第23話 お姫様の申し出を断ろう
エミーはまだまだ遊び足りないようだったが、エレナ邸へ着くとすぐに眠ってしまった。想像以上に疲れていたのだろう。
エミーの頭を撫でて、さあ帰ろうとしたところでエレナに呼び留められ、客間まで来るように言われる。昼間のエレナの嫌な笑顔を思い出し背筋に冷たいものが走る翔太。
巨大な客間へ行くとエレナがソファーに座り、ハワード、カルロが後ろに控えていた。最初にエレナ邸に来た時と同様の緊張感が漂っている。
(不安的中だ。呼ばれた理由もエレナさん達の様子から推測できる。だけどここを無難に乗り切れば、エレナさんの呪縛から解放される)
進められたソファーに座りエレナの目を見る。翔太は地球での凄惨な日常から人の目を見て話すのが若干苦手だ。だが今回ばかりはそんな甘い事はいってられない。
「それで御用とは?」
エレナは嫌らしい笑みを顔に張り付かせている。それはどこかブルーノのときの表情にそっくりで強烈な悪寒が走る。
「ショウタ、お前、私に仕えないか? もちろん給料と地位は保障しよう。貴族にしてやってもいい。取り敢えず月100万G、世襲はできないが名誉男爵の地位でどうだ?」
「お断りします」
エレナは翔太が即座に断ったせいか不機嫌に眉をしかめて口をへの字に曲げている。
(相変わらずわかりやすい人だ……)
不機嫌な態度をとっていたのはエレナだけで、ハワードとカルロは翔太の返答を予想していたのか眉をピクリとも動かさなかった。
「何が不満なのだ? 待遇的にかなり破格であると思うのだが?」
(何が不満? すべてだよ! 僕は世界に長期滞在するつもりはない。お金なんて暮らしていけるだけあれば十分なのさ。ましてや貴族の地位なんて全くいらない。どうせ貴族など形だけのものだろうし)
「待遇の問題ではありません。僕は誰かに仕えるつもりはない。お話というのはそれだけですか? なら僕は暇乞いさせていただきます」
翔太が立ち上がろうとすると、エレナが嘲笑かと思われるほどの歪んだ笑いを浮かべていた。
翔太は腹の下に力を入れる。ブルーノと同じ雰囲気を醸し出していることからも、理不尽な事を押し付けて来ることは明らかだから。
「あくまで私に仕えるつもりはないという事か。では飴は止めだ。鞭を使うとしよう。
ショウタ、お前が先ほど破壊した訓練施設の修繕費用にかかる1000万G払ってもらおう。それが嫌なら私に仕えろ。今なら先ほど提示した金額に色も付けてやる。
だが、お前があえて仕えるのを拒絶するなら法務局に訴えるまでだ。下手すれば奴隷だぞ。私としてはそれでもかまわんがな。要はお前という戦力が入ればよいのだ」
(また、この理屈か……王侯貴族って人種はこの手の脅迫事が大好きらしい。
それにこの人の正義の基準が僕にはさっぱりだ。女性が人質になって剣を捨てる無謀をしたり、ゴロツキまがいな卑劣な手を使う。この人の人間性がまったく掴めない)
「姫様! 貴方は自分が仰っている事がわかっておいでですか? 貴方はショウタに助けられたのですよ。
しかも、恩義があるにも関わらず無理やり魔法の教授のため今呼びつけ、しかも施設を訓練で破壊したから金銭を請求するなど……この爺は恥ずかしくて言葉も出ませんぞ」
「言葉も出ないなら黙っていろ! 私とてこんな卑劣な手は使いたくはない。だがこうでもしないとコイツは私の手には入らないだろう?」
(ん? 一応卑劣である事の認識はあるのか。評価が最悪なのは変わらないけどね)
「姫様、私もこればかりは擁護しようがありません。あまりにも騎士道に背く行為です。一体どうしたというのです? いつものお優しく正義感が強い貴方らしくもない」
この場にいる全員から非難の眼差しを向けられ僅かに怯むエレナ。翔太は貴族や王族の茶番にもう付き合う気はなかった。この世界に来て徐々に翔太は変質しているのかもしれない。地球では決して抱くことがなかった怒りが全身を支配していた。
「まったく、この国の王族や貴族は脅迫事がお好きなようだ。期間をいただければ1000万G払いますよ。すぐに払えと仰るならこの国から逃げ出すだけです。話はこれで終わりですね。僕はこれで帰らせてもらいます」
翔太の答えが予想外だったのかエレナは金魚のように口をパクパクさせている。もう用はないと翔太は立ち上がりドアのノブに手を掛ける。
「い、一週間だ。それまでに1000万G持ってこい。できないなら私に仕えてもらうぞ!」
エレナの震える声に翔太は何も答えずエレナ邸を後にした。
翔太が宿屋キャメロンに戻るとフィオンとレイナが出迎えてくれた。その表情からもよほど心配をかけたようだ。
レイナには心配を掛けたくはない。フィオンと二人きりで話をしたい事があると伝えてレイナには席を外してもらう。
元々ご機嫌ななめな状態に翔太が土魔法をレイナに教える事をすっかり忘れていたのだ。機嫌は最悪だった。さらに席を外すようにと言われた事が起爆剤となり完璧に不貞腐れてしまった。新しい魔法を覚えたのでそれも教えると言い、やっと納得してもらう。だが昨日の朝の刺すような状態に戻ってしまった。
レイナが去った事を確認して、フィオンにエレナ邸であった事を説明する。フィオンは腕を組んで目を瞑り、いつもの瞑想をしていたが、目を開け翔太の頭をグリグリと撫でてくる。
「大変だったな。ショウタ。お前の対応は正解だ。人間の王侯貴族に弱みをみせれば骨の髄までしゃぶられかねん。すまんな。昨日もっと強く止めていれば……。あの正義感の強そうな王女様がそこまでするとは思えなかったんだ。俺の目も曇ったか」
「僕もだよ。エレナさん、人質になった女性を自分の身の危険も顧みず助けようとしてたしさ」
「ああ、そうだな。だが、もう心配するな。1000万Gくらいならすぐにでも用意できる」
フィオンが払ってくれる事になりそうだったので慌てて首を左右にふる。
「そこまで迷惑はかけられないよ。もし一週間でお金に都合がつかなかったら、この指輪を売ろうと思ってる。僕で設定されてしまってるけど説明書には所持者のリセットも可能と書いてあったし。この指輪なら1000万G以上で売れるよね」
「ああ。間違いなく数十億Gで売れる。それなら是非、獣王国が買い取りたいのだがそれでもいいか?」
「もちろんだよ。よろしくお願いします」
フィオンはニカっと笑って、翔太の頭を再びグリグリ撫でた。兄のいない翔太にはこのような荒っぽいスキンシップは初めてで無性に暖かな気持ちになった。
(フィオンには世話になりっぱなしだ。僕はそれに報いる事ができるんだろうか)
その後レイナに明日は必ず魔法を教えることを約束してその日は自分の部屋へすぐに戻り、ベッド倒れ込むように眠りについた。
お読みいただきありがとうございます。
そろそろ、閑話等で補完しようと思います。よろしくお願いいたします。




