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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第122話 天然少女を助けるぞ


 案内人はいないがアイテールには一度訪れている。ショウの足なら十数分でつくだろう。そう持っていた。だが……



 軽く走っただけなのに十数分どころか、数分でアイテールに到着する。聊かショウの感覚とステータスに齟齬があるような気がする。スキル《解析》を走りながら自らに発動するが、ぼやけて解析ができない。何かがショウに絶賛進行中なのかもしれない。後でゆっくり検証することにする。


 アイテールのチェスの治める都市――イシュクルには一度訪れた。コウドの場所はそのチェスの治める都市の北西であり、グラシルに一番近い場所にある都市だ。だから真っ先に狙われたのだろう。

 都市の内部に入ると、街中は兵士で溢れていた。広場には部屋の中から物色したと思われる日用品が山のように積まれていた。このアイテールはアースガルズ大陸の風景を似せて作られた都市だ。だから、強力な魔道具(マジックアイテム)の類も置かれてはいないし、近代科学も電気、水道、便所、風呂等にしか用いられてはいないはずだ。だが、それでもこの大陸の人間にとっては、まさにお宝の山なのだろう。周囲で山のように積まれる日用品を見る貴族達の恍惚の表情がそれを物語っていた。

 物資も運び出されてはいないようだし、まずは国民の保護からだ。コウドの国民が捕えられているところを探すべきだ。確か、【憤怒(サタン)】には索敵能力があったはずだ。【憤怒(サタン)】の【索敵】の能力を発動する。実際に目で視認したレベルではないようだ。見ると言うより、視覚的イメージを認識するという方が近いかもしれない。かなりぼやけるし、はっきりしない部分も多い。さらに、場所によって認識レベルが異なる。かなりはっきりと認識できるレベルの場所もあれば、ぼやけて、人の顔の輪郭等が認識できない場所もある。建物の中より外が鮮明に認識でき、建物の中でも外に近いほど鮮明に認識できるらしい。また、外に近くても不鮮明にしか認識できない場所もある。これは、その建物に装備されている特殊な素材等が原因であろう。

【索敵】していくと、次々と視覚的イメージが頭の中に入ってくる。


 コウドの国民は縄で縛られて学校の校庭らしき場所に無造作に寝かされていた。この場所に運ばれた最も大きな理由は一か所に隔離、管理することにより、目を覚ましたコウド国民が暴れるのを防ぐことにあると思われる。付加的理由はコウド国民を奴隷とするための品定めか……。

 コウド国民は息はしているようなので死んではいないようだ。貴族派の兵士共もたった今国民を運び終わったところらしく、地面に息を切らして座り込んでいる。まだ、殺人、傷害、強姦といった行為には及んではいないようだ。仮に及んでいたら確実にそいつは殺していたが……。


 デリックの説明では、1時間程度前に貴族派の賊共は、このコウドに攻め入ったらしい。時間的にも人員的にも校庭に運び込むのが精いっぱいだろう。悪さができた時間はないと思われる。

 もっとも、コウドの国民はやけに美男美女ばかりだ。これは、ショウの眷属契約の弊害だと思われる。貴族将校の姿も見える。貴族共の愚劣さを鑑みれば、襲われるのも時間の問題かもしれない。

 コウド国の隅々まで【索敵】をしていく。すると、一際大きな建物が見える。ここだけは、アースガルズ大陸の建物とは明らかに異なっていた。無論、中に置かれているものも他国の要人を迎えても恥ずかしくない絢爛豪華な出来となっている。もっとも、赤鬼国と比較すると、置かれている武具や魔道具(マジックアイテム)は見劣りするものばかりだ。おそらく最高でも【伝説級(レジェンド)】の武具や魔道具(マジックアイテム)程度しか置いてあるまい。これは明らかにジェイクの趣味だ。だが、それでも貴族共にとってはまさに宝の山らしく、目の色を変えて蠅のように集って物色している。

 この巨大な建物を最上階から順次【索敵】していくがアドルフ、チェス、ジェイクのいずれもいない。コウドの幹部クラスの圧力を示す者も誰もいない。『七つの迷宮(セブンラビリンス)』に避難したのかもしれない。


