第17話 アームレスリング大会の優勝賞品
宿屋キャメロンに着く。すでに午前零時を回っている。かなり話し込んでしまった。
フィオンは宿屋キャメロンの1階の食堂のテーブルに肘をついて初めて見るような難しい顔で電話帳のようなアームレスリング大会の優勝賞品の説明書に目を通していた。
翔太が近づくとすぐに気付いて説明書から翔太へ視線を移動させる。
事情を説明するとエミーの家が無事見つかって喜んでくれた。やはりフィオンはいい人だ。
フィオンの向かいの椅子に座る。
「フィオン、難しい顔してどうしたの?」
「ああ、ショウタが今日獲得した優勝賞品の説明書を見てたんだがな……」
準優勝の優勝賞品――精霊のペンダントも一国の王女が腰を抜かすくらい凄まじいものだった。さすがに光の精霊入りの精霊のペンダント程ではないにしても異常なのはほぼ確実だろう。
「やっぱり、まともじゃなかった?」
「無茶苦茶だ」
フィオンは苦い顔をしている。ここまで余裕のないフィオンを見たのも初めてかもしれない。
「さすがに精霊のペンダント程ではないよね?」
恐る恐る尋ねる翔太。
「次元が違う」
フィオンの言葉があまりに淡泊だ。説明狂のフィオンらしくない。
「次元が違うってどういう事さ? それじゃあわからないよ!」
「すまん。すまん。レナルドが何を考えているのか本気で俺は分からなくなったんだ。こんなものをたかがアームレスリングの優勝賞品だと? 狂ってやがる!」
フィオンは言葉の最後の方は興奮して声が震えている。
「お願い。もっとわかりやすい説明プリーズ!」
「何から説明したらいいものか」
フィオンは少し思案した後優勝賞品としてもらった10cm四方の木の箱を開ける。その中には豪華な装飾のなされた漆黒の指輪が入っていた。
「これ何に見える?」
フィオンがそんな当たり前の事を聞いてきた。
「黒い指輪」
「だよな――。そうにしか見えねえよな。ショウタ、お前アイテムボックスって知っているか?」
(よくゲームや小説でてくるアイテムボックスと同じかな?)
「異空間に物を仕舞い込めるという箱の事でしょ?」
「そうだ。大方その認識でいい。だがこのアイテムボックスは少し特殊でな。この異空間は特殊な異空間らしく、時間が停止している。加えて仕舞い込める量も使用者の【魔力】と【体力】の強さの和に応じて決定される仕組みらしい」
(ゲームや小説だと、大抵仕舞い込める量が無限大というのが相場なんだけど、そう現実は甘くないという事だね。でもフィオンの発言からすると、それでもかなり高性能なのは間違いない。それに異空間内の時間が停止している事もありがたい。これなら、魔の森の中で温かい食事をする事も可能だ)
「へ~、でも驚く程のこと? 結構ありそうな設定のような気がするんだけど」
フィオンがまるで阿呆でも見るかのような顔で翔太をみる。
「何言ってやがんだ! 時間が停止しているアイテムボックスだぞ! どれほど貴重だと思っている? これだけでも最上級のアイテムだ。売りに出されれば、数千万G、下手をすれば数億Gで売れるかもしれん」
「へ、へ~? それほど貴重なんだ? でもMaxで数億Gなら光の精霊付きの精霊のペンダントの方が貴重だと思うけど? エレナさんが天文学的な価値があるって言ってたよ」
フィオンは顔を壮絶に顰めている。次に続く言葉が碌なものではない事が丸わかりだ。翔太は心底うんざりしてフィオンの話を聞く。
「…………それなんだがな。他にもう一つの機能がある。ここのページの表題読んでみな!」
「『みんなでつくろう良い子の迷宮作成機能』? 何……これ?」
「文字通り迷宮作成機能さ。もっとも、子供用のようでな7層までしか作成はできないらしいがね」
「――フィオン、ごめん。僕はもう話について行けない」
翔太は早々に思考を放棄した。フィオンは翔太の気持ちがわかるのか、うんうんと頷いていた。
「気持ちはわかるが、どうせだ。少し説明させてくれ!」
説明狂の血が疼いているようだ。
「うん、お願いフィオン」
「まず指輪に情報を認識させる。これは土壌、植物、建物などを指輪の赤い宝石に接触させるだけでいいらしい。土壌や木材から性質、気候等、様々なものを予測し新しいダンジョンを形成する。このダンジョンの形態は完全に所持者のイメージ力だ。石壁で囲まれたダンジョンから、魔の森のような密林、太陽が燦燦と照る砂漠まで自由に設定できるらしい」
「ダンジョンなのに太陽があるの?」
「らしいな。どういう仕組みかは全く見当もつかないが、ある意味小世界ともいえるものを生み出せるらしい。ダンジョンの広さは【魔力】と【体力】の総和に基づき決定される。元々子供用を想定しているから、【体力】が小さく、【魔力】がなくてもある程度の大きさになるようには設定されている」
「【魔力】や【体力】が高い人が使用者だと、かなり広くなるということ?」
「いや。それはないだろう。このアイテムも所詮は子供用。一流の剣士や魔法使いが使用者であっても少し大き目のダンジョンになるに過ぎないと書いてあった。
だがここで驚くべき事はそこじゃねえよ。所持者のイメージで疑似的な小世界を作り出せるということだ。キチガイ沙汰だろう?」
「同感! でもこれで説明は終わりだよね?」
「……」
「ま、まだあるの?」
「説明書曰く、ダンジョンといえばモンスターなんだそうだ。生きもの身体の一部を指輪の宝石に振れると、その情報を読み取り同種の生き物を作成可能らしい」
「嘘でしょ? 神様じゃあるまいし」
「本当だ。だが人間や動物のような肉体そのものを作れるわけではない。作成できるのは肉体を持たない精神生命体に限られるらしい。確かにレナルドの長年の研究は、疑似的な精神生命体の作成だからな。不思議はない。つまり、超下位の精霊のような精神生命体を多数作り出し、子供の遊び相手をさせる。そういうことだ」
「……フィオンがレナルドという作成者を狂ってると言った理由がわかったよ。真正のアホだね。子供にこんな物騒な玩具持たせて何がしたいんだろ……」
「違いない。今度レナルドにあったときにきつく言っておく事にしよう。まあ無駄だろうがな」
フィオンの説明がこれで終わりとわかり、胸を撫で下ろす。
フィオンにもう遅いから寝ろと言われ、自分の部屋へ行くが今日いろいろあったせいか興奮して全く眠れなかった。仕方なく眠くなるまで電話帳のような説明書を高速で読んでゆく。所持者の設定の仕方を読み終えた辺りで、翔太はすっと穴に落ちたように眠りに落ちた。
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