場の前の道端では今朝の少年少女が遊んでいた。確か名をジャンとルネといったか。
「あっ! お兄ちゃん!」
二人は翔太にタックルすると顔を翔太のお腹に擦り付けてくる。嬉しくなって頭をそっと撫でる。
「何して遊んでるの?」
「今朝お兄ちゃんに教わったかくれんぼ。僕が今見つけたとこ~」
今朝遊んだとき、子供達にもできそうな地球の遊びをいくつか教えたのだ。かくれんぼなど何処にでもありそうな遊びなのに以外にこの少年少女は知らなかった。
「そう。なら僕も入れてよ」
丁度いい。レイナの件で少々気持ちが沈んでいた。無邪気な子供達との触れ合いはそんな翔太の心を癒してくれる。そう自然に思えた。
……
…………
………………
夕闇がどんどん夜の暗さに変わっている。そろそろ子供達には危険な時間帯だ。正直、名残惜しいが遊びは終わりにしよう。
「ジャン、ルネ、暗くなったしもう帰ろう」
「え~、もうちょっと遊びたい!」
我侭をいうジャンの頭をフィオンに習いグリグリと乱暴になで、二人の手を引いて、宿屋キャメロンの中に入る。
二人のお腹が『くう~』と鳴るので一緒に夕食をとることにした。
夕食をとっていると血相を変えたモーズリーさんが僕らのところまでくる。
「ジャン、ルネ、お主ら日が暮れたら部屋で待っているよう言ったはずじゃぞ。
約束を守れんようなら次からエルドベルグには連れてこん」
「「ごめんさぁ~い」」
シュンとなる二人。二人が部屋へ帰るのが遅くなったのは翔太が一因でもある。助け舟を出すことにした。
「モーズリーさん。僕がジャンとルネを連れまわしたんです。彼らも僕がいるから部屋に戻らなかったんだと思います。どうか彼らを許してあげてください」
翔太が頭を下げると、モーズリーさんは頬を指でカリカリと掻きドカッと翔太らのテーブルへと腰を下ろし、頭を下げてくる。
「いや、ジャン達をかまってやれんのは儂の責任じゃ。この通り、面倒をみてくれて礼をいう」
「僕も楽しかったですよ。だからつい遊び過ぎてしまいました。
ジャンとルネには僕からも言っておきます。ですからこの話は今日のところは終わりにしましょう」
「そうじゃな。では儂も食べるとしよう」
「そうか、ショウタは冒険者なのか……」
モーズリーさんは腕を組んで暫し考え込んでしまった。
「のお、ショウタ。儂はビフレスト王国には少しばかりコネがある。紹介状を書いてやることもできるがどうじゃろう?」
通常なら魅力的な話であることは翔太にもわかる。しかしありとあらゆる面で、ビフレスト王国への就職など認められない。
「有り難いお話ですが、僕には冒険者になって探さねばならない人がいるんです」
「そうか、そういうことか……」
合点が言ったのかそれ以降、モーズリーさんが翔太にこの話を振って来ることは二度となかった。
モーズリーさん達と別れて、自室へ戻る。
硬いベッドに横になり思考を巡らす。勿論頭にあるのはレイナの事だ。
レイナにこれ以上冷たい態度を取られるのは翔太の弱い心が耐えられそうもない。
それほどたった数日でレイナは翔太にとってかけがえのない存在となっていたのだ。
翔太にとってレイナは、妹のような存在であると同時に翔太の命を助けてくれた英雄なのだ。
空からこの世界に落され、魔の森で身動き取れなくなったとき翔太は明確に訪れるだろう死を予感した。それは逃れられない途轍もない絶望であり孤独だった。こんな訳が分からない場所で自分は呆気なく死ぬのかと思うと涙が出た。
だがその絶望も赤い髪の少女によって呆気なく取り払われる。そのときからレイナは翔太の英雄となり、崇拝の対象となった。その尊敬すべき少女による冷たい仕打ちにどうしょうもなく悲しかった。
意識は徐々に闇に沈んでいく。
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