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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第一部 覚醒編
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第22話 《七つの迷宮》の実験をしよう


 エミーはソファーでお昼寝中であった。起こすのも悪いので隣に座る。メイド長のおばさんの射抜くような視線がチクチクとこの上なく鬱陶しかったがスルースキルを発動しやりすごす。

 ケトもエミーの身体の上で気持ちよさそうに寝ていたが、さすがは猫である。翔太が来ると目を開け身体を擦り付けて甘えて来た。頭を優しく撫でてやり、ケトに頼みごとをする。


「ケト、毛一本頂戴! お願い!」


 両手を目の前で合わせて拝みのポーズをとる。


「にゃう!」


 ケトのこの鳴き声を『いいよ! 欲しいだけ持って行って!』との意味に解釈し、ケトから毛を一本拝借する。微妙に少し嫌そうにしているようにも見えるが、気のせいだと思いたい。いやそう思おう!

 ケトの毛を『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の指輪の宝石部分に付着させるとディートのときと同様に、毛は指輪に吸い込まれてしまう。これで精霊と神獣の身体の一部を指輪に吸収させたことになる。これがどんな反応を及ぼすのか実に楽しみである。

 それから一時間、今後の事について考えているとエミーが起きたので何をして遊ぶかを聞く。

 エミーは都市の中を探検したいと即答した。さすがに駄目だろうと思いながらも、カルロに聞くがあっさり了承された。

 思いのほか翔太が信頼されていた事とそもそもケトがいる。仮に軍隊をもってしてもエミーを傷つけるのは不可能。それが主な理由だった。


 エミーも翔太もまだ昼食をとっていなかったので、中流区にあるレストランのような店へ行き昼食をとる。

 一昨日のアームレスリング大会を見ていた人達から生まれて初めてのサインを求められた。居心地がすこぶる悪く勘弁してほしかった。

 ここエルドベルグは商人や冒険者等の出入が多く、また遠方から観戦に来る者がほとんどなので観客で都市に留まる者は限られている。だから十数日、早ければ数日で翔太の事を知る者は殆どいなくなる。フィオン曰くそれまでの辛抱だそうだ。

 サインを求められているときエミーは我がことのように得意そうでそれが翔太には微笑ましかった。

 

 昼食をとった後、数時間エミーと中流区をぶらついた。

 エミーははしゃぎながら縦横無尽に歩き回っている。聞いたところ今まで都市をゆっくり見物した事はほんの数回しかなかったそうだ。その理由もエミーと歩けば一目瞭然だ

 絶えずちょろちょろ動き回り翔太でさえも気を抜くとエミーとはぐれてしまいヒヤッとすることがある。従者の人達はとてもエミーを街中に連れ出そうとは思わないだろう。

 だが今はケトがいる。仮にはぐれても直ぐにケトが保護者の傍まで連れて来てくれる。今後はエミーも徐々に街中を探索する事が可能となっていくと思われる。


 どうせなら用事を済ませてしまおう。

 エルドベルグの武器・防具屋カヴァデールへ向かう。


               ◆

               ◆

               ◆

 

「こんにちは!」


 カヴァデール店に入り店員の青年と目が合うと客がまだいるにもかかわらず一目散で駆け寄って来る。


「ショウタ君。よく来たね」


「試合台の提供ありがとうございました」


 翔太がペコリと感謝の意を示すと青年はブンブンと首を振る。


「いえいえ、どういたしまして。この前の紅虎(こうこ)――マクドナフさんとの決勝戦感動したよ」


「ありがとうございます」


「あの後、親方がショウタ君に刀とローブを譲った事をお客さんに云うものだから、武器と防具が飛ぶように売れてね。今や数十年分の在庫まですっからかんで嬉しい笑いが止まらないよ」


 かなり儲かったのだろう。青年の顔には商人特有の狡猾さと喜悦が混じり合った笑顔が浮かんでいた。

 ガルトは初めて知り合った翔太に最上級ともいえる武器や防具をポンと与えてしまうような性格だ。かなり苦労しているのだろう。

 青年に同情しつつガルトが今話せるかを聞く。青年は店の奥に姿を消したのでエミーと武器を見て回った。エレナの妹だけあり、武器や防具に興味があるようでちょこまかと店の中を飛び回っていた。


