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僕と俺の異世界漫遊記  作者: P・W
第二部 建国と変貌編
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第84話 一時帰還

 翔太とフィオンがクジラの解体に熱中していたので、レイナは退屈だったのかディートに寄りかかって寝てしまっていた。こんな、血の匂いが充満する巨大電気ナマズの解体現場で眠る事ができる図太い神経に関心しながらも、その寝顔が可愛らしく起こすのは躊躇われた。悪役は叔父であるフィオンに負ってもらおう。

 翔太には他にやる事がある。もう辺りも暗くなっており、フィオン、レイナ、ディートもへとへとだ。ここから来た道を戻るのは面倒である。スキル《錬金術》を発動し、翔太の【魔力】で、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』のゲートを作成する。扉を通れるのは翔太、フィオン、レイナと、ディート、メリュジーヌ、フウのみとして設定する。一瞬で、扉が完成する。


(これ、ドラ〇もんの『ど〇でもドア』だよね)


 そんな阿呆な感想を抱きつつ、扉を岩壁に設置する。

 これでこの扉をくぐれば、『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の7階層へ行ける。そして『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の7階層を経由する形でニュクスの商業都市――ケーリュケイオンに設置したゲートへも行けるはず。明日はここからの冒険だ。フィオン達は7階層か、ニュクスで身体を休めてもらえればよい。翔太はこれからやる事が多い。

 まずは、デリックに会いに行く事だ。この頃翔太の周りで事が起こり過ぎている。ラシェルの事など、万が一があるかもしれない。顔だけは出しておくことにしよう。

 次がニュクスへの支店にディヴを案内することだ。昨日は夕方迎えに行くと約束した。すでに、日も暮れており体感時間では19時すぎだ。約束の時間を明らかにオーバーしている。できる限り早く終わらせたい。

 ちなみに、ラシェルの武具の作成は、魔の森深域探索最終日にボスクラスの魔物の魔晶石を手に入れてから作成したい。最後まで粘ってみたいのだ。

 そして、今日の中核となるのはルネにジャンの死の真相を告げる事だ。今日こそは絶対にしなければならない。本来昨日の内にしておかなければならなかった。

 わかっている。わかっているんだ。昨日、ルネに告げられなかったのはタイミングが悪かったわけではおそらくはない。ルネに告げる勇気がなかっただけだ。欠片の勇気さえあれば、真っ先にルネの元へ行き翔太の罪を告白していることだろうから。感情が希薄になってもヘタレはヘタレらしい。弱い自分に対する吐き気がさらに強まる。

 

 時間が余ったら、喫茶店ブリューエットへ行き《調理スキル》を取得する。また、本屋に行き《料理》スキルが記載されている本を買いたいし、《魔道具作成術》の回復薬についてカサンドラに詳しく聞きたい。

 カサンドラには、この前迷惑かけた詫びと、ジュリアが生きている事を知らせなければならない。もっとも、カサンドラには、すでにジュリアとダンカンについてギルドから伝えられているだろう。翔太が伝えるのはあくまで形式的、礼儀的なものに過ぎない。

 これらは時間が余ったらすれば事足りるのである。


 フィオンにフウの事を話す。フィオンはフウが風獣であることを聞き一瞬目を見張ったが、翔太だから仕方がないという実に心外な納得をしてしまった。

 フウは巨大電気ナマズの解体を見て、大層腹を空かせたらしくクウと腹を鳴らしていた。アイテムボックスからクラス【伝説級(レジェンド)】の巨大電気ナマズの黄金の骨付き肉を一切れ取り出して、フウに与えると、涎を垂らしながら黄金の肉に飛びついた。よほど美味いのか、『きゅうん、ぎゃう』という獣の甘い奇声を上げながら、肉に齧り付く。

 フィオンが寝ているレイナをおぶさって、翔太が設置した『七つの迷宮(セブンラビリンス)』の7階層のゲートの中へ消えて行く。翔太もまだ骨つきの肉をかじっているフウの後ろ襟首を掴み引きづって、ゲートを通る。メリュジーヌも無言でついては来るが、途轍もなく機嫌が悪いオーラを周囲に撒き散らしていた。煩わしい。面倒な奴である。

