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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第24話 子供からサインを求められました


 午前6時。翔太が起きた時間だ。何時もよりも1時間ほど早い。エレナに1000万Gの借金を負わされたことはそれなりに堪えていたらしい。

 二度寝しようとするが一向に眠れない。暗雲がかかったように気持ちが沈んでいる。それが原因だろう。ならば気分転換にエルドベルグの街を探索するのもいいかもしれない。

 

 宿屋キャメロンを出ると、朝日の光が靄のように街路に溢れていた。


(マジで気持ちがいい)


 背伸びをしていると、クイクイと服の袖引っ張られた。

 振り返ると黒髪の小学生低学年程の兄妹らしき少年と少女が翔太を見上げていた。

 しゃがみ込み視線を合わせてお兄ちゃんらしき少年へと尋ねる。


「どうしたの?」


「えと……あの……その……」


 なぜか少年はガチガチに緊張しており、どもって言葉が続かない。

 頭をできる限り優しく撫でてやると徐々に緊張で固まっていた身体がほぐれてきた。


「お兄ちゃん。サイン頂戴!」


(サイン? あぁ――)


 当初少年の言葉の意味が不明だったが、やっと合点がいった。アームレスリング大会での翔太の優勝の件だろう。

 この数日何度かサインなるものを求められたからそこまで意外性はない。だが慣れないのもまた事実だ。

 誤魔化すように数度少年と少女の頭を撫でる。

 少年と少女は気持ちよさそうに目を細めていたが、少年が布袋から羽ペンとインクを取り出し僕に渡す。


「君らのお名前は?」


「僕がジャン!」


「私、ルネ!」


「了解! どこに書けばいい?」


「背中ぁ!!」


 元気よく後ろを向く少年と少女。

 羽ペンにインクをつけ彼らの白い服の背中にアースガルズ語で『ショウタ・タミヤ――ジャンへ』、

『ショウタ・タミヤ――ルネへ』と書く。


「わぁ~い。お兄ちゃん、ありがとう!!」


 二人は翔太の周りをクルクル走り回っていた。思わず頬が緩む。

 


 その後ジャン達と宿屋キャメロンの隣の広場で遊んでいると、白く長い見栄えの良い髭を蓄えた白髪の老人が近づいてくる。一目見ただけで、素人の翔太にもただの老人ではない事がわかる。一言でいえば、マクドナフを初めて見たときのような感覚と言えばよいだろうか。

 ジャン達のお爺さんだろうか。


「ジャン達の面倒を見てもらってすまんのぉ」


 老人は翔太の前に来ると、ゆったりとした口調で感謝の意を述べた。


「いえ、僕も楽しかったですし」


 事実だ。このジャンがルネの仲の良い兄妹の姿は翔太に奇妙な切なさを起こさせていた。だから、この兄妹との関わりは翔太にとってまさに癒しの瞬間だったのだ。


「そうか。そうか。見た目同様、優しい少年のようじゃの。

 儂はモーズリーじゃ。グラシルから来た。よろしく頼む」


「ショウタ・タミヤです。こちらこそよろしく」


 『うむ』と口元をほころばせて、ジャンとルネの手を引き宿屋キャメロンへ入っていく。

 僕も一足遅れて宿屋に入る。



 その後、朝食をとり冒険の支度を済ませる。

 エレナさんに1000万Gの借金をしている形となったが、冒険者としてのスキルを磨くことを第一優先とすることは何も変わらない。1000万Gは期限の一週間で都合するのは無理の可能性が高いが、指輪――『七つの迷宮(セブンラビリンス)』を売ればよい。焦る必要はないのだ。

 そして、できる限り早くこのビフレスト王国から出た方が良い。再びエレナや貴族達にどんな難癖をつけられるか分からない。彼らへの対処法は簡単だ。王侯貴族にはできる限り関わらない事だ。日葵と柚希の捜索と地球への帰還の方法の情報の取得についてはビフレスト王国を一番最後にすることに昨日決めた。その頃には翔太について誰も覚えていないだろう。




 本屋で『世界の歴史』の本を買い待ち合わせの城門へ速足で向かう。

 今日もヴァージルと金髪の青年が仲睦まじい姿で歩いているのが目に入る。ヴァージルも貴族である。正義感が強いと思われるエレナでも翔太を脅迫してきたのだ。ヴァージルも翔太にいつ害を与える存在になるかわからない。極力関わるつもりはなかった。

