第18話 レベル上げよう(2)
雀らしき鳥の鳴き声が耳に飛び込んで来る。ゆっくり翔太は意識を覚醒させていく。
瞼を開け、背伸びをしてベッドから飛び起きる。
顔を一階の洗面所らしき場所で洗い、急いで自分の部屋へ戻る。翔太には真っ先にやることがあるからだ。
昨日アームレスリング大会で得たイカレた優勝賞品の指輪の名は『七つの迷宮』と言うらしい。この中二病的な名前を人前で言葉にするのは躊躇われるが、この際我慢である。どうせ見渡す限り厨二病全開の環境にあるのだから。
夜寝る前に読んだ説明書から指輪の初期設定の仕方が書いてあったので実行しようというわけだ。
初期設定の仕方は全くといって良いほどエミーに贈った精霊のペンダントと同じ。
まず身体の一部として、髪の毛の一本を抜き取る。そして刀で親指に小さな傷をつけ髪の毛に血液を十分に付着させ、それを指輪の宝石部分へ付着させる。
赤色の宝石が輝き始め、深紅色の禍々しい光を辺りにばら撒く。これで設定完了である。設定の前後で変化した感じは微塵もないが、一応ピカピカ光っていたわけではあるし無事に完了したことにしておく。
アイテムボックスの機能は指輪の宝石部分に付着させることにより物をボックス内へ入れ、出すときは指輪にその旨を念じる。仕組みは検討もつかないが意思のみで物をボックス内から取り出せるようだ。実にふざけた道具である。
黒いローブを着用し、フィオン、レイナと朝食をとり本屋に向かう。魔物に関する本がほしかったのだ。アイテムボックスも手に入れたことだし荷物はいくらあっても問題はないから。
本屋は直ぐに見つかった。
エルドベルグの中流区のメインストリートの一角に小さな屋敷ほどもある建物がデンと佇んでいた。本屋の内部はかなり豪華な作りとなっており、一階から三階まで本棚がズラッと規則正しく並んでいる。
おそらく本が好きな者ならば涎が出るほどの価値があるだろう。
翔太も本のような情報記録媒体は三度の飯よりも好きといってもよい。ゲームでも情報を事前に知っているか否かで天と地の差がでる。
もっともゲームでは情報を事前に手に入れてからプレイする事を邪道とする者もいる。それも一理あると思うが翔太の基本方針はいつでも最強のプレイヤーになる事だ。何の情報もなければ最強のプレイヤーになるなど夢物語だ。これはゲームだけでなくすべてにおいて成り立つ真理だと思っている。だからこそ、この見渡す限りの本の山は翔太の心をどうしようもなく高揚させた。
近くで本の整理をしている店員に魔物について詳しく記載されている本の所在を尋ねると、その本は二階にあると言われる。そこで二階に上がり捜索を始める。
十数分後、表紙にドラゴンが描かれた本と翔太は出会う。手に取りパラパラめくると、いくつもの魔物の絵とその説明が記載されていた。表紙には『初めての冒険者シリーズ 魔物全集編』と書かれている。
これで目的にまた一つ近づいた。いつまでもフィオンが傍に居て世話を焼いてくれるわけではない。近い将来冒険者としてすべて自分一人でこなさなければならなくなるときが必ず来る。そのためには魔物の事をできる限り知っておく事は必要最低限の事なのだ。
翔太はニンマリと笑みを浮かべて『魔物全集編』を手に取り、会計を済ませ店の外に出た。
腕時計を見るともう午前9時45分。フィオン達との待ち合わせは午前10時にエルドベルグの城門前だ。教えを乞う翔太がフィオンを待たせるのも恰好がつかない。速足で城門まで向かう。
フィオンとレイナ、ディートバルトは既に城門の前に来ていた。
「またせて、ごめ~ん!」
「遅いわよ! 冒険者としての心構えが足りないんじゃないの?」
レイナは朝から機嫌が悪い。朝昼食を一緒に食べたとき話かけてもスルースキルを発動され一言も口を聞いてくれない。
「レイナ、俺達も来たばかりだろう……。
翔太気にするな。レイナは昨日あまり眠れなかったらしく機嫌がすこぶる悪いんだ」
フィオンのこの言葉に、レイナは大変な剣幕で捲くし立てる。
「機嫌なんて悪くない! 翔太が遅れて来たのは事実でしょ?」
翔太も肩をすくめる。
これ以上怒らせない方がいいだろう。触らぬ神に祟りなしなのである。放っておくことにしよう。
それよりも翔太にはやりたい事があった。ディートバルトに近づき、両手を合わせて頼み込む。
「ディートお願い、毛一本くれない?」
「ウォン!」
翔太には犬が一声鳴いたようにしか判断つかなかったが、ディートが『構わないよ』と満面の笑みを浮かべ許可したのだと脳内で勝手に処理し、毛を一本引き抜く。それを見たレイナが烈火のごとく突っかかって来たがガン無視した。