 フィオンとレイナ、ディードは今日、疲れたので7階層で休むそうだ。フィオンに今日の魔晶石と、巨大電気ナマズの肉を渡そうとするが持ちきれないから預かってほしいと頼まれる。フィオンとレイナ用のアイテムボックスも作成する必要があるようだ。

 フィオンと明日、10時にニュクスの商業都市――ケーリュケイオンの入口で待ち合わせをすることを約束し、エルドベルグの宿屋キャメロンの自室に設置してある携帯用コイン式のゲートをくぐる。

 今、エルドベルグのキャメロンの自室にいるのは、翔太とメリュジーヌだけだ。フウは姿を消せず、殊の外目立つ。連れてはいけない。フウはまた骨付き肉を貰いたいのか、一緒に来たかったようであるがテューポに預けた。捨てられた子犬のようにショボンとしているフウに明日も冒険に連れて行くと約束し、エルドベルグへ戻って来たのである。

 メリュジーヌは翔太と2人きりになれたせいか、完璧に舞い上がっていた。やる事が多すぎる今日、悪魔っ子に構っている余裕などない。モジモジしているメリュジーヌを無視して、部屋を出る。メリュジーヌはふくれっ面をしながらも姿を消す。


               ◆

               ◆

               ◆


 キャメロンを出る。エルドベルグの街中は昨日以上に騒然としていた。だが、昨日と明確に違うのは人の少なさであろう。いくら、日が暮れたとは言え少なすぎる。ここはメインストリートに近いかなり大きなストリートだ。今の時間帯なら、まだ行き交う人でごった返しているのが通常だろう。ぱっと見たところ普段の三分の二程度しかいない。原因について多少疑問には思ったがそれはすぐに判明する。

 ギルド支部長デリックからニュクスの事、新たな広大な探索場所が出現した件について説明があったようだ。今日から魔の森浅域の立ち入り禁止が解除され、冒険者が大挙して、ニュクスの商業都市――ケーリュケイオンに向かったらしい。

噂に聞こえて来る内容は、様々だ。闇神エレボスが龍神ラントヴェッテルを破り治めたる国。不思議な国。奇跡の国。夜も光が支配する国。物価が崩壊している程安い国。光神アイリスの直轄領。ect……。

 『発明王』が存在し、このアースガルズ大陸ではもっとも科学力が進んでいると言われる獣王国の王族のフィオンでも商業都市――ケーリュケイオンを一目みて腰を抜かさん程驚いたのだ。一般の冒険者にとっては奇跡と理不尽が小躍りしているような都市だ。

しかも、宿の代金は3000G程度で地球の一般ホテル並みのサービスが受けられる。冒険者達が拠点をエルドベルグから、商業都市――ケーリュケイオンに移すのも当然といえた。上流区はともかくエルドベルグの中流区には翔太はかなり世話になった。ゴーストタウンにするわけにもいくまい。改善策をデリックと話し合う事にする。

 予定通りまずはギルドハウスへ行こう。

 

               ◆

               ◆

               ◆


 ギルドハウスについた。ヴァージルとの仲についてしつこく聞かれるのも鬱陶しい。メリュジーヌにギルドハウスに入口で待っているように言う。メリュジーヌは拒否の言葉を吐き、その声色には怒気が混じっていた。まだ、文句を言おうとしたので、透明なメリュジーヌを抱き寄せて顔を限界まで近づけ、『ついて来たら許さないよ』と笑顔でいうと、素直に頷く。

 エルドベルグの街中とは対照的にギルドハウスだけは混雑していた。阿呆みたいに長蛇の列があるヴァージルの列の隣の比較的良心的な長さのネリーの列へ並ぶ。自分の番が来るまで、聞き耳を立てる。すると、この混雑の理由はやはりニュクスの件であることが判明する。

 一番多いのは、商業都市――ケーリュケイオンに冒険者ギルドが設置されないのかという点だ。新たな広大な探索場所はまさに魔物の楽園らしく、魔水晶がザクザク取れるらしい。魔水晶をエルドベルグへ持ち帰るのは、アイテムボックスを持たない一般冒険者にとって負担となる。ケーリュケイオンに冒険者ギルドが設置されればこの煩わしさから解放される。加えて、ケーリュケイオンの宿屋は格安だ。冒険の基盤をケーリュケイオンに移したいのだろう。