 丁度、【索敵】が建物の中央部付近に差し掛かったとき、もみ合う男女の姿を見つける。この場所の【索敵】は建物が窓際にあるせいか、かなり鮮明だった。

一人は見覚えがあった。スクルドを襲おうとしてショウに撃退された青髪の貴族派の青年――ザックだ。もう一人は、ショウと同世代くらいだろうか、黒髪の恐ろしいほど美しい少女だった。

 そこは仮眠室のベッドの上だ。少女は必死で青髪の貴族――ザックから逃れようとして、枕などを投げたりしているが、抑え込まれるのも時間の問題だろう。

 

 考える前に身体が動いていた。数回の跳躍で【索敵】をした巨大な建物の中央部付近の目的の部屋へと到着する。窓を割って部屋へ入る。

 丁度ザックは黒髪の少女に馬乗りになり、上着を引き裂こうと両手で黒髪の少女の胸元に手をかけているところだった。彼女は青ざめてカタカタと震え、目尻には涙が溢れている。どうやら、間一髪で間に合ったようだ。

 ザックも少女もショウという窓からの突然の侵入者を呆然と見ていた。ザックを手加減しながらも蹴飛ばして、少女を抱き寄せる。ザックは壁に叩き付けられ、苦しそうにうめきながらもショウを見上げる。そのザックの顔は強い恐怖に満ちていた。

 ショウは口角を吊り上げつつザックを睥睨する。


「よう。強姦魔ぁ。また会ったなぁ」


「お、お前は――」


「やっぱ、ロニーの奴の教育では更生できなかったみてぇだな。

 テメエのような強姦魔にはそれに相応しい扱い方がある。それをロニーはわかちゃいねぇ。まあ取り敢えずだ。他国に攻め入ったんだ。覚悟ぐらいできてんだろう?」


「ふ、ふざけるなぁ! 元々この、リージュの砂漠は我がビフレスト王国の領地。そこに住む者はビフレスト王国の国民だ。そして、この国の蛮族共は全て平民。すなわち、我等貴族ために――」


 黒髪の少女をベッドへそっと座らせ、ザックに近づき股間に蹴りを入れる。勿論手加減はしたが、身体が浮くくらいの衝撃だ。確実に潰れただろう。


「ぎぃぃやぁぁあああ!!」


 ザックは絶叫を上げ股間を抑えながらものたうちまわっている。ショウはザックに鋭い視線を浴びせつつも、冷たい声色で宣言する。


「哀れだなぁ。テメエらにはもう真っ当な未来は待ってない。おそらくビフレスト王国はテメエらの身柄の引き渡しをもはや要求はしねぇ。死刑か、一生独房の中か、強制労働だろうさ」


 ザックは、耐えられない恐怖と突き上げてくる怒りを顔に張らしつつも声を絞り出す。


「何も……できず……占領された貴様らに…………何ができる? 

 貴様らの様な……平民など何千、何万……いようが……ものの数ではないわぁ! 

しかも貴族の我々を…………差し置いて、このような……豊かな生活、絢爛豪華な財を…………持つなど許される……はずがない。その罪や重し。この地の平民どもは……奴隷として……強制労働。女は……情婦として――」


 ドゴォォ!


 ショウは靴でザックの顎を砕く。涎と血がダラダラと床に垂れる。


「もういい。テメエら盗賊共の言い分は正直聞くに堪えん。取り敢えず、寝てろ」


 鳩尾に蹴りをかまして気絶させる。血を多量に吹き出している事から、もしかすると死ぬかもしれないが、デリックも少し手荒になっても構わないと言っていた。問題なかろう。


「おい。大丈夫か?」


 ショウが視線を黒髪の少女に向けると、安堵のためか大声を出して子供のように泣き出してしまった。あまり大声泣かれると兵士共がワラワラと寄って来て鬱陶しい。それに、直ちに学校の校庭に寝かされている国民の保護もしなければ、十中八九この黒髪の少女のように襲われる。

 少女を抱きしめ、右手で後頭部を優しく撫でてやる。ショウは餓鬼の宥め方はこれしか知らない。少女はビクッと目をパチクリさせていたが、ショウの背中に手を伸ばし、顔を埋めて来た。徐々に鳴き声が弱くなり、嗚咽に変わり、鳴き声が止まる

 もう大丈夫だろう。



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