ディートの毛を指輪に付着させる。すると毛が赤い指輪に溶け込む。成功したらしい。
指輪の初期設定をしてからいろいろな物に指輪で触れてみた結果、幾つかの事がわかった。
物を指輪に記憶させようとするとその物の一部が指輪に溶け込むのだ。翔太の宿屋の部屋の柱に付着させ5cm程度の円状の穴が開いたときには冷たい汗が背中を伝った。生物を吸収させることは慎重になった方がよいだろう。
次に判明した事は指輪に記憶させても指輪に変化があったようには見えない事だ。変化がないから成功したか否かは全くの不明だ。
もっともこれはあくまで暇つぶしの実験に過ぎない。仮に変化がなくても翔太に害があるわけではない。これでよいと思われる。
「アルさん。こんにちは!」
「やあ、少年。この頃魔物が活発化してきているらしい。気をつけてな!」
「ありがとう。アルさん!」
とびっきりのスマイルをアルからもらい元気を溜めた翔太達は魔の森へ向かう。
翔太がスライムを11匹、ゴブリンを2匹倒したところで、巨大なイグアナのような魔物に出くわした。いまにも火でも吐きそうな雰囲気がして怖い。
フィオンは自分が2匹、翔太が2匹、レイナとディートで2匹を倒すように指示を出す。機嫌がよろしくないレイナは新米の翔太が2匹引き受けることに不満タラタラだったが、フィオンに睨みつけられると大人しく従った。
フィオンは普段はレイナに激甘だが、戦闘になると途端に厳しくなる。
刀を鞘から抜き、目の前の横一列に並ぶ2匹の大蜥蜴に対し八相の構え――刀を立てて右手側に寄せ、左足を前に出して構える。
左にいる大蜥蜴がワニのような口を開ける。チロチロと口の中に炎の渦が蠢くのが見えた。だが鈍過ぎる。左大蜥蜴に向けて地面を蹴り、地面すれすれに這うように疾駆する。
刀の射程距離に入ると黒刀を上段から大蜥蜴目掛けて垂直に斬り下ろす。大蜥蜴はピクリと動くこともできず真っ二つに綺麗に両断され、左右に分かれ地面にドシャと崩れ落ちる。
隣の大蜥蜴はノロノロと翔太に向けて顔を向けようとするが、面倒になった翔太が億劫そうに大蜥蜴を右脚で蹴飛ばす。蹴られた大蜥蜴は、その凄まじい衝撃で身体の大部分を吹き飛ばされつつ砲弾のような速度で大木に衝突し、粉々なり真っ赤な肉片を飛び散らせる。
そこで身体から力が湧き上がり暴れ狂う。レベルアップだろう。ポケットからギルドカードを取り出し確認する。
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ステータス ショウタ タミヤ
レベル 6
才能 ――
体力 55
筋力 58
反射神経 58
魔力 53
魔力の強さ 55
知能 52
EXP 0/60
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スキル
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(景気よくレベルアップするね~。この調子でどんどんいきまひょ!)
フィオンはもう戦闘を終えていた。レイナ、ディートの戦闘がまだ継続中だ。フィオンもついているし大丈夫だろうと判断し、アイテムボックスから『魔物全集編』を取り出し、パラパラめくる。
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〇大蜥蜴 討伐推奨クラスD
■形態:巨大な蜥蜴。ワニのような強靭な顎を持つ。
■生息地:森、沼知
■性質:口から強力な火炎を吐く。動きが鈍い。
■対策:基本火炎を吐かせる前に倒すのが重要である。
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(あのワニの魔物、火を噴くらしいね。ファンタジー侮りがたし)
レイナ達も戦闘が終了したようだ。
レイナは翔太が本を読んでいるのを見て顔を顰めて鋭い視線を向けてくる。その赤鬼のようなレイナの形相をみて親に怒られる前の子供の様に翔太は縮み上がってしまう。
翔太がごめんねと謝るとプイッとそっぽを向く。フィオンに助けを求めるが、肩を竦めるだけだ。
まあいい。それほど害があるわけではない。気を取り直して進むことにしよう。
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