 次に多いのが掲示板システムと言うシステムについての説明を求めるものだ。なんでも、迷宮、遺跡、洞窟、密林などの各フィールドには1~10レベルまでが設定されており、そのレベルに応じて、武具や魔道具が設置されている。そして、各レベルのフィールドをクリアすると、掲示板に名前が登録される。その者にはレベルに応じて一定の特典が付く。その特典がいかれていた。言うまでもなく、翔太やニュクスの者達からすればたいした事はない。だが、一般の冒険者からすれば、途轍もない。そういった類の特典である。

 具体的には、武具、魔道具の段階的販売解放、高級宿屋の段階年数完全無料、各種アミューズメント施設の段階年数完全無料、レベル5以上のフィールドをクリアの際のケーリュケイオンの住居の提供と永住許可証だ。

 特に、武具、魔道具の段階的販売解放は公表されているレベルは1~3であり、レベル1が特質級(ユニーク)レベル3の武具・魔道、レベル2が特質級(ユニーク)レベル4の武具・魔道、レベル3が伝説級(レジェンド)レベル1の武具・魔道具となっている。

 もっとも、掲示板に登録されるためには、迷宮等の各フィールドを完全クリアしなければならない。いくらレベルが1だからといって、あのテューポが造ったダンジョンだ。真面じゃあないだろう。だが、クリアできるかは別としてこのシステムは冒険者に夢を与える。冒険者達の興奮気味の赤く上気した顔を見る限りこの試みは成功と言えるだろう。


 翔太の番まで来る。ヴァージルが直ぐ近くにいる。その事実に希薄になったはず心が歓喜に震える。

 一方、ヴァージルは翔太に視線すら向けずに仕事に集中している。その事実に少し、いや、かなりヘコミながらも、翔太もヴァージルから視線を外し、ネリーに向ける。


「デリックさんに会わせてください。アポは取っていませんが可能ですか?」


「はい。支部長からショウタさんにお話しがあるので通すようにと言付かっています」


 ネリーが自分の受付カウンターに『只今休止中』のマーク入りの置物を置こうとすると、ヴァージルから小さな咳払いが聞こえ、チラリとネリーに意味ありげな視線を向ける。

 ネリーはこのヴァージルの姿をみて大きなため息を吐く。


「ヴァージル。ショウタさんを支部長室までの案内お願いね」


「うん。ネリー。ありがとう」


 ヴァージルは『只今休止中』のマーク入りの長方形の置物を受付カウンターにおく。昨日と同様、凄まじい数の男性冒険者の非難の視線と女性ギルド職員の生暖かな視線にさらされつつ、ヴァージルと2階への階段を登る。

 ヴァージルは翔太に一度も視線を向けない。ヴァージルが意味ありげな態度をとるので、多少の期待をしてしまった。

 だが、ヴァージルが意味ありげ態度をとるなどいつもの事だ。この人は出会った直後からそうだった。そんなヴァージルだったから、翔太は――。

 2階と3階の中間踊場まで差掛かったとき、ヴァージルがクルリと振り返り、翔太の背中に両腕を回して抱きしめて来る。


「ヴァ、ヴァ―ジルさん? んぐ……」


 ヴァ―ジルの甘いキスで翔太唇はふさがれていた。やわらかなヴァ―ジルの唇の感触により脳髄がまるで電気が走ったように刺激される。ヴァージルの舌が翔太の口内へ侵入し、翔太の舌を絡め取る。一瞬で、翔太を構成し、支配している黒い感情が温かなものへと変換される。

 愛しさに一切の抵抗もできず翔太がヴァージルの背中と腰に腕を回し抱きしめようとするが、ヴァージルはそれをすり抜けてスタスタと階段を登って行ってしまう。

 これはヴァージルを弄んだ彼女からの意趣返しか何かだろうか。昨日からヴァージルへの思いが際限なく強くなる一方だ。忘れる事などできはしない。この手の行為を何度も繰り返されるのは壊れかけている今の翔太にとっても正直つらい。気持ちがないならこのような行為止めて欲しい。


 

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