 ヴァージルに目も合わせず通り過ぎる。金髪の美青年は翔太など歯牙にもかけず二人の時間を満喫しているようだ。

 無視されたのが気に入らないのか、ヴァージルがリスのように膨れっ面をしていたが、翔太もヴァージルら王侯貴族達から十分危害を被っているのだ。そのくらい許してもらおう。




 城門でフィオン、レイナ、ディートに合流し魔の森へ向かう。魔の森が近づくにつれ急に足取りが軽くなる。たった2日間とはいえ無事に冒険者としての一歩を踏み出すことができた事は翔太に一定の自信を与えていた。

 もっともそれがフィオンとレイナのおかげであることは十分すぎるくらい理解していたが。

 暫らくして魔の森へ着く。三日目も魔の森攻略である。やはり、『魔の森を目の前にすると、血が滾るような気がする』と典型的なゲーム中毒者の症状を発症させながら全身に気合を入れる。


 フィオンの説明では、今日は魔晶石の取り出し方と、レベル上げ。ついでに多種のモンスター討伐を行うらしい。今まで遭遇した魔物はスライム、ゴブリン、大蜥蜴、オークのみだ。今回はこれら以外の魔物の討伐を行う。

 もっとも、昨日までの浅い領域ではどう頑張ってもスライム、ゴブリン、大蜥蜴、オークしか出てこない。そこでより深い領域まで足を延ばす。今日は昨日よりも気を引き締めるようフィオンに言われた。


「でもフィオン。なんで、魔の森の中域まで行くことにしたの? 当初の予定では浅域でのレベル上げという話じゃなかった?」


 レイナがフィオンに問いかける。翔太も当然に気になっていた話題だ。フィオンが冒険の初日のミーティングで説明した内容がまさにレイナが言った事だからだ。


「オークジェネラル共を単騎で無双できるような奴に浅域で敵なんていね~よ。だいたいそれなら翔太一人で十分できるだろ。俺達がついている意味もない」


 レイナは昨日翔太が起こした出鱈目な出来事に思うところもあるのだろう。様々な感情が入り混じった複雑な表情を器用にも顔に浮かべていた。だがフィオンの提案には異論がないらしく大人しく引き下がった。

 オークジェネラルが丁度話題に上ったのでこの際だから昨日から気になっていた点を聞いてみることにする。


「オークジェネラルというと、昨日の白いフルメイルを着たボスオークだよね? あのオークは他のオークと何か違ったの? 確かに見た目は強そうだったけど」


 二人は翔太の質問に唖然として口をあんぐり開けている。それほど間抜けな質問だったらしい。


「昨日の白いフルメイルのオークの強さに何か感じなったか?」


「いや、別に何も」


 翔太にとって、純白のフルメイルの巨躯のオークも、オークメイジも、その他のオークも全く脅威には感じなかった。とてもフィオンやレイナが警戒するほどの明確な違いがあるとは思えなかったのだ。


「…………」


 二人は言葉も出ないらしく、しばし無言だったがレイナが戸惑いがちに翔太に尋ねる。


「無理して言っているわけじゃないわよね?」


「何を無理するの?」


 本当に不思議そうに聞き返す翔太にフィオンは深いため息を吐き、レイナは呆れと悔しさがごちゃ混ぜになったような表情をしていた。巨大狼――ディートまでが呆れた様子で翔太に半眼の視線を向けてくる。


(なんか隣の馬鹿でかい狼までため息を吐かれたみたいで少し悔しい)


「ほらな? こんな奴を浅域でいくら戦わせても修行になるわけないだろ?」


「ええ、確かに無駄ね」


 レイナは棘がちりばめられた言葉を吐く。


「ウォン!」


 レイナとフィオンはともかく、巨大な狼にまで呆れられるのに納得のいかない翔太であったが、ディートも翔太に冒険を教えてくれる先生の一人だ。修行に付き合ってもらう手前我慢することにした。


「それでは行くぞ! 用意はいいな?」


 フィオンの言葉に強く頷いて魔の森の3日目が始まった。



 お読みいただきありがとうございます。

 投稿を再開します。近々、数十話一気に予約投稿するつもりですので、少なくとも毎日1話ペースで読めると思います。

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