 数分でガルトが奥から出て来た。


「ガルトさん。刀、使わせていただいています。刀の切れ味に大分助けられてますが、必ずこの刀に釣り合うほどの実力をつけてみせます」


 刀の御礼はあえて言わない。まだこの刀の性能に振り回され完全な性能を引き出せていないからだ。真に実力がついたら改めて刀の御礼をしようと思っている。

 だから今回は刀の御礼が用件ではない。


「ふん。何用だ? そんな形式ばった事を言いに来たわけじゃあるまい?」


 ガルトは翔太の悪巧みをまるで予想していたかのように口角を吊り上げた。さすがはガルドだ。話が早い。


「今日はこの指輪の件でお願いがあるんです」


 指輪――『七つの迷宮(セブンラビリンス)』をガルトに渡す。ガルトは指輪を受け取ると、暫らく見ていたが、驚愕に目を見開き、その後子供のような満面の笑みを浮かべた。


「この指輪、唯のアイテムボックスではないな。特質級(ユニーク)クラス以上のアイテムか……。面白い」


特質級(ユニーク)?」


 またゲームや小説でお馴染みな言葉が出て来た。予想はつくが確認のため聞き返す。


「なんだ、知らんのか? 武器・防具・アイテムには格付けがある。下から順に、下級(ロー)中級(ミディアム)上級(ハイ)希少級(レア)特質級(ユニーク)伝説級(レジェンド)神話級(ゴッズ)の7段階ある。神話級(ゴッズ)の上に超越級(トランセンデンス)もあるにはあるが神話上に出て来る架空の格付けだ。

 そしてこのうち特質級(ユニーク)以上の武器などこのビフレスト王国でも王侯貴族が数個所持しているに過ぎない。レア中のレアだ。こんなものどこで手に入れた?」


「アームレスリング大会の優勝賞品でもらいました」


「優勝……賞品?」


 ガルトも呆気に取られて二の句が継げない状態だった。


「はい」


特質級(ユニーク)以上のアイテムをたかがアームレスリング大会の景品に出すなど真正の馬鹿だな」

 

「フィオンも全く同じこと言ってました」


「そりゃあそうだろうな。それでこの指輪はどういう機能だ? 儂は何をすればいい?」


 ガルトは心が躍っているのがいつもよりやや興奮気味だ。


「この指輪の機能の事なんですが、驚かないで聞いてください」


 ……

 …………

 ………………


「くははは! ショウタ、驚かないのは無理な相談だ。迷宮作成機能? 精神生命体の形成機能? 冗談には質が悪すぎる。それが本当ならその指輪は伝説級(レジェンド)のアイテム。とすればショウタの願いとやらも予想がつく。黒龍の鱗か?」


 ガルトの察しの良さに戸惑う翔太。


「その通りです。『魔物全集編』という本で勉強しました。龍種は全ての生物の中で最強を誇る生物。黒龍はその中でも上位に属する龍種。人間種では討伐不可能なはず。どうやってその鱗を手に入れたのですか?」


 ガルトは暫し懐かしむように目を瞑る。回顧の念を呼び起こしているのかもしれない。


「貰い受けたのだ」


「貰い受けた?」


「そうだ。黒龍は我が祖国ドワーフ王国ドヴェルグの首都近隣にある神山に住んでおる守護龍だ。幾度となく我々ドワーフを救ってくれた。この龍は儂と同じ酒好きでな。よく共に飲み交わしたものだ」


「りゅ、龍と酒を飲み交わしたんですか?」


「おう。ある日、飛び切りの酒を持って行ったら鱗をくれたのだ」


「ガルトさんの記念の品と言うわけですか……では僕の実験に使うわけにはいきませんね」


「いや構わんぞ。まだまだ沢山ある。暫し待て。今持ってくる」


 ガルトは翔太が止める隙も与えず店の奥に再び入って行った。まだ鱗は数多くあるらしいし、ディートとケトの場合にはたった髪の毛一本で済んだのだ。鱗を使用したとしてもほんの数cmだろう。この際なので好意に甘えることにした。

 ガルトは直径20cm程の漆黒の板のようなものをわきに抱えて翔太の前に現れた。


「これが黒龍の鱗だ。さて儂もその指輪がどんな反応をみせるのかが楽しみだ」


「では、ありがたく使わせていただきます」


 翔太は指輪の宝石の部分に黒龍の鱗を接触させる。すると直径20cmの板が指輪の宝石に吸い込まれるように消滅した。


(く、喰われちゃった……)


 まさか全部指輪に喰われるとは想定していなかった翔太は額に嫌な汗をダラダラと流しつつガルトの様子を窺う。

 ガルトは怒った様子もなく何のかげりもない無邪気な笑顔を見せていた。真に楽しんでいるようだ。

 翔太はガルトに何度も感謝の言葉を述べると、ガルトは指輪に反応があったらすぐに知らせるように翔太に頼んできた。もちろん喜んで了承する。

 武器と防具を見るのに飽きたエミーの手を引いてエレナ邸を戻った。



 お読みいただきありがとうございます。

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